思想学部⑪

日曜日、僕はすすむくんの家に行った。

思ったより普通のところに住んで、何か大きく変わったところはない。

少し身構えていたので、少し心が落ち着いた。

チャイムを鳴らすと、すすむくんのお母さんらしき人が出てくる。

「こんにちは」

そう言って微笑む。

「あの…!すすむくんは居ませんか?」

「すすむくんに用があったんですね。良ければ、上がって待っててください」

なんだか、とても優しそうな雰囲気の人。

もしかしたら、彼のそういうところはお母さんから…?

そう思っていると、お母さんがまたやってきた。

「すすむくんは今、手がはなせない用事があって…。」

とても申し訳なさそうに僕を見る。

「大丈夫ですよ。待ってます」

それに微笑んだ。やさしく穏やかな笑顔。

「ありがとう。」

そして、何をするでもなく、その場で座っていた。

前を見ると、お母さんがずっと笑顔で僕の方を見つめる。

「どうしたんですか?」

「ごめんなさいね…。すすむくんがはじめて連れてきてくれた友達。

それが嬉しくて」

そう言って、とても嬉しそうにした。

少しして、すすむくんのお母さんはその場を離れる。

入れ違いで、すすむくんのお父さんらしき人がやってきた。

「君がすすむの友達かな?」

「はい、そうですよ。」

「そうか…」

すすむくんのお父さんはどこか暗さがあった。

少し身構えながらも、その人と2人の空間に。

無言の時間が続いたが、すすむくんのお父さんの一言でやぶられる。

「君は…何か考えがあるかな?」

「考え?」僕は首を傾げた。

「もしかして、思想のことですか?」

コクりと頷いたので、思い切って言った。

「普通になりたいんです。」

「普通?」

「はい。普通が1番、安全に生きられると思ってますし」

「そうか。普通を目指すなんて、それが普通じゃないな」

すすむくんのお父さんの一言にズキッとする。

「でも、面白くて、いい考えだと思うよ。」

そう言って、その場から離れていった。

どこか暗さがあった気がしたけど、いい人なのかもしれない。

そうしていると、すすむくんのお母さんが戻ってきた。

「待つ間、良ければ、お話しない?」

そう言って微笑んだ。

「はい!」

お母さんは手に持っていた写真を、僕の目の前に出した。

「これ…。すすむくんが子供の頃写真なの。」

無邪気に笑うすすむくんの姿。今も昔も変わらず元気そうだ。

お母さんは呟く。

「写真があれば…どんな時でも一緒に居られる。

どれだけ離れていても…傍に…。」

そう言ったお母さんの顔は、少し悲しそうだった。

「ごめんなさいね…。」

「大丈夫です!見せてくれてありがとうございます!」

─────────

それから、ようやくのことで、すすむくんがやってくる。

「待たせたね!」

「何してたの?」

「それはちょっと後で教える!」

そう言って、すすむくんと僕は家を出た。


家の中では、男が1人、ノートの切れ端を持って何かを考えていた。

そのノートの切れ端に

思想家はいつからでも遅くない。これからが人生だ!

と書かれていた。

「すすむ…。色々な出会いがあったんだな」

男はそう呟いて、家の天井を見つめる

───────

「すすむくん!なんの用があったの?」

首を傾げる。

「実は、今日、親にあって欲しくて呼んだんだ。」

「そうなんだ。ところで、さっきは何してたの?」

「あぁ!あれは、練習試合に向けて色々考えてたんだ!」

彼はそう言って、ポケットにあったメモ帳を取り出す。

「自分の考えを伝える…そうすれば、きっと大丈夫だと思うんだ!」

「自分の考えを伝えること、大事だもんね!」

「うん!
早速やってみようか!」

彼はそういい、僕に思想を聞いた。

「僕の思想は、普通であることだよ!」

「そうなんだ!なんでそうなりたいの?」

「普通じゃないと、マイナスなことが多いと思うから!

