気まぐれ
あれから本多さんは家から姿を見せていない。
加木さんは「すぐに戻ってくる」と言っていたが、それを言ってからもう1週間も立っている。
彼女に何があったのだろうか?
私はその事が頭から離れなかった。きっと、宗多さんが絡んでいるんだろう。
私は深くその事について聞けない自分が居た。
口に出してしまえば、傷付けてしまうような気がして。
───────
今日、変わったことがあった。
自分の住むアパートの前に、男の人が立っていた。結構年上で、30代後半~40代くらいだろう。
彼はなんだか顔を隠していて、周りをとても気にしている。
こんな時、普通だったら、警察に電話するところだろう。
しかし、私は何故か、引き寄せられるように、その人に話しかけた。
何をしているのか?と。
すると、彼は、人に追われていると言った。
ちらりと彼の持っていたバックを覗くと、沢山の紙が入っている。
警察に言った方がいいのではと聞くと、彼らは信用ならないと言った。
私は「匿って欲しい。」と言われ、何故か、彼を自分の家に泊めることにした。
いつもだったら、こんなことはしないのに。どんな心境の変化だろうか…?
私はふと本多さんのことが浮かんだ。
それを振り払って、泊めた男を見ていた。
彼はいつも、机や、テーブルに向かってただひたすらに何かを書いている。
時間があれば、ただそれをひたすらにしているのだ。
たまに話しかけると、いつも変わったことを言った。
偉人と呼ばれたい、有名人と呼ばれたいそんなことがあるだろう。
しかし、私は、そうは思わない。
称号や、分類はそれだけでしかない。自分よりもなし得ていない人間も同じように呼ばれる。
だからこそ、私は、名前で呼ばれる人間でありたい。
ある日は、天才について、天才とは過程であり、その人に一緒についてまわるものではない。
何か素晴らしい建造物を思いついた人がいる。けれども、その人は思いつき終わってしまえば、もう天才ではない。
その途中、考えている時こそが天才だからだ。
など、まるで、加木さんのような変わったことを言う。
少し面白い人だと心の中で思った。
またある日、彼は加木さんの思想について尋ねてきた。
「この世に間違いはあると思いますか?」
僕はとても驚く。何故、彼の思想を知っているのかと。
けれども、まずは、その返答について考えた。
私の立場からしては、彼の考えは、申し訳ないが、肯定できない。
勉強は確かに、完全なものでは無いかもしれない。けれども、多くのことを教えてくれるそれであるからだ。
その中には、間違いというものが必ず存在しなければいけない。多くの見方を教えてくれるそれは、自分にとても大きなものを与えてくれる。
だが、否定もできない。新しい発想をする時、必ず、間違いと思われているものすらも、そのきっかけになり、そして、今、正しいと思われているものすらも、未来には否定されることであるからだ。
「分かりません…」
私はそう答えると、彼は「そうですよね。」と言って続けた。
「私はその考えを、ある男から聞いたのですが、そんな訳がないと否定したくなりました。」
「しかし、最近、気付いたんです。私は間違いのない世界というものに生かされていることに。」
彼はそう言って、彼はまた何かを書き始めた。
ある男とは加木さんのことではないか…?私はそう思ったが、邪魔しては悪いと思い外に出た。
今、無性に、加木さんに会いたい気分になっている。
彼は、今、何をしているのだろうか…?
しかし、もう前のように、どこかへ行けば会えるなんて場所はない…。
私がそう思いながら歩いていると、前から加木さんがやってきた。
私は少し驚く。困っていたらやってくる特撮や、アニメのヒーローのよう思えた。
私は彼に挨拶すると、何も言わずに一緒に行くあてもなく歩いた。
───────
きっかけ
「教祖様、いいのですか?」
信者がそう言うと、彼は「えぇ。私の宗教に危害加えないのなら、あの男が棄教しても何も問題はありません。」
「はい。」
「昔のようなことになるのは、避けなければいけません。」
集多がそう言うと、信者はその場所を後にした。
そして、1人になった時、過去のことを思い出していた。
───────
子供の頃も私は今と変わらず宗教家。
私の家だけの宗教で、他の多くの人達には知られていなかった。
子供の頃、他の宗教に入信している人が許せなかった。自分の入っている宗教が正しい。
だから、他の宗教は異端で間違っている考え方だ。
私はいつもそう言って、他の宗教の人を、自分の方へと入れようとした。
けれども、反発されて、思うようにはいかない。
正しいことをしているのに、どうして…?
