後悔と小舟①

ゆらゆらとさまよう

僕は小舟だ。大きな海にゆらゆらと浮かぶ。

波が寄せればそれに乗じ進んでゆく。

どこへ進もうともその波次第だ。

それがどんな荒波であろうとも─


僕には何もない。夢も希望も。

今振り返れば失敗続きの嫌な人生。楽しいことなんて一つもなかった。

だけどそんな僕にもハマっていることが一つだけある。それは、オンラインゲームだ。

孤独な生活を癒(い)やしてくれる協力プレイ。楽しいやり込み要素など一杯ある。

ゲームはいろんな事を教えてくれる。次どうなるんだろうと言うわくわく、キャラクターを育成する楽しさ。

やっている時は何も考えなくていいと言われているように没頭(ぼっとう)した。

ゲーム内ではエターナルと言う6人で協力して行うステージがある。それをクリアすると、初回だけ勲章(くんしょう)が手に入る。2回目以降は、何も貰(もら)えないのだが、自然と僕は一回クリア後もそこへ通うようになった。

このエターナルと言うのは初めたばかりの人には難しく、6人の協力がとても重要になる。強いキャラクター並べてもクリア出来ないことだってあるのだ。

嬉しかったからだろうか。いや。ただ、自慢(じまん)したかっただけかもしれない。
しかし、僕にはそんな事はどうでも良かった。


ある日のこと、僕は初めたばかりであろうプレイヤーランクの低い人の部屋へ入った。
するとどうだろう、部屋主以外の人達が弱いキャラクターで待機していた。

それらは明らかにクリアを目的として待っている訳ではない。僕はどうしたことだろうと成り行きを傍観(ぼうかん)した。 

主は必死に困った顔のアイコンを連打するに対し、他の者は嬉しい顔のアイコンを連打する。

ひたすらにただそれを繰り返す行為にはどこか一体感があった。 僕はそれをうらやましく思った。

ふと、設定を思い出した。このゲームではキャラクターの名前を変えることができる。
僕はおもむろに、詳細を見た。すると、そこには

“お前には無理だw”

“出直してこい”

等と言った言葉が書かれていた。僕は以前の事を思い出し、皆に合わせなければと衝動にかられた。部屋を退出し急いでキャラクターの名前を変える。

そして、すぐに僕はさっきの部屋を探した。だが、その日はもう見る事はなかった─

疑問と癒やし

次の日、僕はまたエターナルで部屋を探した。だが、昨日の部屋は見つからなかった。僕は仕方がないと、適当な部屋に入り時間をつぶすことにした。

自分よりプレイヤーランク(PL)の高い人の部屋に入る。主はAAランクのキャラクターで待機していた。

このゲームはF~AAAAランクまであるのだが、AAランクと言うのは微妙(びみょう)だ。プレイヤーランクが高いのであればAAAAランクのキャラクターを持っていないはずがない。と疑問に思いながらも人が揃うのを待っていた。

それから、時間が経ち人数が集まった。皆AAAAランクのキャラクターで今か今かと出発を待っている。だが、主は一向に出発しようとはしない。 

そして、数分後の事だ。主はキャラクターを強いのに変えたと思いきや、Fランクのキャラクターを出した。僕は昨日の今日ですぐに詳細を見る。

そこには、“解散します”と書かれていた─。

僕の頭から疑問が尽(つ)きない。強いキャラクターは揃(そろ)っていた。あのパーティーでいけば絶対にクリアできたはずだ。主はどこに不満を─?

僕はまた部屋を探しだす。
すると、PLの低い方が部屋を作っているのを発見した。昨日の主とは違ったが、もしかしたら…。

部屋に入るとやはり、昨日のメンバーが揃って低ランクのキャラで待機していた。そして昨日と同じように、嬉しい顔のアイコンを連打する。
僕はそれを見るやいなやすかさず、昨日名前を変えた低ランクのキャラを表だした。

すると、彼らは連打をやめる。
どうしたんだろう?僕は不安になった。

しかし、時間が経つと再びキャラクターを変え再び嬉しい顔のアイコンを連打した。今のは何だったのだろう?そんな疑問を浮かべながらも僕は彼らに同調した。

これが、後に自分に大きく関わる予兆だったのかもしれない。

その後皆完了し、ひたすらに嬉しいアイコンを連打する。ただそれだけを繰り返す行為に僕は自然と忘れていた感情が顔を…。

主はこの状態で待つのがたまらなかったのか出発した。

戦闘が始まる。僕はどうするのだろうと周り出方をうかがった。すると、皆防御一択でいいねを連打する。

僕はそれを模倣(もほう)した。傍(はた)から見ればそれは意味のない行為かもしれない。しかし、一人でゲームをする。それでは得られない…。そう、さっきから感じていた今まで忘れていた感情が自分の中で蘇(よみがえ)った気がした。


