世界の全て②

私がそれを望むから①

私たちの生きる意味はなんでしょうか?私たちは、なんのために頑張って、なんのために苦しんで、なんのために消えていくのでしょうか?

その答えはどこかにあるのでしょうか…?

これは、山に住む少女のお話と、ある2人のひと夏のできごとです。

少女は夢をみました。

とても恐ろしい夢でした。

とてもとてもくらい道の中を1人で、泣きながら歩く。

お母さんと一度声をもらしても、かえって来ることはなかったのです。

ふっと目を覚ましても、その恐怖は続きました。夢の怖さより、みんなと別れてしまう恐怖の方が大きかったからです。

「私はどうして遠くへ行かなければならないの?」

その質問を投げかけても、大人たちは少女に顔を逸らして、答えてはくれませんでした。

村長さんに聞くと、この村の近くに、妖怪がいて、50年に1度村に来ては、悪さをはたらくのだと言いました。

それを防ぐには少女をその場所へ連れて、妖怪と遊ぶと悪さはしなくなると言うのです。それは、子供でなければダメなのだそう。

最初は苦しいかもしれないが、段々楽になると、背中をポンポンと叩いたのです。

私は少ししょんぼりしながら、頷くと、家に帰りました。

そして、明日がその日。

お別れの前に、お母さんが、近くの村に住む私の好きなお兄さんの家に連れて行ってくれました。

その人は、沢山遊んでくれたり、美味しいご飯をふるまってくれたりする優しい人です。

今日もいつものように遊んで、そろそろ帰らないと行けない時間になりました。

私は段々怖くなりました。もうみんなや、お母さんに会えない、そして、お兄さんとはもう遊べない。

とても悲しくて寂しくて涙がこぼれました。

どうして私は1人でどこかへ行かなければならないの?どうして…?

その思いが募って、少女は声をあげたのです。

「私はどこにもいきたくない。お兄ちゃんや、お母さんや、みんなと一緒にいたい。もっとみんなと沢山遊んだりたのしくしたいの…」

すると、お兄さんは、「分かった」と言いました。

それを聞いてお母さんは不安な顔になりました…

それから、少女がいないところでお母さんとお兄さんは2人でお話をしたのです。

「本当に大丈夫なんでしょうか…?」

実は、少女が住む村には、とても壮絶な過去があったのです。

それは、数百年前のことでした。当時村は、色々な災害に悩まされていました。

毎日が地獄で、気が休まる日が無かったのです。

その村では、古来より、生贄というものがありました。小さい子供を捧げることで、平和が訪れると。

村の人達は、1人捧げました。

皮肉な事に、それからぴたりと災害は止みました。村の人達はそれを信じ、50年に1回、災害を遠ざけるための儀式を行うと…。

お兄さんは言いました。大丈夫だと。

「災害が止んだのは、ただの偶然だったかもしれない。それに、1人の人間の犠牲のもとに成り立つ平和なんてあっていいのだろうか?」

「僕はそうは思わない。悲しみは繰り返してはいけないんだ」

お母さんは震えて言いました。

「それが間違っている事だとしても…?」

お兄さんは首を振りました。

「間違っている事なんて実はどこにもない。僕は、本当に無理なことはしては行けないと思うんだ。彼女の意志を尊重してあげよう。」

お兄さんがそう言うと、ポロポロと涙を流し、少女の近くにいきました。

出発は今日の夜、ここではない、どこか遠くへ行こう────


あれから、10年の月日が経ちました。少女はとても大きくなり、楽しい日々を過ごしていました。

今まで、色々な場所へいき、嬉しいこと、悲しいこと、辛いことを経験してきたのです。しかし、後悔は何もありませんでした。

今までも、これからも。

たまに、村のことを思い出すことがあります。今はどうなっているのか?悲しみが繰り返されないこと、それを祈るばかりでした。

悲しいことを思い出す時は、気晴らしに出かけました。今日もでかけます。

重い足取りから進むにつれて軽くなっていきスキップにかわります。

私にとって生きること。

それは…

─────────

私がそれを望むから②

春の初々しさが過ぎ夏が来た。

とても暑い毎日、私は思った。

やっぱり、夏は寒いところに、冬はあったかいところにいきたいな。

私は少し遠出してみることにした。

それが彼女との夏の日の始まりだった───

電車に乗って海へ。

ガタンゴトンと揺れながら、通り過ぎる町や、風景を眺め、とても青く広大な水たまりが見えるのを待った。

私はいつの日か、心が動かなくなった。本当に楽しいことも、本当に悲しいことも、段々分からなくなっている。

それは、いつからだったのか…?

