1話物語③

月のぼる夜に

今日、私は、憧れの人を待っている。

あの人は女性の中で、1番輝いてる人で、影で多くの女性が憧れ、とても慕っている。

私もあの方をお慕い、おそばに居たいと思ってます。

今日、「今すぐにも行く」とあの人は言った。

私は喜びのあまり、この9月のとても長い夜を過ごし、夜があけるまで…あの有明の月が見えるまで、待ってしまいました。

私とあなたはあの月のよう。どんなにそばに居たいと心でどれだけ思っても、キラキラ輝くあなたはあの月のように遠くの人なのです。

私のようなものとは別世界の人。それなのに、あなたと一緒にいれると期待するなんておこがましいこと。

でも、私はまだ期待しているのです。あなたはいつかやってくると…。

私は覚えています。あなたと起こった些細にも特別な時間を…。

あなたは私の頑張ったところ、褒めてくださいましたね…私以外にも、一人一人のことを気にかけるあなたは、とても優しい方だと思いました。

そんな些細にも、とても大きな出来事は、積み重なって、あなたはとても大きく特別な人に変わりました。

こうしてあなたのことを慕い待ち続けることができるのは、あなたの優しさ、変えようのない心の美しさからなのです。

あなた以上になりたい理想の自分像は他に居ません…。

もし、叶うことなら…。

私はそう思うと、我に返る。

あなたと居られること、それは私にとってとても幻想的で、楽しい時間。想像するだけでも、私はこうして時間を忘れ、朝がやってきます。

そろそろ起きる時間でしょう。徹夜になってしまいましたが、あなたのことを思う気持ちから自分で決めてしたこと。

今日1日は、幸せな気持ちで過ごせることでしょう。

私は心でそう思い、自分の寝室に戻ろうとした時、私を呼ぶ声が聞こえた。

この声は…?

