思想学部⑫

夏休みが明けて

9月になった。

学校が始まって少しして、部活の空気は、勉強から文化祭に。

と言うのも、文化祭は部活のグループで行われるらしい。

しかし、今日の最初の話はそれとは違った。

しずくさんは寂しそうに話す。

「おとねちゃんが居なくて寂しくなったね…」

すすむくんは「確かに、寂しくなったかもしれない。よし!誰かに思想学部また入ってもらおう!」と元気に言う

「でも、もう皆、部活入ってるよ!」

すすむくんは「そうか…」と考えていた

すると、しずくさんはみちかさんに話しかける。

「夏休み中、お祭り行った?」

「うん、行ったよ!」そう言って微笑む

2人は一緒にお祭りの話で盛り上がっていた。

それに困ったことが起こる。

もし、祭りの話を振られたら、何も返せない。

何処にも行ってないからだ。

普通であることを目指すのに、話にのっかれないことは…。

そう思っていると、すすむくんが「そうだ!」と叫んだ。

びっくりして、「どうしたの?すすむくん。」と話す。

「久しぶりに、誰かの思想を叶えよう!」

「夏休み前のボウリングとかのこと?」

「うん!今回は部活内でやるんだ!」

すすむくんはそう言うと、「誰か居ない?」と聞いていった。

みちかさんに聞くと「私は前にしてもらったから…」と。

しずくさんは「私は叶ってるよ…」と無かった。

「新しいものでも大丈夫だよ!」と言うが、結局思いつかなかったらしい。

僕は「すすむくんのことにしたら?」と言うが、みんなのことをするのが僕の考えだからと言う。

「そういえば、あいだくんは?」

忘れてた…。僕が聞かれてなかった。

少し考えて返答する

「僕の思想は普通であることだから、考えられることないんじゃない?」

「大丈夫!考えられると思う!」

そして、みんなで普通について考えることになった。

「普通ってなんだろう?」

すすむくんがそう言うと、しずくさんはとても難しい顔をしていた。

「ずれてないってことかな…?」

すすむくんは「なるほど…」と頷いた。

そして、みちかさんの方をみる「そういえば、優しいって、普通なのかな?」

確かに、優しい人は、場所によっては少なくて、そこでは普通じゃないかもしれない…。

でも、たまにこういう人がいる。

親切や、優しいことをするのは普通のこと。

これはどういうことなのだろうか…?

中々、そういう事はしにくいはず。なのにどうして、その人は普通だとおもうのだろう…?

人間としての普通。理想のあり方の普通ならば、そうであってもおかしくはない。

僕は自分の中に答えを見出すと、まだ何かある気がして、心の中に閉まっておいた。

話し合いは終わって、文化祭の話になった。

「出し物何にする?」

僕がそう言うとみんな、黙り込んでしまう。

困っていると、しずくさんが言った。

「私は…」

しかし、丁度、その時に先生がやってくる。

「出し物、それぞれ紙に書いて渡してください」

部活では、時間短縮のため、この方式がとられている。

人数が多くて、それほど使うものが必要ではないものが選ばれていた。

思想学部は青野くんが休みで、4人なため、その方式で行くとうまく2人以上にならないだろう。

そう思いつつも、僕は、文化祭にありがちで、被りそうなものを選んで紙に書いた

───────

「生徒会長。」

獅王が振り返ると、そこには、すいぞうの姿があった。

「すいぞうくん、何かありましたか?」

「思想学部、彼らを野放しにしてはいけない。」

「君は、夏休み前から、思想学部について思ってたみたいだね。」

「はい。あいつらは、何をしでかすか分からない。」

「しかし、まだ彼らは何もしてない。この先何かすれば、それに応じて、対処する。」

「すいぞうくんが仲間思いなのは分かるけど、彼らもこの学校の一員だよ。」

生徒会長はそう言って、すいぞうの目を見る。

会長は、彼の目はどこか強い信念を持っているような気がしたのだった─────

パラパラと雨が降ってきた。

「部長、これを!」

女の子が傘をリーダーの男に渡す。

「ありがとう。しかし、なえさんの傘はあるのか?」

「私は大丈夫です」

目をキラキラさせる

「部長のためになるのなら私は…!あの時の御恩忘れてません!」

すると、リーダーは言った。「一緒に使おう。」

「え…!?いいんですか…?」

彼女はとても喜ぶ。

「あぁ。君の傘だしな。」

「ありがとうございます!また助けてもらいました…!」

それを見て、ひていは気に食わないような顔をしていた。

「ひていくん、どうしたの?」

同級生の男の子が話しかけると、「あいつが副部長になったの納得できなくてな。態度も悪いムカつくやつだ。」とイライラしていた。

───────

時は流れて、文化祭当日。

校長先生が学校の中から外を見ていると、一人女生徒が目に入った。

彼女はこの学校の生徒ではなさそうだ。

しかし…

「あの子はどこかで…?」

そっと呟いた───────

文化祭!

