その一言が聞きたくて①

後悔とはじまり

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孤独とはなんだろうか?苦しみとはなんだろうか?僕はそんな答えのない問題に取り組んでいた。その問題はいくら考えようとも正解を教えてはくれない。

解を思いつくたびにそれらは、アンチテーゼにより否定される。
何も得られない不毛な時間。

その中で一番考えていたこと。それは過去の一時だ。
一度は考えたことがあるだろう。素晴らしい日々、あの時に戻りたいと思う気持ち。

そう、僕にとってかけがえの無いあの日々。

あれからどのくらい経っただろうか?そう考える度に、心の中でどこかもどかしさを感じる。

あの人は今…

思い出そうとすると、睡魔に襲われた。

目の前が薄らとしながら僕は口を開いた。

「リ……さん──」

─────

少しの明るさが僕の体を包み込むと、目を開いた。

辺り一面霧が立ち込める。

何があったんだろうか?

僕は手探りしながら前に進む。

どこかで火事があったのだろうか?

だが、焦げた匂いは一切しない。

前に進んでいくと人影が見えた。

僕はその人に声を掛けた。

ここは何処なのかと。ここは自分の家で無いのは明らかだった。

だが、その影は僕の問いに答えてはくれなかった。

影は呟くように言った。

「これからどんな事が起ころうとも、その言葉を忘れてはならない。」

その言葉と同時に疑問が更に頭の中を埋める。

ここが何処かさえ分からないのに、こいつは何を言っているんだ。

すると、その人影は僕の質問には答えず、段々と薄く遠ざかっていった。

いや、僕が遠ざかっているのかもしれない。

「君は誰?ここはどこ?」

人影の方へ走りよろうとしても、遠ざかって行くばかりで彼の姿すら確認できない。

だが、どこからか、声だけは聞こえてきた。

「……はファブリック……」

一つだけ聞こえたそれは、彼の名前だろう。

だが、それを考える先に再び眠気が襲った。

僕はこれからどうなるのだろうか?

────


誰もいない空間に男が1人俯いていた。そして、少しずつ上へと顔を上げ、大きく真上を見た。

そして、何かを求めるように手を翳(かざ)した。


First battle

太陽の光が熱く照らす。

僕はその光にそっと目を開けた。辺りは鬱蒼とした森が広がり、空気が美味しい、1面山々が見え、他を見渡せば湖も、太陽のギラギラとした燃えるような光を綺麗に写す。

正しく山紫水明だ。

それよりも、ここはどこなのだろうか?

余り気にしていなかったが、森の奥は何か嫌な気配が充満していた。

しかし、このままここにいる訳にもいかなく、人のいる場所へ出るには、この森を抜けるしか無かった。

下に落ちていた木を拾って、警戒しながら森を進んで行く。

すると、広い場所に出る。そっと、木の影から覗き込むと、未知の生物がそこら中にいた。

こっそりと草陰に隠れながら少しずつ進んでいく。気付かれてしまえば、どうなるか分からない。

こんな木の棒1つ持ってでたところで、返り討ちにあうだけだ。

ガサッ

物音を立てた。

その瞬間、謎の生物達が僕の方へと足を向けた。

僕は必死にその場から逃げる。木の棒はいつの間にか何処か落としてしまい丸腰だ。

未知の生物は小動物に見えたが、実は凶暴で僕を見た瞬間豹変するのではと恐怖心が襲った。

葉を踏む音が大きく鳴るが、それを気にする余裕は今の僕にはなかった。

無我夢中で横切っていく木を後目に走る

それから数分走ると、流石に疲れが出てくる。

足が重くなり、風で飛ばされた木の葉が僕の進路を阻害した。

そして、足が縺れその場に倒れ込んだ。

起き上がろうとするが足が動かない。

もうダメか…そう思った時、どこからか、声が聞こえてきた。

「やぁー。大変そうだね。」

辺りを見回すが、誰の姿も無い。

そればかりか、あの生物達も、段々と僕の方へと迫ってきていた。

逃げようと思えども、足が動かない。

これは最早、絶命か?