私の目に涙があふれる。

何度も何度も聞いてきたあのお優しい声。

とろけてしまいそうな、あの人の声…

私は喜びからこぼれ落ちそうになった涙をこらえ、今日も貴重で、短いようで特別な朝の一時をその声の主とともにすごした─────

秋のとある日、最近、風が強く吹く。

人はこれのことを風と区別し、嵐と呼んでいるらしい。

何故、そう呼ばれているかは分からないが、きっと意味があるのだろう。

私はそんなことを考えながら、散歩していた。

最近、大きな風により、山が荒れたという。

目の前には草や、木などが生い茂っていたはずが、それらはもう見る影はなく、風によってしおれてしまった草木が残されているだけだった。

涼しく吹く風ならまだ可愛いものの、こうして、美しい草達をボロボロにしたり、人に危害をもたらすのでは、流石に、物事には限度があるのだなぁ。

私は枯れた草木を見てそう考えた。

すると、ふと、漢字のあらしについて頭の中に浮かぶ。

山に風と書いて、嵐と言うらしい。それを知ったその時は何も思っていなかった。

しかし、今、荒らされたこの光景を見るに、私はその漢字の意味を心の中で納得した。

山に吹く風、それだけなら、やまかぜと呼ぶのだろう。

しかし、荒らしと書く言葉がある。一般には山から吹き下ろす風のことをそう呼ぶらしい。

だからこそ、山に吹く風で、更にそれらを荒らしてしまうもののことを嵐というのだろう。

私はそう納得した。

しかし、風も、嵐となってしまえば、多くのものを困らせてしまう。

何事も限度が必要なのだなぁと思った。

そして、荒れた山の中を見てまわった。

もうあの美しさは欠片もない。少し寂しさを心に持ちながら更に歩いていると、その中で小さく芽をだしている草を見つけた。

その草は、とても初々しく、嵐が来る前の1面緑のような、美しさを感じさせた。

私は思わずそれにみとれる。

嵐の中でも、変わらず綺麗に咲き誇っている何かはあるのだ。

私はとても貴重なもので、それを見て、更に何か強いものを貰った気がした。

そして、それから目をうつすと、私の周り一面に、嵐が来る前の美しい山、草木が見えた。

私は「そうか…。まだ残っているのだな…」

そう言って涙を流す。どれだけボロボロになろうとも、変わらず残り続ける何かがあるのだ。

私は今日の散歩で、何かとても大きなものを貰った気がした──────

あの月

夜にのぼるあの月。

朝ではあまり目立たないそれは、夜になると、とても綺麗に美しく輝く。

明るさの中で輝く太陽は、眩しすぎて、多くの目にはうつらず、逆にその光からさけるものもある。

しかし、静けさの中、大きく見えるあの月を見ると、私は色々なことを考え、悲しくなったりする。

時間というものが、あの月を奪ってしまう。

全てが見えるのは1ヶ月いやもっと後かもしれない。いつも姿を変え、私の夜のひと時をあの美しさとともに奪っていく。

いいや、奪われても良かった。私はあの月とともに過ごす時間を特別で、より良いものだと思っている。

しかし、眠る前のあの寂しさ、私はあの美しい月から色々に心が乱れてしまう。

私が寝てしまえば、あの月はその姿を隠してしまう。どの月も魅力的ではあるが、好きな時にその姿を見ることはできない。

今が秋の夜というとても長いのが、更にあの月と明かす時間を寂しくそして喜ばしいものとさせる。

いつもあの月はそばに居てくれた。1人寂しい時も、ただあの暗い闇の中で、懸命に自らを明るく包み励ましてくれた。

あの月は私に多くの過去のひと時を思い出させる。今までの振り返りとして、あの月を見上げた日々、楽しい思い出も、悲しい思い出も沢山あった。

私の心はあの月が無ければならない程に、乱れてしまっている。

昨日もその前も、あの月を見上げている内に、夜があけてしまった。

しかし、ある日は、まったく顔を出さない事もある。この長い夜をどうして、見ずに凄せようか…。

秋の夜、それは、心が色々な感情に飲み込まれる時間。

全てのものに平等に訪れるこの時間なのに、私には、これが1人だけに訪れたもののように感じている。

私は考えるのを辞め、またそっと月を見上げた。

あの月はいつ見ても美しく白く輝いていた。

「あぁ、美しい」

私はそう呟き、長い夜を過ごしたのだった─────

あなたへ

秋のある日、私はお偉い方に付き添い、旅行に出た。

道中、私の大事な人の元を通ることになるだろう。

私は出会った時、その人に渡すことになっていた、紙などでできた神聖な道具を持たずに出た。

このままでは、あのお方に顔向けすることはできない。

どうしようか。

私は向かってる最中、そんなことを考えていた。

辺りを見回すと、今日は秋の日、葉がとても綺麗な色をつけ、まるで、あの方のように神々しく、美しく輝いている。

私は思わず、その自然の美しさにみとれていた。

春夏秋冬、それぞれに魅力があるが、秋のこの日も、どれともひけを取らない程の美である。

私の肩に、紅葉の葉がとまった。

ふとそこで考えた

────────

お偉い方との、旅の最中、大事の人の場所へと通りがかる。

私はさっきまで考えていたことを、実行しようと考えた。

肩にかかったもみじを、拾い上げる。

そして、お偉い方に許可をもらい、その人の場所へと。

到着し、私は渡せなくなって申し訳ないと呟き、持っていたもみじをその人へと渡した。

すると、その人の表情はもみじのように明るく、キラキラ輝く

私はそれをみて私の心も、何かに照らされたように明るく灯った

─────

子供へ

私は子供が好きだ。

山で、夜遅くまでよく一緒に遊び、疲れて寝たところを背負ってその子の家へと連れて帰る。

寝てる最中の表情はなんだか、いつも元気をもらった。

彼と遊んでいる最中は、子供心を思い出す。

あの時、沢山、あの山を走り回って遊んだと。

とても楽しい日々だった。

そして、今日それを思い出すと、彼と遊ぶ約束をしながら、いけないでいる自分が悲しくなっていた。

もしかしたら、あの山で、子供は待っているかもしれない。

そう思うともどかしい気持ちが募る。

あの山の名前、あう山のように子供と出会い、更には、そこにはえるさねかずらの名前のように、寝ている彼の様子をみることができるのならば…。

そう思い過ごしていた。