─それは、孤独を癒やす楽しいと言う感情─


その後、クリア出来るはずもなく全滅したのだった。


濁(にご)ったもの

僕は、あの時の感情が忘れられず、PLの低い人の部屋を探した。出来ればもう一度…。その欲求が抑えられなかったのだ。

求めていたものが部屋を作っているのを発見した。スグに僕は部屋に入りパーティーを確認する。しかし、昨日の面子(めんつ)は一人もいなかった。

だが僕は、あの感情をもう一度味わいたくて“レベル上げてから来い”と名前に書かれた低ランクのキャラを出し、嬉しいを連打した。

主は少し時間をあけ、困ったを連打を始める。僕はお構(かま)いなしに続けた。しかし、昨日の感情は顔を隠したまま僕には虚(むな)しさだけが残る。

耐えられなくなった僕はその部屋を退出した。

何故?この行為は前はあんなに楽しかったのに…そんな思いに耽(ひた)りながら僕は他の部屋を探した。きっと、昨日の人達ともう一度出会う事が理由を教えてくれる。そんな気がしたから─。


見つからなかった僕は、また適当な部屋に入った。すると、たまに見かける名前の人とあった。

顔文字を名前にしていたため覚えやすかったからだろう。彼はよく同じキャラを使い、いつ見てもPLは殆(ほとん)ど変わらない。

エターナルばかりやっていて、一人プレイがおろそかになっているのかも知れない。

僕は適当なキャラを選び、出発を待った。
その最中の事、★モーギス☆と言う名のプレイヤーが部屋に入ってきた。

その途端に部屋主は困った連打を始める。僕は目をやったが、モーギスは普通のキャラに変えて出発を待っていた。

だが、主は連打をやめる気配がない。ふと、キャラ名のことを思い出す。僕はスグに詳細を見た。そこには タ、ヒ ?

読み終わる前に部屋が解散されてしまった。だが、最初の2文字ははっきりと読めた。横列でカタカナのタとヒだった。

それの意味が分からないが、主がゴメン連打するのにはきっと訳があったのだろう。そして、エターナルを続けていればきっと、また彼に会う。僕はそっと胸の中にしまい、新しい部屋へ向かうのだった。

始まりのプレイヤー

僕は再びレベルの低い方の部屋に入った。そこには一人だけだったが、メンバーの一人がいた。低ランクのキャラでひたすらに主に嬉しいを連打する。僕もそれに同調した。

すると、今日はいつもと違く主も同様に嬉しいを連打し始めた。人がやっていると自分もしたくなる、人間の性(さが)なのかもしれない。

それに不満を感じたのか彼は困ったを連打した。同調したが、主も同様に行う。

すると、また嬉しいを連打。それのいたちごっこ。長期に渡って行われたため彼は憤りを隠せなかったのか、キャラクターを変える。

僕はスグに詳細を確認した。
そこには、“小学生w”
と書かれていた。

そして、またさっきの繰り返しが行われる。

ただそれだけだったが、孤独が自然と癒やされていくのを感じた。楽しい。そして、人と同じことをしている。それは僕にとって─

数分後、部屋は解散された。だが僕の心はもう一度…もう一度と今のを求めていた。僕は何度も何度も見つからなかったら更新を押す行為を続けた。はりつくように出てくるのを待つ。

