思想学部27

<h3>友達の家に</h3>

今日はみちかちゃんと待ち合わせ!

友達の家に行くんだって!

とっても楽しみ!

しずくはスキップをしながら、待ち合わせ場所へ向かった。

しずくは、はやめに出たつもりだったが、みちかはもうすでについていた。

「わー!みちかちゃんはやい!」

「ついさっきついたんだ!」

みちかはそう言って笑う。

「もうその友達の家に行く?」

「ううん。もう1人誘ってるんだ!」

すると、「お待たせしました!」とふらふらと誰かがやってくる。

「ふらちゃん!」

「しずく先輩!」

「人が多いと楽しいよね!」

「ですね!」

それから3人は、あゆみの家に向かった。

インターホンをならすと、あゆみのお母さんが出てくる。

3人を見て嬉しそうに「まぁ。」と言う。

「あゆみを呼んできますね。」

少し時間が経って、あゆみが1人で出てきた。

「あ…。」そう呟いて、ドアを閉めようとする。

「あゆみちゃん、遊びに来たよ!」

すると、あゆみは言った。

「帰って。これから1人で勉強しようと思ってるから。」

「え…!?」

みちかさんは驚く。

「なんてね!嘘だよ!」

あゆみさんはドアを開いて、みんなを歓迎した。

「驚いたよ…!」

みちかさんはホッとする。

「ちょっと意地悪したくなったの!」

「あゆみちゃん…。」

「ふふ。ごめんね!」

「2人も、来てくれてありがとう!今日は一杯遊ぼうね!」

あゆみは少し前より、とても元気になっていた。

今日は2人の空白を埋める1日。

あゆみはそう思っていたのだった。

部屋につく。

「みんな、まずは何する?」

みんな少し考えたけれど、思いつかなかった。

「じゃあ、お話しよっか!」

あゆみは「いいですね!」と微笑む。

「私が居ない間、何かあった?」

「特に…。あゆみちゃんは?」

「私も…。勉強したり、1人で何かをすることが多かったよ。」

「あ!そうだ。部活に入ったことかな…。」

「思想学部?」

「うん!だけど、もう辞めちゃったけどね。」

「どうして?」

「みちかちゃんのこと、忘れるためだったんだ。だけど、今、こうして一緒に居られるのもいいなって!」

「私も、あゆみちゃんと一緒に居られて嬉しいな!」

それから2人はしずくと、ふらが居ることを忘れ楽しくお話していた。

しずくは「2人とも、楽しそうで、なんだか嬉しいな!」と笑う。

「ですね!しずく先輩、良ければ少しでかけませんか?」

「うん、いいよー!2人の楽しそうなところ、邪魔しちゃ悪いよね!」

「ありがとうございます!」

  
「楽しいな…」

「あゆみちゃんどうしたの?」

「今までね…一人ぼっちだったから…友達と遊ぶ時間が幸せって。」

「うん!私も幸せっ!」

「ありがとう!」

「でもね…」

みちかさんは首を傾げる。

「実は少し前に友達ができたんだ。」

「そうだったんだ!」

「ごめんね…」

「ううん。友達に友達ができるのは嬉しいよ!」

丁度、その時、チャイムがなった。

「そろそろ来たかな…?」

「どなた?」

「その友達!私も誘ったんだ。」

「お待たせしました!」

うみが2人のもとへとやってきた。

「試合に居た人ですね」

「うん。この子はね、私が困ってる時に、相談にのってくれたんだ。」

「とても優しくていい人なの。」

「そうだったんですね!あゆみちゃんをありがとうございます!」

「みちかちゃん、なんでちょっと保護者みたいな感じなの~!」

「そうだったかな?」

うみはその様子を笑顔で見る。

「あゆみちゃん、私の事、そう思っててくれたんですね!ありがとうございます!」

「こちらこそ!助けられたんだ…ありがとう!」


「近くのお店で、美味しそうなデザートあったね!」

「はい!行ってよかったですね!」

