その一言が聞きたくて④

繰り返しと抗うもの

Black memory

───幸せな世界、それがここには広がっています。

それでもあなたは、苦しんだり、悲しんだり、差別しあったり、それを繰り返すのですか?

それとも…


そこで僕は目を覚ました。

あれは自分も知っている人だった。

そして…

世界は相変わらず暗かった。

しかし、明るいものが一つだけあった。暗闇の中を照らす、豆電球のような光がそっと外から射し込む。

月の光だ。そして、その隣には星がキラキラと輝く。

そうだった。月は、星は、世界はいつでも明るいんだ。

雲に囲われても、必ず光は戻るし、見えないところでも輝き続けている。

そうだ…僕は────

そのままそっと眠りにつく。

─────

目を開けると、アベリが話しかけてきた。

「目が覚めたようだね。君は、モンスターと戦い疲れて寝てしまっていたんだよ」

アベリは続けた。

「ここから先、君はどうする?一旦戻るかい?

それとも、誘王を倒しに行くかい?」

それを聞いて僕は言った。

「どちらもしない。僕は同じ誤ちを繰り返そうとしていたんだ。」

「どういうことだい?」

「1人よがりだったんだ。今までの考えが。

だから、変わらなきゃいけない。悲しみは繰り返してはいけないんだ!」

僕がそう言うと、辺りは暗くなった。

「それが、君がこの世界で求めることなんだね。」

すると、映像が辺りに浮かび上がった。

そこには、男が1人、誰かと話している。その後、多くの魔物と戦っていった。

魔物は倒していくが、相手と同時に自らもボロボロになっていくように見えた。

それは、自分が見てきた風景だったのだ。

そして、僕が居ないところにもフォーカスされた。

今まで会った人々の過去や、その後が映し出された。

バルラさんはあの後、必死に戦った、しかし、強さが違いすぎたのだ。

死を覚悟し、バルラさんは考えた。ヴェントさんのこと、そして僕のこと。

申し訳なさと、帰れば良かったとの後悔。何故、一緒に来てくれなかったのかと、もどかしい思いのまま炎を浴びる。

それから黒焦げになったバルラさんが場に残され、時間だけが進んでいく。

死んだかと思われた彼は立った。身体は段々人とは違う異形のものへと変化して。

その姿はどこかで1度見たことがあるものだった。

飛んでいくのを見送ると彼は言う。

「そうさ。この世界で死んだものは魔物になる。

そして、君は、他にも魔物になったものを見ている。

死ぬ以外でも、魔物になる事があるのだ。」

「どういう事だ!」

僕がそう言うと、場面が変わった。

ナイトの過去。

そして今の彼が。

何かを考えながら、朧気に見えてくるある男との過去。

それをとても悩んでいた。

自分はどこに居ればいいのか。

どんどんと暗い場所へと歩いて行った。

そして、場面が変わりTOBAEにつく。そして、イモータルに向かった。

すると敵味方関係なしに剣を振るった。

それを何度も繰り返した。

後だけでなく、出発前もそれを繰り返すようになり、ナイトは段々と浮いていく。

強い常連者から目をつけられ、どんどん居場所を失っていった。

そして、イモータルは大騒ぎに。

時間が経ち、彼の暴動がおさまると、今度は暗いネームレスオーガニゼーション略して「NLO」と言うグループに攻撃されだす。

彼はどんどん弱っていった。

そして、場面は自分へと移った。

そのまま多くの魔物と戦いどんどんと強くなり、誘王を倒すと、目的が無くなった僕はTOBAEのイモータルへ向かう。

そして、何度も何度もプレイした。

しかし、ある時を境に目的が変わる。

自分より弱いものを攻撃する(ETW)冒険者に出会ったのだ。

僕は自然とそのグループに加わっていた。

僕が変わったのは、誘王を倒した辺りからだろう。

それからも、複数種類のあるドラゴンなど沢山倒していった。

それら全てが心に陰りを作っていったのだ。

それからそのグループと行動を共にし、イモータルでお零れ貰い冒険者を見つけるたびに、味方攻撃をしていった。