海から帰る時も、それは変わらなかった。心の底から楽しいと思えない。少し寂しさがモヤモヤと私の中に曇りを作る。

そんな時だった。私の後ろから服を弱く引っ張るのが感じられた。

その方向に体を動かすと、小さな女の子が居た。

「どうしたの?」

と聞くと、

「お姉ちゃん」と言った。

周りを見渡しても、保護者らしい人は見当たらない。

きっと迷子なのでしょう。次の駅についたら、駅員の人に言おう。

そう思っていると、少女は言った。

「お姉ちゃん、私を…1人にしないで…!」

私はふっと、昔のことを思い出す。それは、とても小さい頃でした。公園に1匹の捨て猫が居たのです。

とても可愛くて、帰ろうとすると、とても悲しい顔になって、私はお母さんに頼みました。猫を飼えないかって────

私は、駅員の人に伝えるでもなく、少女を家に連れて帰りました。その道中、彼女は、とても嬉しそうにスキップして、私は何かが締め付けられるような感覚になったのです。

家に着くと、少女は、「ありがとう、お姉ちゃんのこと好き!」

いつからか、消えてしまった感情が蘇るような。そんな気がしました。

彼女は、まるで、あの時の猫のように可愛かった──────

少しして、我に返り名前を聞きました。
今日は夜遅いから、明日、警察に行って少女を親元に帰そう。とても心配してるに違いないから…。

すると、答えました。「私の名前は…なつぞらなつぞらゆき!」

撞着語法のような名前に戸惑いながらも私は、

「ありがとう。明日、お母さんのところに帰れるからね。」

「多分、親御さんとはぐれちゃったのかな?ゆきちゃんのこと、心配してると思うよ!」

すると、ゆきちゃんは下を向いて答えた。

「私にお母さんは居ないよ…!お姉ちゃんしか居ないの…」

喧嘩したのかもしれない。

気を紛らわすために、私はトランプのゲームなどをしてゆきちゃんと遊ぶ。

すると、少女はとても喜んだ。

そして、「嬉しくて楽しい」とニッコリと私に微笑みかけた。純粋な笑顔、とうに忘れてしまったものだった。

それを見て、私の頬にも、ポロッと笑顔がこぼれる。ゆきちゃんと居ると、私は昔の感情を取り戻している気がする。

私はいつの間にか、遊んでる間に、少女のことを手放したく無くなっていた。

「ずっと一緒に居たいね」

ゆきちゃんの言葉が、私の心の中に反響した。

─────

可愛い猫、一緒に沢山遊んだ。いつもいつも。

───────

次の日、少女を家に居させた。

出掛けることも多く、心配したが、いつも帰ると元気そうにして安心する。

私は少女の笑顔がみたいとまた遊びに誘った。ゲームは、前とは違ったことをした。

そして、いつものように笑顔をみて、私の枯れてしまった何かを再び花開かせる。


そんな毎日が続き、2週間が経った。

家を出ていた私が帰ると、少女は居なくなっていた。

私は近所を探す。しかし、見つからない。

胸が苦しくなった。昔もこんな事があった気がする。

捨て猫、いつの日だったか、私の前から姿を消した。見つからなくて私は涙を流す。

あの時からだった。私の心が動かなくなったのは。

私は、警察に、行方不明になったと、名前を言うと、その名前は存在しないと言われた。

偽名だったのだろうか?

そして、少女とは、もう二度と会えないかもしれない。そう思うと、私の中にポッカリと穴が空いてしまった。

私にとって、少女はあの時の猫だったのかもしれない。楽しくて一緒に走り回ったあの日が懐かしいように感じられた。

感情は前よりも少し変わった気がする。

寂しさを心に宿しながらも、私はいつも通りの日常を送った。


そして、またある日のことでした。

「お姉ちゃん!」

その声に振り返ると、少女が居たのです。

私は彼女を見ると、寂しさがどこかへとんでいき、抱きしめました。

「寂しかった。あなたは私の希望だったの。心を彩らせてくれる特別な時間、もっとあなたと遊んでいたい…。」

心の中でも強くそう思いました。しかし、自分の中の弱さは、日が経つにつれ、顕になっていったのです。

偽名、それが気になっていました。彼女はなぜ嘘をついたのか?

