淡いもの
あの人はいつも僕の手のひらから、雫がすり抜け落ちてしまうように、どこかへ居なくなってしまう。
これで何回目だろうか。僕は何度も君を求めた。
ずっと一緒に居たい…。そう思って、手を大きく伸ばしても、心の弱さから知らず知らずのうちに傷付けてしまってる。
どれだけ嫌なことを言ったり、したりしても、君のことを嫌いになるはずもなれるはずもないのに。
いくつか方法を考えても、それらは、いつの間にかに忘れ心から無くなってしまっている。
後悔を何度しただろうか、自分は過ちを何度も繰り返し、何度もあの人を傷付けた。
けれども、何度だって、あの人を幸せにしたいと考えたんだ。記憶の忘却が、いつもそれらを無かったことのように消し去ってしまう。
だが、どれだけ傷つけても、僕の気持ちは変わらない。君を、幸せにしたい…。楽しい日々を与えてあげたいんだ…。
そのため、多く関わることを避け、心の距離を作った。他の人と関わって欲しいとそう君は言っていた。
だから、遠くにいってみたんだ…しかし、それらは幻想だった。
そんなことではなかったんだよ。自分が求めているものは、本当に心が求めているのは、たまに訪れる幸福。永続的に手に入る、喜びじゃない。
喜びは、訪れすぎれば、飽きてしまうんだ。だからこそ、更なる欲を求めて、歩みを進める。
欲を求めた先には何も待たないと言うのに。
たまに訪れるささやかな幸福を喜ぶことが、自分を素晴らしい未来へと導いてくれる架け橋なのだから。
だが、僕はいつも、いつの間にかに欲にどっぷりとつかり、今までもそうだった。
君と少し距離をとろう。
そう思っていたはずだった。しかし、いつの間にかにとても近くに居ないとと思って、君とともに居たい。それが強くなって、欲におぼれてしまった。
君とともに長くそばに…その思いは叶わないのか…?と思ってしまう。
だが、僕は居ると決めた…。その覚悟が、少し離れる事だったんだ…。
たまに関わって、長く付き合うことを考えた。
しかし、その考えは、バラバラに消え去ってしまった。どうしてと思ったよ。
だからこそ、自分の心は、変わっていないんだ…。君とずっと一緒にいると決めたから、君がどう思おうと、僕は君を笑顔にさせたり、幸せにさせてやるって、決めたんだよ。
困ったやつだから、何度だって、君と一緒に居て、何度だって失敗して、何度でも、素晴らしい未来を妄想して、楽しい世界で2人、過ごしていけたら、それがいいんだって。
僕は利己的だから、君を喜ばせたい。幸せにさせたい。
心の底から思うんだ。皆だけでなく、君一人のことも喜べる未来を…
楽しい世界を1歩1歩、また歩いていきたいんだ。
この間違いだらけの世界で、またともに歩いていこう。
僕の手のひらには、また雨の淡い雫がポツンと降り注いだ──────
地球神話①
あるところに地球という惑星があった。
そこでは、多くの人間達が争い、多くの人達が悲しんでいた。
それはとても長い年月、しかし、その中でも、小さく咲いた花のようにとても貴重で、潤ったものがある。
それこそが、今、この世界を作ったのです────
私は、そして、私の先祖も皆、この世界に生きている…そのはずだった。
けれども、史実をみるとそうではなかったのです。
その日まで、私は知ることがなかったのでした。
「おはよう!」
そう言うと、皆は笑顔で「おはよう」と返した。
今日は、朝早くから、ライオンさんのハーモニーとお散歩です。
ハーモニーは、元気いっぱいで、駆け回りました。
私はそれを追って、楽しく笑いました。
そして、ハーモニーが草むらで、気持ちよさそうに寝ていたので、私は覆いかぶさります。
すると、肉球で、私の頭をなでました。
これが私の幸せな時間のはじまりです。
すると、ヒツジさんのうたや、ヤギさんのかなでが、ハーモニーの近くにやってきました。
