<h3>受け継がれるもの</h3>
「優しさは‥その人に強さを与えてくれる。」
「大事に大事に‥そう優しく歩いてきた思い‥そして思想はずっと残り続けるんです。」
「いいですね‥。」
「ふふふ。」
その日の夜、ねのさんの家に泊めてもらった。
眠れなかったので、メモ帳に書いてあったことを思い出す。
彼が来たのは、確か、このあたり‥。
彼はここで創作に於いてとても重要な概念である、同時に多種の世界が共存していいという考えを確立した。
その少し前、出会った人が居ると言う。
その人が言ったもの。
それは‥
この世界には間違いも正解もない。
違うページに書かれてあったため、全く関係ないものと思っていた。
しかし、もしかしたら‥。
次の日。
「エビさんおはようございます。」
「おはようございます。」
「よく眠れましたか?」
「はい。」
「それは良かったです。」
「あの!」
「何でしょう?」
「良ければ話しませんか?」
「もちろん。」
───────
「リアル派のことなんですけど、僕はきっと、お互いよく話し合えば分かり合えると思うんです。」
ねのさんはそっと頷いた。
「シソウは‥リアルと話し合おうとしていた。何度も失敗しようと、話し合おうと試みたんです。」
「彼は信じていた。お互いがともに分かり合える未来を‥。」
「それがあなたの優しさですか‥?」
「はい。」
「私は‥あなたのこと、応援します。」
「ありがとうございます。」
これから僕がしたいこと‥。
それはきっと、シソウが成し遂げられなかった理想の未来を作っていくことなのかもしれない。
それから、約束の1日前まで、ねのさんの家に居た。
「そろそろ行こうと思います。」
「はい。あなたならきっと大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。
ところで、ひとつだけ‥。」
「はい。何でしょう?」
「また来てもいいですか‥?」
「もちろんです。」
エビが行ってから、家に一人残されたねのは思った。
感情は人から人へうつっていく‥。
支えられてきたから‥ここまで残ってこれたのかもしれませんね‥。
「ありがとう‥。」
<h3>人の物語</h3>
「来たか。」
「はい。」
「考えは決まったか?」
「はい。ディフさん。」
「教えてくれ。」
「シソウ派はとてもいいと思います」
「つまり、それはリアル派を?」
「リアル派もとてもいいと思います。」
「結局答えは出なかった。そういうことか?」
「どちらにも属する。それが僕の考えです。」
「シソウ派は悪いものだ。なくさなきゃいけない。」
「確かに悪いところはあります。だけど、それはリアル派も同じじゃないですか?」
「では、リアル派はこのままの生活をおくれというのか?」
「そうは思いません‥。」
「では、シソウ派を追い出し、またリアル派の勢力が主権を握っていたあの頃を。」
「リアル派も居ていいと思うんです‥。」
「いれると思うか?リアルの弟が残した文章。一部だが聞いただろう。」
「永遠にわかりあうことはないんだ。」
「お互い、優しさがあった‥。」
「優しさ?」
「少なかったとしても、しっかりそれがあったと思うんです。リアル派も‥シソウ派も。」
「じゃないと続いて来なかった。」
「何が言いたい?」
「優しさがまったくない、ただ厳しいだけの人の元に、人は集まらない。」
ディフの頭の中に、過去のことが浮かんだ。
ラーミーさんと話してたときのこと。
「ラーミーさんは凄いですよね。」
「どうした?」
「現防実衛の9人に数えられて、したう人も多い。」
「他の現防実衛と比べたら大したことないさ。」
「そんなことないですよ。」
「ありがとな。それにな。」
「俺は厳しさが必要だと分かってながら、優しさも心掛けてるんだ。」
「優しさ?」
「あぁ。厳しさをかすのが大事だろう。それに反してることをしてる。」
「どうしてですか?」
「他の現防実衛の真似をしても、ついてこなかったからだ。」
「彼らには俺にない、カリスマ性があったんだろう。」
「悪いな。この話は忘れてくれ。」
ラーミーさんは、優しさを否定していた。
自らに厳しさを課していく学問的態度、それに反してるからこそ正しいのだ。
すると、声が聞こえてくる。
「優しさは人を救う。」
<h3>僕の目指す世界</h3>
「では、何故、リアルの弟は文章を残した。彼に優しさはあったというのか?」
「分からない。厳しさもあったし、優しさもあった。
僕はそう思うよ。」
「曖昧であれば許されると思ってるのか?」
