1話物語④

あの雪

私は朝早く目を覚ました。

太陽が眩しく輝いている。

昨日の地に降り注いでいた雪はなくなり、それが降り積もる。

すると、ふと、私の目にうっすらと光が差し込んだ。

それは近くの里の方から見えた。

あれは有明の月か。

私はそっと目を細めて、そこをじっと見つめた。

しかし、それは有明の月ではなく、里に降り注ぎ積もった雪。

あんなにも雪が眩しくみえるなんて…。

男はそっと呟いた。

しかし、それがとても美しくみえる。

夜に輝くあの月のように、地上にある、美、神秘。

それこそが雪なのだな。

当たりを見回してみると、有明の月は見当たらず、月の光に照らされたものではなかった。

雪、あの月のように美しい光を放つそれが、冬の一時にしか現れない美であると思うと、少しの寂しさが心に。

だが、そうではない。それだけではないのだ。

当たりを見回すと、雪のないところに、綺麗な花がそっと咲いていた。

冬だけではない。それぞれの季節はとても美しく、美に溢れている。

どの季節も、私はこの美しさ達とともにある。

私はそっと見上げてみると、ひっそりと月がのぼっているのがみえた。

「君も、私とともに、この美しい世界を見つめているのだな。」

私がそう呟くと、月はそっとそれに共鳴するように、光を放っているようにみえた─────

川の中の紅葉

私が山で川の近くを散歩している時のことだった。

川の中にはたまにしがらみがある。それは、くいを打ち込んで、水流をせきとめるもの。

川を眺める上での、私の個人的に気に入っている美である。

すると、今日もそれらしきものが私の目をとらえた。

あれは…?

よく見てみると、柵ではなく、葉っぱが一つ落ちていた。

川の流れを必死にせき止めようとする姿に見える。

それは紅葉で、過ぎ去っていく時を、必死にせき止め、秋のこの時間を永遠としようとする弱いながらも強い葉の意志に見えた。

あぁ、小さい葉なのに、何故こんなにも、私の心を震わせるのか。

柵のように見せてしまう程に、この紅葉は必死なのだ。

私は葉の思いを囁かながらも汲み取ろうと思った。

葉が必死に流れをおさめようとしていた場所に柵を作る。

すると、それに満足したかのように、葉は川に従い流されていった。

もう少しで冬がくる。

この景色も、またいつかあのような美しい葉がここにやってきて、この川を彩らせるのだろうなぁ。

私はそう考えて、この美しい景色を大切に心の中に浮かべた───────

顔を出す夏

のどかな太陽が、私の体をポカポカと温める。

あぁ。なんといい日なのだろう。

私はその気持ちのいい日差し、風にふかれながら、歩いて散歩をしていた。

今日は春の一時、こんな日は、桜を見れば、とても綺麗だろう。

しかし、思っていた世界はふっと消えてしまった。

桜は咲いていた。

しかし、どこか寂しくその花を咲かせている。

何故だろう。私の心にある、満開の桜はあんなにも綺麗なのに、ここにある花は、何かが物足りない。

そっと花を見つめていると風が吹いた。

すると、それと同時に、花もさらわれていく。

どこへ行ってしまうのか…。私は寂しくなった。

こんなにいい日差しの日に、お花見が出来ず、落ち着いた心もなく花がどこかへ行ってしまう寂しさを感じながら居なければいけないのか…。

そのもどかしい思いが心の中に募った。

そうして、立ち止まっていると、日差しが段々強くなって、着物だった私の顔から汗が一滴下につたっていく。

そうか…。もう夏がやってくるのだな…。

私はそっと見上げ、ただ、残った春の花を見つめていた

それは不思議と、とても美しい花に見えた

────

友達

私の友達は遠く離れたところに行ってしまった。

もう、昔からの友達と呼べるものは誰も居ないかもしれない。

私はその寂しさを胸に抱えながら、考え事にふけった。

もし、誰かを昔からの友達とするのならば、誰が居るだろう。

私の頭の中には、山で遊んだあの日々が浮かんでくる。

山の頂上に行くと、大きな松の木がある。

それを見て、大きいなと、子供ながらに感服したのを覚えていた。

あの高砂にあった、あの松の木が、昔ながらの友人と言えるかもしれない。

私はあの松の元へと向かった。

すると、あの松の木は大きく、昔から変わらずそこにあった。

「あぁ、私はこんなにも偉大な方々を友達と言っていたのか…」

私はその松の強さに、くぐってきたそれらを考える。

「彼らはきっと私より多くの人生の楽しい部分、苦しさ、色々なものを経験してきたに違いない」

「私などが、昔からの友人と名乗るのはきっとおこがましいことだ…」

私はそっと思って、松のそばによって感謝した。

「私がこの歳になるまで、そこに居てくれてありがとう。」

それから私は、年齢も構わず、優しく接することを心がけたのだった──────

素晴らしい場所

ある日のこと、私は、店を開く知り合いにこう言われる。

「私の店は飽きてしまいましたか?

