その一言が聞きたくて②

Truth and fake

「違ったか、しかし、戦力が大幅にダウンしてしまった。」

「はい、この深手は…。計画の引き伸ばしが必要かと存じます。」

「これ以上は待てない。玉砕覚悟で私も出よう。」

「魔物より力の劣るあなたには無理です。それに、もし居なくなれば、我らは烏合の衆と成り果てます!」

「そうか…」

───

目を覚ますと、話し声が聞こえてきた。

男の声と、もう1つは人間ではない何かの声。

魔物かもしれない。

僕はそっと場を立って、声の方へ近付いた。

すると、予感が的中。

だが、様子がおかしかった。

魔物が近くにいるにも関わらず、人間の方は怯える素振りすら見せないのだ。

そればかりか、普通に会話している。

もしや、魔物の親玉は人間に化けてるのではないか?

近くに剣が無いことに気付き、すぐに周りを確認した。

だが、どこにも見当たらない。

しかし、何のために僕を生かしておいてるんだ?

少し考えていると突然後ろから

「起きたんだね。良かった、村長の手先だったらどうしようかと思ってたよ。

そうだそうだ、僕の名前はジェント。」

その声にすぐさま疑問符が浮かんだ。

「手先?」

「あぁ、言ってなかった。実はね──」

話が終わると僕は考えた。

信じられない…だが、本当なのか?

訝しそうな僕を見て、彼は言った。

「君が一緒に居てくれたら心強い。お願い出来ないか。」

少し躊躇ったが、彼が人間なのも事実。

彼の作戦を承諾した。

───

魔物、それは人々に災いをもたらすもの。

そのはずだったが、中には、人間に化けるものも居た。

それが村長だった。

彼はここを拠点とし、TOBAEなど周辺の町を滅ぼして回っている。

村長の通った町は、まるで何も無かったかのように、大地が広がっていたと。

それにいち早く気付いたジェントは、家の地下で魔物創りをはじめた。

魔物には、魔物で対抗。そう考えたんだ。

最初は全く指針が立たなかったが、あるものを調べると偶然、何か発見があった。

これは…もしかしたら…?

この発見が、組織化された魔物集団を作り出したのだ。

しかし、村長はとてつもなく強い。

分析した結果、200以上の魔物と同等だと出た。

ジェントは、多くの魔物を作り出したが、村長にその事がバレて家を燃やされ、僕が魔物を倒したことで、今は半数近くを失い、目標となる数からも離れてしまっている。

そこで、僕の出番だ。半数を倒せる力があると見込まれ、討伐の手伝いをと。

─────

「今のところ、確認できている魔物は村長ただ1人。

君には町から遠く離れた平地に連れ出してもらって、そこで───」

────

「旅人さん、こんな場所に呼び出して、一体何の用があるんじゃ。」

一勢攻撃だ────

何もないところから多くの魔物達があらわれ、村長を取り囲んだ。

そう、ジェントが研究したのは、無から有の創造。

まわりの風景と一体化する、カメレオンと同じ能力。

この戦いには絶対勝てる。勢いに期待値が高まった───

「おやおや、何かジェント君に吹き込まれたようだね。

何もしなければ、そのままにしておいたものを…」

そう言うと、村長の体が変色した。衣服の中から、老体には見合わぬ筋力に満ち満ち、そこから、強さ、そして凶悪なオーラを発す。

こいつには勝てない。それが一瞬の迷いを与えた。

そして、手に突如としてあらわれた剣を振りかざす。

闇魔の炎!!

すると村長の近くの地面から炎が吹き出し、辺り一面を燃やし尽くす。

悲惨な光景だった。あれだけ多く居た魔物達が、たった1度の攻撃で消し炭になったのだ。

どうすれば?

攻撃範囲外に居たため、傷一つないが、今、まともにやり合っても絶対に勝てない。

逃げようにも、足が言うことを聞かない。

「次は旅人さん、あなたの番だ。」

そう言い一歩また一歩と近付いてくる。

このままやられるまで、立ち尽くす事しか出来ないのか…?