僕の部活の出し物。

それは、偶然、2人が同じものを選んで決まった。

その名は…

人形と触れ合いの家。

実際には触れられないのだが、癒されようと言うのがコンセプト。

ありがちなお化け屋敷を書いたが、被らなかったらしい。

すすむくんは思想学部に関係することを書いて、残った2人が一致したそうだ。

思えば、おとねさんのことで、寂しそうにしてたから…

みちかさんは優しいし。

「思想学部のみんな、来たよー!」

考えている途中に、おとねさんがやってきた。

人形と言えば、彼女だもんね。

僕は邪魔しては悪いと、その場を離れた。

その途中、おとねさんが「私の友達を紹介するね!」と声が聞こえた。

───────

人形と触れ合いの家。人数が少ない思想学部に丁度いい出し物だ。

1人、2人くらいいれば、一応成り立つから。

休憩していいと言われたので、適当に他の場所を回ってみることにした。

色々な出し物があり、みんなそれぞれ頑張っている。

こうして、見ているだけでも、凄いな…。と思うことが沢山だ。

だから、楽しい。

そのまま歩いていると、女の子の声が聞こえてきた。

「マスクはいりませんか…?マスクはいりませんか…?」

そこには、マスクを被った少女が色々な変わったマスクを売っていた。

しかし、どこかで見たことが…?

「あの!良ければマスク買っていいですか?」

すると、女の子は、駆け足で僕の方に向かってきた。

「ありがとうございます…!助かります…。」

そう言って、嬉しそうに「どれにしますか?」と。

しかし、どれも同じに見えて仕方がない。

「オススメはどれですか?」と聞くと、黄色しかないマスクを渡した。

「これがいいですよ!」

「じゃあ、それにします!」

100イニーで、そんなに高くないので買った。

彼女の話だと、僕がはじめてマスクを買ってくれたお客さんだと言う。

「あなたは私の恩人です…。

また求めてしまって申し訳ないですけど、良ければ、お友達になりませんか…?」

「僕で良ければ!」

「ありがとうございます!」彼女は手を合わせて喜んだ。

「お名前はなんと言いますか?」

僕は「あいだです!」と言った。

「いいお名前ですね!」女の子は笑う。

「あなたは?」

「私は…そう…!ペルソナです!」

「外国の方だったんだ。」

「そうかもです」

彼女がマスク越しにもクスクスと笑っているのが分かった。

「ところで…!良ければお話しませんか?

あなたの事が気になってます」

僕は「いいですよ!」と答える。

「部活は何をしてますか?」

「僕は思想学部に入ってますよ!」

彼女は「そうなんだ…」と小さく呟く。

「ペルソナさんは?」

「私は内緒です。」

彼女はそう言って「そろそろ帰らなきゃ!」とマスクを片ずける。

「あいださん、また会いましょう!」

「ペルソナさんまた!」

マスクの女の子はそのまま行ってしまった。

なんだったんだろう…?

時間を見てみると、結構経っていた。

まずい、僕も、みんなのもとに帰らなければ!