早く早く─。 

その後、以前と同じように見つかることはなかった。だが、僕は知った。彼らが出没(しゅつぼつ)する時間帯を。

だから今日は、一回エターナルをプレイして明日のこの時間帯に来よう。僕は落胆(らくたん)しながらもそう思った。


自分で部屋を作りメンバーが集るのを待つことにした。もしかしたら彼が来ると期待していたのかもしれない。

すると、一人のプレイヤーが入ってきた。名前は全然知らないので、変わらず待っていると彼は低ランクのキャラで困ったを連打する。

なっ、何なんだよ…。僕はひたすらに意味が分からなかった。詳細(しょうさい)を見ると、地雷やらなんやらとよく分からない言葉が書かれていた。

僕はそのままそのプレイヤーを放置して他プレイヤーを待っていると、彼はキャラを変えた。

再度詳細を見ると“運営に通報中”と書かれていた。僕の心に恐怖がまとわりつく。
すぐに部屋を解散し、震(ふる)えた。

もしかしたら、自分のしていることがバレているのでは?─そんな不安にかられ僕は名前を変えた。sと。そして、今度から名前を一つにせずいろいろと変えようと思った。


その日はもうエターナルへは行けなかった。


一通の手紙

それから何日もの時が過ぎる。僕は彼らに会うたびに共に困った連打する行為を続けた。いつの間にかキャラ名のボキャブラリーも増え、慣れてきた。

彼らとの息もピッタリあうようになり、その都度僕の孤独は癒やされた。

ある日のことであった。低ランクの方が見当たらなかったので僕は、自分で部屋を作り普通にエターナルをプレイすることにした。

人を待っていると、見知ったプレイヤー名が部屋に入ってきた。そのプレイヤーはいつも低ランクの方の部屋で会う一人だった。

あそこ以外で会うのは初めてだったため、僕の心が不安になる。もしかして、自分が調子にのっていたから…?

だが、様子を見ると低ランクの方の部屋のように何かをする気配はない。キャラクターもちゃんとしていた。
 
それから全員集まり、何事もなく出発した。
そして、プレイ中はいいねやゴメンをするでもなく、着々とステージをこなしていく。

その人はとても強い人だ─僕は彼をとても頼もしく思った。だから比較的簡単にクリアする事が出来た。

今までは低ランクのキャラクターしか見ていなかったため分からなかったが、立ち回り、敵の事をよく考えているキャラ選択どれも素晴らしい。僕にとって彼はとても尊敬に値した。

そして、フレンド申請が出来る画面にうつる。一緒にプレイする事は多かったが、彼とこの場面に来たのはこれが初めてだ。

やはりPLは僕よりも高い。だから申請は気が引けた。僕はそっとその画面を消し次の部屋に向かった。 

殆ど同じキャラしか使わなかったが、それでもエターナルはとても楽しかった。他にも協力プレイのステージはあるのだが、僕はそれに目もくれなかった。

それに意味なんてない、ただ僕はエターナルをひたすらにやっていたい─

2回目のエターナル普通にクリアした後、僕はボックスに何かが届いていることに気付いた。

どうせ、低ランクの方からのフレンド申請だろう─僕はそんな否定的な考えで手紙を開けた。

すると、そこにはサイキと言う名前のプレイヤーがいた。それは、僕よりもPLが高く、そう。よくエターナルで見かける名前だった。

僕はすぐにフレンドになった。よく遊んでくれた人だったから嬉しかった。そのまま一人プレイのステージへ向かう。

心を弾ませながらプレイしている途中、ボックスに一通の手紙が届く。

僕はその手紙によって、これからどうなるかなんて、分からなかっただろう。その手紙が本当の幸福のはじまりか、後悔と苦しみの序章なのかは─


  多くの出会いとのはじまり。  

僕は一人プレイを終えトップ画面に戻ると、手紙が届いていた。フレンド申請かな?僕はそっとボックスを覗(のぞ)くと、点滅していたのは申請(しんせい)ではない…使った事のないエリアの機能だった。  

それは、2人で会話出来る機能。僕には一生縁(えん)のないものだと、目もくれていなかった。

なんだろう? 僕はそれを確認すると、手紙の送り主はさっき承認したサイキというプレイヤーだった。

僕の顔に笑みが浮かぶ。自分よりもPLが高い人がかまってくれたのもあるかもしれないが、手紙を送ってくれた事がとても嬉しかった。

ニヤケで焦点(しょうてん)がさだまらない。僕は必死で文に目を凝らす。

“いつもありがとうございます。低ランクのヤツウザいですね”

僕はなんとか文を読み終わると、早く返信しなければと衝動におそわれる。
文を書くのに慣れていなかった僕は、おかしな文を書いて不快(ふかい)にさせないようにと熟考(じゅっこう)する。

すると、ふと案を思いついた。それは同意する事。相手の意見に対し同調すれば、気分を害することなく、逆にいい気分にさせる事が出来る。

僕はすぐに、文章を書くのに取り掛(か)かり返信を送った。

その後僕は、返信が来るかもしれないと気になりながらボックスを開いては閉じの繰り返しを行った。僕にはもし、手紙が返ってきたら相手を待たせず早く返さなければと言う気持ちが強かったのだ。

しかし、そんなにスグに返ってくる筈がなく数分後、僕は待つのを諦めエターナルで時間をつぶす事にした。

使いたいキャラクターがあったため自分で部屋を作る。すると、驚(おどろ)いたことに彼の仲間のような人が部屋に入ってきた。

これは、もしや─

僕の予感が当たる。エターナルをクリアすると、フレンド申請がきていた。

そして理解した。僕は彼らに何かを認められて、彼らの一員になったんだ─。

終えた僕に、彼からの手紙の返信は来ていなかった。あれは、挨拶をしただけだったのだろう。だから─

僕は今日の喜びを胸にしまいながら明日を心待ちに休むことにした。


変化

僕は次の日、ボックスを見ると手紙が届いていた。確認するとそれは、彼からだった。

内容を読むと、“返信ありがとうございます。育ててもいない雑魚(ざこ)キャラでエターナルに行くなんて、身の程知らずもいいところです。寄生虫(きせいちゅう)は駆除しなければ。これからも共に頑張りましょう!”