すると、ハーモニーは、うたとかなでを前足で可愛がります。
私も、もふもふとうたを抱きしめました。
その後、勉強の時間です。私はとても楽しみでした。
いつも、動物さんや、愛についてなど色々なことを知れて、楽しくて、目の前に、さながら沢山の宝石があるようなのです。
今日はどんなことを学べるのか、楽しみで仕方ありませんでした。
「さやちゃん、お願いします!」
私は大きな声でいいます。
すると、さやは私のペースにあわせてお話をしてくれます。
昔、ある惑星に、多くの人間が住んでいました────
その人間達は、ずっと平和的に暮らしていましたが、段々とそれは争いに変わっていきました。
それは、動物達が持っていた闘争本能からかもしれません。しかし、皆は争いながら苦しんでいたのです。
でも、戦いに勝てば、幸せになれる。どんどんと強くなっていけば、楽しい未来が待っているのだと、戦いは中々終わりませんでした。
しかし、ある時、戦いは止みました。とても強力すぎる力をもったからです。
もし、それらが衝突すれば、お互いに大惨事になってしまいます。そこから、戦いは少しずつ止んでいきました。
平和が少しずつ顔を出したのです…。
そこから人々は、差別などの苦しみを取り除いていきました。争いは段々と終息していきました。
それは、動物の世界にも浸透していったのです。争い続けてきた動物はそれを辞めて、協調や、愛を示して、とても幸せに暮らしていました。
それから何年も経った今、この時が、私たちの住む世界。ここは、地球に居る人間達が理想を突き詰めた末の世界なのです。
いいえ、まだ理想からは遠いのかもしれません。
悲しむことは変わらずできるのですから…
────────
その後に私は、次の遊び場へ向かいました。大好きなお姉ちゃんとテニスです。
お姉ちゃんと会うと、私の顔をじーっとみつめました。
そして、「目が赤くなってる、何かあったの…?」と聞いてきました。
私は「何も無いよ…!」と顔を隠します。
けれども、お姉ちゃんは私を抱きしめていいました。
「大丈夫だよっ!」と。
私は安心して言いました。
「今日、地球って言う神話を学んだの…!」
お姉ちゃんは頷きます。
「それでね、人間さんたちや、動物さんたちが争うとっても悲しいことがあったらしいんだ…」
「うん…。」
「私は動物さんたちが他の動物さんたちをいじめたりしてるなんて知らなかったから、びっくりして、悲しくて…。」
「そうなんだね…。」
「お姉ちゃん、この世界はなんなの…?みんな、また争うの…?」
そう言うと、お姉ちゃんは私を抱きしめました。
「大丈夫だよ!もう起こらないから。」
また泣きだしそうになる私の頭を優しくなでました。
そして、話はじめます。
「その神話だけれど、この世界に行き着くまでに、多くのことがあったの──」
誰かが苦しむ。そんなことが沢山あった世界。
しかし、悪いことも多かったけれど、その裏で、相手を思いやる心が、少しずつ大きくなっていった。
いいえ、悪いものに覆いかぶさって、見えなかっただけかもしれない。
元から、人の不幸を心から願う人なんて居ない。
どこの世界にも。
皆を幸せにしたい、その想いが、受け継がれて、リレーのバトンが段々と、この世界を素晴らしいものにしたの。
今、ここに生きている私たちは、そのリレーのゴール、いいえ、まだ途中かもしれない。
けれど、とても素晴らしい世界に生きているの。昔の不幸が薄れていって、素晴らしい今を作ったの。
忘れてはいけない…
昔の人の分まで、精一杯、今を幸せに生きていかなきゃいけないことを
──────
地球神話②
お姉ちゃんはそう言うと、私の前から居なくなりました。
本当に私は幸せでいいの…?疑いの心がはれませんでした。