私は少女に、名前のことについて言及しました。

「本当の名前は何なの?」

と。

しかし、私の名前は夏空ゆきだよっと言って変わりませんでした。

「本当のことを教えて」と問いただしました。すると、少女は悲しい顔になったのです。

私はいけないと謝って、その話を辞めました。しかし、その事は、脳裏を何度も過ぎって、少女に悲しい顔をさせることになったのです。

それが続いて、ある時、私はこれではいけないと考えました。そんなことは忘れて、楽しく過ごしたいと。

あの時は、楽しい時間だった…。

なのにどうして私は、悲しいことをしてしまったのでしょう?

この時間は私にとっても楽しくないのに…。

これを変えたいと言う思いが強くなりました。もっと沢山いろいろなことをして遊んで、少女が悲しくなってしまうことは、忘れてしまおう。

そう思いました。

しかし、次の日、彼女はまた姿を消していました。

前よりは、悲しみは軽減して居ましたが、どこか、寂しさが変わらず心の中にあり、家の近くに居ないかさがしたのです。

しかし、見つからないと家に戻って座り込みました。

心の中には、楽しかった日々が思い返されました。もっと一緒に居たい…。

その想いが何度も何度も頭の中を巡りました。

もうそろそろ、夏は終わり、秋の季節に。私と少女が過ごした日々は、たったひと夏のできごとでした。

しかし、一つだけ、変わらずあるものがあったのです。

もう戻ってこなくてもいい。未来が幸せな時間であれば…。それで…。

でも、もし、また戻ってきた時は、沢山少女と遊ぼう。私は、あの子が、笑顔になれる時間を作ってあげたい。

なぜなら…


────私がそれを望むから────

勝負事

それは、私が大学に入って間もない頃だった。

子供の頃のトラウマを引きずってか、中々、人とは馴染めない。

それが災いし、困ったことが度々起こった。

そんな時に、1人私に声を掛けてくれた人が居た。

それが真子さんだったのだ。

友達が呼ぶのを断って、その困っていることに対し、色々教えてくれた。

そして、段々距離も近くなった。

彼女がどう思っているのかは分からないが、私にとっては、ありがた迷惑と思っている。

私は自分からなるべく周りとシャットアウトして、関わりを避けていた。

それなのに…

真子さんの近くにいた、あおしくんもよく絡んでくるようになった。

困ったことは、2人に聞けるようになった。しかし、心の内を晒せば、馬鹿にされて私の元から離れていくだろう。

だからこそ私は─────

目を覚ますと、2人は居なかった。

そうだった──あの後、ご飯を食べたあと2人は家に帰ったんだ。

───────


ある男が、とある家を訪れた。

とても変わった人がいると噂を聞いて。

その人は、困ってる人の相談に乗ってくれるらしいのだが、ずっと、どの質問に対しても、変わらないことを言ってるらしいのだ。

彼はそれにとても興味をもった。ちらりと聞いた話だが、あの人はきっと頭が固いのだと、果たして…?