私はそう思って1人で悲しくなっていた。
けれども、段々分かってきた。
自分の考えを無理矢理誰かに押し付けようとすれば、必ず反発されて、絶対に自分の入信しているそれには入ってくれない。
そして、相手のことを考えなければいけないのだ。それは押しつけではなく、相手の話をよく聞いて、寄り添うように。
相手のことを受け入れなければいけない。
そう思った次の日のこと。
前から、ずっと、この宗教について、外部から間違っていると圧力がかかっていたらしい。
私の父が、この宗教を自分で否定した。
今でも、言ったことを覚えている
「この世に神は居ないんだ。」
私はそれが許せなかった。
絶対的なもの。それが存在しないのなら、私達は、何故生まれてきて、今を生きているのか?
すると、段々、心の中に浮かんできたものがあった。
誰が神なのか…?
神様、それは私だ。
そこから、宗教を作ることを決めた。
人はどこか人とは違う何かに引き寄せられる。けれども、その人が、何も無く、人格者でないならばすぐに離れていってしまうだろう。
だからこそ、私は、多くの考えを受け入れることを決めた。
寛容であれば、それだけ多くの人が私の元に集まるだろう。
それから、私のまわりには、沢山人が集まった。
けれども、ある日、加木に出会ったのだ。
彼はいつも、誰かに何かを否定されている。
それが彼の思想だった。
この世界には間違いがない。
私はそれを聞いて、なんだか、無性にイライラしてしまったのだ。
どうしても、そんなことを平気で言う彼を許せなかった。
─────────
2人で歩いている時、ふと、本多さんのことを思い出す。
「そういえば、彼女はどうなったんですか?」
そう聞くとまだ音沙汰はないのだと言う。
しかし、「絶対に帰ってくる」ととても自信満々に言っていた。
彼はどうしてそんなに何かを信じれるのだろうか…?私は不思議で仕方なかった。
何かを信じれば、どこで必ず裏切られるのに。彼は裏切られてもなお、信じ続ける。
とても強い人間…。そう思った。
そして、私は加木さんと別れて家に帰った
偏り
人は偏っている。
見方がいつも。
そこで私は考えた。
偏らない考え方について、話してみようと思うのだ。
まず、大きな偏りについて話そう。
人は見方によって、全員がそれをやっているように感じてしまう。
例えば、1000万人の人がハマっていることと言えば、それは、多くの人がやっていると思うだろう。
しかし、見方を変えてみよう。40億人居て、1000万人がやっていたら、それはとても多くの人がやっていると言うことなのだろうか?
