1話物語⑦

綺麗な花

昔、都に咲いた花は、こうして引っ越した今でも変わらず綺麗に咲いている。

美しい花達が一面を彩らせ、春のおとずれを感じさせる。

なんといい景色なのだろう。

いずれ散ってしまう花達だが、この一瞬をとても喜びたい。

この時が幸せであるのだから。

私はこの景色を思うと、あの人のことを考える。

私の大切な人、それは、とても美しく、誰よりも咲き誇る、正しく桜の花のような存在であった。

他の花にはない、大きな魅力を秘めた、とても美しい人だった。

見た目ではなく、心が、花ように綺麗で、子供の頃のような初々しさを残した、可愛い人でもある。

しかし、いつの日にか、その花は散ってしまった。

あの頃の面影はもうほとんどないかもしれない。

しかし、私は何度も通いつめて、あの花を見た。

しかし、散ってしまった花は戻ることはなく、新しい季節がやってきてしまう。

私は寂しさから、他の場所に向かうと、今のように、前とは少し異なるが、美しい花が咲いていた。

どこにでも、この美しい風景はあるのだなぁと。私はなんだか、心が癒された。

しかし、ひとつひとつの花が、違う魅力を秘めているように、あの散ってしまった花もまた、変わらず美しく私の心に残り続けている。

きっとちってしまってもまたその花を咲かせ、綺麗に咲き誇ることを望んでいる。

いいや、きっと大丈夫だろう。

この花達のように──────

可愛いあの人

コケコッコー

外から、何かがなくこえが聞こえてくる。

わたしはそれにふふふと笑った。

あの人は昔から変わらず、可愛いお方。

私にどうしても会いたくて、今日は鶏の真似をしている。

だけど、以前の、猫の真似をしたように、今回も会えないでしょう。

今はまだ、とても夜がふかい。

門を開けることはもしかしたらできるかもしれません。

でも、私たちが出会うことは叶わないでしょう。

私とあなたを隔てる、あの、あうと言う名を関した関所は、それを許さない。

しかし、いつかはきっと会うことでしょう。あなたが求めるのならきっと。

隔てる壁はなくなって、2人を再開させるのです。

今はダメだったとしても、いつかはきっと。

この大きな壁は取り払われて、再開を許される。

今は、じっと待って、その時が来るまで、気持ちをとっておいて…。

わたしはそれを考えると、今日はゆっくり眠ることにした。

───────

あの人へ

あなたと会えない日々が続いている。

会いたいと思っても、相手の気持ちがなければ会えないもどかしさに苛まれています。

長い間、あなた会えない。それによって、あなたへの思いも段々うすれて続かなくなってしまうだろう。

わたしはそう思い、あなたへ、その思いを、誰も居ないところで直接言いたいと思いました。

ただ、それだけの事ですが、私にとってはとても大きいことです。

しかし、会えない今に、それを求めるのはどうしようもないことである。

だから、それは求めず、1人寂しく身を引くのが一つだろう。

思い返せば、多くのものをあの人から貰ってきた。

これから返して行こうと思っても、今、中々にできない状況にある。

もう思い続けることは出来ないかもしれないが、心の中に残っている、あなたへの思い。

それはずっと変えることなく持ち続け、もし、あなたと出会えた時に、うすれている思いか、高まった気持ちであるか、それは分からない。

しかし、ただ、わたしはその時を純粋に喜ぼうと思うのである。

川霧から見える木

夜目が覚めて、外に出ると、いつも見る川があって、そこには一面に霧が立ち込めていた。

遠くを見ようとしても、その霧が阻んで、よく見えない。

しかし、なんだか、その景色をみたくなって、その場に留まっていた。

夜の時間はなんだか私にとって特別だ。朝の眩しい光はなく、とても涼しく静か。

この世界が、私にとってとても素晴らしい場所で、とても安心する時間。この時はのんびりと、時が経っても気にしなくていい。

朝のように、時間に追われたりすることはなく、ゆっくりとしていられる。

すると、しらじらと夜があけていた。

川に立ち込めていた霧は段々と消えて、途切れ途切れになった。

その間からそっと何かが私の目にうつる。

遠くまで続く、何か、木のようなものがはえていた。

あれは魚をとるための網代、それをとめている木だ。

それは、遠くまで続いている。

早朝の景色、これを見るのも、悪くはない。

私にはなんだか、とても素晴らしい景色に見えたのだった──────

私の名前

なんで、あの人は…

私はよく、そう考えて、人のつれなさを恨んだ。

そうして、この自分の身のつらさを嘆いて、悲しんで零れた涙で一杯になった。

その涙は、袖に溜まって、乾くことなく朽ちてしまった。

その様子を、今の人間関係に捉え、あのつれなさによって朽ちてしまう自分の名前を惜しいと思った。

あの人はつれなく、私のことを見ないようにして、去ってしまったのだ。

きっと、私のことなど、どうでもいいと思っているのでしょう…。

あの人はとても多くの人に名が知られている、この関係によって、きっと、辺りからの評判も悪くなることでしょう…。

あの人のつれなさが、この自体になってしまうかもしれないのです。

そう考えると、悲しい気持ちと、過去への後悔で一杯になります。

何故貴方はつれないように、私の方を見ないようにしていたのか…。

もし、いつまで通りできていたら、きっと…。

そう考えると、楽しい未来が浮かんできた。

わたしはそっと、「大丈夫」と呟いた──────

山桜

わたしは一人寂しく、山奥で暮らしている。

修行のため、長い間、誰かと会うこともなく、過ごしている。

