その一言が聞きたくて③

Phantom forest castle

「お前は…が欲しいか…?」

「はい!」

それが始まりだった。この私とあの方の──

あの方はとても強かった。旅人が何人束になっても勝てない程に。

そして、数々の奇跡を起こした。

私は憧れる。

あの方は色々なものをくれた。力を、希望を。

あの方にずっとついていきたいと思った。

それから私は彼の足跡を辿った────


「ここか。」

僕は山の麓についた。

その山は森に覆われ、山体を見せない。

ここがアベリの言っていた場所だ。

そこには、妙に人の気配、魔物のそれが多く入り交じった。

キャッスルと言っていたが、それらしいものは見えない。

どういうことだろうか?

疑問に思いながらも山の中へと入っていった。

少し進んでいくと、辺りが暗くなる。

木が多いからか?

そう思いながら、進んでいくと異変に気がつく。

周りに木が1本も無かった。

どこか建物の中のような、そんな壁に包まれる。

何が起きたんだ?

僕は辺りを見渡した。

しかし、進んできた道を見ても道が続いている。

ここをきた覚えはない。

いつの間にか疲れて寝てしまったのだろうか?

そんなことを考えていると、後ろから人の声が聞こえた。

「やぁ。君もTOBAEから来たのかい?」

魔物かと身構えるが、人間だった。

「うん。」

そう答えると、疑問が湧いてきた。

「どうやってここに来たんだい?」

僕はアベリから聞いてきた。他の旅人達もアベリのようなものがついてるのだろうか?

すると、その仮説は否定された。

「TOBAEで撃退した1部のメンバーで、情報交換してたんだ。

それで見つけたって人が居て別々にここへ集合って訳さ。」

「そうなんだな。そのメンバー全員で倒すのか?」

「いいや。ここからは早い者勝ちだってさ。」

「そうか。」

僕は頷くとそのまま進んだ。

すると、旅人は呼び止めた。

「せっかくあったんだし、2人で戦わないかい?」

「分かった」

─────

「ジャヴ様、侵入者が…」

部下の伝達に怯まず、毅然とした態度で言った。

「そうか。計画通りだ。」

そして、ジャヴは高らかに笑った。

───

進んでいくうちに多くの魔物と相対した。

全部TOBAEの時に居た魔物で、2人で協力し倒していく。

彼は中々強く、魔物達を追う側にいっただけあった。

彼も魔王を倒そうと考えているらしい。

そこで疑問が湧いた、それにしても、魔王とはどんなやつなんだろうか?

彼の話によると、まだ誰も見たことがないらしく巨大でとても強く、冷徹で仲間だろうと関係なく滅ぼす、正しく闇の帝王だと。

そして、進んでいくうちに大きいドアが前にあった。

この奥には何があるのだろうか?

身構えながら、ドアをそろりと開けた。

すると、多くの魔物達が待ち構えていた。

これは不味い。

そう思うも周りを囲まれた。

僕は剣を目の前に突き出し、出方をうかがう。

相手も慎重だ。

だが、一体の魔物の怒号と共に沈黙は破られた

─────

壁に囲まれた城の中、ジャヴは部下と共に待っていた。

「私には勝てない。」

そう言うと魔物は大きく上を向く。

「大空を統べるもの、それこそが私だからだ。」

そして、腰にあった刀を大きく天井にかざす。

すると壁だった天井が開け、群青色の空が広がった。

「この世界は私のものだ」

そう言うとジャヴは高らかに笑った。

──────

どれくらい魔物を倒しただろうか?

僕は戸惑っていた。あの時TOBAEに居た魔物の数は優に越しているはずが、一向に減る気配はない。そればかりか、どんどんと増え続ける。

一体一体の強さはそれ程ではないが、こうも多いと疲れがでてきた。

このままでは不味いと、逃げる算段を考える。

もう1人とコソリと相談すると、一気にその場を駆け抜けた。

そして、近くにあった部屋へ。
運良く逃げきれたようで、魔物達の足音が遠ざかっていった。

ホッと胸を撫で下ろし、辺りを見渡すと何もない部屋だった。

やけに肌寒く、少し薄暗かった。そして上をみると、天井がなく暗い夜に大きく輝く月がみえた。

それがとてもとてもつめたく僕らを照らした。

ここで何があったんだろうか?