彼は、低ランクをとても嫌(きら)っているらしい。以前何かされたのだろうか─。

僕は返信を済ませると、また一通の手紙が届いていた。昨日フレンドになった人だ。

名前はt×t。エターナルに出掛ける時は、よく名前を部屋主に対しての煽(あお)り文にしている人。内容は挨拶(あいさつ)程度だったので、僕はとりあえず後回しにして、エターナルに向かった。

部屋を探すと、低ランクの方が作っているのを発見した。いつもと変わらず、全く育てていないキャラクターで人を待つ。

僕は、彼らが来るまで待機している事にした。ただ時間が刻々と過ぎると、やっと彼らが来た。

キャラクターを変えず、出発を待っていると彼らはいつもとは違う…モンスター選びに手間取っていたのか、長考していた。

僕は、変わらず待ち続けていると、突然キャラクターを変えたと思うと同時に完了した。主も早く行きたいと思っていたのか直後に、画面が切り替(か)わった。

真っ暗な画面の中、僕は考えた。一瞬(いっしゅん)だが、彼らはAA以上の、勝てる可能性のあるキャラだった。もしかしたら、以前の事は飽(あ)きてエターナルを普通にクリアする楽しさに目覚めたのではないか…。

そうすると、僕の選択したキャラは場違いだ。そんな不安をよそにステージは切り替わった。

とりあえず防御して周りを見ていると、彼らは時間ギリギリで味方敵ランダム攻撃を選択した。

そして彼らは、相手に当たるとゴメンを連打し、味方に当たるといいねを連打した。

やはり彼らはクリアする気はない。いいや、自分の力で勲章を取ってほしいと言う思いやりからやっているのかもしれない。
しかし、極端な低ランク嫌いは甚(はなは)だ疑問だった。あんな事が起きるまで、僕は理解なんて出来なかっただろう─。

全滅した後、キャラクターに彼らが使っていた技を入れた。次回は僕もこれを使おう─と。

再び

それから僕は、彼とよく手紙でやり取りをした。内容は、新規と低ランクの話ばかりだったが、以前には比べようにない程の喜びがあった。

ある日の事だった。彼はこのゲームについて、語りだす。

“スタミナ回復するのが遅すぎるんですよ!それにやる事が少ない。だから、エターナルをやるしかない。もっと早くしろと問い合わせた事あるんですが、改善されない。このゲームは低脳のゴミ運営しかいないオワコンですねw。”

僕はただひたすら肯定(こうてい)した。たが、内心ではこのままでいいとも思っていた。やり込み要素が増えれば増えるほど、人がエターナルから離れていく。つまり、この楽しい時間が無にかえってしまうからだ。

人との関わり合い、現実では楽しいとは思わなかった。だが、ここでは違う。僕の心を癒やしてくれる何かがある。楽しいと思える。だから─

僕はエターナルで適当な部屋に入った。すると、見覚えのあるプレイヤー名がひたすらに困ったを連打していた。以前僕に、運営通報中なる名前で煽(あお)ってきたやつだ。名前はクロコ。

相も変わらずキャラ名で煽ってきた。以前は怖かったが、それから音沙汰(おとさた)がなかったので、通報されていなかったのは理解している。つまりこいつは、僕に嫌がらせがしたいだけだ。

僕は負けじと煽り名のキャラを出し、応戦した。彼の文を見ては、自分のキャラをひたすらに変えていくだけだったが、とうとうネタが底をつきた。

僕がキャラクターを変えられずにいると、次に彼は驚きを隠せないようなキャラを出した。

“俺はARASUだぞw”

ARASU、それはアイドルグループの名前だ。
殆どゲームをやっている僕だが、聞いた事がある。つまり、知名度があると言うことだ。僕は再び部屋を去った。

罪悪感に襲われる。そんな人に暴言を吐いてしまったのかと─。

その後、僕は、サイキさんにクロコと言うプレイヤーについてたずねた。
すると、スグに返信がきた。

“そういう荒らすには関わらない方がいいですよ。”

