過去③
それから、希望くんや、ゆういちくんに、集多さん達が関わることは少なくなったの。
でも、それがきっかけで、そんなに多くは2人に関われなくなった。
その事について、希望くんが私に言ったの
「最近、れんかちゃん、よく集多と関わってるね!
あいつもいいやつだ。だけど、ゆういちのこと嫌いにならないでやって。」
彼の一言が、私の心の中に残った。
それから何事もなく、時は過ぎていったの。
でも、高校生の時のことだった。
私はその時、絶望したの…。
大切な人を失ってしまったから。
私は彼が倒れてるところを発見したの。
「何があったの…?」
私は冷静さを失って、彼の頭を抱えあげた。
すると、小さな声で言ったの…。
「ゆういちをたのむ…」って。
こんな時まで、彼のことを気にかけるなんて…って思った。
その後、彼は救急車で運ばれたけれど、助からなかった。
誰かにナイフで刺されてしまったみたい…。
結局、犯人は分からなかったけど、集多教で1人捕まった人がでたから、その人だと思った。
けれども、集多さんは、私に何度も言ったの。
彼を襲ったのは、ゆういちくんだって。
最初は信じていなかったけれど、段々、集多さんの言ってることが本当に感じられて、いつの間にか、私の中では、彼が犯人のように…。
その時はいつも、彼の言葉が浮かんできたの。ゆういちを頼む…と、嫌いにならないでって。
もしかしたら、ゆういちを頼むって言うのは、犯人だからって思ったこともあった。
だけど、彼は優しいから…。
そう思って、分からずじまいだった。
それから少しずつ、彼のことを本に書いたり、情報を集多さんに渡したの。
─────────
私と加木くん2人だけの空間になった。
「本多ちゃんの方からって珍しい。」
加木くんは、そう言って、私に何の用かとたずねてきた。
「さぁ、分からないわ。もしかしたら、昔の話をしたくなったのかもね。」
私はそう言って、窓の外をみる。
空は雲で覆われていた。
「今まで沢山勝負したな。」
「そうね。あの頃はまさか、200回も勝負するとは思わなかった。あなたの執念凄いわよね。」
そう言って私はクスッと笑った。
私たちは、あの事件があってから、下の名前で呼ばなくなったのよね…。
ふとそれが浮かんだ。
「あの時の事件、あなたが犯人?」
私は思わずそう聞くと、彼は何も言わなかった。
「なんで何も言わないの…?」
「俺は、本多ちゃんの考えに任せる。そう考えているから…。」
「そう…あなたっていつもそう…。」
私はそう言って、話すのを辞めた。
沈黙が流れて、今度は、勝負の話をする。
「次は200勝になるのね。
きっと、そこまでになったのは、あなたの考えが足を引っ張ってると思うの。」
「間違いなんてない世界なんて、考えるの辞めたらどうなの…?あなたのことだから、テストで悪い点をとったから…それで…」
自分で破ったあのページが何度も何度も頭に浮かんだ。
あの日、悲しさのあまり、日記を消してしまおうと思った。けれども、上手く行かず、あのページだけ…。
何が書いてあったのか、もう覚えてなかったけれど、彼に負けたあの時の勝負が、ふと蘇ってきたの。
思い出す度に、何故かズキズキと頭が傷んで阻まれていたそれが
────────
最近、ゆういちくんとの勝負で勝ちが増えてきてます。
私はとても嬉しかったです。
「着ぐるみじゃない羊人間は居るよ~」とゆういちくんは言いますが、結局見つかりません。
「私の勝ちね!」
そう言って、鼻を高くして喜びます。
そして、ある日、彼は、「川で宝石をみた」と言いました。
けれども、そんなことある訳がないと言うとまた勝負がはじまります。
ゆういちくんが行く方に、ついて行く途中、日が暮れました。
「どこへ行くの…?遅くなると、お母さんが心配するよ」
しかし彼は、「日が暮れてるからこそいいんだ」と言って、帰ろうとする気配はありません。
「もし、宝石があったなら、とって帰ってくれば良かったじゃない」と言うと、
「とって帰れないんだ。」
彼はそう言って笑います。
「それって宝石なの…?」
私が疑問を浮かべると、「着いた!」とゆういちくんは言いました。
────────
約束
「宝石はどこにあるの?」
私はそういうと、ゆういちくんは、「まだ待って」と言いました。
そして、一緒にそこで待っていると、あたりは真っ暗になります。