そして、対面する。

その人はまず最初に、「この世界は殆どが2つに分かれている。」

と言った。

そして、それの説明を続ける。

「この中には、保守派と革新派、否定するものと、肯定するもの、その他様々ある。」

「君は、対義語を知っているかい?」

それに男は「あぁ。」頷いた。

「1つの例をあげてみよう。勝利と敗北、これは対義語だ。」

「この2つの関係性、それは、とても密接に関わっている。勝利したいは、負けたくないと言い換えられ、負けたくないは、勝利したいとも言い換えられる。」

少しあけるとまた話し出した。

「負けると苦しいと悩んでる人が居るとするだろう。僕は、必ずその人に、勝ちを気にしないことを進めている。何故なら、勝ちと負けは密接に関わっているからだ。」

「どれだけ勝ってもそれについて気にしない。それができる人間こそ、負けを考えない人間になれるだろう。」

その後、自分の話は終わりだと言うと男に質問を振る。

「多くの悩みは、1つではなく、2つのことで苦しんでいるのさ。

君は、何の悩みを持っているんだい?」

男は、それには答えず、感謝を告げると帰っていった。

ただ、自分の考えてることを話しただけだったが、男は、何かが得られたような気がしていた。

「間違いがない世界、それは、理想の世界ではないのかもしれない───」


──────

それから、男はある女の家に行った。

「加木くん、今日はどうしたの?」

男はとても真面目な顔になった。

「実は、今日ここに来る途中、凄いことを聞いたんだ。」

それに、少し呆れながら聞いた。

「何があったの…?」

「子供たちが話してたんだ。この近くにUFOが止まってたってさ。しかも、警察に連行されたらしいんだ。これは、ニュースになるぞ。」

女は少しため息をつくと言った。

「そういうところ、昔からなんにも変わんないのね。そんなのデマに決まってるじゃない。」

しかし、自信高らかに返す。

「今回は絶対にそうだって。勝負しようか?」

女はメモ帳を取り出した

「これで、私の198勝9敗ね。」

「メモってたのか。まだわかんないだろう、今回は大丈夫だから。」

「ホント、その、なんでも正しいと思っちゃう癖なおした方がいいと思うよ…。」

────────

それから、数日経った。そのニュースは、放送されることはなかった。近所も平穏無事な毎日が送られている。

きっと、あれは、デマだったのだろう。

信じていたものが嘘であり、勝負にも負けた。

しかし、男は何も無かったかのように、今日も新しい情報へと向かって行ったのだった─────

再会

あれから、加木さんはどうしてるだろうか…?

そう思った私は彼と出会った公園のベンチに座っていた。

空には、真っ青な空の中に、雲がふわふわと浮かんでいた。私の考えで行くと、あれら全ては知識でできているのだ。

ゆらゆらと少しずつ雲が動くのが見える。

ハッと意識を戻すと、隣に彼が居た。

いつもと同じ椅子に座り、私と同じ、雲を見ていた。

私は、思い切って話しかける。

「お久しぶりです。」

そう言うのを聞くと、彼は立ち上がる。

「懐かしい、新しい考えをくれた人。俺は、あの時から更に発展した思考を手に入れた。

そう、それは…。」

少し間を置くと、彼は思い切って口に出した。

「この世界には、間違いも、正解もないと言うことだ。

間違いのない世界、その逆は正解しかない世界だ。それが理想の世界だと思われていた、しかし、間違いと正解は、とても密接に関わっている。

どちらかを抜きにすることはできないんだ。」

彼は握りこぶしを作った

「だからこそ、俺は、間違いも正解もない世界を理想とする。」

そう言った瞬間、沈黙が走った。

もしかしたら、多くの人は、おかしいと笑うかもしれない。

私はとても感動していた。

────────

それは、私がまだ幼い時の事です。

その時、猫を飼っていて、とても可愛がっていました。

いつも一緒に遊んでいたのです。

毎日がとても楽しかった。

心からそう思っていたのです。

あの時までは────

ある日のことでした。

猫はいつからか、私の前から姿を消したのです。私は、近所を探し回りました。

お父さんが警察に届けを出しました。

しかし、見つかりません。私はとても悲しくなりました。いつも遊んでいた、友達を失ってしまったのです。

目には涙が浮かびました。

猫が居なくなってから、1週間経ちました。でも、結局、見つからなかったのです。

もう二度と会えないと思うと、悲しくなりました。

そんな時に、インターホンがなりました。

家に来たのは、同級生のゆういちくんだったのです。

私と遊びに来たらしくて、私の目のまわりが赤くなってることにとても驚いていました。

「どうしたんだ?」

私は声を震わせながら話しました。

「じつはね…!」

言い終わると私はまた泣きだしたのです。

彼は少し私を慰めて言いました。

「猫は見つかる。」

私はそれを聞いて怒りが込み上げたのです。

「嘘をつかないで、もう二度と会えないの…。ゆういちくんは、なんでそんな酷いことを言うの…?」

私がそう言うと、

「いいや、必ずみつかる。俺がそれを証明するから。」

首を横に振りました。

「絶対見つからないの…!」

そう言うと彼はニヤッと頬を上げます。

「じゃあ、勝負をしよう。」

驚いて、私は彼の顔をみました。

「勝負?」

「あぁ。勝負だ。猫が見つかったら俺の勝ち、見つからなかったら…」

私の負け。

とっても悲しんでいるのに、勝負だなんてと思いました。

でも、私はその勝負を受けることにしたのでした─────

その日の夜、私の家に、ゆういちくんのお母さんがたずねてきたのです。

私のお母さんとゆういちくんのお母さんがお話しているのを、どうしたんだろう。と思ってお話をこそりと聞きました。

どうやらゆういちくんが家に帰ってきてないらしいのです。

私はそれを聞いて、すぐに理由が分かりました。そして、ゆういちくんのお母さんを横切り家を出ました。

私のお母さんが呼び止める声が聞こえましたが、心の中で謝って振り返らずに行ったのです。

私はゆういちくんと小声で呼びながら、探しました。

何処へ行ってしまったのでしょう?