そして、ある日、そのグループの1人がコンタクトをとってくる。

腐敗していた僕の心に少しの光が宿った瞬間だった。

それから色々な冒険者と出会う。

そこは暗がりだったが、段々と明るさを取り戻していくのを感じた。

しかし、一時の軋轢があり、僕の所属するグループとイモータルを楽しくプレイすることを主張する1部の常連グループとがバトルを繰り広げることがあった。

無関係の僕も巻き込まれ、混戦を極めることに。

それから、時間が経ち穏やかになると、色々な出会いの中、2人の光に出会う。

それは未来を予感させる光と純粋な光。

僕は未来を予感させる光に恋に落ちていた。

この未来を予感させる光に出会ったのは、NLOというグループ。

これは誰が入っても抜けてもいいと言う集団で基本的に顔や、名前は全て明かさなくても良かった。

しかし、2つの光は明かしながら、ここをとても強い光で照らしたのだ。

以前はナイトを暗闇へどんどんと誘っていったこの場所も、今では何も出来なくなっている。

いいや、何をしても、無駄であることを皆心の中に入れたのだろう。

だが、僕に未来を予感させた光は多くのものを引き寄せる。

それらは全てNLOの黒い影だった。

だが、それでもずっと光り続けていた。

その時までは───

Black memory②

それから僕と純粋な光はNLOから未来を予感させる光を守ろうとした。

しかし、もう1人は段々手を引いていった。

僕がその人に恋に落ちてることを悟ったのだろう。

そこから粗暴になり、僕が彼女に会うまでやっていたETWを。

それがあってNLOでも更に言われるようになり悪化した。

NLOでは、それ以外にも、僕や、入っているグループ、そして、常連達が攻撃されていたが、純粋な光は特にだった。

ところで僕は、加入しているグループの敵対勢力とコンタクトをとり、もう辞めるようにと説得される。

心を失いかけていたところに優しい言葉をかけてくれたのだ。

そこから同グループで彼らと行動を共にすることは無くなった。

そして、僕は未来を予感させる光を連れて旅にでる。

彼女は段々弱っていくが、気にせず手を引っ張りどこまでも。

その中で、ある夢を語った。普通に考えれば絶対無理の事で、対等に、君に好かれる人間になりたいと思いが強かったのだ。

彼女に会うまで、誘王と言う目的があったが、それが消え罪悪感だけが残っていた。

それを払拭させ、希望をもたせてくれた。

彼女と話している時は幸せで、段々と違う感情もうまれてくる。

それは独占欲だった。NLOは勿論、仲良くしてくれた旅人達には渡したくない。

彼女は少しずつ弱っていった。僕はそれを考えず、また旅に連れていく。

ある日のこと、彼女はパッと消えた。

僕は悲しくなる。どれだけ探すが、彼女はもう居ない。

そこから僕は自分を偽った。彼女のように真似をした。

あの人の事をまだ好きなのだ。居なくなってもそれは変わらない。

残った光も段々離れていった。NLOでは、段々と違うものが叩かれる。

最近は旅人同士が戦うアリーナが流行っている。

イモータルにハマる冒険者も大体がそこに夢中になった。

なんと言っても、回数制限がなく、一定の強さ以上なら誰でも出来るところが流行る要因だった。

しかし、一方で問題があり、長くやってるもので、金を沢山使うものが有利になる傾向があったのだ。

金を使うとは、村長の元で、一定期間働いたものに払われる賃金で、それと武器や、防具と交換するための道具を得ることができる。

そのお金も、実力主義なので個人差があった。

その不平がNLOに募ったのだ。

特定の冒険者達が抜けるとして、NLOでは大騒ぎ。

対戦では、どちらかが瀕死状態になるまで終わらないのだが、2つだけ終わらせる方法がある。

棄権するか、放棄だ。

棄権はすぐに決着するのだが、放棄の場合、直ぐには決まらない。

5分間だけ猶予がある。相手冒険者はその時間まで待たなければならないのだ。

その時間が相手には苦痛で、それをした大体の冒険者は戻ってこない。