そう思いきや、再び声が聞こえてきた。

「ここじゃあ危険だから他で話す?」

僕はその声に乗っかり、あらぬ方角へ叫んだ。

「誰か居るなら…助けて…」

すると、オーケーと共に、僕の体が地面から少しずつ遠ざかるのを感じた。

何が起こっているのだろうか?
だが、調べようとも疲労が全身をまわって僕はそっと目を閉じた───

数分後、目を覚ますと天井は水色がかっていた。少し白いモヤが疎らに点在し、それを一層引き立たせる。

空だ、僕はまだ外にいた。

ここは何処だろうかと見渡すと、近くに村があった。

家を一軒一軒まわるが、もぬけの殻で生き物の姿すら見えない。

これはどうしたことかと項垂れていると、さっきの声が再び聞こえてきた。

「目を覚ましたんだね。村の中にある武器を持ってこの森を抜けよう。」

これに唯唯諾諾な訳にもいかず反発した。

「どうしてお前はあの場所に行かせようとする。さっきの有様を見ただろう?」

すると謎の声は答えた。

「この森を抜ければ人の居る場所に出られるんだ。ここで一生を過ごすのは嫌だろう?」

「だけど、僕は剣なんて持ったことがないし、動物が可哀想だ!」

「武器はコンパクトで軽いから大丈夫…。」

そう言った後、謎の声は話すのを止めた。

「どうしたんだ?」

僕が疑問をかけると、謎の声は話はじめた。

「実はね…」

僕はそれを聞いて驚愕した。

この村に人が1人も居ない理由。

それは、森の魔物達が村に攻め入り何処かに連れていったと言う。

僕はすぐに察した。

「どうして僕なんだ。誰かを救える力は自分にはない。」

すると、謎の声は話した。

「今ここにいる君にしか出来ない事なんだ。誘王の魔の手は迫ってきている。迷ってる暇はない!」

死にに行けと言うことか?僕は少し考えていると続けた。

「君なら大丈夫。」

その言葉は僕を強く刺激した。

そして、剣を持って森の方へと向かった。

衝動的にあの声の言う通りにしまっているが本当に大丈夫だろうか?