普通に暮らすためには、浮かず、ですぎずがいいかなと。」

「なるほど!分からないけど、いい考えだと思う!」

「あはは。ありがとう。

すすむくんの思想は?」

「僕はね!みんなを笑顔に!」

とても自信満々に言う

「どうしてそうしたいの?」

「悲しい顔よりも、笑顔になってると嬉しいから。」

「人の笑顔が増えれば増えるほど、それは多くなっていく!」

僕は笑顔で言った。

「いい考えだと思うよ!」

「ありがとう!」

2人は相手の考えを認めあった。

前回の練習の時、それも、同じ結果に収束する。

けれども、僕には、少しの不安があった。

もし、優劣をつけるのならば…。

────────

ダイバースショー

前々から聞いていた、ショー。

その日がついにやってきた。

僕はすすむくんと待ち合わせて会場に向かう。

「結構、沢山の人が居るね」

初めてだが、大人の方や、子供など幅広い年齢層の人が。

「校長先生が居るよ!」

すすむくんのその声に振り返ってみると、確かに先生の姿が。

更には生徒会長までも来ていた。

ショーに来るのははじめてだが、新鮮で、まだはじまってないのに驚きの連続。

すると、後ろから声がした。

「はやくはやく!」

中学生の女の子が男の子の手を引っ張っていた。

「希望くんの晴れ舞台…!私のアイドルが、本当のアイドルに…!?」

女の子はそう言うと、とても機嫌良さそうにそのまま歩いていく。

───────

それから、色々あって、ショーが始まった。

最初は中学生くらいの女の子が出てきた。

手に沢山の人形を持っている。

「世界は…可愛いもの、美しいもので一杯!」

「あぁ、なんて素晴らしいのっ!」

彼女は両手をあわせて、目をキラキラさせながら上を見た。

「可愛いもの、美しいものしか勝たん!

良ければみんなも言おう!」

「世界は美しい!可愛いもの沢山!

可愛いもの、美しいものしか勝たん!」

会場から少し、彼女にあわせて声が。

それから少し進み、今度は中学生の男の子が出てきた。

「僕は言いたいことがあります!」と言った。

「それは、友達に、仲が悪い人がいること…

だけど、僕は、きっと仲良くなると信じています!」

すると、近くの席から声が聞こえてくる

「きゃー!希望くん友達思いですてき!」

彼が出てる時はずっと女の子が騒いで居たのだった。

僕は色々な人が居るんだな…と心の中で思った。

次は、すすむくんの番。

みんなの前に出ても、堂々としている。

すすむくんらしいなと思った。

「僕は今まで、人を悲しませてきた。」

「でも、だからこそ、みんなを笑顔にできると思ってる」

彼は握りこぶしを作った。

「僕はこれから、そのために頑張っていきたい。そう思う」

それから、彼の話は続き、僕はそれを聞く度、どこか強さを感じる。

どんな時でも、前を見て進もうとする彼の姿。

それを後ろから見ているような。

その背中は小さく、頼りなさがあるが、それでも、目に見えない何か大きなものがそこにあった。

────────

彼の話は終わり合流する。

「君の話良かったよ」

僕はただそう言って、続きのショーを一緒に見た。

もう帰ってもいいが、少し他にも見てみたい…そんな気がしていた。

すすむくんもそれに同調する。

次の人は…?

そう思っていると、少し大柄な男の人が出てきた。

「俺の名前はすいぞう。ぜんほう高校で、生徒会の一員をやっています。」

「これから、僕は歌を披露しようと思う!」

彼はそう言って、マイクをとりだす。

そして、『大切な人達』という歌をはじめた。

大切な人、それは仲間。
君たちにとっての大切な人は誰か~

───────

生徒会長が来た理由が分かった。

今日は色々な人の特技などが見れ、僕にとって、色々得られるものが。

そろそろ帰ってもいいだろう。

すすむくんに言うと、次を見て最後にしようとなった。

最後に見るのはどんな人だろう。

そう思いながら待っていた。

すると、仮面を被った女の子が出てくる。

僕と同じくらいの年齢だろうか…?