しかし、戻ってくる冒険者も多いため、運営者は中々変えられない現実がある。

それがNLOという匿名組織で爆発したのだ。前の暗闇から引き継ぎ、歯止めが効かなくなっていた。

そして、NLOで小耳に挟んだ話だが、ナイトが叩かれるまで、比較的平和だったと言う。

もし、あれが無かったら平和になってたのではないだろうか───

と言う僕もアリーナに熱中していた。

誘王を倒したとはいえ、長く続けていた人とは差があり、負けたり勝ったりの繰り返しだったが、楽しく続けていた。

それから、段々と今まで一緒に居た人達とは離れて新しいところと時間を共にする。

アリーナと同じくして、新しいものが追加されていた。

それはギルドだ。リーダーが作ったそれに参加すると、アリーナで得た賞金。それを集めて、ギルドで多いところはランキングで発表される。

因みに賞金と言っても、それによってすぐに何かが得られる訳ではない。

終わったあとに多さによって、報酬がもらえるのだ。一定数忘れずやった。

────

ある時、僕は最強の武器を手に入れた。

使い方が分からなかったが、段々、対戦していくうちに相手を見て理解していった。

そして、僕はそれを使った。驚いたことに、勝率が高く、熟練者だろうが、金を使うものだろうが、面白いように勝てるのだ。

僕は何度も何度も繰り返した。

勝てるとはこんなにも気持ちのいいものなのか────

ある時から今のグループからも浮いてきた。

対戦にハマった僕は周りのことを全く考えなくなってたのだ。

その時の僕の周りには黒い影が包んでいた。

そして、居づらくなった僕は、メンバーと他のギルドに移った。

だが、そこでも、責められた。対戦のことを言われたのだ。

僕はそこを去った。他の場所に行っても、受け入れてくれるところは無かった。

暗闇はどんどん増していく。

個人ランキングでアリーナ称号を貰うことがあった。

プラチナ称号だった。

しかし、僕の頬は動かない。

その事でNLOで1部の人間に言われる。

僕はそっとそこへ向かう。

体は最早、人間ではない、別のものへと変貌を遂げていた。

そして、NLOは無くなる。記憶が曖昧だった。

僕が来た後に無くなったのか、来る前に無くなったのか。

しかし、確実に自分は理性を失ってきている事は確か。

だが、僕の心の中には1つ姿があった。

僕の好きだった人。もう二度と会うことはないであろうあの光の姿が。

もう一度君に会いたい…

そして、完全に暗闇に包まれた。

────

White desire

「これは…?」

僕は嘆息をつかずにはいられなかった。

すると、アベリは言った。

「まだ終わっていないよ。」

また暗闇が現れる。

そして、再び未来の僕にスポットが当たる。

あれからずっと自分は変わらなかった。しかし、少しでも変わろうと日の出る世界に足を向けた。

だが、それは続かなかったのだ。

また暗闇の中へと嵌っていった。

その中で過去の事を思い出していた。

あの時は良かったな…

僕はもう一度あの場所に戻ってみることにした。

だが、そこには求めるものはもう無かった。

今ではイモータルをする人間も少ない。

昔の面影さえも消えていたのだ。

だが、その場に残った。

そこで偶然、純粋な光に会ったが、あの頃とは違う。

前よりも暗くなっていた。

僕は手で顔を覆った。

もしかしたら…

そう思うだけで、目に涙が溢れた。

ところで最近は、外の魔物は多くなっていると言う。

しかし、そこに向かおうと言うものは居なかった。

ここに来る冒険者も減ってきたからだ。

立ち向かうものが居ない魔物の世界では、正義はこちらにあると言っても差し支えない。


最近は、僕がいない間に作られた、指定された防具、武器でひたすらに魔物が現れるダンジョンに潜るのが流行ってるらしい。

これにもランキングがあり、上位にのると報酬がもらえる。

これにより更にイモータルが疎遠になっていった。

前まではどんな時でも活気づいていたものが、今では1グループ居てもいい方。

このギャップはなんだ?