その後、動物さん達と合流します。聞いたことが嘘のように、みんな仲良しで、元気に遊んでいました。
違う動物にも関わらず、そこには愛があるように感じて。
私はみんなを抱きしめました。すると、とても落ち着きます。私とは異なった生き物なのに、そこには、とても心を許せる何かがあったのです。
どんなことがあっても、それを聞いても、私のこの好きという気持ちは変わらないんだなと思いました。
───────
私はもう少し、地球の神話について聞こうと思いました。
「さやちゃん、もっと教えて!」
そう言うと、さやは快く引き受けて、話し始めます。
あるところに、とても大きな木がありました。もう何百年、何千年といきた木で、多くのことを見てきました。
周りの多くの木達が居なくなったこと、人間達がしてきたこと。
その他さまざまなことです。
この長い年月ここで過ごしたのは、この木1本だけで、他の多くの木達は、きられたり、枯れてしまったりで、若い木達が生い茂っていました。
その木は、若い木達に、話しました。今までのことを─────
芽を出した時、とても大きな世界が見えました。
自分は多くのことを見てきた。小さな植物達、動物、そして人間。
多くのことには、人間が関わっている。もしかしたら、今後の生き物の未来は、人間の手によって決まるかもしれない。
年老いた木は、争いばかりの毎日を、ずっとここで見てきたのだ。
しかし、ずっと争いしかなかった訳では無い。
木は、知っていた。とても貴重で幸せな時間を。
それは、いつ頃のことだっただろうか。
ある1人の女性が前に立っていた。
いつも、なにをするでもなく、じーっと木を見つめ、「ありがとう」と言った。
その理由は今も分からない。
しかし、彼女がくれた希望は、とても大きいものだった。
ある日は、強い風がふき、枝が折れたので、その女性はその枝の先をなでて自分のことのように悲しんだ。
近くに小さな木がはえると、ニッコリと微笑んだ。
何故、彼女はこの木が表現できない喜びを代弁するかのように表現するのだろうか…?
だが、木は、そこに、喜びや、繋がりを強く感じていた。
しかし、ある日から忽然として彼女は来なくなった。
どうしてだろうか?木は寂しさから悲しんだ。
またいつか戻ってくる。そう思っていた。
そして、ある日、おばあさんが、その木の前に立っていた。
その人は木を抱きしめ、言った、「ありがとう」と。
そこから、この木を気にとめる人はただの1人も居なかった──────
人には、思いやりの心がある。それも行き過ぎてしまうこともある、自己中になりすぎてしまうことがある。
しかし、今のあるままを、人は慈しむことはできるのだ。
この先、進む未来が、希望であろうと、絶望であろうと、必ずそこには、優しい光がある。
それが世界を覆い尽くすまで待とうと思うのだ。
人の根源は、悪いものだって?そんなことはない。もし、そうだとすれば、人は今まで変わることはなかった。
人を思いやることもできなかったはずだ。
今は分からないだけで、きっといい方向へ進んでいる。
この世界に、そして、未来に希望はある。
────────
話し終えて、年老いた木は悲しんだ。
若い木達に満ち溢れた希望を伝えられないことを、自分はつくづく木なのだということを──────
私はそれを聞き終わって言いました。
「この世界が、理想の世界なの…?」
さやは言いました。
「それは分かりません…。でも、昔よりもいい世界であること確かでしょう。」
私は悩みます。
本当にいい世界とはなんなのか、自分はこれからどう生きたらいいのか。
しかし、その答えはどこを探しても見つかりませんでした。
なので、私は思いました。
楽しく生きようと。
みんなと生きている今を楽しく。いつまで続くかなんて分からない。