「こんなに暗く帰ったら叱られちゃうよ。」
私がそういうと、「ほら、きた!」と言いました。
私はそれに目を奪われました。
とても綺麗なお魚が泳いでいたのです。まるで、宝石のような…。
「綺麗…」
私は思わずそう言いました。
「うん、とても綺麗。」
ゆういちくんはそういうと、続けます。
「これを見ると、この世界には正しいか正しくないかで決められるようなものなんてないと思うんだ…」
「全部に魅力があって、凄いんだ。もし、嫌なものがあってもそれは、まだいいところが見えてないだけなんだって。」
「だからこそ俺は、この世界には、間違いなんてないんだと思うんだ…」
─────────
私はそれを思い出して、クスッと笑った。
そうだったね、あなたは、ありのままの世界を正しいもの、間違えてるものと区別したくなくて、その考えを持ったのよね。
すると、言葉が落ちてきた。
「ごめんなさい…」
私は、彼に顔を向けられなかった。
あの後、警察に補導されて、感動する時間もなくて終わってしまったから…。
嫌な思い出になって残っていたのかもしれない。でも、今頃になって、あの時の感動が出てくるなんて…。
その時の彼は何も言わなかった。
────────
それから少し経って、再び希望くんの言葉が浮かんできた。
ゆういちくんをたのむ。
希望くんが彼のことを好きなの少しわかる気がした。
「もう二度と会えないかもしれない。」
私はそう打ち明けた。
「どうして?」
彼は少し悲しい表情をする。
「集多教を棄教しようと思うの。」
私が窓の外をみると、太陽が顔をだし、とても明るい世界が広がっていた。
「そうか…」
彼は消えそうな声でそう言った。
「もし、何か最後に言いたいことがあればなんでも言ってね。」
私は悲しい気持ちを堪えて笑う。
この宗教に居るのなら、私はもう彼とはいれない。もし、彼がいいと言っても、私の気持ちが罪悪感で一杯になるから…
すると彼はニヤリと笑った。
「勝負だ!」
私は少し驚いていた。そして、「加木くんったら」と言って冷静になる。
「勝負内容は?」
「戻ってくるか、戻って来ないかの勝負!俺は戻ってくるにかける!」
私は目を閉じた。そして落ち着いて話す。「さっき言ったし、私は戻って来れないにかけるよ。最近、ずっと負けっぱなしだけど大丈夫なの?」
しかし、彼は自信満々に、「今回は必ずあたる!」と言った。
「その自信はどこから来るのよ。」とクスッと笑った。
そして、私は家をでる。
「ゆういちくん、さようなら」
私がそう笑うと、彼は微笑んで言った
「あぁ、れんかちゃんまた会おう」
─────────
相手
自分の中で解決した問題は、それはそれで、幸せなことだろう。
しかし、悩み続けて、一行に解決に向かわないそれは、とても悲しいことだ。
人がどのように解決の方向性を示したところで、するのはその人だ。
だからこそ、人はその人に何もできない。
あの人は今も悩み続けているのだろうか──────
僕の周りには、嫌な人ばかりいる。
怒ってばかりの人、悪口しか言わない人、目の前で失敗したり、愚痴をはいたり、大きくため息をついたり。
周りに、なんでこんな人しか居ないのか…僕はいつもそのことを苦しんでいる。
今日も、彼らは、僕に散々なことをしてきた。
自分が気にしていることで、絶対になおらないことを指摘し、それを平然と直せと笑ってくる。
そして、イライラを、口に出して、平気で相手の迷惑を考えない。更には、うるさくなることを気にしないで、自分の欲のために多くのお酒を飲んで、傍若無人に振る舞うその態度、どうしようもなく嫌な気分が心の中に充満した。
彼らと関わらない。できることなら、そうしたいが、できない現状もある。
この状況を甘んじて受け入れるしかないもどかしさと、イライラが心の中を巡った。
そして、何かをはじめようとした時、決まって邪魔をしてくる。何故、そんなにも、僕に嫌がらせをしたいのか。
要らない影響を僕へと渡し、誰かとの関わりを全ておじゃんにさせたいのか。
僕はどうしようもないこの思いを、何にぶつけていいのか分からなかった。
なので、いつも、それがたまりたまって、爆発する。その時、人は、離れていった。
そうなったら、自分はいつも、この関係に理不尽さを感じ、またこの日常を過ごすのである。
どうしようも無い気持ちで一杯だ。
お前達はどうして、自分に迷惑をかけたがるのか?
