世界の全て⑮

知識

「その前に私の考えを言わせて欲しい」

私はそう言って、深呼吸した。

「考え?まぁ、いいでしょう。」

正二さん達はそう言い、耳をかたむける。

私の頭の中には、辛い過去が現れてくる。

しかし、その中で、おじさんが後ろに現れて「君なら大丈夫。」と優しく背中を押した。

「万物の根源は知識である」

私は力強く言った。

「目に見えるものが全てではない。人が考える時、目に見えない存在しない世界に行く。」

「妄想も存在しない何かも全てを説明する時、必要になるもの。それは、知識だ。

私はどんなものにも知識がある。それを信じ、万物の根源は知識だと考える」

2人は「そうか…。」と言ったまま何かを考えて動かない。

私は「だから、この世に正解も間違いも存在しない。という彼の考えを信じる。」と続けた。

たとえ批判されても、自分の考える理想は揺るがない。強く心の中でそう思った

すると、2人は「分かった」と。

「もし、君たちの考えが嘘だと言うのなら、私たちの考えも嘘になるだろう。」

正二さんはそう言って続ける

「絶対的なものを信じるということは、信じられない何かを作ること…」

「ずっと、立場に困っていた。だが、決める。

加木の思想を認めよう。」

私はそれに驚いた。

「間違いも、正解もない世界、なら、自分の考えも認められ、兄の考えも存在していい。

それは求めていた理想である。」

彼はそう言って、お兄さんの方も連れ帰っていった。

終わったのか…?私は疲れが一気にでる。

そして、その場に座り込んだ。

すると、それと同時に、ポケットにあった一切れの紙が私の目の前をかすめた。

そこには──知識は魔法──としっかり書いてあった。

私は多くの話や、文字を見ることで色々な世界を知り、更にそれを私も文字や、言葉によって誰かへと繋ぐ。

それはまるで、魔法のように。

私はその魔法を現実のもののように感じていた。

あの紙は、どこかへ流されどんでいく。

ただそれを見守っていた。

すると、ふと思い出す。そういえば、加木さんは今どうしているのだろうか

───────

多くの悪口が飛び交う中、中央に居る男は、ただ遠くの空を見つめた。

そして、一言つぶやく。

「この世界に正解も間違いもない。」

すると、彼の一言にそれらが止んだ。

「あなたは変わりませんね」集多はそう言って、呆れていた。

「あぁ。俺はその世界が理想だと考えるから」

「最後の決着をつけましょう。」

大勢の人の中から、集多が男の前へとやってくる。

目の前へと着いた時、男は言った「これから俺と集多が友達になるための話し合いをはじめよう。」

それに集多はとても苛立った。

「私とあなたは永遠に分かり合えません。」

男は彼の様子にただとても落ち着いていた─────

2人の唯一①

「私はこれからあなたの思想について、大勢の前で、誤ったものだと証明しようと思います。」

それに、周りはとても盛り上がる。拍手さえおこった。

「間違いなど存在しない。その考えでは、犯罪や、他者を苦しめる行為すらも間違いではなく、しても何も思われないものとなってしまう。許されてしまうのだ」

集多はとても強く握りこぶしをつくる。

「そんなことが許されていいはずがない。」

そう言い男の顔をみると、拍子抜けする。何も感じていないように、表情を変えていなかった。

「あなたはどう考えていますか?」

男は「心の底から相手の苦しみを望む人は存在しない。だから、きっと大丈夫だと俺は信じている」と言った。

「そんなことはありえない。人は過ちを繰り返してきた。これからもそれは変わりません。」

「あなたのその考えは人を堕落させ、悪い道へといざなうものです。」

集多は批判を続ける

「正解という絶対的なものが必要になる。人を導くのは揺るぎない絶対の真理。」

それに男は「その考えも存在していいんだ。」

ただそう言った。

「存在してはいけない考え、世界には往々として存在する。あなたはそれすらも間違いでないと言うのですか?」

「ただ考えることは悪じゃない。それを自分で否定してしまうことは悲しいことだ。」

「いいえ、悪い考えは消し去らなければいけない。あなたのような偏った考えは。」

中々決着がつかないので、集多は呆れたようにいう。

「あなたは変わらないようですね。昔からずっと。

名前のように誤り続けるのです。これからも。」

───────

「ゆういちくん!」

加木と出会う前、いつも私は大人からそう呼ばれていた。

名付け親さえも、たまに、ゆういちの方が普通だったと言う。

ゆいいつ、読み方はこちらの方が正しいのに、誤った呼び方が定着している

ゆういちと言う名前が嫌いだった。

それから色々あって、私は加木と出会う。

まさか、思想だけでなく、名前までも私を憎いと思わせる人間が居て、更に目の前に現れるとは思っていなかった。

彼と同じクラスになってからは、よく周りからゆういちさん、ゆういちくんと呼ばれることが多くなる。

私はそれが許せなかった。いつも私の眼前をとらえ、馬鹿にするかのようにおちょくってくる。

彼は許してはいけない。

私はそこから宗教の名前を、集多教と自分の苗字をつけた。

周りのもの達は、「集多」と呼ぶことが多くなる。

残った彼の思想、それがあり続ける限り、理想の世界というものは永遠にありえない。

私は強くそう思った。

──────

2人の唯一②

K君とS君は向かい合います。

S君は最後にしようと考えていました。しかし、K君はまだ仲良くなれると考えていたのです。

みんな平等じゃダメ。S君はそう言って、K君に怒りました。

みんな一緒だと、ぐちゃぐちゃになっておかしくなっちゃうから。

すると、S君は、そうすればみんなが仲良くなれると言いました。

2人ともゆずりません。一体どうなってしまうのでしょうか…?