そう思った瞬間、声がこだました。

この声は…ジェントさんだ。

「人間に化けた魔物!お前の弱点は、剣がないと何も出来ないことだ!

悔しければ、剣無しで私を倒してみろ!」

そのまま、声はどんどんと遠ざかっていく。

村長は、進行方向を変える。そして物凄いスピードで、声の方へと向かった。

まずい…ジェントさんが…

そう思うも足がピクリとも動いてくれない。

悔しさに膝をついた。

───

その最中、魔物は絶え間なくジェントの方へと近付いていた。

「ふふふ、逃げ切れると思うな。ようやくこの私、吸魔王ベレルギウス念願のインフィニットパワーが手に入る時が来たのだ。」

魔物は高笑いした。

しかし、途中、辺りを見渡しだす。

「やつの気配が消えた…!?」

戸惑いが隠せなかった。それもそのはず、ベレルギウスには自信があった。

猛獣の殺気や、怯える小動物の気配を察知する能力には。

しかし、それが途端に消えた。

「さっきもそうだった。魔物達の気配が全く感知できない。どういうことだ…?」

すると、何処からか声が響いた。

「村長、自惚れが過ぎたようだな。私を追いかけた時点でお前の負けは決した。」

「どういうことだ?」


「…それはいずれ分かる。」

そう言うと、声は止んだ。

────

Plan to be destroyed

森が風を受け、ザアザアとないている。

静かだ。

ベレルギウスは慎重になっていた。

ジェントの一言、それが、これからどんな事を引き起こさせるのか身構えさせた。

だが、時間が過ぎるばかりで何も起こらない。

そうベレルギウスが歩いた瞬間だった。

体に異変を感じた。

めまいが視界を歪め、膝を地につかせる。

長い時間立ち過ぎたのか…?

いや、これがジェントの言っていた…?

すると声が聞こえてきた。さっきとは違う、何処にいるかはっきりと分かる。

しかも、すぐ近くで今にも消えそうなかすれた声で。

「ここ一体には、毒がばら撒かれている。近く一帯に強烈な。

しかし大丈夫だ。

お前1人だけが死ぬ訳じゃない。私も一緒だ…」

そう言うと、ジェントは息途絶えた。


ベレルギウスは唸った。体が悲鳴をあげはじめたのだ。

絶体絶命かと思われた時、近くにあった剣が光を放った。

そうだ、これで全てを…

───

あの後、森で大火事がおき1面焼き野原となっていた。

ジェントさんは、そして魔物はどうなったんだろうか?

もう知ることはできない。悲しみに打ちひしがれながら、僕はTOBAEに居た。

もうあれから1ヶ月の月日が経つ。

あの時もっと強ければ…。

目に涙が。

村はジェントさんのお陰で救われたよ…。

────

ところで、次どうするか。その指針が全く無かった。

誘王を倒すと言っても、多分、あの魔物より強いだろう。

今のままでは絶対に勝てない。それは明白だった。

僕はTOBAEで、特に何をするでもなくフラフラ歩いた。

すると、他のぼうけんしゃがこそこそと話す声が聞こえた。

「知ってるか?

また近くの町が魔物に襲われたってよ」

「聞いたよ。

無くなったと思ったらまた…。」

「あぁ、しかもTOBAE近郊の町がな。

いずれここも…。」

「でも、まぁ、大丈夫だろ。ここには強いやつ多いし──」

─────

僕はそのまま町を飛び出した。

まだ村長は生きているんだ。もしかしたら、ジェントさんも…?

そう思ったら、いても立ってもいられなくなった。

助けてもらったお礼を言わなければ───


「そろそろだ。

長きに渡る復讐を、全てを完遂させる。

待っていろ。TOBAEよ、そして…」

───

悪い空気が漂う、自らが進む先にそれを見た。

やつがいる。近づくたびにその確信が強まった。

「アベリこの先。」

「うん、そうだね…」

───

「来たか」

魔物はそう言った。
今にも朽ちそうな体を持ち上げ、何の力も感じない刀を前へ突き出す。

「おい、化け物!