「みんな喜ぶかな!」


到着すると、「おかえりなさい!」と、あゆみがむかえた。

「デザート買ってきたんだ!ありがとう。」

「うん。みんなでわけて食べよう!」

ふらは少しドキッとしていた。

「あの…!もう1人来てるんですね。」

「うん!私の友達の、うみちゃんが来てるよ!」

「うみちゃん…?」

部屋に行くと、「あなたは…」とふらが呟く。

「どうかしたの?」

心配そうにしずくが見つめる。

ハッと思い出して、振り返って言った。

「そういえば…。あなたは、みおちゃんと…」

「みおちゃん?」

「うみさんと、少し話がしたいです!」

「いいですよ!」

「皆さんはどうぞ、食べててください!」


「なんですか?」

「中学校の時、みおちゃんと仲良くしてて」
 
「そうだったんですね。」

「よく、うみさんの話が出てました。とても優しいお姉ちゃんだって。」

「みおちゃん…」

「大切な友達だから…。あなたのおもいが知りたい…。

今、みおちゃんのこと、どうおもってるんですか…?」

「分からない…。でも、もう仲良くできないと思ってるよ…。」

「私の気持ち的にも、みおちゃんの気持ち的にも…」

「そうですか…。」

「うん。なんだか、ごめんね。」

「いいえ、大丈夫です!こちらこそ、急に聞いてしまってごめんなさい。」

「ううん。私もみおちゃんおもいな友達が居て嬉しいんだ。」

「ありがとう。これからも、みおちゃんの友達で居てあげてね。」

それから2人は部屋に戻る。

デザートのチョコのケーキが4つしか無かったので、一つだけしか残って無かった。

なので、うみとふらは一緒にわけて食べたのだった────────

<h3>お祭り</h3>

今日は、祭りがある日だ。

去年は1人の時間を満喫したくて、行かなかったので、今日はと考えた。

あたりを見て思う。

「やっぱり、人が多い。」

これだけ居れば、知ってる人とも会いそうだ。

早速、前から、誰かがやってくる。

「あなたは…。思想学部の…」

相手は、最近、生徒会長になった女子だった。

「にわのさん…?1人で祭りですか?」

「えぇ。そうよ。あなたも部活の人とは来てないの?」

「はい。約束もしてないので」

「そう。」


「あの…!」

「はい?」

「少し前の、試合見てたの。凄かった。」

「ありがとうございます!」

「またね!」

そのまま、にわのさんは歩いて行った。

今日は、色んな人に会いそうだ。


にわのがそのまま歩いていると、知ってる後ろ姿があった。

誰かと並んで歩いてる。

それよりも、あれは確か…。

にわのはそっと、ついていった。

すると、後ろ姿のその人は、そっと後ろを向く。

心の中で思った。あれはすいぞうくん…。

人が多くて、彼のところに行けなかった。

少し人だかりからはずれて休んでいた。

すると、1人の男が、彼女に近づいていく。

「にわのじゃないか。」


「すいぞうくん…?」

「あぁ、久しぶりだな。」

「ビックリしたよ。先生と問題があったって聞いて…。」

「それか。わざとやったんだよ、俺が。」

「どうして?」

「仲間のために動くって、俺は何度も言っただろ?」

「仲間?」

「あぁ。俺の仲間は、あの学校にはない。転校したんだ。」

「もう、お前とは会うことはないだろうな。」

「分からないことばっかり…。」

「分からないままでいい。」

「本当に相応しかったのは誰か、これから分かるだろうからな。ダメな生徒会長。」

「私は…あなたみたいに、誰か特定の人物を優遇したりしない。」

「学校のみんな、平等にいい学校生活がおくれるようにって…」

私はついついかっとなってしまった。

「怒るなんて意外だな。いつも暗そうなのになあ。」

「あなたの方こそ、少し口が悪いんじゃないの?」