そこへ、誰かの影が向かってきていました。

───────

私はそこまで書いてペンを置いた。

「そろそろラストね。」

そう呟いて、少し寂しさを思いながら一休みする。

2人はどうなってるのか、ふとそれが浮かぶ。

なかま…希望くんが話してくれたこと。

懐かしい…

───────

「加木、私はあなたのことが今も変わらず嫌いです。」

「俺は集多のことは嫌いじゃない。」

彼の様子に、苛立ちが隠せない。

すると、集多の子供の頃の旅行の日の思い出が浮かんでくる。

それに頭をかかえる。

信者はそれに集まろうとするが、集多は「私が彼と決着をつけるのです」と言って止める。

その様子に男は「大丈夫か」と聞く。

「なつかしいですね。私とあなたが関わったのは、小学校の旅行の時だけでした。」

「そうだったな。」

「あの時も私はあなたのことが憎くて憎くて仕方なかった。」

「俺は嬉しかった」

───────

あの時は、寝る部屋を決める時間。私は、重要なメンバー以外残ったものでいいと待っていた。

すると、加木と希望が残り、同じ部屋になることになった。

皮肉なことに、行き、帰りのバスも加木と隣の席になる。

私は絶望した。

何故、この男とともに居なければならないのか。

そう思った。

そして、バスの中のこと、彼は私に話しかけてくる。

「集多の周りって、人沢山居るな」と。

自分の周りには全然居ないから凄いと笑う。

私は心の中で、自分の本当に望むもの以外はなるべく譲歩すること。

それをしていないからだ!と心の中で苛立った。

「でも、逆に、人が周りに居ないってことは凄いことなのかもな。」

そう言って、自分のことしか考えないことを言い、彼は笑った。

それがとても気に入らなくて仕方ない。

私はずっと彼の話を心の中で反応し、無視し続けた

夜の部屋でも、彼は変わらない。ずっと誤った思想を希望に話し続ける。

私は希望に彼について話した。

「どうして加木と一緒にいるのか。」

彼は「面白いから」と言う。

そして、仲良くなったらいいんじゃないかと続けた。

名前も似てるし、案外あうのではないかと。

私はそれにイライラとしたものが、充満したが、心の中でなだめおさえる。

遠慮しておくよ。とその時は言った。

あの男が思想を変えるか、希望を離し孤立させるか。

私の頭には今も昔もその2択しかなかった。

その日の夜、加木は、「この世界に間違いはない」と寝言でずっと話し、よく眠れなかったことを覚えている

そして、帰りのバス。

私はなんの気まぐれか彼に話した。

自分の考えについて。

僕は自らのことを、この世界の神だと思っている。

私はそう言った。

すると、彼は、「それもありだ!」と。

私が彼に話しかけたのが、嬉しかったのか、とても笑顔になっていた。

そして相変わらず「この世界に間違いは存在しないんだからな」と言う。

それを聞いて、決別した。

その一言が、その時、とても許せなかったのを覚えている。

彼はまるで、この世界を作る創造主のように、その中では存在してもいいと言う、巨大なマウントをとったのだ。

その1度から、今に至るまで、彼と私は関わったことはなかった。

だが、この私の心にある、彼の思想は存在してはいけないという強い思いが、今も残り続けている。