お前を討伐しに来たぞ。

俺こそがTOBAE O.1冒険者のルザー様だ~。」

違ったか…

魔物はコソリと話すと、剣をしまった。

「ルザー様を前にして、剣をしまうとはいい度胸だ。

俺の華麗なる剣技で、抜かせてやろう!」

しかし、魔物は歯牙にもかけない。

ルザーが剣を振るおうとしたその時だった。

剣が先燃え始める。それがどんどん侵食し、全体にまわった。

ぎゃああああ


NO.1がこの程度のはずか…

魔物はそう吐き捨てると、その場で遠くの方を見た。


「ようやく見つけた!」

声が響く。

またか…何度雑魚が来ようとも無駄なことだ。

変わらず、遠くを見ていると、新たな旅人はどんどんと近づいてきた。

その殺気に魔物はやられた。

いつの間にか、しまっていた剣を片手に旅人の攻撃を防いだ。

「ジェントさんの居場所はどこだ!!」

その勢いに魔物は後ずさりした。

強い…

魔物は距離をとった。

「私の名はベレルギウスだ。

お前名はなんと言う?」

「俺はただの旅人だ。名前はない。」

ベレルギウスは高笑いした

「なんだそれは。だが、覚えておこう。

あと、ジェントの事だが、やつは死んだ。私を道連れにしようとしたが、失敗して無駄死にだ。」

僕は怒りが隠せなくなった。

すると、アベリがそれをいなした。

「相手の挑発だ。ベレルギウスは嘘を言ってるのかもしれないだろう。」

僕はゆっくり深呼吸すると、冷静になった。

「どうした?こいよ。

負けるのが怖いか?」

挑発をいれるが、なんの反応もないのを見て、遂にベレルギウスは攻撃に出た。

剣の形が変形し弓に。

ファイアーバウ。

火の矢が一帯に降り注いだ。

しかし、僕には余裕があった。

僕は一直線にベレルギウスの方へ。

そう、やつの弱点、それは…

「血迷ったか。玉砕覚悟で突っ込んでくるとは…」

──火に弱い事だ──

キンッ

剣がぶつかり合う。

「逃げれば良かったものを、わざわざ死にに来るとは。変わったやつだ。」

僕には確信があった。

ここが1番の安全地帯だと───

矢が降り注ぐ。

しかし、的外れなところばかりに落ち、当たる気配はない。

矢張りそうか…。

火を使うからと言って、自分も耐性がある訳では無い。

相手の最大の武器こそが、最大の弱点なのだ。

その後、弱ってる事もあり、ベレルギウスと激しい鍔迫り合いを繰り広げるが、決着は突然つくこととなった。

自分の放った矢が運悪く自身の体を貫いた。

最後に消えかける声で彼は言う。

「私だけではない…

お前は、ここで死んでおけば良かったと後悔することになるだろう。」

「何がだ?」

しかし、返答は来なかった

─────

ジェントさんはどうなったか?そして…。

謎だけが心の中に残った。

その後、僕はお墓を作り、再び旅に出かけた─────



Dragon

あれから少し経ち、僕はTOBAEから離れたところに居た。

遠方へ出掛けるのははじめてだ。TOBAEから遠くなると心なしか魔物も強くなった。

しかし、倒せない程ではない。僕は一体一体倒し進んで行った。

ところで、この先に何があるのか?