僕の心には不安があった。武術もしたことのないから、為す術もなく力尽きてしまう。

少しネガティヴになっていた。

声はずっと傍にいるようで、僕が質問すると必ず答えてくれる。

僕が初めにみた魔物はベイシックと言うらしく、凶暴ではあるが、比較的弱い方だと言う。

救う前に技術を磨く練習相手にいいと。

利己的に殺生は気が引けたが、そいつらは「魔物」で生き物ではないと話す。

今まで幾多の人間を襲ってきた。だから駆除されても仕方がない。

僕は心の中で少し言い訳しながら、元の場所へと戻った。

あの魔物はやはり沢山いた。僕は一体一体倒していく。剣の力はとても強く、1振り2振りするだけだ。

ベイシックは生き物ではないようで、倒すと黒い塊になり分散して跡形もなく消えてなくなる。

そして、相手もやられっぱなしではないようで、突進してきたり大勢でくっついてきたりと抵抗する。

痛みは感じるがそれ程ではない。

数分後、全て倒し終えた。強くなったかどうか分からないが、剣を扱うコツは掴めてきた。

適当な方向へ声を上げる

「次はどうする?」

「この森にいる魔物の親玉を倒すんだ!そうすれば、ここから出られる。」

魔物の親玉、それを聞いただけでも後ずさりしてしまいそうだが、ここで数回戦ったおかげで少しは自信がついた。

僕は謎の声に親玉の居場所きいた───

Master ball and town

その親玉の名前は、ストーンバーサタイルと言い、全身岩でできた魔物のようだ。

とても硬く、剣では弾かれてしまう。だが、1つだけ弱点があるらしくそこを突けば確実に倒せる。

だが、それは、戦いの中で見つけると。

一筋縄ではいかない相手。だが、僕には少しの自信があった。

────

とある場所では、小さい影と大きな影が交差していた。

「材料は全部ここにあるか?」

「はい。これで、誘王様もお喜びになることでしょう。」

それを聞くと大きな影は高笑いした。

────

ところで、親玉の居場所も洞窟の奥でここから少し離れてるらしく、道中魔物と沢山相対した。

それは、さながら、育成系RPGのようだった。

その中で、見たことのない魔物が出ると、毎回、謎の声に解説してもらう。

中には、既存魔物の亜種がいてそれがとても強い。舐めてかかると返り討ちにあう。その都度、気を引き締めなおした。

洞窟につくと、そこからも更に魔物のレベルが高くなった。そして、奥に進むに連れ辺りも暗くなる。

ほぼ手探り状態で、慎重に前へと進んでいく。

ここで魔物が現れたらどうしようもない。剣を前に突き出し、辺りを見回す。

奥に行くにつれ、魔物の気配が無くなっていく。段々腐敗した臭いが辺りを立ち込め、思わず鼻を囲った。

その直後、僕の横を風邪が吹き、ザッザッと足音が聞こえた。

誰かいるのか?

だが、暗くて何もみえない。

すると、左の方から声が聞こえた。

聞いた事のない声だ。

「時は繰り返す。それが過ちだろうとも。

私の刀は汚れすぎた。

それが運命とするならば、新たな挑戦を待っている。」

その声が止むと、足音も遠ざかっていった。

何だったんだ?

僕はすぐさま 、謎の声に聞いた。

だが、物知りの謎の声でも、分からなかったようだ。

ところで、あの声が無くなってから、視界が開けてきた。

真っ暗だった洞窟が何処からか明かりがさす。

あの洞窟内を漂っていた悪臭は消え、変わらずまわりに魔物はいない。

だが、洞窟の奥深くから、何かがいる気配は感じ取った。

このまま進めば、村人達をさらった元凶がいる。

僕はそれに引き寄せられるように向かった。

その道中、謎の声は、自分の名を話す。

アベリと。

ある人が付けた名前。アベリはその人がとても好きらしい。

進むにつれ、気配もどんどんとはっきりと大きくなる。

すると、広間にでる。ここで行き止まりのようだ。

気配もここからする。だが、周りを見渡しても、魔物の姿はない。

途中、暗いエリアに入る。辺りが見えない。

すると、何かの唸り声も聞こえてきた。

だが、周りには何もない。

はっと、上を向くと、石でできた何かが僕を高く見下ろしている。

「お前は何者だ。誘王様の使いか?」

僕は少し怯みながらも、剣を巨大な魔物の前へ突き出した。

「よく見ればただの人間だな。お前も誘王様に献上しよう」

そう言うと、魔物は大きく手を開き、それを僕に目掛けて叩きつけてきた。

必死にかわすも、少し体にかすり激痛がはしった。

今まで味わった事の無い痛みに気を失いそうだ。

もう駄目か…

そう思いかけていた時、ある事が脳裏をよぎった。

親玉には、弱点がある。

僕はそれにかけてみた。

魔物は矢継ぎ早に腕をブンブンと振り回す。

大きい図体とは真逆の事に面を食らいながらも、剣を使い必死にかわす。

今度あれをくらえば、もう二度と立てないかもしれない。

命懸けだった。

しかし、こちらから攻撃しようとも隙がない。

このまま避け続け、自分が疲れて倒れるか、相手が先かの勝負になるのか…?