そう思いながらも、する事が無かったので何度も何度もダンジョンに潜った。

飽きるとアリーナで何度も何度も対戦した。

毎日毎日。

永遠にこのままか…?

僕は更に暗闇へ暗闇へと進んでいった。

その中では、過去のことが今のように思い出される。

何故、誘王を倒してしまったのか。

何故、始めたばかりの人にあんな暴虐の限りを尽くしてしまったのか。

そして、何故、あの人に…?

そう考えた瞬間、辺りが真っ白に包まれた。

向こうには1つ影があった。

「ここは、リアルとバーチャルの狭間。始まりと終わりの世界。あなたは戻る時が来たのです。」

「僕はまだ…」

「振り向いてはいけません。後ろには何も無いのです。

悲観する必要はありません。何も後悔する必要もない。あなたの問題とその人の問題は同じではないのですから。」

「だけど…」

「あなたはもう飛べるはずです。」

僕はそっと顔をあげた。

「君は…?」

「私は未来を繋ぐ…そんな人間です。」

「僕は過去だよ…」

そう言うとパッと世界が変わった。

元の世界に戻ったのかもしれない。

しかし、一つだけ見えたものがある。

あの影は知っている…女性の影だった─────

「終わりだよ」

僕はそのアベリの声にハッと意識を取り戻した。

「これから君はどうする?」

アベリはそう言うと、僕はのべつまくなしに続ける。

「決まってるよ。この世界を本当の意味で平和にするんだ」

話が終わると直ぐにまた旅にでた。

───

道中、アベリは話した。

「この世界には誘王以外にも複数の勢力がある。」

「どういうこと?」

「誘王を倒したいと思ってる魔物も居るってことさ。

実はね、この魔物が1番有名ってだけなんだ。強さ、魔物間での認知度、その他色々な要因が絡み合い、最強の魔物たらしめた。

強さとか1つだけ取れば、そんなにかも知れない。

だけど、誘王は1つだけじゃないんだ」

それに少し驚いていた。

魔物は全員敵と言う立ち位置だと昔なら思っていただろう。

しかし、事はそんなに単純では無かった。

魔物になっても人間と同じなのだ。

それから少し考えて再び出発した。

─────

僕は、ある時から、魔物の見方が変わっていた。

誘王出会った衝撃と、荒んだ心。

それらが今までの偏見を一変させた。

悪は妄想なのだ。敵などどこにも存在しない。

もし、居るとすればそれは─────

僕は決めた。

この世界を変えると。

僕は今まで失敗を沢山おかしてきたし、繰り返してきた。だから変えられないかもしれない。

だが、今を生きるということは、自分の理想に向かい奔走する事だ。

今、諦める訳にはいかない。

今の僕には知識がある。

これがあれば、どんな風にも変えられる。

この知識を生かすも殺すも自分次第だからだ。

僕はグッと拳を握りしめた。

光はいつも傍にある。

気付かないだけで、他の方向や、見上げてみればいつもそこにキラリと光る。

それを忘れずにいたい。絶望は希望のはじまりだ。

世界は苦しみから新しく始まる。

───────

魔物達は元は人間だった。

僕の目の前にはジャヴの部下で、あの剣を持った魔物がじっとこちらを睨んでいた。

この魔物、矢張り見たことがある。

僕は確信した。

「君はバルラさんだろう?」

魔物は驚いた表情で言った。

「何故そう思う?人間ではない魔物に…」

「君は人間だ。僕は知っている。

あの時、ヴェントさんを倒しただろう?」

「あぁ。そうだ。あいつは俺を騙していた。

お前も見捨てて逃げたよな。」

そう言うと、バルラは剣を取り出して走り出した。

1歩、また1歩と地面を踏みしめる音が鳴る。

そして、大きく薙ぎ払う構えをとった。

その瞬間すかさず僕はバルラの上半身を剣で切った。

バルラは一瞬たじろぐが、体には傷一つない。