「はは。ぜんほうの未来は暗いな。」

「じゃあな。」

そのまま、すいぞうはいってしまう。

残ったにわのは、悲しそうに下を向いていた。

だが、少しして「いけない!せっかくのお祭りだから楽しまなきゃね。」 と立ち上がった。

──────

僕が歩いていると、女性の声が聞こえてくる。

「人形すくいないかなー?」

声の主は、おとねさんだった。

同じ部活の人と楽しそうに歩いてる。

「人形すくいって…普通にできないんじゃない?」

「できるよー!」

「どうやってするの?」

「まず、ポイを持って、好きな人形を見つけてその上に…。」

「あ!見つけた!」

おとねさんはその方向へ走っていく。

それを聞いて、本当か!?と驚いて見てみた。

本当にそれが行われてる店があった。

「あ!あいだ先輩!」

「ふらさん!どうしてここに?」

「みおちゃんに頼まれて!楽しくやってます!」

「でも、まだ、1人もすくえてないんですけどね…」

心の中で思う。それはそうだろう。

「みおさんは?」

「隣の店で、ぬいぐるみ型抜きの店をしてます!」

「型抜き綺麗にできたら、ぬいぐるみが貰えるんです。失敗しても貰えるんですけど…」

「そうだったんだ。」

おとねさんも早速、チャレンジしていた。

「布教みたいな感じですね。」

でも、みんな楽しそうだ。

僕はなんだかそれが嬉しかった。

ところで、今日は、すすむくんを見ていない。

来てないのかな…?

───────

すすむとしずくは2人きりで、暗い夜過ごしていた。

「すすむくん、どうしたの…?」

「話があって…」

「他の人が居ないとダメなの?」

「うん。」

「実は、3年生になったら、大事な話があるんだ。」

「今じゃなくて?」

「うん。」

「そっか!ビックリした!」

「今日は、お祭りを楽しもう!」

「うんっ!」


それから、半年近くの時が経った────────

<h3>創作という名の思想</h3>

あれから、時が経った。

もうそろそろ、帰らなければいけない。

自分はここに来て何か変わったことはあるのだろうか?

何かが大きく変わった気はしていない。

しかし、逆に、恋しい場所になったとは言える。

今日も、机に向かい、創作をはじめた。


極端であることは、悪いこととされる。

なのに、世界には、極端なものが多く存在する。

簡単なところで言えば能力。

勉強がよくできる人もいれば、できない人もいる。

運動ができる人もいれば、できない人もいるだろう。

特に、そのよくできるという偏ったものに対し、人は賞賛する。

説明でも同じようなことがあるのだ。

分かりやすい説明、難しい説明、普通の説明。

もし、極端が悪いとするならば、普通の説明がいいことになるだろう。

しかし、普通の説明では、人は理解しにくい。

例えば、平均点をとった人がいるとして、その人のことを凄いと思えるのだろうか?

それは当たり前であり、賞賛の対象にはなりにくい。

何か能力が優れていたり、欠けていたりすればそれについて言える。

平均であるのならば、それがほとんどない。

つまり、普通である程、分かりづらく、極端である方が分かりやすいのである。

しかし、普通であることは悪いことなのか?

それはまた違う話である。

極端であることのデメリットとして、好き嫌いが分かりやすくなってしまうこと。

人間にマイナスの影響を強く与えてしまうもの。それが偏りだ。

どれだけ優れていても、偏りを許容し続ければ、その偏りによって押しつぶされてしまう。

そこで、中庸という考え方が大事になってくる。


そのまま、僕はかき続けた。

そして、顔をあげて気付いた。

この考えは、自分の考えではない。

近くに居る人の影響を受けた考えだった。

そして、思う。

自分の考えとは、本当に自分のものなのか…?

