1話物語⑥

この気持ち

私はあなたのことを思っている。口に出して、何度言ったことだろう。

しかし、伝わらない。この大きな気持ちは。

燃えるような思い、あなたのことを考えて、このあつくなった心を一度の言葉で語り尽くすことはできないでしょう。

簡単な言葉であっても、すぐに浮かんだそれと変わらず、考えに考え抜いた私の気持ちは届かないでしょう。

私の思いはあの海よりも大きく、心の中をずっとまわり続けています。

あなたはどう考えていらっしゃるのでしょうか?

いいえ、もし、思っていなくてもいい。ただ、この気持ちが続く限り、私はずっとあなたのことを考えていたい。

私が思うあなたをずっと…。あなたがしてくださった多くのこと、それを考えるだけで私は幸せです。

今ある、この気持ちを楽しませてください。

私はただ、ひそかに思い続けるだけで満足です。

この思いを、ただ、心の中で──────────

日の光とあなた

日が暮れて、あたりはすっかり暗くなってしまった。

こんな時になると、私は無性にそれが恨めしく感じる。

少しの別れをしなければならないから。ずっと一緒に居たいと思っても、時間という普遍的なものが私とあの人との間を切り裂き、離れ離れにしてしまう。

なんという無情であるか。私のこの、あの人への思いを踏みにじるかのように、その時間もいつの間にか過ぎ去ってしまっている。

どれだけ居たいとお互いが願っても、それを阻むかのようにその巨大なものが許さない。

日が暮れまた必ず会えるとは分かっていても、この会えない時間になってしまうということがどうしても私には悲しくて仕方がないのだ。

日よ、暮れることなく、私にあの人との一度の永遠を与えて欲しい…。

しかし、それは叶うことはなかった。

そして、次の日がやって来ると、またあの人に出会う。

そこで、このもどかしさを告げると、あの人は言った。

私はこの時間がとても大切です。貴重だからこそ、幸せに、たとえ短かったとしても、私はそれで満足したい。と言った。

私はハッとする。会えない時間を嘆いて、今ある喜びに目を向けて居なかった。

それから私は、心を入れ替えることを決めた。

大切な人と、長くこの幸せな時間を過ごすために

───────

あの人

私には大切な人が居る。

あの人はやってくると言いながら、ずっと私の元を訪れず、寂しい思いをしていた。

今日は来るかもしれない…そう思って、あの人のことを考えていると、中々、思ったように来てくれはしなくて、時間が経つに連れて、いつの間にか心変わりしている。

寂しい思いで一杯になって、もう来ないのではないのかと待っているのが虚しくなってしまいます。

どんなに長い間、この辛く、虚しい思いを心に持ちながら過ごしているか、私がこの時間をどれだけ嘆いているか、あなたはご存知ないでしょう…。

あなたはいつ訪れて頂けるのでしょうか…?