「苦しみまで背負う必要はないんじゃないかな?」
「なんだと。」
「リアルさんの居た世界。いいものがあって、悪いものもあったと思うんだ。」
「みんな頑張ってるのって、その中の悪いもののためなのかな?」
「学問は素晴らしいものだ。」
「そうだよね。学問はいいものだよ。」
「学問の中にも優しさがあった。それがリレーのバトンのように渡されて、今まで来たんだと思う。」
「それは現実ではない、物語に過ぎないだろう。」
「そうだね。」
ディフはまた過去のことが浮かぶ。
今度は、ねのと、学生時代に話した時のことだった。
「ねのさん。」
「ディフくんどうしたの?」
「君は変わってるよね。」
「よく言われるよ。」
「みんなそれぞれに決まった見方をしているのに、君はどこか、それとは何かが違う。」
「そうですか?」
彼女はふふふっと笑った。
「何か変なことを言ったかな?」
「いいえ、何も。」
「じゃあ、どうして?」
「でも‥もし、私が変わってると思うなら‥。」
「きっとそれは‥」
エビは言う。
「優しさは受け継がれていく。優しさに守れた考え‥思いは強くなっていくんだ!」
ディフは笑う。
「はははっ。そうか。」
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない。」
「ただ聞かせてほしいんだ。」
「なんでしょう?」
「シソウ派の男、これからどうしたい?」
「リアル派の人達と分かり合いたいです。」
「お互いに過ごせる世界を‥僕は作りたい。」
「いいだろう。」
「え?」
「俺はもう、シソウ派をどうこうしようとは思ってない。」
「成し遂げたいなら、勝手にすればいいさ。」
「ありがとう。」
「また会おう。」
「うん、会おう。」
そして、ディフくんは去っていった。
僕はきっと、最初の一歩を踏み出せたんだ。
これから少しずつ何かを変えていく。そう心に決めた。
<h3>情報</h3>
ディフくんと話した後、僕はねのさんの家に向かった。
感謝を言いたかった。
しかし‥
家には誰も居ないようだった。
ドアのところに一つ手紙がおいてある。
“エビさん、少し出かけます。家は自由に使ってもらって大丈夫です。
またいつか会いましょう。”
そうか‥居ないのか‥。
僕は彼女の言葉にあまえて、家を少しだけ借りることにした。
そして、シソウのメモ帳のことを考える。
昔、見てたときとは、世界が変わった気がする。
同じメモ帳なのにどうしてだろう。
ただ、その答えは出なかった。
それから、窓を眺めてつぶやいた。
「とりあえず、次はあの場所に行ってみようかな‥。」
次の日。
僕が彼女の家から旅立とうとした時。
一人の男が声をかけてきた。
「やっぱりここに居たか。」
「あなたは‥。ディフさん。
どうしてここに?」
「あってほしい人がいるんだ。」
「誰ですか?」
「話の途中で言う。」
「分かりました。」
「とりあえず、向かいながら話そうか。」
僕とディフくんは歩き出した。
「シソウ派、リアル派わかれてるのはしってるだろう。」
「もちろん。」
「リアル派内でも、考えが別れてるんだ。」
「そうなんですか?」
「あぁ。好戦的か、ただ興味がないかだけだが。」
「興味がないとは?」
「勉強が好きなんだよ。シソウ派がどうとかに興味はない。」
「全員が全員シソウ派を追い出し、リアル派を‥とは考えていない。」
「そうなんですか。好きなことに真剣に取り組めること。
いいですよね。」
「あぁ。」
「現防実衛の一人、ラーミーもそうだった。」
「ラーミーさんって確か‥」
「そもそも、リアル派が特に動き出したのはつい最近のこと。昔からじゃない。」
「そうだったんですか?ずっとバチバチしてたのかと。」
「よくは知らないが、昔は膠着状態だったらしい。何度もシソウ派の話は出てたようだがな。」
「結局、長続きはしなかった。」
「どうしてですか?」
「さぁ。一つ言えるのは、今はリアル派のトップが現状を変えようと強く表明してるってことだ。」
リアル派のトップ‥。いつか、向き合う日が来るかもしれない。
ディフくんは止まった。
「ついたぞ。」
<h3>穏健派</h3>
「君がエビくんかな?」
「はい。」
「僕はラーミー。ディフから話を聞いたよ。」
「リアル派と、シソウ派の関係。変えたいんだってね。」
「そうです。」
「いいと思う。しかし、難しいだろうな。」
「どうしてですか?」
「リアル派の内部では、リアルの思想を深く信仰している人がいる。」
「その中には勿論、子孫も居るんだ。」
子孫‥?