そう思った直後、魔物は自分の手を大きく振り上げ過ぎて倒れた。

今しかない。

刀を岩の体にぶつけた。

しかし、硬い体には傷がつかない。

それが僕を絶望させた。何をやっても無駄なのかと。

俯いた時、アベリの声が僕の耳に届いた。

「やっと分かったんだ。ストーンバーサタイルの弱点がっ…」

「それはなんなんだ!」

「それは、巨大過ぎるが故の弱点…」

そこで声は止んだ。

どうしたんだと叫ぶが、声は返ってこない。

僕はその情報を便りに、策をねった。

巨大なものが弱いもの。

それは……


僕は、その目標を目掛けて走った。

象は体重が重い。それに比例するように、足も太い。

だが、ストーンバーサタイルは体が大きく、体重は確実に重いはずが二足歩行で、違和感を感じさせない。

僕は避けながら、何度も足を狙った。

剣は弾かれるが、微量ながらも魔物に変化させた。

ぐらぐらとふらつきを見せたのだ。

効いてる。それを確信した僕は、その後も、何度も何度も足を狙った。

すると、魔物はうめき声をあげて倒れる。

「倒したのか…?」

少しすると、アベリの声がした。

「終わったようだね。村人達は全員無事だったよ。

君が戦ってくれてる間に皆、元の村に帰したから大丈夫だよ。

さぁ、君も帰ろう。」

アベリがそう言うと、眠気が襲ってきた。

───

目を覚ますと、周りは住宅や、物売りで広がっていた。

町だ。

僕が寝ている間に、今度は町に飛ばされたらしい。

アベリはすぐに剣売りへ誘った。

石の魔物と戦って剣はもうボロボロだ。

家に帰るには、もう少し戦わなくてはならないかもしれない。

僕は、アベリの言うがまま、武器屋に向かった。

その道中、声は、この町について話した────

Townscape and cooperation


この町の名はTOBAEと言い、多くの旅人が集う。

様々な工業が発展し、外での戦闘で得た収益と、武器、防具、道具などを専門の店で交換できる。

しかし、武器や、防具の中には、とても強くそれをするだけでほぼ無敵なものがある。

全部同じ値段なのだが、どれがそれなのか店主は勿論、冒険者さえ、使って戦うまで分からない。

丁度前回の戦闘で得た収益で1つ分買えるので、武器屋に向かった。

───

店主は適当な武器を僕の目の前に並べ、品定めさせた。

どれも同じに見えて、違う魅力を感じさせる。

少し悩んだ後、僕は適当なものを握り、これだと叫んだ。

そして、最初の報酬全てを使って交換してもらった。


ところでここには他の旅人と協力し、TOBAEの村民が作った魔物と戦うと言った模擬戦闘が可能らしい。

比較的安全で、武器試しに丁度いい。

中でも、イモータルはとても難易度が他と比べて著しく高いらしく、腕試しにもってこいだ。

クリアした人には、最初1回だけメダルが貰える。

種類はプラチナで、とても名誉なことだ。

他にも複数あって、難易度の低いものは、武器防具が少ない初心者にも取っ付きやすい。

すぐさま、今まさに出発しようとするグループに同行した。

───

最初の魔物より強く、いくら剣を振っても、倒れる様子を見せない。だが、諦めず何度も攻撃を繰り返す。

すると、ようやくの事で、魔物は倒れる。

汗をふき、辺りの状況を見渡すと、皆、息1つなく対戦を終えていた。

それからの道中も、沢山の魔物とぶつかるが、仲間との協力でなんとか前へと進んでいく。

数回の戦闘後、ボスらしき魔物が現れる。

少し手こずるが、なんとか倒す。

冒険者達の強さが大きかった。

終わったからか、いつの間にか元の場所に戻り、報酬を渡された。

全部いいものでは無かったが、一つだけ、謎の鍵が手に入った。