何度も見るのは、春夏秋冬にあらわれる、色とりどりの木達。

この春の日に訪れる山桜はとても美しい。

人恋しい私にとっては、この木だけが、私の心の寂しさを洗ってくれるものでもある。

しかし、あの長い昔の春の日からまたやってきた、この桜。

とても懐かしいものである。

わたしは問いかけた。

「山桜よ、お前は私を懐かしいと思ってくれるか?」

この山奥では、この桜以外居ず、心持ちもわかる人は誰一人としていない。

思っていてくれないか…。そう思った時、わたしはハッとした。

自分は長い月日、この山に1人で暮らしていたが、まだ最初の頃から何も変わっていないのだ。

誰か、何かに求めてしまう弱い気持ちも、こうしてまだ心の中にある。

すっかり忘れていたな…

わたしはそう思うと、山桜に歩み寄った。

この美しさに、感謝することを…

苦しい思い

私はあの人のことを思う。

毎日のように考えて、思いは伝えられずにいます。

今日は春の夜。わたしは毛布を他の人と思って抱きしめようと思った。

けれども、それに気が引けてしまった。

もし、こうしたことによって…

もし、こうしたら…そんな事を考えてしまったからです。

この春の儚い夢にすぎないたわむれとしても、もし、私の考えていることになったら…

夜は気付かないうちに、言葉が口からもれていることがあります。

それによって、つまらない事で立つ、あなたの浮き名がとても残念に思ってしまいます。

毛布をあなたとせずとも、私の思いは変わりません。

あなたは私の心を何度も奪っていきました。その内に潜むものに私は揺り動かされ、今では、心全体へと巡っていきました。

私はあなたと会え、そばに居られること…それだけで満足です。

ありがとう…。

未来の自分

この世は苦しいことが多い。

わたしはいつも苦悩している。それは自分のこと、他人のこと、それ以外でも多く。

自分のしてしまったあやまちや、恥をかいた時のこと、恥をかいたと思った時のこと。

他人からもたらされる不幸も沢山ある。自分のせい、他人のせいにして苦しんで今まで生きている。

何度も消え去ってしまえたらどんなに楽かと考えたことか…。

しかし、それでも、この心に反し、自分がこの苦しい世界に生きながらえていたのなら…。

そう考えると、歳をとり、振り返ったその時は、懐かしく思い返されるだろう。

悲しい時、苦悩した時のこと、貴重な楽しく大切な思い出として。

昔の風景は多く変わってしまったかもしれない。外を見ると、一昔前の風景は一変し、新しくなったり、ボロボロに荒れ果ててさえいる。

しかし、変わらないものはこうして、夜の世界を照らしている。

あぁ、なんと美しいことだろうか。

あの月は、いつ見ても、暗い、私の苦悩ばかりの世界に、一筋の光として、輝き続けているのだ。

あの月のように、うっすらと光り続けているこの希望の光を、心に持ち続けていよう。

きっと、その時は、懐かしく苦しいながらも、大切な思い出だと振り返ることであろう。

綺麗な川

最近、とても強い風が吹いている。

季節が変わり、木の色も、夏の頃の緑色に染まった美しさは、今は、赤く変わり、また新しい魅力になった。

しかし、こうして、巨大な風によって、その美しさも飛んでいってしまうと思うと、忍びない。

台風によって、外へ出て、赤く染まった美しい木達を眺めながら、しみじみと感じ入ることもできない。

あの木達は今、どうしているだろうか。

肌寒い、冬の景色になっては居ないだろうか。

まだこの秋の時期に、寒くなるのは、やりきれないだろう。

わたしはそう考えて、日を過ごした──────

それから、嵐が止んで、1面もみじで美しかった、山に向かった。

すると、ほとんどが散ってしまって、思った通りに、どこかうら寂しい風景があるばかり。

眺めようと思っていたが、無理だったか…。

わたしはそう思い、山のふもとまで降りると、ふと頭の中に、あの美しいもみじ達はどこへ行ってしまったのだろうか…?とよぎる。

わたしは帰る前に、川を眺めた。

そこには答えが一面に広がっていた。

「美しい…」

わたしは思わず声にだす。

そこには、散ってしまったもみじが川を彩った風景が。

これはまるで…。

わたしは心の中でそう呟く。

「にしきだ…」

嵐によって、美しくなくなってしまった。そう思っていたが、こうして、散ってしまったもみじは違った形で美しく私の心を刺激した。

どんなに終わってしまったと思えても、しっかりと残り続ける何かがある。

わたしはそんな気がした─────

心の寂しさ

それは宿にとまった時のこと。

いつも誰かと一緒に居たため、1人で過ごしていると、心にとても大きな寂しさを感じる。

誰か居ないか…。

わたしはそう呟いて、外へ向かった。

宿の主人には、気を遣わせてしまうのは申し訳ない、宿に泊まる人は休みに来ているからと、心の中で思った。

外の世界、そこには、賑わった空気で一杯になっている。

この寂しさを潤すには、外の雰囲気で明るさを取り戻すのが1番だ。

わたしはそう心の中で強く思って、宿のドアを開けた。

その瞬間は、夢が一杯にあふれていた。ザワザワと人がそこらに居て…。

しかし、思っていたものはどこにもなかった。

心の寂しさと同じ世界が広がっているだけ…。

昼の賑わいはなく、この秋の夕暮れ時は、そうだった。

私はふと思い出して、空を見上げる。

またいつかこの寂しさはなくなって、春や、夏がやってくる。

そうすれば、また騒がしくなるだろう。

この時期は、どこも同じかもしれない。それならば、きっとその時は、皆も孤独とは程遠いものとなるだろう。

わたしはそう思って、宿に戻った。