絶対的真理の前に存在する神など存在してはいけない。

私は決めている。彼の思想、それをこの世から完全に取り除くと。

─────

2人の唯一③

子供の頃、親は笑って言っていた

この宗教の神様は絶対なんだと。

他にも沢山宗教があって、神様が沢山いるけれど、それらは全部偽りの神様で、この宗教の神様が1番正しい。

私が子供の頃、親は意気揚々とそう語った。

それが今でもずっと残っている。

しかし、それらはある一時をもって一変する。

思想弾圧。それに準ずるものが目の前で起こった。

私の親は、他宗教に対し、その考えは間違っているからと言い、自分の宗教が正しいと言い回っていた。

それが、自分の神を深く信仰する信者達により、嘘とされる。

親はこの世界に神様は居ないと、力のない笑顔で私を見たことを覚えている。

私は親の信じるそれが何よりも正しいと信じていた。絶対的なものだと思っていた。

それを異教徒により、ないものとされてしまったのだ。

これから何を信じればいいのか…。他の宗教を信じるのは勿論、否定した宗教を信じ続けるのはもう無理だ。

すると、ふと思いついた。

神は自分だと。

そう考えるのに時間はかからなかった。

まるで、自らを神のように振る舞うさまをこの目で見た。

彼らは正しくない。

私はこれから、巨大な宗教を創造する。そう決めた。

人は絶対的なものがなければ絶望する。途方にくれてしまう。

だからこそ、神は必要なのだ。

それから私は加木と出会う。

彼の思想、それはとても誤ったものだ。私は彼の思想を残らず消し去ってしまうこと、そう、自ら自分の考えは間違いであったと認めさせよう…

そう考えた────

「あなたの考えは存在してはいけない。」

集多さんのそれに、男は何も変えることはなかった。

「そう思ってもいい。」

「何故、あなたはそんなにまでも、自分の考えを持ち続けるのですか?」

「誰かを間違いとしてしまうのは、とても悲しいことだから。」

「しかし、あなたはその考えを持ち続けることにより、否定され続けることになるのですよ?」

「それでもいいさ。」

集多さんは怒りが込み上げる。

「何故、そんなにも…。」

──────

俺(僕)の心はとても弱い

──────

俺はひとつの事を決めて、絶対にこれは正しいと思った。

だけど、みんなにそれは間違いだって言われて、1人で泣いていた。

自分でも、この考えは間違ってるって心の中で何度も思ったんだ。

だけど…。

ある日、外を歩いてたんだ。

すると、ピアノの音が聴こえてきた。

とてもおぼつかない音色、だけど、俺はそれが気になって仕方なかった。

聴こえてくる家の前につく。

そこには、大人の男が立っていた。

そして、俺に気付くとそっと話しかける。

「君も響音ちゃんのピアノを聴きにきたのかい?」

俺はそれに頷いた。

「いいよね。大人になったら、こんなの音楽じゃないとか、下手だって言われるけれど…」

そういって、男は空を仰いだ。

「僕はこの音が好きなんだ。

間違えても諦めず最後まで弾いて。この過程が大事なものなんだって思うんだ。」

「きっとあの子は上手くなるよ。」

俺はその話に何か不思議な感情をいだいた。

「お兄ちゃん!」