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リベシン高校では、思想学部のメンバーが集まっていた。

「リーダー、今日もあいつは来てないんですね」

「そうみたいだな。」

「あいつと一緒に未頼三(みらいみ)なんて…

全然信頼にあたいするようなやつじゃない。」

すると、副部長が言った

「あなたいつから、部長に口を出せるくらい偉くなったの?」

その言葉にムッとする

「それに、ここでは、部長でしょ。」

「大丈夫。なえさん、いつも悪いな。」

「いえ、部長。」

副部長はキラキラと目を輝かせる。

───────

部活に戻ると、みちかさんが居た。

他のところに行きたいだろうに、かわりに引き受けてくれていたらしい。

笑顔を絶やさず、「自由にして大丈夫ですよ。私に任せてください」と言った。

僕は流石に何もしないのではと、一緒に居ることにした。

人形の家では、女性の比率が多くみんなふわふわと癒されている。

笑顔が絶えないことが、この出し物になって良かったと思う理由になった。

ところで、その間、みちかさんが色々話してくれた。

「おとねさん、吹奏楽でも、お友達ができたり楽しくしているみたいですよ。」

それは何よりだ。

僕はさっきのことを話したりしているうちに、いつの間にか、文化祭は終わりの時刻になった。

みんな集まって、すすむくんが「今日はありがとう。これからも部活で色々できたらいいな。」と言う

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余裕とアイディア

夏休みがあけた。

その間、とても自由な時間がおくれた。

誰にもダメだと言われず、沢山自由に創作できる空間…。

7月には残り9ヶ月か…と絶望的だったが、あっという間に2ヶ月が経つ。

案外いけるかもしれない。

そう思った矢先に起こった。

先生に勉強のことで、相談しにいった時、ついつい創作的に語ってしまったのだ。

瞬間、先生の表情は険悪なものとなり、やってしまった…と。

その後、沢山怒られて、最後の最後に「本当だったら少年院送りだったところだ。今後気を付けろ」と念を押された。

夏休みの間にも、創作に関して批判が無かった訳では無い。

そこら中に、創作禁止の張り紙があったり、危険と書かれていたりした。

しかし、ここまですることはないんじゃないか…。

僕は悲しくなっていた。

好きなものを、こんなに大っぴらに批判されること…。

いくらなんでも、やりすぎなんじゃないかと思う心もあった。

しかし、僕に創作をどうするかといったパワーエリートのようなそれはない。

今はただ、これを隠しながら暮らしていくしか方法はないのだ。

いつか、創作の無実が証明され、もう一度、自由に行える時まで…。

しかし、矢張り、思うところもある。

何故、張り紙で、創作禁止を言うのだろうか?

しかも、長い文章で。

多く知れ渡っていることなら、沢山を語らずとも、通じることだ。

僕には考えがある

───────

僕の名前はみる。

どこかの神話に登場しそうな名前と言われた。

それは関係ないが、僕の周りでは、不思議なことが起こる。

紙にいつも言葉が書かれ、それによって助けられたりする。

でも、それは案外関係があって、神様による手助けなのかもしれない。

ある日は、とても暑い夏のことだった。

僕は暑さの余り、クーラーをつけて休んだ。

とても涼しくなって、少し買い物に行きたくなった。

そんな時、部屋を出る前のドアにそれが。

そこには、クーラーと書かれている。

どういう事だろう。

部屋を出る前の僕は考えていた。

すると閃く。

そうだ。まだ、クーラーを消していなかった。

僕はその後、直ぐにクーラーを消してそのまま買い物に行く。

またある日のこと。

家に帰ってすぐに、荷物を置いて、自分の部屋に向かった。

すると、また紙があって、そこには何か書かれている。

今度は、荷物、財布などとあった。

なんだろう…?

僕はいつものように考えると、すぐに思いついた。

帰る前は、財布と荷物を持っていたのに、今はどこかに行ってしまった。

向かってみると、そこには、散らばった荷物がある。

僕は財布を探して、何事もないのを確認すると、ホッとした。

このままになってたら、後で、見つからなくなったり、無くしてしまっていたかもしれない。

僕はいつもこの紙に書かれている一言に助けられている

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今日の創作は如何だっただろう?