全体としてみれば、0.25%の人がやっているに過ぎないのだ。
それは1000人に2~3人程度、それが多くの人間がやっているとはどうしても思えない。
つまり、偏った見方であることだ。
統計学でもそうだ。その選んだ人が、皆、偏った何かであれば、内容によって、全く異なったものになる。
例えば、全国で、サッカー好きな人はどのくらい居るのか?と題して調べたとする。
その場所が、サッカーの観戦をしている人限定で聞いたとしよう、そうすれば、必ず偏った結果になり、正しい統計とは程遠いものになってしまう。
県で考えてもそうだ。
その県では、多く食べられてるものを、全国でもとして考えるのは、偏っている。
統計でなくても、偏りというものは沢山ある。
束縛する心だ。
それは偏った思考からうまれる。
相手は自分に不都合を及ぼすのだと、そればかり考え、その人に関わってはいけないと利己をはたらかせるのだ。
それよりもまず、感謝を考える方が先決だろう。自分は相手に関わってもらっている。
それはとてもありがたいことだ。
自分が、とても大きな犯罪をしたと考えてみるといい。人は彼のことを恐れ、そして、差別する。
相手にされないことだってあるだろう。
それに比べれば、関わってもらえているだけありがたいだろう。
たとえ、その人が裏で陰口を言っていたとしても、それを考えることは偏った思考であり、その人の決め付けでしかないのだ。
悪いことが起こるのではないか…、不安が沢山ある…。そういう人が居るだろう。
しかし、それは現実に目を向けていない。
けれども、何も起こっていない今がある。
それには感謝ができるだろう。もし、未来に何かが起こるとしても、今は何もないのだから、できることをすればいい。
起こってしまったのなら、その時に考えるしかない。
私は今まで語った、偏った思考というものを、どうしたら克服できるのか考えた。
その方法は案外あっさりと、思いついた。
均衡を保つことである。ネガティブが行き過ぎれば、自責に、ポジティブが行き過ぎれば、相手がしてきたことに対して苛立つ。
だからこそ、必要になってくるのは、ポジティブとネガティブの狭間の感情。
それこそが、均衡を保つことである。
どんな物事においても、中立的な人は、深く傷付くことはないだろう。
この意見はこれだと揺るがない決心を付けてしまうから、人は苦しくなるのだ。
どんなことにも、肯定派と否定派がいる。
肯定派は否定派に、否定派は肯定派に傷付けられる。
それなら、その中間地点に居ることで、自分を保つ方が偏りなく生きられるのではないだろうか?
いつも偏りというものが、負の感情を作り出す。私は均衡というものを大事にして行きたい。
だが、これを言っている私も、偏っている思考であることを忘れないでいて欲しい。
────────
ストーリー①
私が家に帰ると、メモ帳が落ちていた。
そこには、色々なことが書かれている。その人の想像かもしれないが、私は面白いと感じた。
有名人や、偉人をその人以外が書いた小説は、人物の過去ではなく、その書いた人物の過去をうつしだしているのかもしれない
偉人になりたいと言うことは、いつまでも生きるということを諦めている。
できないことはしなくていい、今ある自分に満足して、その範囲内のものを使おう。だが、本当に心の底からしたいと願うのなら新しい部分をできるようにしていいだろう。
他にも色々あった。彼は夜によくどこかに出かける。夜は多くの創造が掻き立てられる時間だと言っていた。
今日もどこかへ出かけたのだろう。
────────
私はこのゲームが好きだ。
小さい頃から、格上の相手と何度も対局した。
ただ盤面の中の世界、しかし、今まで経験してきたものがハッキリと現れる。
油断によっても勝敗が決し、大きすぎる差でなければ、最後までどちらが勝つか分からない。
そして、大きな集中力を要する。
1回に何時間もかけるなんて人も居る。ただ、その一手に大きな意味があるのだ。
私は小さい頃に、とても強い方に弟子入りし、将棋について多くのことを学んだ。最初の型や、中盤、終盤の考え方などさまざま。
そして、格上の方に、香の駒落ちをしてもらい、対局をしてもらったことが沢山ある。
そこでは、いい手を見つけた時、とてもキラキラとした何かを手に入れたような気がして、私の心はとても嬉しさで一杯になった。
だが──────
私は大人になった。当時は神童と呼ばれたり、今でもそれは変わらずあり、とても強いと多くの関係者から賞賛の声を浴びる。
けれども、私はお酒に溺れた。
将棋は楽しいはずだった。
だが、強くなるにつれて、壁にぶつかることになる。