その疑問を毎日自分の中にいる、作り出したあの人物へと投げかけた。
しかし、妄想でしかなく、いつも答えてはくれず、ずっと口を閉じたまま。
ただの自問自答ではないか。
しかし、そう思っても、僕は何度も毎日続けていた。
すると、ある日、彼は口を少し開く。
「この世には、自分しかいない。」
どうやら、彼は、妄想の中でも、僕に迷惑をかけたいらしい。
もし、相手が自分だとするなら、意のままに操れて然るべきだろう。
しかし、操れない。自分ではないから。
なら、どうしろと言うのだ?
自分が悪いと、何度も何度も責めればいいのか、解決策を見出して、自分が悪かったと言えばいいのか?
何度も問いかけるが、その妄想の彼は何も言うことは無かった。
まただ。彼は自分に対して、悪いことをしたのにだんまりだ。
そんなにも迷惑をかけたいのか…?
───────
そして、またある日のことだった。
ネットであいつのせいで人生を狂わされたと言っている人がいた。
けれども、それに共感することなく、心の中がイライラとしたのだ。
どうせ、くだらない事で、狂わされたと言っているのだろう。
そう思ったからだ。
そこからも、悪いものが沢山目に入った。けれども、なんだか、前に言ったあの事が頭の中に浮かんでくるような気がした。
「この世には自分しかいない。」
僕はハッとする。
自分は前が見えていなかったのだろうか?
もし、自分が、彼と同じ人生を歩んでいたのなら、全く同じにならなかっただろうか?
普通の人だろうと、有名人だろうと、偉人だろうと、それは、自分の人生で、1つ前に進んで行ったか、後に進んで行ったかそれだけに過ぎない。
全ては自分だ。この世には自分しか居ないのだ。
僕はそれを思うと、自然と納得した。誰であろうと、自分であるのだから許そうと
────────
幸せ
人の幸福と不幸は千差万別です。
幸運であることが、他の人では不幸であることもあります。
では、一体何が幸福なのでしょうか?
先生はそう言った。
僕は頭を悩ませて、その問いに答えようとした。
「それは…。きっと、幸福を知らないからです。」
先生は僕に聞く「その幸福とは何ですか?」
すると、僕の頭の中からよどみ無く言葉があふれてくる。「きっとそれは、自分の考え方次第なのだと思います。」
そういうと、先生はとても興味深く、僕にまたたずねました。
「なるほど。とても面白い考えですね。」
そして、授業は終わる。
結局、それの答えは分からずじまいだった。
それから給食の時間がはじまった。みんなは班を作って、食事をとる。
僕の班はよく何か話をする。ゲームや、最近の流行、家や、友達とあったことなど様々。
今日は、僕の前の女子が、口火をきった。
「幸せってなんだと思う?」
僕は少し驚いていた。他にも喋ることは沢山あるのに。何故、その話題を…?
「さっきの授業のことだね!」
その子の隣の女子が返した。
すると、僕の右に居た男の子が「うーん!俺は好きなことをずっとすることだと思う!」と言った。
それなら、何かに依存していることも、幸せなのだろうか…?
素朴な疑問が僕の心の中に現れた。
最近、麻薬の授業をした。僕は1度もしたことはないが、それはとても依存性があるらしい。
一度では満足出来ず、新しいそれをまた求めるという。
楽しいことをずっとしていたとしても、それを捨て、新しいものを求め続けるのではないだろうか…?
ただ、人それぞれの幸福があって、もしかしたら、僕の知らないそれがそこにあるのかもしれない。
続けて女子が話す「私は、可愛いものを沢山集めるのが幸せだと思う!」
それから多くのことが会話されたが、結局、幸せというものがなんなのか僕には分からなかった。
それから僕は大人になった。
今でも、幸せというものがなんなのか、分からない。
けれども、いくつか思うことはある。
それは、今に満足すること。多くの成功者は真逆のことを言うかもしれない。
しかし、それは偏った見方でしかなく、もし、今に満足をしなければ、依存と同じ状況に飲み込まれ、その人は永遠に幸せとは無縁になってしまうだろう。
新しいものを求めるのは悪いことではない。ただ、今に満足することも、時には必要だ。
だが、幸せの形が色々あるのは当然だろう。いいや、いくつもあっていいんだ。
子供の頃の彼らは、今どんな人生を送っているだろうか。
僕は、彼らが、自分の幸せの形を見つけていることを望んで、そっとその事を忘れた。
自分の幸せ、結局それは分からない。
けれども、ただ、そっとあらわれる小さな喜びに感謝しよう。
そう思った。
───────
僕は歩いている中、さっきの事について深く考えていた。
一度得れば、それで満足することが、幸せなのではないだろうか?