ただそれだけ書かれていた─


終息と予兆

僕は、荒し(あらし)と言う言葉について検索(けんさく)した。すると、ゲーム上では他プレイヤーにとって不快(ふかい)かつ、迷惑(めいわく)な行為(こうい)を行う者についてを言うらしい。

彼のしてきたことは、確かにそれに準ずるものだった。僕は戻り、エターナルへ向かった。

普通にプレイしようと思っていただけだったが、クロコがいた。相も変わらず、荒し行為をしていた。不満があるのならば、自分で部屋を作ればいいのだが。

僕は、すぐに部屋を抜けた。彼がいると出発出来ないのは分かっていたからだ。

そして、この時間帯には彼が出没する時間帯。そう理解し、一人プレイへと出掛(でか)けた。

僕は終えると、すぐにエターナルへ向かった。探している最中驚きを見た。殆どの主の名前がクロコ被害者(ひがいしゃ)の会となっていたのだ。

その中で一つの部屋に入ると、そこには煽り文の低ランクキャラで困った連打する彼がいた。

内容は変えずにただひたすらと孤立奮闘(こりつふんとう)するさまはどこか魅(み)せられるものがあった。

しかし、エターナル内でこのような大騒ぎになるとは予期していなかっただろう。主は、クロコ反対をかかげ、彼に抜けるよう通告する。

だが、彼はキャラ変えてはゴメン連打を続け、やめる気配はない。このまま永遠とこれが繰り返されるのかと僕は部屋を抜けようと思ったその時だった。

他で部屋を作っていたであろうクロコ被害者の会と名前にしたプレイヤー達がここへ集まってきたのだ。そして、彼を批判(ひはん)する名前のキャラクターで一斉攻撃(いっせいこうげき)だ。

流石(さすが)にこれには参ったのか、クロコは部屋を去る。

エターナルでの協力プレイがまさかこんな事に役立つなんて…


これにより、エターナルでの危機は去ったのかもしれない。だが、僕としてはどうも他人事に思えない気持ちでならなかった。

その日、メンバーでエターナルをなんとかクリアした後も、クロコ被害者の会と言う名前は絶えることはなかった。

似た存在と壊す者達

僕は特定の時間になると必ずエターナルで低ランクの方を探した。彼らと出会わずともひたすらに。中には、名前で反発してくる者もいたが、変わらず続けた。

ただそれをする行為にはやり甲斐(がい)すら感じた。多数の者で特定の者を排除する。いや、両者容認の遊びだからかもしれない。

僕は、今日も彼らとのエターナルでの行動終えると無性に普通にプレイしたくなった。すぐに適当な部屋を探した。

中に入ると、前にあったプレイヤーがいた。
☆モーギス★という奴だ。彼は、すぐに前と同じキャラクターを選択し出発を待った。

僕は以前のことがあるため、すぐに詳細を確認する。すると、中に敵味方関係なく攻撃する技があった。協力プレイでこの技を使うのは、嫌がらせか、遊びだ。

この場合は、嫌がらせだ。
主は技を見てか、困った連打をはじめる。

しかし、彼は放置をしているかのようにそれを無視し待ち続ける。前のクロコとは違ったタイプの荒しというやつだろう。

これでは埒(らち)が明かない。僕はそっと退出した。
すぐに他の部屋を探すが、さっきの部屋しかない。僕は仕方がないと一人クエストへ向かう。

今日新しくイベントダンジョンが入荷された。それはとても一筋縄(ひとすじなわ)では行かない程に難しい。僕は攻略に行き詰まった。

ふと、昔よく調べていたものを思い出す。攻略サイトという存在だ。いつでも見られて、とても詳細にのっていてとても役に立つ。これ以上は自分の力ではどうにも出来ない。そう思った僕は攻略サイトへ向かった。

思った通り僕の欲しがっていた情報はすぐに手に入った。持っているキャラや技で攻略可能のようなので、気持ち高々で戻ろうとしたその時だった。雑談掲示板(ざつだんけいじばん)のスレに見覚えのある名前が目に入る。

僕は戻るのを忘れそれに釘付け(くぎ)になった。内容は、“クロコ被害者の会って何ですか?”と言ったものだ。

クロコと言えば以前荒し行為をして、エターナルをやる方々にボコ殴り(なぐ)にされ追い出されていたプレイヤーの名前。
僕は興味を掻(か)き立てられそのスレを開いた。

本当の幸福と苦しみはこれからはじまることをまだ─