それが、身分だった。
私は多くの関係者が認める強い棋士だと認められている。
だが、それでもなお、今の段位から次の段位へは上がれなかった。
出身によって、出世の道を閉ざされてしまったのだ。
将棋は楽しいものでは無い。そう思って投げ出そうと思ったこともあった。
けれども、私の頭に何度も、あの盤が現れてくる。
その度に、辞めてくれと呟いた。
だが、それらを消し去るように、子供の頃に指したとても嬉しかったあの手が今あるかのように浮かんでくる。
それを考えると、私はまた盤に向かった。
年齢も年齢で、私には弟子ができている。
指導対局として、 よく香落ちで対戦する。
私は将棋に対してのネガティブな気分を捨てられず、対局に向かった。
すると、上手くはいかず、負けが続いた。
年齢も年齢だ。負けても仕方ない。
そう思って、最後に一局をした時。
私の目の前が眩しい光で照らされた。
一手一手が、とても希望に満ち溢れ、夜に輝く星のように輝いていたのだ。
これはなんだろう…。
私は眩しさから目を細めてそれを見つめていた。
すると、子供の頃の情景が浮かんできたのだ。
あの時は、将棋に対して、純粋に楽しいと思って、新しい手が見つかるととても喜んだし、まるで、何か財宝を見つけたような気分になった。
相手は、まるで、昔の自分のようだ…。
私は彼につられて、真剣に盤面と向き合った。
最後までどうなるかは分からない。
だからこそ、一時も気を抜かず、向き合うのだ。
私は力強い指し手で、玉を攻めていった。
後ろには、若い頃の自分が背中を押してくれているようだった。
─────────
対戦は序盤、中盤の差から負けてしまう。
けれども、私の心はとても満たされているような気分だった。
そうだ。私は将棋が心の底好きなんだ。
──────────
ストーリー②
僕にはとても大好きなお姉ちゃんが居る。
いつも元気で、励まされている。
ところで、この世界には幸せの鍵というものがあるらしいんだ。
それを手に入れて、あったものに使うと、幸せが開けるって。
友達はみんな噂してる。
でも、僕には必要ない。だって、今がとっても幸せだから。
────────
でも、ある日のこと、お姉ちゃんは病気で寝込んでしまったんだ。
いつも優しくて、微笑みかけてくれる顔には、曇りがかかってる。
僕はどうして…?って思った。
もう一度、お姉ちゃんの笑顔がみたいって、すると、あの事が浮かんできたんだ。
幸せの鍵。
僕はそれがどうしても欲しくなった。
でも、どこにあるのか分からない。
だけど見つけたい。
僕はそう思って、病院を後にしたんだ…。
─────────
走っていると、前から来た人に何度もぶつかる。
それに怒ったりした人も、大丈夫と気にかけてくれる人も居た。
だけど、僕は必死だった。
その人達に目もくれず、走り続けたんだ。
すると、何か光っているものを見つけた。
誰もそれに気付いていないのか、通り過ぎていく。
僕はその方向に走って、ようやくのことで、その光っているものを拾い上げた。
すると、それは何かの鍵だった。
もしかしたら、幸せの鍵かもしれない。
僕はそう思って、それをポケットの中に入れると、また病院に向かって走り出した。
しかし、黒い影が僕の後ろに迫ってきていたんだ──────
病院近くなった時、僕の目の前に1台の車が止まった。
大人の男達が僕を囲んで、さっき拾った鍵をと言ってきた。
だけど、お姉ちゃんが元気になるって思ったから、それを振り払って、病院に向かおうとする。
けれども、すぐにつかまってしまったんだ。
僕はポケットにしまってあった鍵を取り出して、抜け出そうとすると、誤って鍵が川の中に落ちてしまった。
男達は、僕のことを気にせずに、その鍵が落ちた方へと向かっていったんだ。
僕はとても悲しくなった。
あんなにも欲していた鍵をなくしてしまったこと、そして、お姉ちゃんの笑顔がもう見れないかもしれないってことに。
その場で沢山泣いた。
涙が地面に落ちていって、湿っていく。
すると、心の中に綺麗な光が現れた。
その光は僕の心の中でこう言ったんだ。
「あなたはもう大切なものを手に入れています」
その声に泣き止んで、あたりを見回したけど、そばには誰も居なかった。
「誰なの…?」
そう言っても、誰も答えてくれない。
僕は病院に走っていった。
そして部屋に着くと、お姉ちゃんは寝室で、座っていた。
そして、僕に気付くと笑顔でそっと微笑んでくれたんだ。
僕はその時間がとても嬉しくて、幸せだと思ったよ。
「ありがとう」
僕の顔を見て、ただそう微笑んでいたんだ
───────