見えやすいところに貼っておけば、このように、自分で考え悪い結果を防ぐことができる。

物語や、創作物批判は書かずとも、ただ、“創作”の一言を書いておけば通じる。

現在の空気が、とても強い創作規制に進んでいるから、いけないと自分から気を引き締めることができるのだ。

実行したことは1度もないが、自信はある。

創作に出来ることはある意味で、現実に近いものであるから。

ところで、今日の創作と言っておきながらではあるが、これは夏休みに僕が考えていた1つ。

それと、同時進行で考えていたものがもう1つあるのでどうだろうか

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僕には夢があって、それを親に止められている。

小さい頃から、川へ洗濯に行く童話のお婆さんの姿に憧れ、自分も将来、それをしたいと思った。

けれども、親は、洗濯は機械に任せた方がいいと言って注意する。

しかし、ある日、話を聞いてどうするか決めると言った。

それは、いい部分と悪い部分を考慮すること。

まず、親は、いい部分を話した。

運動になり、機械に頼らない生活に慣れることができる。

そして、次に、悪い部分だ。

川は綺麗とは言い難い。

たまにそこへものを捨てる人もあれば、砂や土が混じったり、目指しているものと反対の結果になるかもしれない。

反面として、徒労に終わる可能性もあると言った。

けれども、意志は変わらない。

それを聞いてもなお、したいと言う気持ちがまさるのだ。

親はそこまで思っているのなら、好きにするのがいいと言った。

───────

極端な物語だが、本当に止めたければプラスなものと、マイナスなものを考慮させる。

そして、マイナスを見てもなお、やりたいと思うのなら、それ以上はもう止められない。

本当にしたいと思っていることは、ちょっとしたことでは変わらない。

少ししたいだけの意志薄弱ならば、それですぐに解決してしまうだろう。

悪い道に進まない限りは、こころよく送り出すのが大人のつとめだとおもう。

しかし、僕の創作への思いは、こうして、批判だらけの今でも変わらない。

ここには全てがある。どれだけ否定されようとも、僕は創作を愛し続ける─────────

考え

「よく集まってくれた」

リーダーの男は、沢山の仲間が集うその場所で、視線をあびていた。

「俺たちの目的。それを覚えているか?」

視線を全体に向ける。

「夢を与え、それを壊す大人達。俺たちは否定によって、奴らの思い通りでなく自らの世界を作る。」

「奴らから与えられた夢なんて捨ててしまえ。」

話したリーダーは、聞いたことを感謝し、戻っていった。

「リーダー!」

その声の主は、なえだった。

「素晴らしかったです…」

「ありがとう。」

リーダーはそう言うと、その場を離れた。

なえはその後をついていく。

2人は少し話していた。

「さっきのが俺の思想だ。」

「できたのですね!」

───────

それは少し前のこと、校内をリーダーが歩いていると、2年生が話しかけてくる

「君が思想学部の部長さんか?」

「そうだ。」

「聞きたいことがあるんだがいいかい?」

リーダーが頷くと続けた。

「君の思想は何か?」

リーダーは何もいえなくなった。

「そんなもの持っていない」

「そうか、それは悪いことを聞いたな。」

男はそう言って、立ち去ろうとする。

「君はその思想ってやつを持っているのか?」

男は「あぁ。」と頷いた。

「それは対義語の中にある。」

「対義語?」

「まだ見つかってないがな」

そのまま彼を見送った

──────

文化祭が過ぎたある日のこと、部活では、変わらず普通について話し合う。

けれども、中々、答えは出ずにいた。

それもそのはず、僕は何年も考えてきた。

ある程度、方向性は決まったが、普通がなんなのかは分かっていない。

そう思っていると、すすむくんは言った。

「僕は普通かな?」

それに、すぐ普通ではないという言葉が浮かんだ。

しかし、本当にそれが正しいだろうか…?とも思った。

彼には偏った部分が顕著にあるのは確か。しかし、同時に普通のところもある。

1つや、少しばかり偏ったところがあるだけで、その人を普通ではないと決めてしまったら、自分はどうなるのだろう?

たった少しの偏りで、僕は永遠に普通になれないことになる。

「普通って難しい…」

しずくさんは困ってしまって、涙目になっていた。

確かに…

もし、僕が目指す普通の状態になれたとしても、唯一無二の偏った存在になってしまう。

普通という名の偏った存在に…。

「簡単に考えてもいいんじゃないかな!」

すすむくんはそう言っていた

────────

結局、答えは出なかった。

家に帰ってボーッと漫画を読んでいると、気になるページがある。

最近、暑すぎて苦しい…。

どうしたらいいの…

そう言って、困っている人が居た。

すると、主人公が助けに来る。

「普通の男参上!」

「あ!普通の男だ!」

「暑そうだね!」

「うん、そうなんだよ…暑すぎてて困ってる。少しマシにならないかな。」

「そんな時はこれを使うんだ!」

普通の男は氷水を取り出した。

「これを飲めば、体の中は涼しく居られる!」

彼の渡した水を飲んだ

「ありがとう!確かに涼しくなったよ」

夏は冷たい水を、冬はあたたかいものをとればマシになる!

これこそ普通!

そう言って終わった。

この漫画変わってるな…。

と思って、タイトルを見てみると、『スタンダード』と書かれていた。

前に弟が渡した漫画。

主人公は普通の男と名乗る変わった人。

毎回さまざまな困ってる人が居て、それを主人公が助けていくストーリー。

何故、弟がこれを教えてくれたのか…。

それは分からない。

僕は何度か見直していた。

すると、なんだか、そこには自分に必要なものが沢山ある気がしていた。

カラーバス効果なのか…?