よくは分からなかったが、彼女の雰囲気に釘付けになった。

そして、はじまる。

彼女は仮面を付けたまま口を開いた。

「仮面や、衣装を付ければ、どんな姿にも変えられる。」

「だけど、その人の人格までは変えられない…」

女の子は悲しそうに下を向く。

「三つ子の魂百まで、遺伝。その言葉も、私達は変われないことを教えてる。」

すると、直後、彼女は顔を上げた。

「いいえ、変えられる。

いくらでも!」

彼女はそう言うと、仮面に手をやった。

「みんなー!集まってくれてありがとー

今日は楽しんでいってねー!」

彼女は何か演じるように言葉を連ねていく。

そして、また仮面に触れる。

「ふふふ!私の名前はデビルエンジェル」

そして、彼女は色々なキャラに変えていった。

時間が少なくなってくると、彼女は演じるのを辞めて話す。

「私達はなりたいものになれます。

皆さん、私の話を聞いてくれてありがとうございました!」

─────────

帰ってる最中、すすむくんと話していた。

「色々あったね。」

「うん。そうだね。」

「今日誘ってくれてありがとう」

「こちらこそだよ。来てくれてありがとう」

そのまま今日あったことなど話していると、誰かがおい抜かしてきた。

すすむが「君は!」と言うと、男は立ち止まる。

「リベシン高校に居たリーダーの人!」

「すすむか。」

「君も来てたんだね。僕の見てくれてたの?」

「後半から来たから知らないな」

「そうなんだ。」

すると、リーダーの男は、「それよりも、そろそろ練習試合だ。

覚悟しておくんだな。」

とそのまま行ってしまった。

「確かにもうそろそろ。どうなるんだろうね」

すすむくんは自信満々に笑う

「きっと大丈夫だよ!」

────────

練習試合①

「遂にこの日がやってきたね」

空を見つめながら言った。

「うん。楽しみだね」

僕は下を向いた。

「だけど、ずっと勉強ばっかりだったね。上手くできるかな…」

彼は「大丈夫!」とニッコリ笑う

「宿題、勉強の思想をやったから!」

どんな時でも、すすむくんは変わらずだ。

「ところで、みんなは?」

「おとねさんと、みちかさんは来てるよ。先生とほかの2人は休みだって。」

先生が居ない状態で、練習試合なんてしていいんだろうか?

僕の頭には疑問が尽きない。

「お待たせ!」

おとねさんが走って向かってきた。

「何してたの?」

すすむくんは首をかしげた。

「今、ちょっと、いなし先生のところに行ってて!」

「来てくれるから練習試合大丈夫そうだって!」

「そうなんだ!良かった!

ありがとう、おとねさん!」

「どういたしまして!」

彼女は笑顔で答える。

おとねさんは周りをキョロキョロ、何かを探していた。

「ところで、みちかちゃんはどこに行ったの?」

「分からない。」

「じゃあ、また行ってくるね!」

「僕が代わりにみちかさんを探してくるよ!」

おとねさんは「じゃあ、任せるね!」と微笑んだ。

そして、1人になる。

どこに居るかは分からない。

しかし、彼女ばかり、何かさせる訳には行かない。

僕も、思想学部の一員なんだ

心の中でそう思ったが、中々見つからなかった。

ダメもとで、校舎裏に向かうと、偶然、女の子の話し声が聞こえたので向かってみる。

そこには、みちかさんともう1人が居た。

彼女は確か…?

─────

丁度その頃、リーダーの男が学校に1人でやってきた。

「リーダーの人だ!」

そう言ったすすむをみる。

「ショーの時ぶりだな。」

「うん、そうだね。一人で来たの?」

「確かに、活動できる部員は1人も来てない。」

「しかし、今日の練習試合は、部活するためじゃないからな。」

すすむは首を傾げた。

「じゃあ、何するの?」

「それはすぐに分かるだろう。」

リーダーの男はそう言うと「すぐに試合をしよう。」とすすむを見て笑った。

おとねは「でも、どうするか分かってなくて…」と困る。

「俺が考えてきた。名前おとねだよな、君に審判をやってもらう。」

「審判って何をするの…?」

「どちらがいいか決めるんだ。やってみればわかる。」

彼はそう言うと、「ただ。」と続けた。

「練習試合とは関係しているようで、関係してはいない。

そこだけはハッキリさせておく。」

そして、特に何かが分かることはなく試合が始まった────────

あの人は確か…あゆみさん?