いいえ、もう訪れないでしょうね…。あなたはきっと私のことを忘れてしまったのです。

私はこの気持ちを心に持ちながら、生きていかなければならないのです。

私がそっと諦めると、外にあの人の影を感じた。

いいえ、あの人はきっと来る…。私はもう少し待ってみることにしました。

きっと、あの人との特別な時間がまた過ごせると思って─────

今ある喜び

あなたが振り向いてくれたからと言って、私の方をずっと見ていてくれるか。

ある日、私はふとそう考えた。

あの人のことを思い続け、ようやくのことで、あの人は私の方を見てくれたと思った。

けれども、心の中に現れたこの不安が、先の未来を黒く染めてしまったのです。

遠い未来では、あの人はきっと、私の方を見ていてはくれず、覚えてすらいないでしょう。

時とは残酷なものです。人との繋がりを段々と薄いものに変えてしまう。

私はそれが怖いのです。今、こうして、喜べるものを目の前にしながら、失った時のことを考えている。

弱い心の私。もし、叶うことならば、幸せな今日が、最後の命であって欲しいことです。

今日あの人は、ただ、私に幸せな時間を与えてくれた。

その時間が一瞬のようで、とても幸せで、心の底から嬉しい時間であったこと。

それは私の中では変わらなかった。ただ、その時間は、未来の不安を忘れていられる特別なものだった。

ただ、私は今あるものを喜んで、幸せな時まで、悲しみはとっておこう。

そう思ったのでした

あの滝と夢

今朝、夢をみた。
私とあの人の話だった。

悲しい夢でありながら、私の心にとってはとてもいい夢。

覚悟を決めた夢であったから。

そういえば、最近、近くの川で、滝の音がしなくなった。

昔はあんなにも大きな音をたてていたものが。

しかし、その滝も、大きな川へと広がっていったのだろう。

それを考えると、あの夢に通づるものがありそうだ。

私の今日見た夢。それは、あの人との心の物語。

私はあの人のことを心に思って過ごしていた。

しかし、ある日のこと、それが噂で広まっていき、周りの多くの人にその事をつつかれた。

それは、まるで、あの滝のように叩きつけ、落ちたその水のように広がっていく。

しかし、長い年月が経ち、その滝の激しさはもうなくなっていた。

それでもまだ、その評判が世間に流れ伝わって今もなお聞こえてくる。

私はその人に申し訳ない気持ちも気持ちもありながら、心の中で強い何かがうまれていた。

それは、あの人への思いへの肯定感である。

これによって、私は、気持ちを隠さずに居られるようになったという事だ。

私はあの人のためにこれから動くことができる。

そう思うと、私の心の中はとても大きな喜びが心の中を巡っていた。

消える時まで

いつかはこの世界を旅立たなければならない。

私はそう考えると、あの人のことを思い出す。

あの人はずっと私の中では、恩人だった。どんなに重い病気にかかろうとも、それは変わらないだろう。

もし、消え去ってしまうならば、今一度、あの方とお会いしたい。

この世界から旅立たないと言うのならば、大切な人にはずっと、ここに居られる限り、そばに居たいのです。

ただ、近くに感じるその時間は、永遠のように長く、短い、幸せな時で。

何にも変え難いものなのです。

それは、明日が人生最後の日と言われても変わらない。

あの人に会うこと。私にとって、それは何の欲よりも大きいものであるから。

ただ、一緒に時を過ごしていたい。

しかし、寂しい気持ちがいつも私の心にはある。その惨めさに、高望みをし、あの人が来れないことを心の嘆いてしまう。

だけど、それでいい。私は心からあなたのと一緒にいることを望んでいるということだから。

心に嘘はつけない。またいつか、この体が尽きるまでに、会えることを心待ちにしています。

あの月

空には綺麗な月が浮かんでいる。

私にはそれが美しくて仕方がなかった。

しかし、今日は、雲が多くて、少ししたら隠れてしまった。

昔に見たあの綺麗な月と同じかどうか見る前に、隠れてしまったのです。

それが、最近起こったことと結びついた。

私には、昔からの中の友達が居た。

その人はとても大切に思っていたが、それが行き過ぎてしまい、自分のことばかりになってしまったのです。

もう離れてしまい、会えることは叶わないと思っていました。

しかし、最近、あの人に似た人が近くを通りがかったのです。

残念ながら、その人があの人であるかは分かりませんでした。

探しても見つかりません。私をみて立ち去ってしまったのでしょうか…。

寂しい気持ちがあって、まるで、昔のあの人かも見分けがつかないうちに雲に隠れてしまったあの月のよう。

私はそうして、空を見上げていると、うっすらと月の光が見えるような気がした。

その近くには沢山の星があって、沢山の光が広がっている。

そんな気がした。今、もし、あの人が幸せに過ごしているのなら、私はそれを喜びましょう。

あの月や、星のように、ただ、輝いていることを…。

わたしは陰ながら祈ります…。

あなたの言葉

私はずっと、あの人が自分のことを忘れてしまうのではないか。

関わらなければいずれそうなってしまうかもしれない…

そんなことを考えてる時に、あの人に言われた言葉がある。

それが今、この心にずっと残っている。

あの人に私のことを忘れてしまうのではないかと、正直に伝えた。

すると、「山の近くに、野が広がっているでしょう。」と。

私はふと何の話をしているのか分からなかったが頷く。

「あそこには多くの笹があります。その笹に風が吹き渡ると、そよそよと音をたてます。」

「そのそよそよという音のように、私があなたを忘れることは決してありません。」

それに私は、考えさせられた。

もしかしたら、忘れそうになるのは、私だったのではないか…。

そうとも考えた。あの人の心はあの言葉のように、揺るがないように感じる。

私はその言葉を信じ、自分の欲に負けないことを気をつけることが今、必要なことなのかもしれない。

私はそう考えると、あの人にそっと感謝した。

ありがとう…。

あなたを待つ

私はあなたの面影を追いかけてただ待った。

もしかしたら、あの方から何か話しかけてもらえるかもしれない。

そう思うと、待って来ないかもしれないという不安より嬉しさが増して、こうして、西に傾いていく月を眺めています。

もし、あの人が、来ないと一言話してくだされば、あなたのことを思わずに寝てしまえたものを、あなたは一言も私にかけてくれませんでしたね。

あなたの一言さえあれば、夜更けまでお待ちすることなく、ためらわなかったものです。

しかし…

私はこうして、待っている間、あなたのことを思っていました。

あなたと私が出会ってから、とても長い時間が経って、それでもなお、あなたのことを思い続けられる…。

私はあなたのことが好きなのです。こうして、変わらない気持ちを思える。

あなたへの思いは変わらない。

しかし、もう求めません。ただ、私はあなたともう一度お話ができた時、それを喜ぼうと思います。

あなたからのお言葉は何にも変えがたいものですから。

ありがとう。

母の住む国

私はある日、母が手紙書いたと耳にする。

母の住む国はここから遠く、話では、名勝とも言われる砂州があり、いつかは行ってみたいものと考えておりました。

その地はもちろん、今でも踏んでみたことも、みたこともありません。

そこへ行くには、山を超え、ひとつの地を超えなければいけないそうです。

その道のりが遠く、険しいため、行けずに居る今があります。

母からの手紙、それも心の底から読みたいと感じていました。

しかし、それを読めずに居ます。

いつか母に会いたい…。

そう思えども、中々難しいことです。

しかし、いつの日にか会えることでしょう。あの砂州を踏む機会もあるでしょう。

私はそれを信じています。

今は、目の前の喜びに目を向けて、ただ、前へと進みます。