分からない。

弟が選んでくれたもの、何か考えがあるのかもしれない。

その後、沢山調べて、結局答えは見つからなかった。

けれども、頭の中には、2つのことが浮かんでいた。

優しさが普通であること。

そして、偏りがあることは普通とは関係あるのかないのか…?ということ。

僕はそのまま寝てしまった

───────

朝目覚めて、一つだけ分かったことがあった。

優しさはそれが偏っているように見えても、普通なこと。

あの漫画を見ても思った。

困っているという偏った状態の人は、どうしても普通とは異なる。

そんな時に、手を伸ばして、助けてあげれば、その人は普通の状態に戻れる。

最初にそう思った

───────

ある日の再会

日曜日になった。

僕はあてもなく、近くを散歩していると、向こうからマスクを被った女の子がやってきた。

「あいださん、奇遇ですね」

彼女は文化祭の時に知り合ったペルソナさん。

「次に会った時、渡そうと思ってたものがあって!」

そして、持っていたカバンから何かを取り出した。

手に握られていたのは、普通と書かれたシャツ。

僕はそれを見た瞬間、何故か、気に入ってしまった。

しかも、サイズもピッタリのようだ。

「ありがとうございます!僕の好みです」

「そうだったんですね!また偶然です!」

そう言って微笑む。

そこから、少し2人で散歩することになった。

「良ければ、お話しませんか?」

「いいですよ!何を話しますか?」

「私はあなたのことが知りたいな…。」

じっとマスクの奥から僕を見つめる視線。

それにやられてしまった。

「いいですよ。」

「ありがとうございます!あいださんも気になる事があったら聞いてください!」

彼女は「えーっと…」と人差し指で顎のあたりを触る。

「思想学部ってどんなことをするんですか?」

首を傾げて、微笑んだ。

「思想学部は色々なテーマについて考えて、深めていくみたいなことかな!」

「そうなんですね!」

「はい!来年から、大会が開かれるらしくて、それについての練習もしてます。」

「頑張ってるんですね!」

「はい!」

僕はハッとした。

「すみません、少し話しすぎてしまって!」

「とても興味があったので、大丈夫ですよ!話してくださってありがとうございます」

彼女は微笑んだ。

「次は僕が!」

「はい!なんでもどうぞ!」

「部活は何に入ってますか?」

すると、彼女は「秘密です!他の質問をお願いします」と言った。

「じゃあ…!どうしてマスクをいつもしてるんですか?」

会った時から気になっていたこと。

すると、彼女はかたまった。

僕は「答えたくなければ大丈夫ですよ!」と言うと、彼女ははなしはじめる。

「マスクをしていれば、私はいくつも姿を変えられる。」

僕は首を傾げた。

「整形をすれば、顔は変えられるかもしれない。」

「だけど、男性、他の生き物にはなれない。限界があるの」

彼女はそっと、マスクのゴムを上へとあげて今しているマスクをとった。

すると、中から、猫のマスクが出てくる。まるで、マトリョーシカ的な何かだ。

「にゃ!マスクをすれば、私はいくらだって、姿を変えることができるの!」

彼女はそう言って「ふふふっ」と笑った。

僕は「いい考えだと思いますよ!」と言う。

それに彼女は驚いた様子だった。

そして、沈黙の後「ありがとうございます!」と。

色々な考えがあってたのしい。

すすむくん、彼との出会いが、今までよりも濃いものにしてくれてる気がした。

「ところで…!」

彼女はそう切り出す。

「なんでしょう?」

「思想学部ってことはそういう考えを持っているのですか?」

僕はこくりと頷いた。

「ありますよ!」

「私には分からないかもですが、聞いても大丈夫ですか?」

「いいですよ!」

「やった!ありがとうございます!」

彼女がそう言って嬉しそうにしているのを見ながら、話しはじめる。

「普通であること。それを目指すのが理想なんじゃないかと思ってて。」

「そうなんですね!」

「はい!

何かがとてもできたり、何かがとてもできなかったりではなく、その中間こそ目指すところなのではと!」

「部活でもその話をしてらっしゃるんですか?」

「はい!」

「そうなんですね。とても興味があります!」

「最近、話しはじめてるだけで、特に進捗がある訳じゃないですけど」

彼女はそれにただ微笑んだ。

「僕の質問いいですか?」

彼女はそれに頷く。

「ペルソナさんは何組なんですか?

前に調べた時、僕の学年には留学生とか居なかったので!」

すると、「内緒です!」と言って、笑顔を作った。

「ところで…!」

「何でしょう?」

僕は首を傾げる。

「来年、大会があるんですよね。」

「はい!」

「良ければ、一緒に、他の学校へ偵察に行きませんか?」

「いいですよ!」

「わぁ!やったあ!」

無邪気に喜んだ。

「でも、どうして?」

「わたしも色々な方に会いたいので!この機会にどうかなって!」

僕はその言葉にとりあえず納得した。

「また偶然会うことがあったら…その時に!」

彼女はそれを言い残し、帰っていった。

疑問ばかりが残る。彼女は一体何者なんだろう…?