僕は心の中で驚く。

すると、あゆみさんは言った「久しぶり。小学校の時以来だね。」

みちかさんはそれに困って何も言えずにいる。

「相変わらずね。

どうせ…私の事、恨んでるんでしょう?」

悲しそうにみちかさんの方を見る。

「そんな事ないよ…!

私はあゆみちゃんともう一度仲良くなりたいと思ってるんだ…!」

あゆみさんはみちかさんを睨んだ。

「嘘をつかないで!」

「ついてないよ…!」

「じゃあ、どうして、学校に来なかったの?どうして、ずっと…。」

「私はあゆみちゃんに…」

そう言いかけると、彼女は「もういい」と妨げた。

「実はね、私、リベラルシンク高校の思想学部でマネージャーをすることになったの」

みちかさんは驚いていた。

「だから、敵同士だから、もうあなたとは仲良くなれない。」

「あゆみちゃん…!」

「今日はそれを伝えようと思って。」

あゆみさんはそう言うと、「じゃあね」とみちかさんのもとを離れていく。

残された彼女はとても悲しそうな顔をしていた。

今すぐ出ていって、かけてあげる言葉が見つからない。

僕は彼女を見れず、空へと視線を───────

リーダーの男は言った。

「夢を与えるのは大人だ。しかし、その夢を壊すのも大人。

俺はそう言っていた」

すると、すすむはそれに「また夢を与えて、助けるのも大人だよ。」と笑う。

「だが、それをまた壊すのも大人だ。」

彼はおとねの方を向いた。

「おとね、君は、すすむに夢を壊されたことがあるらしいな。」

ニヤリと笑いながらたずねた

すると、おとねは、悲しい顔をしている。

「すすむに壊されたんだ。夢をさ。」

すすむの方を見ると、何も感じていないかのように立っていた。

それにムッとする。

「すすむ、何も思わないのか?お前は、おとねから夢を奪ったんだよ。」

「どう思おうとも、僕は彼女に任せる。」

「何故、そう思える。全てを任せても裏切られるだけだ」

リーダーの男はそう告げると、おとねの前に行った。

「すすむを恨んでもいい。彼は君の夢を奪った男。」

おとねは迷っていた

───────

練習試合②

おとねは思い切って言った

「どうして、その事を知ってるの…?」

リーダーの男はニヤリと笑った。

「俺の仲間が、君の友達、かなでさんに聞いたんだよ」

「どうして…かなでちゃん」

おとねは下を向く。

これはチャンスだと畳み掛ける。

「苦しいだろう、辛いだろう。」

「大人から与えられた夢、それを叶えようとすると、他の大人や、何かに壊される。」

「だからこそ、俺とともに、本当の夢ってやつを叶えないか?」

「これは、誰かに壊されることはない。」

しかし、おとねは話を聞く余裕が無さそうだった。

リーダーの男はそれを見て、「仕方ない…」と呟くと、話すのを辞めた。


おとねはの周りは真っ暗。

誰も居ないし、何も無い。

ピアノを失ってから、こんなことが続いていた。

すると、段々、誰かの姿が浮かんでくる。

それはかなでだった。

彼女はおとねの様子を見ると「やっぱり、すすむと一緒にいるべきじゃなかったんじゃないの?」と呆れたように言う。

心の中で思った。かなでちゃん、どうしてそんなことを言うの…?