「どうした、同情か?俺はお前のせいでこんな体に…」

バルラがそう言い、顔に手をあてた時だった。

ザラザラだった顔、ゴツゴツした手に違和感があった。

「どういう事だ…?もしかして、元に…!?」

「あぁ、そうだ。

僕の剣、これは呪いを解く力がある。

前は気付かなかった能力。これがあれば、本当の平和を手に入れられる。」

僕は空を見た。

燦然と輝く星と、その中でも大きく照らす月がとても綺麗にそこにあった。

僕は必ずやり遂げる。

そう胸に誓うと再び旅にでた─────


Many monsters

とは言え、心の中は不安で1杯になっていた。

魔物の数は多い。一体一体なおしていくととてつもない時間を要する。

だが、バルラさんに相談するとすぐに解決した。

魔物の殆どは何もないところからうまれた。だから、人間や動物などから魔物になるのはとても少数だ。

殆ど固まってるため、そのまま誘王のところへ行けば手っ取り早く解決できるだろうとのことだ。

そして、驚いたことに、バルラさんはまだ飛ぶ能力が残ってると言う。

僕はすぐに誘王の居るところまで飛んでくれと頼んだ─────

だが、誘王はいつも転々としているため、居場所は掴めない。

そこで、村をまわり情報収集をはじめた。

しかし、いくつも回っても情報が出てこない。

誘王を見たことがないものばかり。

しかし、毎回出てくる男の名前があった。

プロテクト、その人は僕と同じく冒険者らしいのだが、困った人を助け誰でも仲良くなるととても評判がいい。

しかし、噂では魔王に倒されたと言う。

その人はとても腕がたつらしいが、魔王の前では通用しなかったと。

魔王に勝てるものは1人として居ない。

村人はそう言うと震えていた。


だが、まだ希望はある。僕はそっと握りこぶしをつくった。

未開の地程可能性があるんだ。

そこから色々な場所を巡った。

だが、中々見つからない。


その道中、2体の魔物が立ち塞がった。

形態から分かった。2体とも動物から魔物になったのだ。

一体はとても小さく素早い、もう一体はとてつもなく巨大。

どうしたものかと迷った。その2体も誘王を探してるらしいが、一緒に行動はできない。

かと言って戦ったとしても成功する見込みは少ないだろう。

すると、バルラさんが耳打ちした。

自分が囮になると。

告げたあとすぐに小さい魔物の方へと駆け寄った。

直後、見えない速攻で、バルラさんはボロボロになっていく。

だが、いくらくらっても倒れなかった。冷静にじっくりと辺りを伺っている。

そして、瞬間、目を見開いた。ガバッと腕を広げる。

そして、攻撃直後の小さい魔物の手を掴んだ。

今だととても大きな声で叫んだ。

はやさのせいで魂が抜けたように立ち尽くして居た僕に意識が戻る。

すぐに駆けつけて刀を振るった。

魔物は小さい子犬へとかわったのだった─────

あともう一体を戻さなければ…

そう意気込むも、巨大すぎて剣の効果が薄い。

何度も果敢に斬りかかるが、手ではらいのけられてしまった。

これ以上は無理か…?

諦めムードに陥っていた時、ふっと魔物に変化があった。

微細だが、最初より小さくなっていたのだ。

僕はがむしゃらに何度も斬りかかった。

すると、段々それが顕在化していき確信する。

この剣は最強の剣だ。戦いには向いていないが平和を導いてくれる。

これがあれば、魔物になった人間全てを元に戻せる。

皆、待っていてくれ。心の中でそう呟くと両手に大小2匹の犬を抱え、バルラさんの背中にのって再び旅立った。

空を飛ぶ魔物は最初少なかったが、旅を進めるうちに増えてきた。

大体が鳥と何かから魔物に変わったものが多く、空中戦だったため色々苦労したが、ようやくのことで攻略する。

その後、人間だったものは近くの村に預けた。

後はどこを探せばいいのだろうか…?

