綺麗な花
昔、都に咲いた花は、こうして引っ越した今でも変わらず綺麗に咲いている。
美しい花達が一面を彩らせ、春のおとずれを感じさせる。
なんといい景色なのだろう。
いずれ散ってしまう花達だが、この一瞬をとても喜びたい。
この時が幸せであるのだから。
私はこの景色を思うと、あの人のことを考える。
私の大切な人、それは、とても美しく、誰よりも咲き誇る、正しく桜の花のような存在であった。
他の花にはない、大きな魅力を秘めた、とても美しい人だった。
見た目ではなく、心が、花ように綺麗で、子供の頃のような初々しさを残した、可愛い人でもある。
しかし、いつの日にか、その花は散ってしまった。
あの頃の面影はもうほとんどないかもしれない。
しかし、私は何度も通いつめて、あの花を見た。
しかし、散ってしまった花は戻ることはなく、新しい季節がやってきてしまう。
私は寂しさから、他の場所に向かうと、今のように、前とは少し異なるが、美しい花が咲いていた。
どこにでも、この美しい風景はあるのだなぁと。私はなんだか、心が癒された。
しかし、ひとつひとつの花が、違う魅力を秘めているように、あの散ってしまった花もまた、変わらず美しく私の心に残り続けている。
きっとちってしまってもまたその花を咲かせ、綺麗に咲き誇ることを望んでいる。
いいや、きっと大丈夫だろう。
この花達のように──────
可愛いあの人
コケコッコー
外から、何かがなくこえが聞こえてくる。
わたしはそれにふふふと笑った。
あの人は昔から変わらず、可愛いお方。
私にどうしても会いたくて、今日は鶏の真似をしている。
だけど、以前の、猫の真似をしたように、今回も会えないでしょう。
今はまだ、とても夜がふかい。
門を開けることはもしかしたらできるかもしれません。
でも、私たちが出会うことは叶わないでしょう。
私とあなたを隔てる、あの、あうと言う名を関した関所は、それを許さない。
しかし、いつかはきっと会うことでしょう。あなたが求めるのならきっと。
隔てる壁はなくなって、2人を再開させるのです。
今はダメだったとしても、いつかはきっと。
この大きな壁は取り払われて、再開を許される。
今は、じっと待って、その時が来るまで、気持ちをとっておいて…。
わたしはそれを考えると、今日はゆっくり眠ることにした。
───────
あの人へ
あなたと会えない日々が続いている。
会いたいと思っても、相手の気持ちがなければ会えないもどかしさに苛まれています。
長い間、あなた会えない。それによって、あなたへの思いも段々うすれて続かなくなってしまうだろう。
わたしはそう思い、あなたへ、その思いを、誰も居ないところで直接言いたいと思いました。
ただ、それだけの事ですが、私にとってはとても大きいことです。
しかし、会えない今に、それを求めるのはどうしようもないことである。
だから、それは求めず、1人寂しく身を引くのが一つだろう。
思い返せば、多くのものをあの人から貰ってきた。
これから返して行こうと思っても、今、中々にできない状況にある。
もう思い続けることは出来ないかもしれないが、心の中に残っている、あなたへの思い。
それはずっと変えることなく持ち続け、もし、あなたと出会えた時に、うすれている思いか、高まった気持ちであるか、それは分からない。
しかし、ただ、わたしはその時を純粋に喜ぼうと思うのである。
川霧から見える木
夜目が覚めて、外に出ると、いつも見る川があって、そこには一面に霧が立ち込めていた。
遠くを見ようとしても、その霧が阻んで、よく見えない。
しかし、なんだか、その景色をみたくなって、その場に留まっていた。
夜の時間はなんだか私にとって特別だ。朝の眩しい光はなく、とても涼しく静か。
この世界が、私にとってとても素晴らしい場所で、とても安心する時間。この時はのんびりと、時が経っても気にしなくていい。
朝のように、時間に追われたりすることはなく、ゆっくりとしていられる。
すると、しらじらと夜があけていた。
川に立ち込めていた霧は段々と消えて、途切れ途切れになった。
その間からそっと何かが私の目にうつる。
遠くまで続く、何か、木のようなものがはえていた。
あれは魚をとるための網代、それをとめている木だ。
それは、遠くまで続いている。
早朝の景色、これを見るのも、悪くはない。
私にはなんだか、とても素晴らしい景色に見えたのだった──────
私の名前
なんで、あの人は…
私はよく、そう考えて、人のつれなさを恨んだ。
そうして、この自分の身のつらさを嘆いて、悲しんで零れた涙で一杯になった。
その涙は、袖に溜まって、乾くことなく朽ちてしまった。
その様子を、今の人間関係に捉え、あのつれなさによって朽ちてしまう自分の名前を惜しいと思った。
あの人はつれなく、私のことを見ないようにして、去ってしまったのだ。
きっと、私のことなど、どうでもいいと思っているのでしょう…。
あの人はとても多くの人に名が知られている、この関係によって、きっと、辺りからの評判も悪くなることでしょう…。
あの人のつれなさが、この自体になってしまうかもしれないのです。
そう考えると、悲しい気持ちと、過去への後悔で一杯になります。
何故貴方はつれないように、私の方を見ないようにしていたのか…。
もし、いつまで通りできていたら、きっと…。
そう考えると、楽しい未来が浮かんできた。
わたしはそっと、「大丈夫」と呟いた──────
山桜
わたしは一人寂しく、山奥で暮らしている。
修行のため、長い間、誰かと会うこともなく、過ごしている。