それは、ボス魔物の先にいる、強めの魔物と戦うために必要な鍵らしい。

使用方法は出発前に主催者に渡すこと。

他にも、期間限定の武器、防具強化アイテムが入る協力プレイも、その方式のようだ。

一つ終えて、こんな感じなのかと思った僕は、イモータルに目をつけた。

メダルが欲しい。もし、実力がかけ離れていても、まわりのプレイヤーが強ければ、それが手に入る。

メダルは、前の対戦でちらりと見かけていた。銅のメダルや、銀のメダル、金のメダルなどさまざまあって、基本的には、それを一つだけ首にぶら下げる。

その強さを顕示させる魅力的な装飾がとても羨ましかった。

そのメダルが手に入る場所、それがイモータルだった。

しかも、プラチナと、最上級に価値がある。

これは何がなんでも手にしたい。

適当なグループを見つけるとそれに参加した。

周りはとても強そうな雰囲気を醸し出している。

結構な熟練者かもしれない。

ここにいれば、絶対手に入る。安心感を持ちながら出発を待った。

───

道中の敵も名前に劣らずレベルが一気に上がった。味方と魔物の目に見えない程の閃光がチカチカと眼前を過ぎり、呆然とその場に立ちつかせる。

壮絶な戦いだ。

道中の敵のはずが最高難度だけあり、レベルが違いすぎる、熟練者のような人がいくら攻撃しても、中々倒れる気配を見せない。

そればかりか、ピンピンしている。

これは時間がかかりそうだ。

味方側が疲れを見せた時、悪い予感が過ぎる。

もし、戦いに負けたらどうなるのだろうか──


辺りを見渡すと、戦ってる人数が出発より1人減ってることに気付いた。

何かあったんだろうか?

それとも、自分以外にも、対戦に勝てないと観戦する人がいるのだろうか?

すると、直後、後ろに人の気配を感じた。

─────

僕はそっと目に手をあてた。あたりは真っ暗だ。

何があったのだろうか?

体が少し重く目も見開くのが大変だ。しかし、目はすっきりと疲れが取れている。

どうやら長い時間眠っていたらしい。

あれは全て夢だったのか?

それとも、気絶してどこかに運び込まれた?

少しその場で座ってると、目が慣れてきた。

ここは自分の家だ。

つまり、あれは全て夢。

長い夢だった。

だが、少しの間思い出に耽った。

妙にリアルで、今考えてみても、現実でないのが嘘のようだ。

魔物に攻撃された時の痛み、草木の感触、空気の美味しさ、その他全てが。

だが、もう二度とあの場所に戻ることはないだろう。

僕はそのまま違うことに思考をそらした。

出航は始まったのだろうか?それとも、ずっと今も何もない海をさ迷っているのか…


すると、辺りの暗闇は段々明るさを見せた。

眩しい…

僕は手のひらで顔を覆う。

あぁ…協力プレイ懐かしいなぁ。

僕は自然とさっきの謎の時間を考えていた。

人との繋がり、それが顕在化する協力プレイ、さっきは自己の未熟さからそれが全然できなかった。

少しもどかしい気分になる。

今度戻った時は、鍛えてから再挑戦するか…

もう戻ることはないだろうが。

時間は過ぎるようで、また夜がきた。

自分が考えること、それはずっと変わらなかった。過去の一時、もう一度あの頃に…

あの人に…

そのまま僕は眠りについた

Demon House

目を開けるとそこは以前も見た事のある風景。

近くには物売りが立ち並ぶ。

TOBAEだった。

すぐに分かった。ここは夢の中だ。

ここにある全てがリアルに感じられたのは気のせいで、僕はただ夢を見ているだけなのだ。


ストーリーのように繋がった夢を。

そして、アベリを呼んで問い詰めた。

ここは夢なのか?

何故、僕はここにいるのか?