それはドラゴンの出没だった。強力なそれが暴れては消え、暴れては消えを繰り返している。

なんでも体が血のように赤く染まり、口から火をふき全てを燃やし尽くす。

体の色は多くの冒険者を、村人を倒してきた証だと言う。

TOBAEでそれを小耳に挟んで、そこへ向かってみることにして今だ。

それから少し進むと、壁や、森に囲まれ薄暗い場所にポツンとテントがあった。

疲れと興味で僕はそこに立ち寄った。

そこには僕と同じく旅人が1人。
話を聞いてみると、ドラゴン討伐のためここに拠点を作っていると言う。

彼にはドラゴンを倒す算段があり、これが成功すれば必ず勝てると。

そのドラゴンには唯一弱点があり、それが「水」だと。

それを利用して、頭から水を被り戦う。

少々無茶が過ぎる作戦だが、何もないよりはマシだと了解した。

その旅人の名はバルラと言い、竜の話をするとどこか暗く目をぎらつかせる。

その時はまだ触れなかったが、彼のテントにとまっているとポロッともらした。

「あのドラゴンには恨みがあるんだ。」

「恨み?」

「あぁ、俺の仲間を殺された。あいつだけは許せない。」

まだ相対してもいないのに、ピリピリと彼の思いの強さが伝わってきた。

「あいつは俺に託してくれたんだ。そのドラゴンは水に弱いと、これを駆使すれば勝てるんだと。」

彼は確信していた。誰が否定しようとも、その考えを覆さない程に。

少しの疑念を心に潜めながら、僕は何も言わないでいた

───

夜が明けるとドラゴンを討伐に。道中、多くの魔物と相対するが、バルラさんとの協力で難なく進んでいった。

バルラさんの実力は、自分と同じかそれより強いかで、とても頼りになる。

武器もとてもいいものを持っていた。

彼とならドラゴンにも勝てるんじゃないか…?

僕は期待に身を寄せた。

───

ドラゴンが出没するとされる場所に辿り着くと、辺りを見渡す。

しかし、居る気配が一切ない。その後、下に目を向けていると、偶然燃えさかる何かがあった。

それはとてもあつく、全てを燃やし尽くしてしまう程に強く、近寄るのを躊躇わせた。

目を凝らしてみると、中には剣がある。

これはきっと前の旅人のものだ。そして、この炎はドラゴンのもの。

僕は身震いした。自分は愚かなことを考えていたのだと────

その後、バルラさんを呼び、これを見せた。

だが、何も思わなかったようでドラゴン探しを決行しようと言って聞かない。

バルラさんの持っていた水を少し使い剣の上にたらすが、失敗に終わる。

そこでバルラさんと別れた。

TOBAEへ。

バルラさんとの別れ際に怖気付いたかと罵られたが、あれは勝ち目のない戦いだった。

バルラさんは激情に駆られ、目的の本質を忘れてしまっている。

悲しいことだが…多分、もう…

僕はやるせない気持ちを片隅に、散歩に出掛けた。

最近、TOBAEが激アツで、多くの旅人が挑戦し、毎日混雑していた。

強い旅人は、自分の強さを知れ、初めての人はメダルをゲットできる。

つまり、周りが強くなければ強くない程、自分の実力が試されることになる。

弱い旅人は強い人のお零れとしてメダルの入手が出来るという訳だ。

僕は勿論後者で、実力をあげながら、メダルを貰おうと考えていた。

因みに、このTOBAEでは、旅人が亡くなっては特訓の意味がないとのことで、イモータルなどでの協力は、一応の配慮がされている。

プロテクトと言う体をまもる機能があり、気絶までに抑えられる。

以前僕は、それを使わずに戦っていたが、運よく助かったと。

今はその知識がある。

負けてもすぐに何度も挑戦できる。

僕は意気込み、イモータルに向かった。

その道中、気になる名前が僕の耳を。

少し立ち止まりその話に耳を傾けた。

2人の男が話をしている。一方はヴェントと言い、話を聞いていくうちに、バルラさんと知り合いである事が分かった。

しかも、バルラさんに竜の弱点を教えたのは彼だった。

そんなことあるはずがない。何故言ったのか?

僕はそのまま聞いていると、彼の言ったこと、それが胸を突いた。

バルラさんの友達とは、ヴェントさんのことだったのだ。

なのに生きている。それは、バルラさんを消す企てだった。

ボロボロのふりをし、消えそうな声で自分が負けた相手を、そして、ギリギリまで粘って手に入れた情報、弱点を伝え死んだふり。

バルラさんは頭に血が上ると衝動的になってしまう。だから、ヴェントさんを任せると、すぐに敵討ちへ出掛けた。

しかし、それらは全て演技で、ピンピンしている。

これも全てバルラさんを──

しかし、こうなってしまったのは何故か?