そんな事を考えていると、バルラさんがふと思い出した。

僕は一旦TOBAEに戻ることにした。

イモータルは相変わらず人で1杯で、がらんとなるのが嘘のようだ。

ここには強い冒険者が沢山居る。

そこら辺の魔物が何百と束になっても勝てない程に強い。

ここに黒いものが混じっていても掻き消されて分からないだろう…


僕の目の前にはLBが居た。

「ブレイブくんか、久しぶり。元気そうで良かった

またイモータルしようか。」

「いいや、悪いけどできない。

やっと分かったんだ。」

「何が…?」

そう言うと偶然、そこにナイトもやってきた。

「また会ったな。」

LBの方をちらりと見ると、その場に固まって零した。

「あんたは…」

そうだ…この人はナイトの恩人であり、僕の目的である誘王。

僕は刀を抜いた。

「悲しみの連鎖はここで終わらせる。新しい未来がここからはじまるんだ。

この先には理想の未来が待っている」

すると、LBも刀を抜いた。

「これが悲しみのはじまりか、理想の世界のはじまりかそれは誰にも分からない。

ただ、最初から直感的に分かっていた。この状況を、立ち向かってくることを。」

LBは続けた

「場所を変えよう。」

次の瞬間、僕とLBだけがその場から移った。

残ったナイトはその場で頭を抱えて項垂れた。

「俺はこれからどうすれば…?」

───

「ここは?」

辺りはとても暗く、魔物の気配がそこらじゅうから感じる。

「俺が前の魔王を倒したところだ。ここが最終決戦の場。

かかってこい。」

そう言うと、構えずに挑発する。

僕はそれに乗っかり切りかかる。しかし、剣筋が見切られ全ていとも簡単にかわされた。

「強い…」

思わず声をもらす。

かすりもしない、実力差がありすぎる。

一太刀でも浴びせられれば…

「そろそろこちらの番だ」

そう言うと、剣を振り払って後ろに倒れそうなところを一突き。

剣が前に出て剣筋を逸らした。

危ない…九死に一生を得た。

しかし、この実力差をどうすれば─────

The final battle and the future

「まだ俺には勝てない。」

そう言うと剣を大きく掲げた。

すると、辺りが暗くなり、竜巻が、雷が、地震がと様々な異常気象がおこる。

僕は絶望した。

最早、どうすれば…?