「勿論、誰とは言わないが、彼もシソウ派を否定してるんだ。」
「そうなんですか。」
「でも、無理とは言わないよ。実際に起こってないからね。」
「ところで、君を呼んだのには訳があって。」
「何でしょう?」
「君の考えを聞かせて欲しいんだ。リアル派についてどう思う?」
「分かりません‥。ただ、色々なことを知ってて尊敬してるところもあります。」
「もし、わかり合うことができたら‥お互いに進んでいけると思うんです。」
「そうか、それがディフの言ってた優しさというやつかな。」
「君の話が聞けて良かったよ。」
「あの。僕からも聞いて大丈夫ですか?」
「あぁ。勿論。」
「シソウ派についてどう思いますか?」
「俺はどちらかというと、ハト派だからそんなに興味はないよ。」
「今、学問ができればそれでいい。好きだからこそ、それだけでも満足できる。」
「そう思ってるんだよ。」
「そうなんですか。いいですね。色々な考えがあって。」
「そうかな。否定されると思ってたが、意外だった。」
「色々な考えがあるってことは創作世界では、とてもいいことなんですよ。」
「創作の中では全てに意味がある。って、シソウさんが言ってたらしいですよ。」
「そうか‥。」
‥‥
「今日は話せて良かったよ。」
「こちらこそ!」
「何も手助けをするつもりはないが、より良い道を願ってる。」
「はい。その未来は‥僕の目標です。」
エビが去った後、ディフとラーミーは話していた。
「ディフ、君はなんで俺のそばに居ようと思ってるんだ?」
「確かに意見は違うところはあります。」
ディフの頭に穏健派と、強硬派の絵が浮かんだ。
「しかし、尊敬してるところがある。それは事実ですから。」
「そうか、ありがとな。」
<h3>目的地の途中で</h3>
暇な時間、歩いてるとき。
その2つは僕にとって大事な時間だ。
過去の楽しい時を思い出したり、新しいことを浮かべたり‥。
自然と気持ちも楽しくなる。
今日も考える。
まずはどこへいこうか‥。
頭の中で、大体は決まっていた。
シソウが高校生のときに留学してたところ‥
シソウは子供の時から、この島の物語を見るのが好きだった。
いつか行ってみたい。
そう思っていた。
しかし、最初は思ってたのと違う。そんな印象だったらしい。
だが、過ごしていくうちに、その国の良さを知り、いい人に出会えて満喫したそうだ。
そこで出会った一部の人達は、生涯、何度か会って、シソウの考えの手助けをしたり背中を押したらしい。
もう居ないのは分かっているが‥
目指すところとしては相応しいかもしれない。
道を歩いてるうちに、右、左は森で一杯になっていた。
そもそも、僕はどこに向かっているのだろう?
地図は持ってない。
そこに行きたいと思ってるだけで、その場所が全然分かってない。
まぁ、いいか。
僕は心の中で納得した。
「ゆつちゃん!」
森の中から、女の子の声が聞こえた。
僕は声の方に向かう。
女の子がその場に座って、人形を持ち上げてる。
「何をしてるの?」
僕は思い切って聞いた。
「お兄ちゃん、私はお人形さんと遊んでるの!」
「こんなところで?
親御さんはどうしたの?」
「友達と森の中で住んでるの!」
「え、それって‥。」
「うん!じゃあね、お兄ちゃん。また会おう!」
そう言って、女の子は森の中に消えていった。
あの子は一人で大丈夫だったんだろうか‥?
しかし、何だったんだろう‥。
あの子を見て、心の中に、何か変わった感情があった。
僕はもとの道に戻り、続けて進んでいった。
そういえば、みんなはどうしているだろう?