それは、嫉妬だったのだ。自分より強いバルラさんを憎んで…

どこか身につまされる思いを持ちながら考えた。

ここで何かすれば、バルラさんに悪い。

少しの葛藤がありながら、そのまま僕はイモータルに向かった─────

Immortal and assault

イモータルは相変わらず多くの人で賑わっていた。

つくと、どのグループに入ろうか迷っていた。

なるべくは強い人のいるグループに入りたい。

そのまま面々をながめた。何やら熟練者が集まったようなところがあり、そこへ同行させて貰おうと、ちょこんと片隅で待っていた。

すると、グループの人達が何かこちらをみて、こそこそ話している。

直後、メンバーはバラバラになって、僕1人だけがそこに残された。

なんだったんだろう?そう思いながら、他のグループへ。

今度は自分と強さが近い人達が集まっていた。

今度は出発できるかな…?

すると、さっきのようなことは起こらず、グループの限界人数に達すると出発した。

しかし、道中の魔物。それは、想像を絶する程強かった。

自分は以前、見てるだけだったが、相当強かったのは覚えている。

僕もあの時より強くなったと思っていた。

だが、まだ足りない。

もっと強くなければ…

2つ目のグループは、数体の魔物達により、一瞬にして全滅した。

───

目を覚ますと、TOBAEの宿屋に居た。

気絶して、運ばれてきたらしい。周りを見渡すと、さっき一緒に居た人達も寝ていた。

しかし、居ない人も。

他の部屋か、宿屋に運びこまれたのだろう。僕は再びイモータルへ。

どうしても勝ちたい。

道中、色々思考に耽った。

同じレベルの人間が何人集まろうとも、イモータルでは勝ち目がない。

だけど、強そうな人が集まるところだと、以前のように終わるのが関の山だろう。

そうだ。僕と熟練者の中間地点らへんにいる旅人ならどうだろうか?

そして、観察した。色んなグループをまわり、強さのレベルを確かめると良さそうなところを絞っていった。

そして、ようやく1つに決め出発に至る。

熟練者のように排他的でなく、寛容で気にしない。

心の中で感謝した。

────

道中、とても拮抗した対戦が繰り広げられる。

流石だ…。実力が僕とは全く違う領域にいる。今度も見ているしかなかった。

前のように自分以外に1人かけているはなく、全員が参加していた。

自分も参加しなければ、その思いにかられ、参戦するも、激しすぎる争いに足をひかせた。

見ているだけしかできないのか───

その後、少し拮抗した戦いを見せながらも、順調に前へと進んでいく。

まだ道中の魔物に過ぎない。ボスはどのくらい強いのだろうか?

固唾を飲んで見守っていると、道中、更に強い魔物が現れた。

名前をパラリシスと言い、旅人を高確率で麻痺させる。

厄介な事に、この麻痺の続く時間がとても長く、何人もの冒険者をここで挫折させてきた。

運悪く、味方の数人が麻痺にかかり動けずにいる。

これが何処で終わりなのか?それすらも分からない。

ただ、一筋縄ではいかない。

それを痛感させられた。

─────

目を覚ますと、また宿屋にいた。

いつの間にか僕もやられてしまったのか…。

だが、懲りずに何度もイモータルに通った。

クリアはもう無理か…?