何度も見るのは、春夏秋冬にあらわれる、色とりどりの木達。
この春の日に訪れる山桜はとても美しい。
人恋しい私にとっては、この木だけが、私の心の寂しさを洗ってくれるものでもある。
しかし、あの長い昔の春の日からまたやってきた、この桜。
とても懐かしいものである。
わたしは問いかけた。
「山桜よ、お前は私を懐かしいと思ってくれるか?」
この山奥では、この桜以外居ず、心持ちもわかる人は誰一人としていない。
思っていてくれないか…。そう思った時、わたしはハッとした。
自分は長い月日、この山に1人で暮らしていたが、まだ最初の頃から何も変わっていないのだ。
誰か、何かに求めてしまう弱い気持ちも、こうしてまだ心の中にある。
すっかり忘れていたな…
わたしはそう思うと、山桜に歩み寄った。
この美しさに、感謝することを…
苦しい思い
私はあの人のことを思う。
毎日のように考えて、思いは伝えられずにいます。
今日は春の夜。わたしは毛布を他の人と思って抱きしめようと思った。
けれども、それに気が引けてしまった。
もし、こうしたことによって…
もし、こうしたら…そんな事を考えてしまったからです。
この春の儚い夢にすぎないたわむれとしても、もし、私の考えていることになったら…
夜は気付かないうちに、言葉が口からもれていることがあります。
それによって、つまらない事で立つ、あなたの浮き名がとても残念に思ってしまいます。
毛布をあなたとせずとも、私の思いは変わりません。
あなたは私の心を何度も奪っていきました。その内に潜むものに私は揺り動かされ、今では、心全体へと巡っていきました。
私はあなたと会え、そばに居られること…それだけで満足です。
ありがとう…。
未来の自分
この世は苦しいことが多い。
わたしはいつも苦悩している。それは自分のこと、他人のこと、それ以外でも多く。
自分のしてしまったあやまちや、恥をかいた時のこと、恥をかいたと思った時のこと。
他人からもたらされる不幸も沢山ある。自分のせい、他人のせいにして苦しんで今まで生きている。
何度も消え去ってしまえたらどんなに楽かと考えたことか…。
しかし、それでも、この心に反し、自分がこの苦しい世界に生きながらえていたのなら…。
そう考えると、歳をとり、振り返ったその時は、懐かしく思い返されるだろう。
悲しい時、苦悩した時のこと、貴重な楽しく大切な思い出として。
昔の風景は多く変わってしまったかもしれない。外を見ると、一昔前の風景は一変し、新しくなったり、ボロボロに荒れ果ててさえいる。
しかし、変わらないものはこうして、夜の世界を照らしている。
あぁ、なんと美しいことだろうか。
あの月は、いつ見ても、暗い、私の苦悩ばかりの世界に、一筋の光として、輝き続けているのだ。
あの月のように、うっすらと光り続けているこの希望の光を、心に持ち続けていよう。
きっと、その時は、懐かしく苦しいながらも、大切な思い出だと振り返ることであろう。
綺麗な川
最近、とても強い風が吹いている。
季節が変わり、木の色も、夏の頃の緑色に染まった美しさは、今は、赤く変わり、また新しい魅力になった。
しかし、こうして、巨大な風によって、その美しさも飛んでいってしまうと思うと、忍びない。
台風によって、外へ出て、赤く染まった美しい木達を眺めながら、しみじみと感じ入ることもできない。
あの木達は今、どうしているだろうか。
肌寒い、冬の景色になっては居ないだろうか。
まだこの秋の時期に、寒くなるのは、やりきれないだろう。
わたしはそう考えて、日を過ごした──────
それから、嵐が止んで、1面もみじで美しかった、山に向かった。
すると、ほとんどが散ってしまって、思った通りに、どこかうら寂しい風景があるばかり。
眺めようと思っていたが、無理だったか…。
わたしはそう思い、山のふもとまで降りると、ふと頭の中に、あの美しいもみじ達はどこへ行ってしまったのだろうか…?とよぎる。
わたしは帰る前に、川を眺めた。
そこには答えが一面に広がっていた。
「美しい…」
わたしは思わず声にだす。
そこには、散ってしまったもみじが川を彩った風景が。
これはまるで…。
わたしは心の中でそう呟く。
「にしきだ…」
嵐によって、美しくなくなってしまった。そう思っていたが、こうして、散ってしまったもみじは違った形で美しく私の心を刺激した。
どんなに終わってしまったと思えても、しっかりと残り続ける何かがある。
わたしはそんな気がした─────
心の寂しさ
それは宿にとまった時のこと。
いつも誰かと一緒に居たため、1人で過ごしていると、心にとても大きな寂しさを感じる。
誰か居ないか…。
わたしはそう呟いて、外へ向かった。
宿の主人には、気を遣わせてしまうのは申し訳ない、宿に泊まる人は休みに来ているからと、心の中で思った。
外の世界、そこには、賑わった空気で一杯になっている。
この寂しさを潤すには、外の雰囲気で明るさを取り戻すのが1番だ。
わたしはそう心の中で強く思って、宿のドアを開けた。
その瞬間は、夢が一杯にあふれていた。ザワザワと人がそこらに居て…。
しかし、思っていたものはどこにもなかった。
心の寂しさと同じ世界が広がっているだけ…。
昼の賑わいはなく、この秋の夕暮れ時は、そうだった。
私はふと思い出して、空を見上げる。
またいつかこの寂しさはなくなって、春や、夏がやってくる。
そうすれば、また騒がしくなるだろう。
この時期は、どこも同じかもしれない。それならば、きっとその時は、皆も孤独とは程遠いものとなるだろう。
わたしはそう思って、宿に戻った。