「すすむはあなたに酷いことをしたんだよ。」

私はふと、昔のことが浮かんだ。

───────

かなでちゃんとはじめて出会った時、それは、中学校の部活だった。

「好きな楽器は何?」と聞かれて、私は「ピアノが好き!」と答える。

「そうなんだ!いつか聴きたいな!」

そう言って、かなでちゃんは笑った。

数日して、私はかなでちゃんを家に招待した。

そして、そこで、ピアノを披露する。

すると、「とっても良かったよ!安心する音色で、ずっと聴いていたいと思った!」と優しく微笑んだ。

私はそれがとっても嬉しかった。

他にも聴いてくれた人が沢山居て、「良かったよ」とその一言を一杯貰った。

────────

私は「そうだったね…。」と呟く。

────────

またある日は、「おとね!」と笑顔で呼んでくれた。

「どうしたの?かなでちゃん!」

私は笑顔で返す

「渡したいものがあって!」

そして、ポケットの中から、小さい音符のぬいぐるみが出てきた。

「これあげる!ぬいぐるみ好きでしょ?」

私はとても嬉しくなる。

「ありがとう!かなでちゃん」

────────

「だけど…私はおとねの友達だと思ってるから、あなたの本当にしたいこと、望んでることは止められない。」

かなではそう言って、どこかに居なくなってしまった。

おとねは1人、暗闇の中で考える。

───────

このままじゃいけない!僕は思い切って、みちかさんのところへ出ていった。

「あいだくん…?」

彼女は少し驚いていた。

言葉が出ない。

こんな時、すすむくんだったら…。

彼は、想像の中でも、ただ根拠のない自信で一杯だった。

すすむくんは相変わらず。

僕は「きっと大丈夫だよ」と言った。

「ありがとう」

彼女は微笑んだ。

気をつかってくれているのだろうか…?

彼女の言葉に優しさを感じた。

みちかは心の中で、あの時のことが浮かんだ。

あゆみちゃんが放った言葉…。

「友達はね、こっちから切らなかったら、ずっと友達でいられるんだ!」

とっても大きな笑顔。

私の心の中に、ずっと残り続けた。

私はまだ…。

───────

今度は、お兄ちゃんが出てきた。

いつも私のピアノを聴いてくれる…。

他にも沢山の人が出てきた。みんなは私を笑顔で見つめる。

それに、何か思い出した気がした。

すると、みんなは居なくなって、今度はお母さんの姿が出てくる。

「あなたの今、進みたい道を行きなさい。」

そう微笑んだ。

お母さんの言葉の中で、1番残っているもの。

私は「うんっ!」と笑った

────────

周りを見ると、練習試合の相手の人と、すすむくんが居た。

それに気付いて、相手の人は、「どうする、諦めるか?」と聞く。

私は首を降った。

「ううん、私は夢を諦めてないよ」

「何故?

ブランクがあれば、どんなものでも、その道のプロになるのはほぼ無理なことだ。」

「私の本当の夢は…プロになる事じゃないから。」

「私の夢は…皆に、私のピアノを聴いてもらうこと…!

皆が、笑顔になったあの時が楽しくて幸せだったし、嬉しいから弾きたいの!」

リーダーの男は、おとねのその言葉に口を閉じた。

丁度その時、みちかとあいだが帰ってくる。

「すすむくん!何かあったの?」

リーダーの人が1人だけで居たのに驚いた。

「今、練習試合をしているんだ!」

そこに、いなし先生もやってくる。

「みんな、すぐに来れなくてごめんなさいね。

もう、練習試合をはじめるかしら?」

すると、リーダーの人が口を開いた

「この練習試合、俺の負けだ。

今度は大会で勝つ。じゃあな」

彼はそう言い残して帰って行く。

「おしまい?」

いなし先生はその状況に困惑していた。

────────

リーダーの男は、帰路、思った。

自分がやっていたこと、それは、大人達と同じだったか…?

いいや、あいつらと俺は違う。

結果的に目的は果たせた。

次に会う時は2年生か。

その時、覚悟していろ。

すすむ

────────

部活動!