そう思った時だった。僕は最後に適当なグループに合流した。

すると、そのグループの1人が近くに来て、話しかけた。

「よろしく。君、名前はなんて言うんだ?」

名前…

以前の世界にはあったが…

僕は少しして、ないと答えた。

すると、彼は答える。

「そうか、実は俺もないんだ。だから色んな名前で呼ばれてる。

一応名前がないと不便だから、俺の事はLBと呼んでくれ。」

「じゃあ、僕のことはブレイブって呼んで。」

それを聞き、彼はニコッと笑うと握手した。

「ブレイブ君、よろしくな」

「うん!」

────

LBは強かった。道中の魔物2体と互角、いや少し優勢に運び、ドンドンと次のステージへと進む。

仲間もLBに劣らず強かった。

そして、前にダメだったパラリシスのステージに。まず、味方の1人が何かして青いものが身体を覆った。

そして、前と同じように、戦闘を開始する。

そのまま対戦しては不味いんだ…。僕は心の中で叫びながら、続けて見ていた。

すると、麻痺はなく、魔物達は倒された。

強いだけでなく、運も備えているのか…?

もしかしたら…

僕の期待値が上がった。

そして、イモータルのボスが子分を引き連れ現れる。

なんだか強そうだ。

そう思いながら見ていると、LBが先制攻撃をくらわせた。それが急所に入ったようで、ボスが倒された

勝った!

僕がそう歓喜に湧いた瞬間、子分がボスの元へ駆け寄る。

そして、何かを唱えはじめた。

その直後、ボスはまた蘇って僕らの前に立ち塞がる。

勝てないのか…?

そう思った瞬間、LBは仲間に指示した。

「子分は蘇りの魔法が使える。だから、ボスより先に子分を同時に倒すんだ。」

その声に近くの仲間達は連帯した。倒さない程度のダメージを与えた後、味方全員がその場を離れた。

直後、LBが魔法を唱える。

ダークアイス!!

すると、魔物達の真上にとても巨大な氷があらわれ物凄い勢いで地に、全てを埋めつくした。

子分を倒したと分かるとボスを狙う。LBが合図を出し、攻撃、どんどん弱っていく。

それを見た僕の心の中には口では言い表せない感覚があった。

そして、LBがトドメの一撃をくらわせた。

─────

それから、終わった後、メンバーは歓喜に湧く

協力プレイとはなんなのか、それを垣間見せてくれた気がした。

そして、僕は念願のメダルを手に入れる。しかし、嬉しさが余りなかった。

あれ程、欲しかったのにどうしてだろう?

僕は疑問につつまれていた。

そして、グループが爽やかに褒めあうのを聞きながら、協力プレイの場から離れた。

なんだろうな、この感覚…?

それは、町に戻っても消えなかった。

キャー

直後、絹をさくような声が町に鳴り響いた。

なんだ?

僕は辺りを見渡した。すると、何も無いが、嫌な気配だけは感じた。

それは僕の頭上、空高くにあった。

戦々恐々。

これは世界の終わりの始まりか?