少し身震いしながらも、そこで2人は休憩をとった───

「ジャヴ、ようやく追い詰めたぞ。」

旅人達は取り囲んだ。

そして、剣をジャヴにむける。

しかし、ジャヴはこの状況をみてもピクリともせず、余裕の笑みさえ浮かべた。

それを見た旅人達は1歩後ろへと下がる。

「おかしくなったか?」

その一言に首を振る。

「お前達はここに来た事で、破滅が決まった。」

ジャヴが一言は話すと、囲んでいた旅人達はバタバタと倒れていった。

そして、ジャヴだけがその場に立っていた。

ハハハハハッ。

笑うと、段々とジャヴの体が別れていき、中から9体の魔物が現れた。

「この刀を私に授けてくれたこと感謝しかない。

誘王様、私はあなたのためならなんだって…」

そして、少し間をあけると続けた

「TOBAEでの失敗は数が悪かった。弱い魔物達を連れるより、私だけで行けば良かったのだ。

そうすれば、私を1人失うことは無かった。

次は少しずつ、壊していきます。

全ては誘王様のため、あなたに近付くために…」

その直後、周り8体の魔物達が悲鳴をあげた。

それに残った一体が狼狽える。

最後にただ1つだけ声を聞いた

「夜に気をつけろ…」

───

何も無い平地で、夜空の下男が1人、月を見上げた。

「正義は悪で悪は正義。」

男は続けた。

「誘王。

傷付け、傷付けあった果て。それこそがこの称号。

全ては連鎖する。
それが幸せだろうと、悲しみだろうと。

私は待つ。」

そして男は消えた

devil

旅人と休憩を辞め、ジャヴを探しに向かうと、前からナイトがやってくる。

そして、すれ違いざまに彼はボソリと呟いた。

「惑わす剣よ、どこへ消えた?」

─────

どこを探してもジャヴの姿は無かった。

旅人達がボロボロで倒れているところがあり、1人起こすも、ジャヴが居たが、何が起きたのか分からないと。

まだ中にいるのか?

僕は引き締め向かおうとした途中、魔物が剣を携えやってきた。

「旅人よ、ジャヴはナイトと言う男により倒された。」

少し驚きつつも返す。

「どうしてそれを敵である僕に?」


「なんでだろうな。」

魔物は少し悲しい顔をしながら、その場を離れていった。

それを引き止めることはなかった。

魔物が小さく空に消えると、あったはずの城が段々と薄く消えていった。

なんだ なんだっ?

近くに倒れていた旅人達は起き上がり、異変に慌てふためく。

そして、辺り一面が森へと変貌する。

きっと、全て幻だったのだろう。

その後、僕らはTOBAEに帰った────


その後、多くの旅人達は怪我をしていたが、死者は1人も居ず、無事に帰ってこられた。

帰って余り経たず、皆、魔王を倒そうと話し合っていた。


誘王でないジャヴにボロボロにされたんだ。

今の状態では、絶対に厳しいに決まってる。

そう思いながらも、話し合いを遠くから見ていた

─────

一方ナイトは人気のないところで、考え事をしていた。

───

「誘王様…。世界はあなたのものです。」

ナイトは生き残っていた一体のジャヴを後目にその場から去ろうとする。

「壊れたこの世界を素晴らしいものへと再構築してください…。

我々の屈辱をはらしてください。」

ナイトは一瞥もすることなくそのまま歩いた。

「この世界の全ての人間を救ってくだされ…」

ナイトは立ち止まった。そして踵をかえす。

「人間とはどういうことだ!」

ジャヴを無理やり起こすが、遅く、息を引き取っていた。

────

「前から考えていたが、お前はあの人なのか…?」

ナイトはボソリと呟くとその場を離れた─────


旅人の話では、また別れて、今度は誘王を探そうと結託してるらしい。

前までは名前だけが飛び回って、実在かどうかは不確かで探すものはいなかったが、今回の事で、倒すと言うものが集まった。

どこにいるかも分からないが、もし、誘王を倒せば自分の強さが分かり、多くの人達に名前が知れ渡る事になる。

更に賞賛される事になるだろう。

旅人達は別れて出発した───


さて、どうするか?

このままここに居ても仕方ない。

旅人達と同じく魔王を探す旅にでるか…?

しかし、自分の実力はたかが知れてる。多分、ジャヴには勝てなかった。

更に強いであろう誘王に勝てるだろうか?

無理だ。

このままでは。

そう思うと何かを決意し、僕は出発した────

「フォードさん、どうしてあんたは…」

ナイトは俯きながら、少しブルーになっていた。

それは彼が始めた頃だった。この世界に慣れず心がボロボロになっていた時、男がにっこりと微笑みながら手を差し出した。

「俺の名はフォード。君はなんて言うんだ?」

「お…俺はナイト!」

──────

ここまで強くなれたのは、全てあの人のお陰だ…。

そして、少しずつ顔を上げる。

「あの人は俺を救ってくれた。もし、誘王があの人なら、魔物にでもなろう。」

真上にあった太陽を手で覆い隠す。

「きっと、フォードさんが居なくなったのには、理由がある。」

そして握った。

「フォードさんが居なくなった理由、そして、この世界の真実を全て…。」

ナイトはそう呟くと太陽の当たらない方角へと歩いていった────


魔物達と沢山戦って鍛える。

それが強くなる1つの方法。

進めば進む程、魔物が沢山あらわれ、その都度強くなっていった。

だが、臆すことなく、前へと進んだ。

順調かと思われたが、中には血を出すものも居た。

最初の方は刀をふれば消えてなくなるものが多かったが、今はまるで動物や、人間のように───

怪我はしても、すぐに癒えた。しかし、違うものが段々とズキン ズキンと痛みを見せる。

暗闇が当たりを包み込んだ。

そして、前には誘王が居た。

「お前が誘王だったか。」

「あぁ、そうだ。」


最早、今は、どちらが悪かは分からない。しかし、1つ分かったことがある。

僕は人間なんだと…


苦しみ、そして孤独は自分がうみだしたもの。

今はきっとそれでいい。

未来にきっとその答えが見つかる。

それを信じて僕は進む。

今進む道が正しいか誤ってるかどうか、分からないこの先を。

僕は今日も答えのない問題の答えを求め続ける────