特にセーデくんのことは気になる。
大学の時、創作学の授業で、彼はとても周りの人と交流を取っていた。
僕はシソウのメモ帳を持っていたため、創作学が好きだった。
そのためか、セーデくんは僕によくしてくれる。話すことも多かったし。
創作者として生きていたあの時もそうだった‥。
<h3>セーデくんとの過去</h3>
セーデくんは僕に言った。
「この仕事につけてよかった。そして、君や色々な人と出会えて良かったよ。」
「うん、僕もそう思うよ!」
ただ、創作者になったのは、彼がきっかけではなかった。
シソウの過去についてとても興味を持っていたワズィくん。
彼が良ければと言ってくれた。
このことには感謝してるし、色々なことを考えるきっかけをもらった。
そういえば、はじめてあった時‥どうだったかな‥。
僕は座って、創作学について考えるのに夢中になっていた。
「やぁ、こんにちは。君も創作学に興味があるの?」
「こんにちは。はい、興味あります。」
「おぉー。僕もなんですよ。」
そこから会話に花が咲いた。
段々、気が許せるようになって、僕はメモ帳のことを話す。
子供の時、こんなものをひろったと。
ただ、彼はそのことについて何も言わず、考えてるようだった。
友達を紹介してくれることも多かった。
ピローくん、ユヴェくん、エーテさん様々な人。
彼には感謝してることが沢山あった。
しかし‥。
創作者になってから、セーデくんの様子がいつもと変わった。
彼はよく遠出し、殆どみんなが集まる職場に現れなかった。
「どこへ行くの?」
そうたずねたこともある。
「あぁ‥ちょっと‥。」
理由を聞くのが気まずかった。
それから、段々、悪い情報が飛び込んでくるように‥。
リアル派が創作者狩りをしていると‥。
リアルとシソウの歴史的な出来事から、何十年、数百年の時間が経った。
しかし、相変わらずの関係性も残っている。
もしかしたら、この状況は必然だったのかもしれない。
ただ、何かを変えたい‥。
シソウが目指した未来。それを実現したい。
僕がそれを望むから‥。
ただ、セーデくんのことは相変わらず気掛かりだった。
なぜ、戻って来なくなったのか‥。今は無事なのか‥。
分からないことだらけだ。
しかし、その逆に、分かってることはある。
一緒に過ごした日々は事実だったこと。
彼は僕の中では、創作学について分かり合えるいい友達だった。
<h3>偶然の再会</h3>
僕は考えながら歩いてるうちに海についた。
「あれ‥ここは‥?」
よく見てみると、船でおりたったところだった。
丁度、船も到着してる。
しかし‥。
また戻ってきてしまったらしい。
知ってるところばかり行ってて気付いてなかった‥
もしかしたら、僕は、方向音痴なのかもしれない‥。
頭を抱えて悩んでいると、一人女性が声をかける。
「あ、エビじゃない!」
その声に聞き覚えがあって、顔をあげると‥
「ベーアさん!どうしてここに?」
「久しぶり!えっと、それのことなんだけど‥」
彼女のお願いから歩きながら話すことにした。
「みんなでわかれたあと、実は母校の大学に行ってたんだよね‥。」
「大学に?どうして?」
「創作学の教授のラザイ先生とかと話してたんだけど‥。」
途中で、教授は話があるって偉い人に呼び出される。
私は気になって、後をつけて、バレないよう話を聞いてた。
「現状のこと、話は聞いてるかな。」
「はい‥。創作学を学んだ生徒達が、リアル派に‥」
「あぁ。しかし、チェーシャくんの話を聞いてるとそうとは限らないようなんだよ。」
「え?どういうことですか。」
「リアル派は話しあうことで、創作学の生徒達を引き入れた。」
「自分で望んでリアル派に入ったのなら、問題視することもないのでは。」
「本当にそうなんですか?」
「そうですよ。実際に会った生徒に直接聞きました。」
私は思った。この声は‥歴史の講義をしてたチェーシャ先生。
「私も聞いたよ。一人の生徒だが、学問の方が大事だと自分の気持ちで言っていた。」
「リアル派を信じるなら、私がしてきた今までのことは‥」
「受け入れられないのは分かってる。昔からのよしみだ、悪くならないよう取り計らうさ。」
「ありがとうございます。しかし、ルヌ理事長はいいんですか?」
「あぁ、いいんだよ。私は確かにご先祖様はシソウ派側の人間だった。」
「だが、もっと昔はどうだったろう。リアル派に属していたんだよ。」