家の中からそう言って、騒がしく女の子の声が聞こえてくる。

「笹会お兄ちゃん!」

そう言って、女の子はドアを開けて飛び出してきた。

「今日はどうだった?」はしゃぎながら、男に話しかける。

男は良かったところを正確に伝えた。

それに女の子はとても喜んだ

そして、俺の方を見ると「わっ!」と驚いて、男の後ろに隠れる。

「だれ…?」

そう言って、そっと顔をだす。

「響音ちゃんの音楽を聴きに来たんだって」

すると、男の後ろからそっと出てくる。

「ピアノ、とても良かった」

そう言うと彼女はとても喜んだ。

「ありがとう!またいつでも聴きにきてねっ!」

───────

2人の唯一④

それから数年が経つ。

俺は心の苦しさから、久しぶりにまた彼女のピアノを聴きにきた。

すると、あの時のおぼつかない音色はなく、とても綺麗な音が聴こえてくる。

俺はその方向にすぐ行った。

そこには変わらずあの男性が居て、彼女の音楽を聴いている。

今度は気付かず、目を閉じて聴いていた。

俺はその横に立つ。

何も違和感のない綺麗な音色。それに聴き入ってしまった。

終わると、女の子がゆっくりやってきて、とても落ち着いていた。

「お兄ちゃん聴いてくれてありがとう。」

そして、俺の方を見る

「また聴きに来てくれてありがとう」

そう微笑みかけた

俺はその時強く感じた。

自分はいつも何かに支えられ、ただ前を向いて歩く…

そう…

───────

昔からそうだった。僕は心に弱い自分を持ち、いつもこれに苦しんでいた。

これに絡んでいたのは、いつもある男。

あいつが居なければ、こんなに苦しまなくてすんだのだと憎んだ。

すると、弱い自分の心がささやいてくる。

あの男と自分は似ているのだと。

だから、あの男がいつも浮かんでくる。

僕はそれに少しの痛みを感じた。

自らの考えを誰かに押し付けている。そう感じてしまったから。

いいや、あれは間違った思想、だからこそ、正しい思想である私が…。

その気持ちを振り払い、彼に対して憎しみを増やしていった。

それは、心の平穏の渇望。

彼が居なくなれば、きっとこれらは解決する。

そう思って疑わなかった。

しかし、思い出せば、いつも孤独だった。

絶対的な宗教にすがり、そして、否定されたそれを捨て、自らが作り出したとても大きなそれを新しい絶対的なものとおく。

その時の私は孤独だった。だからこそ、この絶対的な思想が必要だったのである。

しかし、それも今や、あの男におびやかされようとしている。

私の心の弱さは自らの孤独からでなく、あの男の思想から現れたもの。

僕、いや、私は…

誰かによりおびやかされ(支えられ)弱い心を持ち、抗おうとする1人の人間だ。

───────

集多が口を開く

「あなたはその思想を永遠に変えないと言うのですね」

「俺は今その時正しいと思っている考えを信じる。」

呆れたように返す

「そうですか。もし、あなたがその思想を辞めていれば、これ以上の苦しみをあわずすんだものを…」

集多さんがそう言った直後、誰かが走って近付いてくる音が聞こえた。

「あなたは…。」

集多さんがそう言いかけると彼が話す。

「私は井知、集多さんの思想を信じるものだ!」

それに集多さんはとても驚いていた