あなたをもうとても長い間、おとずれるのを見たことがありません。」

彼のそれはとても寂しそうだった。

そんな時、私はかけてあげる言葉が出なくて、その後、散歩しながら昔のことを思い出していた。

周りには、梅の木が咲いている。昔馴染みの、何度もにおったあの綺麗な梅の木は、いつ見ても変わらない美であった。

私は忙しさから、昔からずっと沢山通っていたあの店に行けずに暮らしていた。

思い出すのは、道中の美しい梅の木。あれを見ながらの食事は、とてもいいものだった。

私はそう思い筆をとる。

周りでどんな悲しいことが起こっても、変わらない美が、あなたのそばにずっとあることを忘れないで欲しい。

それを書き終えると、あの店で食事を済ませた後、そっと手紙を置いた。

それからというもの私は、何度も通えないながらも、あの店により、梅の木をみての食事を変わらず楽しんだのだった─────

月の宿

夏の夜はどの季節よりも短く感じられる。

私は夜に見える月がとても好きだった。

しかし、夏の日の今日、あの月は長い間夜を照らす光にはならず、みとれているうちにすぐに明るい光が、月を包み隠してしまう。

あれほどまでに美しい月が、朝の光を浴びると、目立たないそれに変えてしまう。

夜という癒しの時間をとらず、どうやって、あの西の山に行くことだろうか。

近くにあるあの雲が、宿の変わりだろうか?

夏の夜は、月にとって、忙しい季節だ。休みなどほとんど与えられず、徹夜で過ごさなければならないのだから。

私はそう思って空の月を見上げていると、月に、なんだか、夜と変わらない光を感じた。

そうか、朝の月でも、よく目を凝らしてみれば、夜の月と変わらず美しいではないか。

宿をとる必要はなく、ただ、雲に隠れず堂々と綺麗に光をはなつあの月、私は更に好きになった気がした

──────

美しいもの

ある日、私が外で歩いていると、生い茂る草たちを目の前にし何を思ってか止まった。

その時、風が強く吹いていた。

私はその様子を、とても美しく、あるものを頭に浮かべた。

糸に貫きとめない玉がそこら中に散らばっている様子。

私はそれが芸術のように美しく感じていた。

今日は白露。昨日の夜中にあたりが冷えて、朝露が宿った草たちはその風によって、綺麗に辺りへと散らばって、それがまた美しく綺麗だ。

水が、多くの草たちに散らばっていき、更には、草から降ってくる雨のように新鮮で、この時だけにしか見えない貴重なものが、私の前にある気がした。

「あぁ、これこそ、自然の美なのだな。」

私はそう呟いてただみとれていた。

これは秋のある日のこと

─────

嘘と誓い

あの人は嘘をついた。

自分の欠点、それを克服するという。

けれども、それは結局今でもできてない。

その嘘をついたこと、それを恥じて、彼は命をたったり、その嘘により、また新しい嘘を重ねてしまうかもしれない。

私のことはすっかりと忘れ、その嘘に囚われてしまっていました。

私がその人の前にいても、欠点のことを考え、周りが見えていない。

私のことを忘れることはいいのです。ただ、あなたがその嘘によって、自分というものを壊してしまったり、囚われてしまうことを、とてももったいないものと感じています。

人の命は、誰かと比較できるものではなく、平等に大切であり、素晴らしいもの。

あなたは、私の前で、多くの能力を見させてくれました。

それは、誰かが持っているものかもしれません。しかし、それは積み重なっていった一人一人の大切なもの。

一朝一夕に手に入るものでは無いのです。ただの1度過ちをおかしたことで、全てが無くなってしまうのではとてももったいない。

もし、叶うことならば、その嘘を引きずらず、ただ、いつも通りのあなたで生きていてください。

あなたが本当に変わることを望むのなら、きっと、あなたの欠点はどこかへと飛んでいってしまうことでしょう。

あの名前

浅いチガヤが生える篠の名をもつあの場所で、私は思った。

近くにいるはずなのに、あんなにも遠く居るのはとても寂しく悲しいことだ。

思わず私の心がその人を求め、暴走してしまう。

篠のその名のように、忍び、包み隠そうとしていた思いが一度表に出てしまう。

ただ、私はそばに居たい。出来ることならばともに居れる限りずっと。

こんなにもこらえきれない思いが、私の中に一杯に広がっている。

今も、恋しくて、あなたのことを考えている。

私はどうしてこうなのだろうか。思い悩む日々。

あなたと昔に過ごした日々、それは、あなたにとっては、どうでもいいことや、ただ悲しくて嫌な思い出だったかもしれない。

しかし、私にとっては、とてもかけがえのなく、いい思い出で、してもらった沢山の楽しい日々が私の心に広がっている。

それが、あなたを求める恋しさに変わっているのです。

これからも、忍ぶことでしょう。私はきっと変わらない。この思いをずっと心の内にひそめ続けましょう。

そして、ただ、あなたの今が幸せであることを望みます。

君への思い

私はずっと、あの人への思いを包み隠してきた。

こんな思いを抱いてはいけない。そう思ってきたからこそ、隠し続けてきたのだ。

あなたの優しさは、今も心の中に変わらず残っている。

そして、いつの間にか、声をかけられ、誰かのことを思っていると顔でバレるところまでになっているのだから。

この思いをずっと心に潜めてきた。もし、表にだしてしまえば、今後、その人の中がギクシャクしてしまう。

そんな気がしていたから。

だが、気持ちには嘘がつけないようで、忍んできたこの思いが顔色に出た。

人に知られまいと包み隠してきたそれが。

もし、私ののぞみが叶うことならば、ただ、君が望んでいる未来が待っていることを祈ろう。

私はもはや、あなたを幸せにするばかりか、足を引っ張ってしまいそうになる。

君が求めくれてるのなら、私はできる限りなんだってしよう。

ただ、この思いを、その人のために使いたい。

積み重なって、顔に出るほどに大きくなった私の思いがあれば、大抵のことはすることができるだろう。

私は君の望む未来をのぞもう。