さねかずらを引っ張るように、子供をここへ呼んで、時間があるのならばそこで沢山遊びたい。

私はそうできないもどかしさに一杯になっていた。

すると、私の部屋の扉が小さく開き、また閉じた。

私は扉の方に向かってみると、そこには、さねかずらと手紙が置いてある。

それを書いたのはあの子供だった。また遊びたいと書かれ、更には忙しくてできないことを子供ながら思いやったような文章が書かれていた。

私はその場で泣きそうになり、そっと呟く。

「ありがとう。」と。

綺麗なもみじ

「あぁ、なんて美しいんだろう」

私は目の前にあるもみじを見て、心からそう思った。

山にはえるこの紅葉、いずれは枯れてしまうのだろうな…

そう思うと、しんみりしてしまった。

もし、叶うことならば、私の大切なあの人が来るまで、今のまま綺麗に咲いていて欲しい。

あの人とも共有したい。きっと、あのお方もこれを見れば綺麗だと思うことだろう…。

私はいつ来るか楽しみで仕方なかった。旅行で来られるあの方は、身分の高さにおごることはなく、とても寛容で美に対して純粋な側面をもつ。

この紅葉を見た時のあの人の表情、私のこの感情を、できることならばともに…

私は一つの紅葉へ近くにより、そっと囁いた。

「この山に咲く紅葉よ。もし、心があるのならば、あの方が旅行で来られるまで散らずに待っていて欲しい」

すると、風邪が吹き、紅葉は揺れた。

私はそれを見てなんだか、分かったと紅葉が言っているようで喜びが心の中に。

──────

数日後、あの方は旅行でここを訪れた─────

川とあの人

あぁ、わたしは、今までずっと思ってきた。

もう一度、子供の頃に出会ったあの人と…。

考えれば、あの人と出会ったのはいつだったか忘れてしまった。

進んでも、進んでもその人とは出会わなかった。

存在している人かすらも分からない。あれは夢だったのかもしれないし、フィクションだったかもしれない。

ただ、分かるのは、野原にあった2つにわかれた川のようであるということだ。

私とあの人はまるで、あの川、いつみ川のその名のよう。

そう、あの方をいつお見かけしたか、それがとても恋しくて仕方ない。

会ったことすらないその人のことが、こんなにも恋しいとは…。

わたしはそっとその気持ちを奥へと閉まっておいた

─────

ある日のこと、わたしはなつかしいような、はじめてのような感覚をあじわった。

それがとても嬉しくて仕方がない。

わたしはそっと、ありがとうと呟いた─────────

冬の山里

あたりはすっかり寒くなり、木は枯れてしまった。

そしてわたしは1面雪色に染まった山を歩いている。

これから山にある人里へと向かおうと考えている。

しかし、足の冷たさ、人通りの少なさに、寂しさを感じている。

都とはそれが明らかに違うものとは分かるものの、夏や、秋にはあんなにもあった草木、そして、生き物達が周りには居ない。

当たり前と思っていたものが、この時期になると、ぱったりとなくなってしまう。

それがこんなにも寂しいこととは…。冬はこの寂しさを教えてくれる。

しかも、この山では、都よりもまさって、冬の寂しさを感じさせる。

変化を直にこの目で見ることになるのだから…。

わたしはそう思いながら歩いていると、ポツポツと家が見えてきた。

外よりも暖かそう。

わたしはそう思い、冷たい足を前へと進め、近付いていった。

そこには暖かい世界が広がっている。

寒い日だからこそ、人の温もりに触れた気がしたのだった───────

雪に隠れた菊の花

あたり1面はすっかり雪で埋まっていた。

真っ白な世界が広がる。

私はふと考えた

この中に、白菊の花が咲いているのだろう。

見分けがつかないが、もし、この中に手を入れて、白菊の花を取ろうとするのならば、取れるのだろうか?

私の心の中には、尊敬するあの人の姿が浮かんでいた。

これをあの人に渡せば、とても喜んで頂けるだろう。あの人の笑顔は、何よりも嬉しいもの。

白菊の花がとても好きで、いつも飾っていた。しかし、今年は見つからずに、寂しい花瓶がただ置いてある…。

私がもしここで1つでもとることができれば、あの人はとてもいい冬を過ごすことができるだろう。

私は着物の袖をまくって、雪の中にそっと手を入れた。

しかし、寒いばかりで、何かを掴んでいる感覚はなかった。

ここにはない。

私はそう思うと、また他の場所を探して、また雪の中へと手を入れる。

何かをつかんだと思ったら、雪で何もなかった。

そうしているうちに、手がかじかんできた。

当あて推量では厳しいか…。次で最後にしよう。

私はそう思うと、雪に手を入れる。

すると、何か細長いものをつかんだ気がした。

また雪で気のせいかもしれない。手が感覚を少し失っているし。

私はその思いと同時に期待していた。そうして、それを持ちながらそっと手を持ち上げる。

すると、そこには白菊の花が1本自分の手に握られていた。

私は嬉しさのあまり、そこで涙を流す。

そうして、花瓶には、とても小さながらも、大きな1本の白菊の花が綺麗に冬の一時期を彩ったのだった────

あの人

いつも私はあの人ともに居た。

あの人はとても優しく、微笑んだ姿もまた優しさに満ち溢れる。

まるで、夜の空にかかる、月の明かりのよう。

あの月は、暗闇の中で、安心させてくれる、とても優しい光を放つ。

しかし、最近はどうだろうか。

あの人は時が重なるにつれ、変わってきてしまった。

私を見ても、素知らぬ顔をして、とても寂しい関係になったのだ。

こう思った日から、暁に登る、あの月がとても厭わしいものと変わってしまった。

夜はあんなにも美しい月が、うっすらと、自分のことをまるであの人のように素知らぬもののように見てのぼっている。

ありあけの月が私の心をとても悲しくさせる。

なるべく、見ないようにしているが、それでも、頭の中にあの人の顔と月が浮かぶ。

私はとぼとぼと歩いていると、向こう側から、あの人がやってきた。

すると、素知らぬ顔はなく、私の方をみて微笑んだ。

あの出会った頃、ずっとみてきたあの笑顔。

私は忘れていた。

その時見えた、あの厭わしかった有明の月はなく、そっと世界を見渡し、優しい光を放つ、あの有明の月がとても美しかったのを、忘れることはなかった─────