「私もラザイくんもそうだろう?」
「えぇ、そうです‥。」
<h3>創作の立ち位置</h3>
「ただ、これからも続けて欲しい。急に辞めることはしなくていい。」
「はい、分かりました。」
先生は落ち込み気味に、私の前を通り過ぎる。
私には全く気付いてなかった。
その直後、チェーシャ先生が来る。
「あら、あなたはOGの‥」
「チェーシャ先生、創作学って‥悪いものなんですか?」
「残念ながら、それはわかりません。」
「ただはっきりしてるのは、リアル派の方々が悲しい思いをしてるという事実です。」
「そうなんですか‥」
「はい。あなたもどちらに属するか、はっきりさせておくといいかもしれません。」
そう言って、チェーシャ先生は歩いていった。
────────
「そうだったんだ‥。」
「うん。」
「学校にも影響が‥。」
「創作って、本当にいいことなの?」
「僕もそれは分からない‥。」
「いいこともあって、悪いこともある。それが創作学だから。」
「そう‥。でも、なんか安心したな。」
「え?」
「エビは相変わらずって思って。」
ベーアさんは微笑む。
「それで、ここに来たことなんだけどね。」
「エビの考え方を聞きたかったこともあるし、手助けになれたらなって!」
「そうだったんだ、ありがとう。」
「教授、とても悲しそうだったし、今までのこと全部嘘って言っちゃうのはなんだか悲しいでしょ!」
「聞いてないのに言っちゃった!ごめんね。」
「ううん、いいんだ。」
いい友達を持った‥。僕は心の中で強くそう思った。
創作はどれだけ立場が悪くても、どれだけ悲しい時でも、その人を見捨てることはない。
追い詰めることもするし、逆にその人を励ましてくれたりもする。
いつだって、その人の味方なんだ。
「というか、エビ‥。」
「どうしたの、ベーアさん」
「私達、どこへ向かってるの?」
僕は周りを見てみた。
すると、森で一杯‥
そうだった‥。
「もしかして、迷った?」
「はい‥。」
ベーアさんは「仕方ないよ」と。
たまに優しくしてくれる。
そんなとき思う。
この人と友達で良かったと。
<h3>拠点</h3>
そしてそのまま歩いていくと、家に到着した。
「ここは‥?」
僕はその家に入っていった。
「え?エビ、大丈夫なの?」
「ここは知ってる人の家なんだ。」
ベーアさんも僕のあとに入ってくる。
「ここに住んでた人が出かけるから、この家使っていいって。」
「そうなんだ。優しい人だね。」
ベーアさんはあたりをみまわした。
そして、一点で止まる。
「あ、本置いてあるよ!」
「本棚あったんだ‥。気付かなかった。」
「せっかくだから読む?」
「僕はいいかな。」
「そういえば、エビ、何故か小説とか文読むの苦手って言ってたよね。」
「メモ帳は読んでるのに。」
「得意、不得意があるってことだと思うよ。小説は本当に読みたい時しか読まない。」
「昔、そんなこと言ってたよね。」
ベーアさんはそう言いながら、本を探していた。
「あ、これ!」
ベーアさんの手には絵本が。
「こういうのはどうなの?」
「確かに。絵本はいいかもしれない。
シソウも好きだったって。」
「本当にシソウのこと好きね!嫌いなとことかないんじゃない?」
「あるよ!ずっと読んできた訳だから、理解できないところもいくらかね。」
「そうだったんだ、意外。」
「だからこそ、そのときは自分の気持ちも同時に大事にしたいって思ってるんだ。」
「なるほどね。」
それから明日になったら、また出かけようとなる。
今日はそれぞれ本を読んで過ごすことにした。
絵本を手にしたが、一旦、他の本が読みたいと色々探していた。
すると、一つ日記帳が出てくる。
何故か、それが無性に読みたくなってきた。
僕はパラパラとめくっていく。
途中までいくと、じっくり読み始めた。
知ってる名前が出てくる。
「ディフさんのことだ‥。」
「何かあったの?」
「ううん。なんでもない。」
僕はそのまま続けて見ていった。
学生のときの二人の関係性、案外、深い話はない。
日常のささいなこと。
段々、人の名前も増えてきた。
少し年上だと書かれてるヘイヴァさん、それから、知尽(ちつ)さん、貴公(きく)さん。
僕が夢中になって読んでると、ベーアさんが後ろから「それって日記じゃない?」と。
一旦読むのを辞める。「うん、そうだよ。」
「日記って人に読まれると恥ずかしいから‥。」
「確かに‥。」
僕はその日記を本棚に閉まった。