ただ、噂によって、作られた模倣品こそ、それらであるのならば、今まで考えてきたことは何でもなくなってしまう。

偶然が、他のものと一致することもある。

それらは考えたくないことだ。

僕はまた創作に浸った。

今日が、本当に最後の日になるかもしれないと…心の中で思っているのかもしれない。

ただ、目の前にある、無限の世界が僕を呼んでるような気がした。

───────

一人の男の子が居た。

とても寂しそうに座ってる。

世界はとても黒く包まれていた。

そこに何かがやってくる。

「少年、どうしたんだ?」

「ぼく、怖いんだ。」

「何が?」

「僕は一人ぼっち…悲しくて、寂しくて。ずっとこのままなんじゃないかって…」

「寂しいことが悲しいのか。」
 
「それだけじゃないんだよ。」

「他に何がある?」

「人の真似してしまうこと。自分を頑張ろうと思っても、いつの間にか、誰かと一緒のことしちゃうんだ。」

「顔をあげて。」

その声につられて、男の子は顔を上げた。

「カラス…?」

「あぁ。俺はカラスだ。」

「どうして話してるの?」

「カラスは話してはいけないのか?」

「そんなことは無いけど…」

少年があたりを見ると、とても暗かった。

「世界は真っ暗だね…。」

「そうか?俺には明るく見える。」

「カラスだからじゃない…?」

「そうかもな。」

「少年、これをあげよう。」

カラスの羽の中から、一つの白い鉛筆が出てくる。

「これは何?」

「ペンだ。」

「どうするの?」

「これを使って書くんだよ」

「どこに…?」

「少年が思うところに」

「分かった…」

少年は目の前をその鉛筆で塗った。

すると、世界が白くなる。

「これどういうこと?」

近くに居たカラスは白くなっていた。

「君は誰?」

「私はハクチョウ。」

「さっきのカラスは?」

「分かりません。元から居なかったんじゃないですか?」

「そうなのかな…。」

少年の手には、黒い鉛筆が握られている。

白鳥は言った。

「物語好きですか?」

「誰かと比べなければ…。」

「どうして比べるのが嫌なの?」

「だって…。僕も物語を書くのをよくするから…。」

「そうなんですか…。もう1つ質問があります。」

「何?」

「あなたは、物語を作って、楽しいと思ったことはありますか?」

「あるよ…。」

「そう。なら、あなたはこれからも作っていってください。」

「きっと、またその楽しい時はあなたにおとずれます。」

「うん!ありがとう!」

少年のいる世界はとても明るくなった。

────────

そうだよ。僕はただ、楽しいから想像して、書いてるんだ。

たまに辛くて、申し訳ない気持ちになったりもする。

だけど、楽しかった記憶が残ってるんだよ。

誰かに都合のいい世界って言われても、本当に自分のことが分かるのって自分だけだから…。

昔の楽しかった記憶、それと一緒にこれからも歩いていきたいんだ。

楽しい瞬間が全くない創作は作ってる意味が無い。

だけど、僕にはある。だからこそ、僕は歩いていきたいんだ。

道のない先の世界を────────

<h3>母国</h3>

「シソウ、今日で最後だね。」

「うん。」

「これから…」

トモさんはそう言いかけた。

今まで、色々創作を言って、それを受け入れてくれた思想学部の人。

そして、この環境としばし別れなければいけない。

僕は折角なので、誰かに、自分の考えを話そうと思った。

相手の考えも聞きたかったから。

「ぶんたさん!」

「こんにちは!シソウくん。

やっぱり、少し下で呼ばれるの慣れないな…。」

「そうなんですね。」

「今日はどうしたんですか?」

「話したいことがあって!」

「よく言ってる創作かな?聞きたいです!」

「苦しい時とか、現実に悲観してる時しか、人間は創造的なアイディアは浮かばないと思うんです。」

創作の中に登場する、偉大な人物達がそうだったから。僕はとてもその考えに自信があった。

ぶんたさんは考えながら言う。

「そうかな…?楽しいことが続いてる時でも、アイディアは浮かんでいいと思うよ。」

心の中で驚いた。

「だけど、上手くいってる時程、そのいいところばかり考えて、中々、今を変えたいとは思わないと思うんです。」

だけど、ぶんたさんは理解してくれない。いつもだったら…。

次に、すすむさんの会った。

今度こそ!