練習試合が終わってから、何事もなく休みが続いた。

そして、部活の日。

みんな1つの場所に集まって、勉強会をすることになった。

青野くんも勿論、参加して、勉強も教えてくれた。

なんでも、教えることは普通に勉強するよりも、定着するらしいのだとか。

青野くんはすすむくんにつき、おとねさんがしずくさんについていた。

「ありがとう…おとねちゃん。

私、学校に入るのギリギリだったから、教えて貰えてありがたいんだ…!」

「こちらこそ!力になれたのなら私も嬉しいよ!」

「おとねちゃんに教えてもらうと、とっても分かりやすくて…。」

しずくさんは嬉しさのあまり、泣き出してしまう。

そんな時、おとねさんはいつも、優しく頭を撫でて寄り添った。

しずくさんが泣き止むと、彼女は、皆の前に出てくる

「どうしたの?」

すすむくんは、ノートから顔を上げた。

「実は、話さないといけないことがあって…」

首を傾げる。

「私、思想学部を辞めようと思うの…!」

みんなはそれに驚いた。

しずくさんは、またうるうるとおとねさんに近寄る

「何かあったの…?もしかして、私がよく泣くから…」

おとねは首を降った。

「ううん。私はもう一度、自分の夢…ピアノでみんなを笑顔にしたいと思ったの!」

しずくは少し寂しそうです。

「ごめんね。」

「少し寂しいけど、大丈夫だよ…おとねちゃん!」

「ありがとう、しずくちゃん…!」

そして、少し心配そうに、すすむの方を見ました。

「私が抜けちゃったら、部活大丈夫かな…?」

「大丈夫だよ!」

彼は落ち着いていた

すると、青野くんがやってくる

「僕は卒業するまで、部員で居ようと思ってるから大丈夫だよ。」

「向かってる最中、暗記したり、みんながいる所で勉強した方が落ち着くし捗るから」

おとねさんはそれに「ありがとう」と言った。

──────

それから、すこし勉強を続けると、「そうそう。」とおとねさんが思い出す。

「中学校の時の友達に聞いたんだけど…!他の学校でも、思想学部が沢山作られてるらしいよ!」

僕はその言葉に驚いた。

「大会があるとは聞いたけど…」

「なんでも、むりさんって人が広めたって噂だよ」

むりさん。聞いた事の無い名前だ。

すすむくんは前に出てきて言う

「何があっても、変わらない。大会ができたってことは嬉しいことだよ!」

「リベラルシンク高校の人が否定で行くなら、僕は肯定でいく!」

キラキラと目を輝かせていた。

「大会で勝つには、否定より肯定か。」

僕は頷いた。

だけど、もし、本当にそれで行くのなら、決着はつかないのでは…?

そう思いつつも、彼の強い未来への気持ちが大丈夫と後押ししているよう。

どんな形であれ、誰かを傷付けて得ようとする勝利よりも、お互いが悲しまず得られる勝利の方がいい。

僕は「いいと思う」と笑った。

───────

リベラルシンク高校では、思想学部のメンバーが集まっていた。

「リーダー行けなくてすみません。」

ひていは頭をさげる。

「謝らなくていい。しようと思ってたことはできた。」

「おとねって部員のことですか?」

「あぁ。彼女は時期に部活を辞めるだろう。」

「流石、リーダー。」

「そういえば、ショー行きました?俺は行かなかったんですよね。」

「あぁ。行った。2人気になるのが参加してな。」

「そういえば…」

ひていがそう言うと、リーダーの男はあたりを見回した。

「ところで、今日は、あゆみさんと、はみさんが来てないな。」

「何してるんでしょうね。」

「まぁ、いい。」

リーダーの男は窓から太陽のぼる空を見上げた。

「すすむ」

───────

おとねさんは夏休みの間だけは居ることになる。

それから、先に、また吹奏楽部に入るらしい。

そして、また少しずつ家でピアノを弾いて練習を続ける。

すすむくんは彼女を後押しした。

「おとねさんならきっと大丈夫!」

それから、思想学部は、部活をしたり、勉強したり、それぞれで遊んだり、色々なことをして夏休みを過ごした。

短いようで長い夏休み

───────