鳥の声と月
それは私が散歩している時のこと。
鳥の声がとてもうっすらときこえてきた気がしたので、その方角を見てみた。
すると、その姿は無かった。
私の経験から考えるとあれは、ほととぎすの鳴き声だろう。
しかし、あたりは、すっかりと朝の明るさを失い、真っ暗闇に包まれていた。
ほととぎすは、あの暗闇の中に隠れてしまったか…。
そう思って歩いていると、段々と日の光がのぼってきた。
あたりはいつの間にか朝になる。
今日は長い間歩いたな…。
私はそう思って、歩いた道のりのことを思い出していた。
すると、あのほととぎすのことが浮かんだ。
鳴き声だけで、姿はいっさい見えなかった。
すると、また、ほととぎすの鳴き声が後ろからきこえてくる。
私はすぐに振り返った。
すると、有明の月が浮かんでいた。
残っていたのだろうか…?
わたしはそう考えると、ふと考えた。
もしかしたら、ずっとあの月がほととぎすだったのかもしれない。
何かの考え事に夢中になっていた私を、よんでいたのかもしれない。
あの美しい月を見失って、考え事をしている私のことを。
そう考えると、私の頭上に多くのほととぎすが飛び回っていた。
それがとても幻想的で、あの月が見せてくれるまぼろしのように感じた。
私はそっと「美しい…」そう呟きその場を離れる
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心にある苦しみ
あの人はどうして私の気持ちに気付いてくれないのか…。
こんなに思っているのに、どうして、あの人は…。
何度そう思ったことだろうか。
あなたの事で沢山の時間を使っている。会わない日も、会う日も、思えば、あなたのことばかり考えている。
こんなにも考えているのに、相手は考えていないだろう…。
どうでもいいと考えてるに違いない…。その素振りがそれを教える。
この身の辛さを嘆いて、ずっと1人で苦しんでいる。
この苦しみから、これから生きてはいけない…消えてしまう命だ…。
そう思っていたが、まだ生きている。
だが、つらさはまだ心の中にあるのだ。
この苦しみにこらえられず流す涙があり、それが…どれだけ多く地にこぼしたことだろう…。
私はそれ程までに、あの人のことを思っている。自分のしたことすらも、悪いことをしたと考え、より良く相手のためをしようと考えている。
あなたはどう考えているのだろうか…?
私はそう思うと、ふっと考えるのを辞めた。
いけない、私はただ好きであったのだ。それは相手に何かを求めるものではない。
ただ、心が、好きであるから好きなのだ。
それ以上に求めてはいない。
忘れていたのだ…
そばにいてくれてありがとう────────
どこかへ逃げる
この苦しい世界にうまれたこと。それが、私の1番の不幸だったのかもしれない。
この世の中、人間関係、災害、自分のすべきこと、他にも多く存在する不幸。
そこから逃げ出したい。私はその思いで、走って、どこかへと向かった。
思いつめて積み重なったものが、とうとう爆発したのだ。
そこで、近くにあった山、そこに逃げ出す。
ここなら、誰も居ない、何かに追われたり、苦しんだりすることはない。
そう思っていた。
なんだか安心して、そのまま座ると、鹿がそばにやってくる。
なんだか、とても弱そうで、今にも倒れてしまいそうな細い足に体。
そこから発せられるその声もまた、とても悲しい声を響かせた。
この山にもまた、つらいことがあるのか…。
私は心の中でそう思った。
すると、なんだか、鹿はとても嬉しそうにしていた。
私はその様子から、楽しい時のことを浮かべる。
私が今までしてきたこと、それは辛く悲しいことも多かったが、楽しいことが全くなかった訳では無い。
しっかりとあって、その時間はとても貴重で大切だった。
この鹿もきっと、悲しくつらいことばかりの中にも、楽しい日々があったのだろう。
私はそう思うと、山から離れて、元の場所に帰ったのだった───────
懐かしいあの日の記憶
私は多くの時を、この地で暮らした。
振り返れば、苦しいことばっかりだった過去。
だが、その記憶も、今では、とても美しい過去。
嫌なことにまみれていたあの日が、とても恋しくて、戻りたいものになっている。
勿論、今もそれと比べることは出来ないほど、大切な日である。
しかし、あの日のことが、もう手に入らないものだと思うと、もう一度、あの時に戻って、ずっと過ごしていたいと感じるのだ。
だが…今のことも同じなのかもしれない。
辛い気持ちを持ちながら過ごしている、この日々が、未来、苦しいことではなく、懐かしく、戻りたいものとなっているのかもしれない。
この苦しさの中に、変わらずある喜びを、なんで気付かなかったのだろうと…その時、悩むのだろうか…。
だが、私は…この苦しい今を喜びたい。
今まで気付かなかった、この苦しさと、この楽しい日々を…有耶無耶にせず、最後まで楽しく過ごしたいのである。
今日、この日は、私にとって大切な1日…
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夜に吹く風
今日もあの人は戻ってこなかった。
これで、何日が経っただろう…。
あの人のことを思って、とても長い時間が過ぎた。
けれども、今でも、私はあの人のことを思っている。
こうして一晩中あなたのことを思って、眠れずに物思いをしている。
あなたが戻ってきてくれないつれなさを嘆いているのです。
こうしている間は、中々夜もあけません。
いつもであれば、いつの間にか過ぎている時間なのに、こうして苦しい気持ちに苛まれている間はどうしても、長い時間苦しんでいなければいけない…。
寝室の戸までも、この1人寂しい時間を無情に動かず、ただ、すきま風で寂しい時間を過ごさせるのです。
あぁ、あの人はいつになったら私の元へ来て下さるのでしょうか…。
そうしていると、また隙間から風が吹き付ける。
とても涼しい。その風になんだか、助けられてるような気がした。私の元に寂しくないよう、来てくれている。
そんなふうにも感じたのです。
私はその夜、いつの間にか眠っていたのでした───────
月と私
あの人と会えない。
夜の月を見上げると、あの人のことを思い出す。
あの日々はとてもいいものであった。
考えるだけでも、楽しい日々が、私の頭の中に蘇ってくる。
もしかしたら、あの月は、私に嘆けといって物思いをさせようと言うのか…?