そう思って僕は話しかけた。

「すすむさん!」

「どうしたの?」

「考えを言いたくて!」

「なんでも言って!」  
  
「えっと!優しい人が傷付くとか聞きますが、僕はこう思うんですよ。」

「酷い人でも、傷付くことは沢山あるって!それが当たり前すぎて忘れてるだけで。」

「うん。」

「そして、本当に傷付くのは、優しい人か、酷い人とかは関係なくて。」

「何もない時に傷付くんだと思うんですよ。普通の時程、悲しみや、嬉しいことが舞い込みやすい!」

しかし、すすむさんも、ぶんたさんと同じ反応を見せる。

「そうかな…。僕は、嬉しい時に、嬉しいことがあってもいいと思うよ!」

その時、深く何も言わず、すすむさんともわかれた。

肯定してくれるって、心の中でどこか期待してたのに。

2人とも、肯定してくれなかった。思いついて、嬉しかったし、楽しかったのに。

この喜びを分かち合えると思ってたんだ。

だけど、そんなことはなかった。今までのことは嘘だったのか…。

少し寂しかった。だけど、このくらいが丁度いいのかもしれないとも思った。

逆に全く同じ考えを持ってる訳では無い。  

それが分かった。

だが、寂しさはある。

すると、後ろから、すすむさんが追いかけてきた。

「違う意見を言ったけど、君の考えもいいと思うよ。」

「ありがとうございます。」

「もうそろそろ、帰るんでしょ?」

「はい…。帰りたくはないですけど…。」

「渡したいものがあるんだ。」

「なんですか?」

すすむさんは一冊の大きめの本を取り出した。

「これ。1年生の時、先輩に貰ったんだ。」

僕はそれを開いて思う。

「絵本…?」

「うん。前に、とても助けられた気がしたんだ。」

「それを、どうして僕に…?」

「今の自分にはもう大丈夫だと思って。だから、今、必要な人に渡したくて。」

「僕に必要…?」

「うん。君が本当に困った時、助けになるかもしれないから。」

「君は、きっと、何か凄い人になると思うんだ。」

僕はそっと、「ありがとうございます!」と言って、その絵本を貰う。

そういえば、これではないけど、絵本を見たことがあるかもしれない。

小さい頃、持ってきて見せてくれた。

原点か…。

その後、思想学部の人に、トモさんお別れを言った。

その時の、思想学部の人達は、いつものように優しかった。

帰路の途中、トモさんは言う。

「来てよかったね。」

「うん。」

僕の頭の中に、思想学部で過ごした日々が浮かんでくる。

創作も沢山した。

それは全部ノートに書いておいて、今は、殆ど忘れてしまったが、とても充実した日々だった。

もう一度、来れたらいいな。

自分にとってのサードプレイス、それが…

その時、ふと、リアルくんの顔が浮かんだ。

そういえば、1年くらいあってない。

彼は今、どうしてるんだろうか…

──────

最近、創作という言葉をめっきり効かなくなった。

この国はよりよくなっているのだろうか?

「兄さん!」

弟が彼の名を呼ぶ。

「少し聞きたいことがある」

「なに?」

「父さんの考えは正しかったのだろうか?」

「もちろん。正しい勉強を正しい方法で学んできた、正しいお父さんが間違えるはずないよ!」

「そうか…。」

ただ、男の頭の中に、誰かの顔が浮かんでいた。

そして呟く。

「シソウ…?」

───────

<h3>卒業式②</h3>

今日は3年生の卒業式。

去年と同じく、旅立つ人達を送り出す日。

「来年は僕らが、卒業する立場にあるんだな…」

すすむくんは答えた。

「そうだね。」

「すすむくんとも別れなきゃいけないのかな…。」

「それは大丈夫だと…」

すすむくんが言いかけた時、騒がしく誰かがやってくる。

「思想学部、久しぶりね!」

「朝花先輩!」

試合であったきり、そのままになっていた。

「元気にしてた?」

「はい!」

「それは良かった。最後だから、あいに来たんだ!」

彼女は相変わらず、とても元気そうだった。

すすむくんと少し話してて、途中、彼が切り出す。

「朝花さんの思想はなんですか?」

「え…?」

「聞いてないなって思って。」

「私はないって言ったよ。

でも…」
 
「教えようかな!私は女王様になりたいの!