でも、笑顔で居れるうちは絶対に別れることなんてない。だから、みんなと楽しく暮らしていけば、きっと、そこに見つかるはずだから。
私はただ、目の前にあるこの道を行こうと思いました。
───────
地球神話、無限のようで短い世界。人は色々なことを考え、色々なことをして、どこかへ進んでいく。
しかし、その進む先は、どんなものであろうと、優しい心があれば、それによって世界は彩られる。
この先には、いつだって希望の未来が広がっているんだ────
友達
私は友達が一人もいなかった。いいや、今もそうだ。
この足2本ありさえすれば、どこへだってかけていった。
いつもどんなことであろうと、自分の力で解決してきた。
しかし、今回はどうだろうか。
一向に、解決の兆しがみえない。そればかりか、遠ざかっている気さえする。
以前の創作会参加者は1人も居なかったばかりか、そこからぷっつりとテレビに呼ばれなくなった。
だが、まだだ。
悪いものは悪い。
ただ、それを言うこと、ここで辞める訳にはいかない。
───────
私は通りすがりに、宗教について聞き回った。
しかし、中々、求めている情報はなかった。
次もそうだろうと思ったが、最後に1人だけ聞いて場所をかえることに決める。
通りすがりに聞くと、男は「チラシなら知っている」となんとも言えない返事がきた。
少し困っていると、今度は彼の方からたずねてきた。
「あなたは何か思想を持っているか?」と。
私はふっと思いついた、議論について、創作会についてのアイディアを話した。
すると、彼は、「なるほど。」と言った。
しかし、これだけではまだ不十分かもしれない。と思った私は、概念小説についてふれた。
これは、まだ誰にも言っていないこと。だからこそ、何かを変えるものだと思っていた。
彼から?が出たところで、それの説明をはじめた。
「概念小説とは、そこに居る場所など、曖昧にし、書きたいことに集中する小説のことを言う。」
頷いたのを見ると続ける
「書けるものだけに注力し、書けないものはなしでいい。本当に書きたいことだけに言葉を募らせるのだ。」
「なるほど。」と言ったので、今度は、逆に彼に思想を聞いてみた。
「この世に正解や、間違いは存在しない。」
この事が少し癪にさわって間違いだと言い返そうとしたが堪えた。
「そうですか。」と言う。
─────
私は思った。こっちの意見を認めてもらって、こっちだけが認めない訳にもいかない。
それに、私には私の正しさがあり、人にはそれと同じものを心に持つ。ただ彼は、それをそう解釈し、正解なきものこそが正解なのだと思っているだけなのだ。
一見、矛盾した考えだが、正解なんて存在しないことは、分かっている。
だが、正解と間違いは、作らなければならない。あの宗教団体だけは、なんとしてでも、間違いだと、正しくないことだと世に出さなければ。
男は心の中で激しく主張した。
それから、何故か、ふと子供の頃を思い出していた。
あの頃は、まわりに人は多く居た。
しかし、友達と呼べる人間は1人だって居なかったのだ。
いいや、今も同じだ。友達なんていらない。この足2本あれば、どこへだっていける。
過去の思い出を振り払って忘れた。
──────
次の日、私はまた取材した。
「今日はここら辺ではじめようか。」
私はすぐ近くに歩いていた人に声をかける。すると、オーケーをもらったので開始した。
「最近流行ってる宗教についてどう思われますか?」
最初にそう言った瞬間だった。
その人は少し考えた後、
「あなたが嗅ぎまわってるっていう弐生想一さんですか?」と言う。
それに、恐怖から私は少し後ずさりした。
それを見て、彼は更にたたみかけてくる。
「どうしたんですか?質問に質問を返すなとでも言いたいんですか?