ただ1つだけ分かっていることがある。

とても大きな戦いの予感だ────

TBOTB

辺りは全て、魂が抜けたように、1つの方向へと目が集まった。

そこから漏れる声が1つ2つ。

「世界の終わりだ…」

黒い点がポツポツと現れ、その一つ一つが大きくなってゆく。

そして、ドンッと音を立てそれらが一勢に目の前に降りてきた。

何体いるのか分からない程大勢の魔物達が…

そして、その中のリーダー格の魔物が先頭に立つ

「我らは魔王様の命により、このTOBAEをもらいにきた。

邪魔するものがあれば、命はないと思え。」

相手の数の多さ、これはもう勝ち目がない。

そう思われたが、剣を抜くものがちらほらと現れる。

そうだ…ここには、イモータルと言う模擬訓練がある。

そのレベルは高く、ボスまで倒すのには、一筋縄ではいかない。

剣を抜いた人達の首元をよく見ると、プラチナのメダルがキラリと光る。

そうだ…

この人達がいれば勝てる。

僕も剣を抜いた。

「なんだ、お前達。

血迷ったか。

我々は500以上。数的優位の上にいるのだ。

お前達が何をしようとも無駄なこと。悪足掻きは辞めるんだな。」

魔物がそういうと、1人の男がその魔物の前にザッと立った。

そして一太刀。リーダー格は地に足をつけた。

それが戦いの合図だった。魔物達は凶暴化し、襲いかかってくる。

TOBAEに居る旅人達は迎え撃った。

───

時間が経つに連れ、力の有利が見えてきた。

「グヌヌ…TOBAEの人間はこれ程までに強かったのか。」

リーダー格の魔物は唸った。

「撤退だ。」

魔物達が飛んで退却する中、リーダー格の魔物は少し誰かを探していた。

そして、見つけたと思うと話しかけた。

「このジャヴ様に卑怯な真似をした旅人、お前名前はなんと言う。」

すると、旅人は答えた。

「俺の名はナイト。夜、気を付けるんだな。

気を抜いてると…」

ナイトはまた剣に手をかける。

ばつが悪いとジャヴは去っていった。

魔物達の急襲に戸惑ったが、TOBAEの人達はとても強かった。

あのイモータルがこの時のためにとても役立っている感じだ。

僕には安心感があった。

それも束の間、男の声が聞こえた。

すぐさまその場所に向かうと、魔物が一体、その足下にはヴェントさんが倒れていた。

声の主はヴェントさんと一緒に居た人で無傷だ。ヴェントさんだけが狙われた。

そして、魔物はこちらを一瞥すると去っていく。

───

跡地に戻ると、TOBAEの旅人達が残った魔物を捕まえて、魔王の居場所を聞き出していた。

魔物の殆どが瀕死状態で、今にも壊れそうな声で言った。

「お前たちは気付かなかったのか?遠い様で傍に居たそれを。

魔王など居ない。我々はジャヴ様の命に従ったまでだ。」

「どういう事だっ?」

旅人の1人が魔物の胸ぐらを掴む。

「我々に1つの国、城などない…。」

そう言うと魔物の息が途絶えた。

他の魔物も同様で、謎だけが残った───

それから、旅人達は、魔王を倒す旅にでるもの、TOBAEに残るもの 、違う町などに避難するものとで別れた。

残るものの中には、相変わらずイモータルに通う旅人もいた。

魔王には興味がないのだろう。それか、それ程までにイモータルが好きなのか───

とは言え、僕も魔王を倒すためにここにいる。そろそろ出発しなければと思いつつも、まずは武器屋に向かった。

そこで防具を選び、新しい町を目指す事にした。

道中、LBの事を思い出す。彼は司令塔となり、相手を分析し、的確な指示を出した。

強さだけでなく、皆をまとめるリーダーシップも持っている。これには見事と言う他ない。

他にもTOBAEには、強い旅人が沢山居た。自分はまだまだなのだと痛感させられた。

そういえば、LBさんはさっきの戦いに参加していなかった。またイモータルに潜ったのだろうか?

そんな事を考えていると、森にぶつかった。

ここには、魔物も多く、草木に囲まれ不意打ちを喰らえば、ひとたまりもない。

慎重に行かないと…

前後左右確認しながら、草道をかき分けていった。


そこから少し経って、偶然TOBAEで襲ってきた魔物達を見つける。

3体程で、何か話し合っていた。

聞いてみると、あの魔物達は魔王の命令とは別に動いていたらしい。

「ジャヴ見たか?また嘘ついたぞ。本当は魔王様なんて存在しないんじゃないか?」

「そうかもな。前も魔王様が居ると言って居なかった。」

「そうだ。3人で手を組んでジャヴを倒さないか?」

「できるのか?500を超える仲間を集めたやつだぞ?」

「集める力があるだけで、能力は低いはずだ。

それに、旅人に不意をつかれただろ?

3も居れば倒せる。」

「……あぁ。」

「さぁ、帰るぞ。フォレストキャッスルへ。」

話がまとまると、3体は空へ飛んで何処かへと向かった。

「フォレストキャッスル…?」

そこが何処だか分からないが、指針が決まった。

そのフォレストキャッスル。それが魔王に近づく1歩なのだと。

すぐにアベリに聞くと、偶然、その場所を知っていたようで教えてくれた。

─────



「……ガハッ。」

「ジャヴがこんなに強かったなんて…」

フハハハッ。

地にひれ伏す部下を前にジャヴは高らかに笑った