何度も求めてしまうもの。それは、幸福とは遠い。
だからこそ、僕は、今、現在の良さを見つけることが必要だと思うんだ。
すると、「こんにちは」と言った人がいた。
僕はそれに返して、心の中でそっと思った。
ありがとう。と
楽なこと
「楽な方に逃げるな」
僕はある人にそう言われた。心に悲しさがあって、いきようのないもどかしさがあった。
だから、楽な方に考えるってどういう事か、考えてみたんだ。
人は自分が目に見えて、苦労を強いられていると、楽な人を見て、それをアイツは楽なことをしている。と考える。
しかし、その人は本当に楽なことをしているのだろうか?
相手が何をしているかどうかなんて分からない。身体中が傷だらけだったらどうだろう?目に見えないそれには、気付くことはないだろう。
そういう事を考えると、楽なことをしているのは、その人なんじゃないかって思うんだ。
二極で考えると、人を優しくすることと、人に意地悪をすること。
それはどっちの方が簡単なのだろうか?
多くの人は意地悪の方に逃げている。
悪口と褒め言葉、それだって、利益がなければ、人は相手を褒めたりしないだろう。
悪口の方が簡単に言えて、誰かを褒めたりするのは難しい。
多くの人は、他人の足を引っ張るように動く。
成功している人間に勝ちたいと思うなら、自分も成功者になるより、相手の足を引っ張る方がはやいと考えるだろう。
何かを悪く考える方が簡単なのだ。
人は、その悪い考えというものに逃げ込んで簡単な方へと進む。
だからといって、それが悪いものであるかも分からない。
多くの人の失敗があって、食べれるもの、危険を知ったり、色々なことが学べる。
その臆病さは必要であるのだ。
ただ、楽な方に考えると言ったあの人はどうだろうか?
置かれた状況を無視して、他人を責めて発散することで、楽になろうとしている。
きっと、何かものに当たれば、自分の溜まったそのストレスをないものと思っているのだ。
何かを一括りにして、それを悪いものと考える思想もそう。
S言葉とD言葉。
その中には、例外も含まれている。
それはS言葉は「しかし」、D言葉は「だからこそ」だ。
「しかし」については、相手のことや、自分のことなどを否定しているし、「だからこそ」については、肯定的な意味合いである。
これを無しにして、S言葉はいいもので、D言葉は悪いものだと何故言えるのだろうか?
何かに所属するものが、1人悪いことをすれば、全体の責任になるという思想もおかしさがある。
全ての人間に共通することではないからだ。人それぞれの考え方があり、1人に他の全ての人間がつまっているなんてことは有り得ない。
個々、それぞれ違う人間であることを忘れてはいけないと思うんだ。
そして、統計学というものがある。
僕はそれが嫌いだ。それを見れば多くのことが分かるという。しかし、多くの人が嘘をついたら、その統計は嘘になるだろう。
統計が、偏った場所でしか行われなければ、その統計は信用に値しない。
更には、ほぼ、必ずと言っていいほど、例外というものがある。
基本的には、その例外は、無しにされる。その例外をなしにして、何が正しいのだろうか?
さぁ、楽な方に逃げるなというのなら、絶対的なものだと信用されているものすらも、それは、楽な方でしかなく、人は楽ではない方へと考えようとすると、必ず、誰も頼らず生きていくことが必要となる。
それは不可能なことだ。
人間1人で、誰の力も借りず、何かを独力で出そうとしても、何もできない。
「楽な方に逃げるな」という考えを改めるべきだろう。
僕はそう思った。
しかし、ふと気付いた。自分もこれを考える事によって、楽な方へと逃げていることに。
彼がどういう心理で僕に対して、そう言ったのかは分からない。
だけど、それについて深く考えても仕方なかった。
社会は、いつも楽な方へと考えている。昔に比べれば、楽になったことなんて沢山ある。
だからこそ、僕は楽な方へと考えることを肯定しようと思う。
全てではなく、僕が寄り良いと思う、楽なものを。