そう考えた。しかし、そんなことはないはずだ…。
私の心が、あの月を、あの人と見立てて思い出すのである。
いつかきっと会える、その思いが、嘘のように、そんな訳がないとそっぽを向いて、何度も沈んでしまう月のように、悲しい日々を過ごしていた。
それが、月をうらみがましく流れされる涙。地面に落ちるこの涙なのだ…。
自分の気持ちが、月を悪者にしてしまった…。
悲しい気持ちのまま、私は月を眺める。
もう一度会えないだろうか…?
そう心の中でたずねる。
けれども返答は来なかった。
そうして、やがて、世界は明るくなり、月はまた隠れてしまった。
もう会えないということだろうか…?
そうたずねると、有明の月が、うっすらと私の視界に入ったのだった──────
雨の後の美しい景色
雨が降っている。
とても長い間。
こう続くと、葉も落ちて、無くなってしまった寂しい木が多く並ぶことだろう…。
そうして、考えているうちに雨は止んだ。
私が散歩に出かけると、松の木があった。
それは、変わらず、葉っぱをつけて、昔から変わらず私の前に立っている。
常盤木…。
私は松の方を見て呟く。正しくそのものだ…。
雨の露が乾かないで、その葉に、雫が乗っていた。
そうして見ていると、霧が段々と常盤木の周りに現れ、立ち上っていく。
日も段々と落ち、一面は、夕方の色に変わった。
秋の日の、この雨が上がった後の時間。
それもまた美しく、自然の美…。いいものを見た。
私はそう思って、そこで、その光景をただ見つめていた──────
ある時のこと
ある場所の入り江に植物がある。
そこの切り株はとても短い。
それは、私のある日のように思い出される。
旅先で出会ったあの人と話した長いようではかない時間。
私にとってはとても大切な時間だった。
あなたはどう思っているのか…?そんなことは分からないも、私はこれからその事を思って、一生を過ごすことになるでしょう。
確かにあった、あの楽しい時間。全てを合わせても、1日に満たない、人生にとっては些細な出来事と言われるかもしれない。
でも、私にとっては、とても大きな事で、大切な思い出でした。
あなたともう一度会いたい…。
そう思っても、あなたは来ることは無いでしょう…。
そう考えるととても悲しく、虚しい時間を過ごしています。
でも、その悲しい感情に負けたくはない。ただ、思い続け、あなたのことを思い続けたい…。
これからもそれは変わることはない。
大切な時間をありがとう…。
隠したいもの
私には秘密がある。
これは誰にも言えない秘密だ。言ってしまえば、悲しませるだけでなく、傷付けてしまうことになる。
そう考えると、言えない。ずっと隠しておきたいものだ。
それも無理なのだろう。
時が経つにつれて、オープンになって、何か全てを言ってしまいそうな程に、秘めておく力が弱まっていくのを感じる。
この隠し事はもう隠し通すことはできないのだろうか…?
それならもう、私の命は要らない。いつの日かパッと消えてしえたら、こうして悩む必要もなく、悪い気持ちももうしないだろう。
いっその事、消えてしまえれば…
人目に分かって欲しくはない。
そう思えども、苦しくなっている自分が居た。
今、私は、自分のことばかりになっている。
この状態では、どうであれ、誰かを幸せにすることはできないだろう…。
そう思うと、考えるのを辞めた。バレてしまうのならそれでいい。
私はただ、今、相手のためにできることをするだけだ。未来に後悔しないために、今、できることをする。
赤い袖
あなたはこの袖の色を見たことがありますか?
私は1人で、あの人を浮かべてたずねる。
この赤く染った衣の色、それは、私のあなたへの思いなのです。
とても苦しく、とても悲しい気持ちで、ずっと過ごしていました。
あなたのことを思い過ごしているのです。
この色は、島に住む漁夫の袖でさえならない赤さ。
潮にすっかり濡れていても、この色には変わってはいません。
私はこの身に強い思いを抱いているのです。あなたと会えない間に。
もし、会えた時、この強い気持ちを伝えたい。
私は今でも、変わらず思いを心の中に持っているということを──────