そんな時、バルラさんが肩を叩いた。

「大丈夫だ。よく考えてみろ。

あれに巻き込まれれば、あいつもただではすまない。ただの演出だ。

もし、気になるのなら、あいつの傍にいれば安全だ。」

告げるとぷかぷかと空に離れていく。

僕はすぐにLBさんの近くへ向かい剣を何度も振るった。

相変わらずカスリもしなかったが、少しの異変があった。

異常気象を全て操るのが困難になっていったのだ。

段々と傍に被害が及んだ。LBの立つ大地がひび割れ、竜巻が連れ去った。

いち早く察知したバルラさんに乗せてもらい、上から見下ろしLBを探す。

砂煙で見えない地面を目を凝らして待つと、段々視界が晴れて人の姿が現れる。

息が荒くなり、僕の方をじっと見る。

天候を操る剣、諸刃だったか。

ボロボロの体にいたたまれない気持ちを持ちながらも、降り立ちそっと剣を向けた。

一度でも切れれば、魔物からもとに戻れる。

気にしてはいられない。

僕は切りかかる。

すると、剣でギリギリかわす。僕は何度も振り下ろした。

怪我が災いしてか剣がかする。

僕は歓喜した。

しかし、それは一瞬で掻き消される。

魔物から人間への変化が無かったのだ。そもそも、LBは人間の姿をして、魔物とは思えない。

誘王と呼ばれるからには魔物のはずだが、この剣で切っても何一つ変化を見せないのだ。

「もしかして人間なのか…?」

ボソリと呟くとLBは立ち上がり反撃した。

「残念だったな、ちゃんとトドメを刺さないと俺は倒せないぞ」

そう言いながら、剣を振り回す。

キンッ

剣がぶつかり合いトライアングルをビーターで叩いたような音がなる。

僕は仰け反りながら必死で払いのけた。

そして考えた。

この刀は戦う用のものでない。今は実力が拮抗してるが、完全回復したらやられるのはこちらだ。

ただ、これ以上倒したくはない。

少し悩んだあと僕は決めた。

すぐに変化が訪れる。受けっぱなしだったのが段々と逆にLBの足をひかせている。

その時、察した。
迷いはない、自分を本気で倒すつもりなのだと。

そして、怒涛の攻撃にLBの剣が飛ばされる。

「決まったか…。」

そうボソリと呟いたLBの顔に恐怖はなかった。

「トドメをさせ」

LBは目をつぶり地面に倒れ込んだ。

「戦いは終わったんだ。もう誰も悲しまなくていいんだ。」

僕がそう言うとLBは目を開けた。

「俺は沢山の魔物を倒してきた。前の魔王だって人間だったんだ。

普通のさ。

人を殺めてしまったんだよ。

そんな俺に生きていく資格はない。」

LBは続けた。

「君がしないのなら自分でやる。」

剣先を自分の方に向ける。そして、少し前に突き出すと勢いよく自分の方へと。

その瞬間、僕は手で刃を止めた。

切れた手から血があふれる。

「どうして?」

怪訝そうな表情で見つめる

「悲しみは繰り返しちゃいけない。」

「俺は死んで当然の人間だ…。喜ぶやつの方が多い。」

僕は叫ぶ。

「いいや、ナイトをみてよ。LBの事を慕ってるんだ。

それに、これからこの世界を変えようと決めたんだ。

だからここで君を終わらせる訳にはいかない。」

それを聞いてLBは黙り込んだ。

そして少し経って口を開く。

「俺の負けだ」

──────

それから多くの魔物達を人間に戻した。

中には魔物のままで居ようとするものも居て、全てまではいかなかったが、世界は平和になった。

かに思われたが、何も始まっていなかったのだ。

─────

あの後、LBはどこかへ旅だった。戦いのことを思い出すと、最初に自爆したのは、自分を倒して欲しかったのかもしれない。

だが、今ではもう分からないこと。

出る前に話したことがあった。

リベラル、それがLBのここでの名前だと。

続いて僕も言った。名前を1つに決める、それはファンシー。

この世が残酷でないものと祈りを込めた。


今日もイモータルは騒がしい。最近は武器や、防具の縛りで、自らを追い詰め、全員の技術が試されるプレイが流行ってる。

魔王の居なくなったこの世界では、暇が蔓延していたこともあり、冒険者は何度も何度もイモータルに入っては失敗、クリアを繰り返す。

僕はそれを見る度に思い出すんだ…。まだ何も悲しみは防げていないことを…。

ところで、僕はほぼ毎日イモータルに通っていた。

この世界では、魔物になる条件が2つあった。

この世界で未練を残し死んだものは、魔物になって生き返る。

そして、もう1つは魔物を倒し続けたもの、人を倒し続けたものは姿を変えなくても、心の中は魔物のように変貌を遂げる。

そしていつの日にか魔物の姿へと。

その後者になることを危惧していた。今でもETWが横行しているかもしれない。

していなくても、今後、弱い人に対して不満をもつ冒険者がでてくることは用意に想像がつく。

どうするか…?

少し考えていると思いつく。

そもそもイモータルが無ければいいのでは…?

しかし、そうすると、その不満を発散する場がなくなる。

イライラが募って冒険者同士で、ぶつかってしまうかもしれない。

まだ問題は山積みだ。

そして、僕は今日もイモータルへ向かう─────