私は途中でまた涙があふれてきました。

やっぱり、私の猫は居ないのだと…。

そのまま、立ち止まって泣いていると、後ろからポンと肩を叩く手がありました。

振り返ると、何かを背負った男の子が立っていました。

涙であふれた目が慣れてきて、その人の顔が段々みえてきます。

彼は、ゆういちくんだったのです。服は少し汚れていました。

背中には、私の猫ちゃんが居たのです。

私はまた涙があふれてきました。

「なんで私のためにそんなにするの?」

そう言うと、彼は答えました。

「れんかちゃんのためじゃないよ。居るって証明するためにさ。」

私は思わず言葉をポロリともらしました。

「バカッ。」

その日以降の記憶は曖昧でした。

ジジッ…「わぁ。綺麗」…

…「どうして…?、どうしてなの…?」

…ジジジッ…。

─────────

問題

その後、2人は一緒に公園を出た。

特にすることは無かったが、私は散歩と称して、彼のことを後ろから観察していた。

少しすると、ポケットに手を入れる。何か出すのかと思えばそれはメモ帳だった。

何か面白いアイディアを思いついたのかもしれないと、私はそっと、のぞいてみると、そこには知らない女の人の名前と一緒にバトルの文字が書かれている。

下の方を見てみると、子供用の三輪車にも免許が必要らしいと書かれていた。

思わずにやけてしまったが、ふと、彼の考えを思い出す。

彼は、間違いのない世界を理想としていた。だからこそ、この情報は正しいか、正しくないかで言うと正しいに必ずなってしまうのだと。

私は疑問を投げかけてみた。

「加木さんは、どうして、間違いがないと思ったのですか?そのきっかけはなんですか?」

すると、彼は答える。

「忘れた。」

ただ、それだけを言った。

きっと深い訳があるのだろう。私は心の中にそれを閉まっておいた。

少し歩いていると、前から俯きながらため息をつく男が来た。

そして、こちらに気が付くと加木さんに話しかける。

「失うってどうしてこんなに辛いんだ…。」

彼は答えた。

「何があったのか」と。

すると、男は、大切な人ともう二度と会えなくなったのだと言った。

彼は答えた

「正しいことなんてない。」

その後に言う。

「本当に、居ないのか?」と。

「心の中に、ずっとその人は生き続けている。何かを失ったとしても、忘れなければ、ずっとそこに居続けるんだと。」

理想主義的な考え方だった。しかし、彼の言葉は男をふわりと包み込み、目に涙を浮かべさせた。

「ありがとう…」

私はふっと思い出す。偉人達、それは、亡くなったように思われるが、今もずっと生き続けている。

苦しい時に、求めたものに言葉を投げかけ、救いをくれる。死は消えることではなかったのだ。とても強い生命力を持ったそれは、今も尚生き続けている。

その灯火は消えることはないのだ…。

そして、そのまま続いて歩いていると、人が話しかけてきた。

「あの…。相談したいことがあるのですが…。」

まただ。何故、彼に相談してくるのだろうか?

「大切な人に嫌われてしまったんです。」

彼の言うことは変わらなかった。

「その人は、心の中に、居続けている。楽しかったこと、悲しかったこと、それはずっと持ち続けていれば、永遠に別れることはない。」

その言葉に、その人も救われたようだった。

何故だろうか?僕の中で疑問が絶えない。

すると、ふっと思い出す。

そうか、あの人は、他人の意見を受け入れている。だからこそ、人は彼に話しかけてくるんだ。

その時の彼が、私には、とても大きく偉大な存在に見えた。

しかし、彼の言葉が、とても悲しいものだとは、知る由もなかった────


一方その頃、ある団体が、ゆらゆらと影を見せていたのだった─────