質問に対する質問は必ず必要ですよね。」
わたしは思わず逃げ出した。
彼はきっと、あっち側の人間だ。
残された男は電話した。
「そっちに向かった」と。
─────
想一は、走っている中、昨日のことを考えていた。
「待ってくれ」
私は昨日、最後に取材した男を呼び止めた。
すると、彼は足を止めて、私の方をみる。
「友達を作らないこと、それこそが正解だ。」
私は思い切って、彼の考えに反することを言ってみた。
すると、彼は
「それもいい考えだ。」
「しかし、友達の居ない人間は多い人のことを、友達の多い人間は、居ない人のことを知らない。」
友達は作ろうと思えば作れた。しかし、私の思考に、必要ない要素をいれてくる誰かを近付けたくはない。
そう思っていた。しかし…
いつの間にか前と後ろに、あの宗教の信者のような人物が周りを取り囲んでいた。
「ここまでか…。」
想一は小声でつぶやく。
そういえば、私には信頼できる人間が、友達というものが1人だって居なかった。もし、私にもそんな人が居たらもっと違う人生を歩んでいたのかもしれないな─────
その日を最後に、「そういち」という人物の話は、一切耳にしなくなった。
──────
友達ver.2
一人ぼっちでいい。
少年は、子供の頃そう心に思った。
それこそが正義だと、大人になった今でも残り続けた。
あの宗教団体、あれは人を惑わす。人は多く、深い関係をもつことによって、悪い方向へと進んでいくのだ。
私は書籍を出す。あの宗教は悪いものだと、世間に知ってもらうため。
しかし、以前の、創作会の当たりからテレビによばれなくなり、本も売られているところを見ることはなくなった。
それで諦めるような私ではない。私は、いろいろまわって、取材、本の執筆をし、あの宗教家達の悪事を発表する。
それを決めた。
さっそく、通りすがりの人に話を聞く。
「あの。お話聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です。」
「最近、よく目にする集多教について、何かご存知ですか?」
「はい、知っていますよ。しかし、ここには宗教信者が多いので、下手なことは言えません。
なので、少ない隣町でなら大丈夫です」
彼は小声でそう話した。
「なるほど」
私は小声でそう言うと、約束を取り付けた。
しかし、もう少し他の人に聞いていこうと、別の人に、違う話題についてふれる。
「あの、5年前の事件についてご存知でしょうか?」
すると、彼はこくりと頷いた。
「私は、あの時起こったこと…それは、ある宗教団体が絡んでいたと思うんです。
何かあの事件について知ってることはありませんか?」
しかし、思ったようには行かず、彼は首をふった。
それはそうかと今日のところは帰ろうと思っていた時、今度は彼が話しかけてくる。
「あなたは何か思想をお持ちですか?」
彼のその一言に少し驚いたが、私はすぐに考えた。テレビで言った、議論についての話しは面白みがない。
誰かに言うのははじめてだが、これがいいだろうと。
「友達を作ることは悪いものだ。」
彼は「何故そう思うのか?」とたずねる
「自分と他人は違うものだ。それによって、一喜一憂しても、苦しむのは自分だ。
なら、友達など作らず、身軽になって動き回っていた方がいい。」
「なるほど。」
彼は頷いた。
「君は何か思想をもっていますか?」
私がそう言うと、彼は
「この世界に正解や、間違いなんて存在しない」と言った。
私は自分のしようとしてることが、間違いだと言われているようで、モヤモヤした気分が付きまとったが、こらえてきく。
何故、そう思うのか?と。
「色々な人が居て、色々な考えがある。」
「だからこそ、誰かの考えを否定されて、これだけが正しいとなるのは、とても悲しいことだ。」
「なら、正しいこと、間違っていることなんてなくていいんじゃないかと思うんだ。」
私が「そうですか」と言うと、今度は私の思想について言った。
「あなたの考えもいいと思う。しかし逆に、友達はとても大切でいいものだとも思うんだ。」
その後、名前を言って別れた。
「私は、弐生想一、しかし、覚えておく必要はないだろう。」
───────
次の日、私は昨日の待ち合わせに向かう。
しかし、ついてみるとそこには、誰も居なかった。
いいや、人はまわりに沢山居たが、昨日の彼は居なかったのだ。
そこで私は気付いた。
騙されていたのだと。
集多教の人達に囲まれ、私はどうすることもできなかった。
そこで思ったのだ。
私には友達と呼べる信頼できる人が1人すら居なかった。皮肉なことに悲しむ人も居ないため、私が居なくなったことで大きな問題になることはないだろう。
走馬灯のように、過去のことがめぐった。もし、信頼できる人が近くにいれば、私はもっと違った生き方ができたのではないか────
その日を最後に、彼の話はばったりと出なくなった。