すると答えた。

「この世界は現実だ。君は誘王を倒すためにうまれてきたんだ。」

納得がいかなかった。寝る前にいた世界、とても長く長くいて思い出も沢山ある場所が全て嘘とは。

僕は否定した。

「もしそれが本当なら、僕が今まで生きてきた世界は全部嘘だったと言うのか!」

すると、アベリはのべつまくなしに言い立てた。

「そうだ。その世界は君が作り出した虚構だよ。そんな世界は存在しないんだ。

君は、曖昧な世界に居る。

こう考えたらどうだろうか?現実で亡くなって、転生して今この世界にいる。

だが、今を嘆く君は、過去への執着が強く、夢にまで過去の自分や、まだ続く仮定のストーリーを作り出してしまった。

否定は受け付けない。

自分の生死なんて判断しようがないのだから…」

僕は何も言い返せなかった。

夢かの判断方法の1つ、痛覚がそれを否定したから。

「ところで、イモータルはどうなった?」

僕にはあの後の記憶がない。

いつの間にかTOBAEの町隅で寝ていた。

「それは分からないよ。君はイモータルで気絶して運び込まれたんだ。」

「魔物に不意をつかれたのか…それなら辻褄が合う。」

そう、あの時間は全て夢だったのだ。

心の整理がつくと僕はまた旅に出かけた。

誘王を倒す。それがきっと何かを教えてくれる。

今はそれしかないのだ

───

TOBAEから出てきたものの、問題があった。

それは、誘王の居場所が分からないこと。

アベリに聞くと、最近はこの付近の町が少なくなっているとだけで、途方に暮れると、近くの森に煙が上がっているのが見えた。

その場所に向かうと、村があって、家が1つ燃えている。

急いで火を消した。

幸い誰も居なかったようで、ホッと息をつく。

村には、人の気配が沢山するのだが、家の中から出てくる様子がない。

火の匂いがしたはずだ。どうして…?

僕は一軒一軒まわってみることにした。

───

町の人の話によると、あの家には魔物の親玉が人間に化けて住んでいたらしい。

村長達が魔物達が家に入っていくのを発見し、事が起こる前にと燃やしてしまった。

魔物は燃えて居なくなったから安心。

しかし、僕の心の中には胸騒ぎがあった。

もし、まだ終わってなかったら…?

僕は直ぐに家の跡地へ向かった。

だが、そこには、魔物すらも居なかった。

魔物は倒すと跡形もなくなるが…

僕はその場で何かないか探した。

数分続けていると、下に違和感があった。

これは何だ…?

少し触ると

ガタン

と言う音をたて、中から地下へと繋がる階段があらわれた。

中からは魔物の気配がする。

もしかしたら、魔物の親玉と言うのは本当?

そして、ここに拠点を構え、段々と村人達を蹂躙していく。

僕は腰にかけた剣を取り、うす暗い階段を下った。

1段また1段と降りるたびにだんだん魔物の気配が強くなる。

その都度気を引き締めた。


階段が無くなったのを確認すと、恐る恐る前を見る。

僕はそれに肝を潰された。

部屋のように精巧な作りで広がっているのだ。

何体かの魔物がちらほら視界を掠める。まだこっちに気付いてない。

このまま進めば、否応なしに
戦闘がはじまる。

魔物とは言え、まだ何もしていない。気が引けた。

どうするか…?

少し迷っていると、奥の部屋で子供の鳴き声がきこえた。

僕は刀をとった。

助けなければ…

その思いが迷いを消し去った。

ガチャッと刀を抜く音が反響し、魔物達の耳へ。

今にも魔物達が襲ってくる。分かっていながらも、目を閉じる冷静さがあった。

魔物達の唸り声が聞こえた瞬間目をパッチリと開いた。

いざ、勝負だ…

───

深層では、魔物と人型が会話していた。

「侵入者です。」

「まずいな。村長から差し向けられた…かも知れない。」

「どう致しますか?」

「偽物かどうか確かめ、違うなら保護しろ。

もし、計画が反故になれば、全てが終わってしまう。

その前に、なんとしても───」


見た事のない生物達に囲まれた。最早、絶対絶命のピンチ。

だが、僕の使命。それは、この世界を平和にすること。

村を脅かす根は摘み取っておかなければならない。

魔物が手を振り上げた瞬間、剣で薙ぎ払った。

何回も何回も

魔物達は倒れていくが、その分、多くの魔物が現れ僕のまわりを囲む。

いくらやっても新しくあらわれる一方で、底を見せない。

段々と手が、体が重くなっていった。

疲労が回りはじめたのだ。

剣を杖代わりにし、全体重をそこにのせる。

これ以上は無理だ…

段々と意識も朦朧とし、ふらつきが止められなくなった。

そのまま地面を前にし、絶望感が襲った。

もうここで終わりなのか?

それとも、また夢をみるのか……

薄らぐ視界を前に、町の人達へ謝罪しながら、僕はそっと目を閉じた───