思想というか、夢だけど!」

「いいと思いますよ!理由はどうしてなんですか?」

「なんでも思い通りになって、幸せだと思うから。」
 
「でも…。私がなりたかったのは、もっと違うものだったのかもね。」

「どういうことですか?」

「なんでもない!

じゃあね!もう二度とあわないかもしれないけど。」

「僕は、きっと、またいつか会えると思います。」

すすむくんは笑顔でまたねを言う。

──────

「先輩!」

「にわのさん。」

「今日が最後ですね…。」

「そうだね。」

「獅王先輩には、会長になってからも、沢山助けてもらいました…。」

「僕は何もしてないよ。」

「いえ…。私が困った時に…」

「もし、そうだったとしても、助けたかったから動いたんだ。自分がしたいから」

「にわのさんは何も考える必要はない。」

「先輩…!」

「これからもよろしくお願いします!」

「はい!」

「ところで、聞きたいことがあるんだ」

「何でしょう?」

「すいぞうくんは、今、どうしてる?」

「分かりません…」

「最近、見なくなったからな…。」

同時に、にわのさんはやらないといけないことがあると思った。

これから、最後までやり遂げること。そして…。

────────

それから、卒業式は何事もなく行われた。

すすむは家に帰る。

その途中、彼にはなんだか、わくやくした気持ちがあった。


にわのさんは少し学校にとどまっていた。

すると、そこに、2人の女子がやってくる。

「にわのさん久しぶり!」

そこに居たのは、ひなえだった。

「先輩!」

「最後なので、会いに来ました!」

「もう1人の方は…?」

「朝花さんって言います。実は、彼女が来たいって。」

「どうしてですか?」

「生徒会長だから!実は私も、生徒会長のようなものなんだ!」

「そうなんですか?」

とても嬉しそうに頷いた。

すかさず、ひなえが言う。

「違いますけど!実は、立候補してたんだ。」

「そうだったんですか。」

「うん。そうよ。

この学校を任せられる人かどうか、見に来たの!」

そして、にわのを朝花が見つめる。

「うん。あなたなら、任せられるかも!これからよろしくね!」

「ありがとうございます!」

「私もあります。元生徒会の人達と、私からです。」

「半年間、あなたの頑張りをみてました。困ってる人に寄り添って、助けたり、優しさを持って人と関われる。」

「あなたは、これからも、きっといいリーダーとして前に進めるでしょう。」

にわのは頭を下げた。

「ありがとうございます!」

「本当は言うつもりは無かったんだけど、朝花さんが来たいって言うから言おうかなって。」

「みんな、あなたの頑張りをしっかり見てるよ。だからこそ、あなたなら任せられるって生徒会長になれたんだと思う。」

そう言い残すと、またねと帰っていった。

─────────

すすむは家に到着する。

1番最初にあったのは、お父さんだった。

「すすむ、試合で優勝した頃から、明るくなったな。」

そして、首をふる。

「いいや、最初からすすむは明るかったのかもしれない。誰に似たんだろうな」

「お母さんだと思うよ。」

「そうか」

すすむの父の頭の中に、1人の男の姿が浮かんだ。

「学校は楽しいか?」

「うん。楽しいよ。」

「そうか…」

「これからも、僕は前に進んでいく。」

すすむの目はとても希望にみちあふれていた。

それがとても眩しくて仕方なかった。

ただ、すすむの父は「頑張れよ。」と小さな声で言う。

すすむは「なんて言ったの?」と聞くと、「なんでもない」と首を降る。

すすむのもとを去って呟いた。

「らしくないことを言ったもんだ。」

そして、心の中で思う。そういえば、あの人といた時もそうだった。

自分はらしくないことばっかり…。


すすむはお母さんの元へ行く。

「おかえりなさい」

ただ、そう言って微笑んだのだった───────