与えること③

<h3>能力者</h3>

あなたは真性異言という言葉を知っているだろうか?

僕はうまれるずっと前、違う国で暮らしていた。

ほとんど記憶はないが、その時の言語と、断片がある。

喃語とも思われていたようだが、時が経つにつれわかってきた。

僕はある日から、神童と呼ばれ、注目の的となる。

しかし、それはいいことばかりでなく、生きづらいものであった…。

段々と、僕は自分の能力を見せるのを辞めていった。

すると、段々、まわりの目も変わっていく。

これが、俗に言う、神童は大人になるにつれというやつの一種だろうか…?

そもそも、周りには、自分よりすごい人が目立つようになってきた。

それはとても喜ばしいことだ。

自分だけが、能力を持ち、他人はそれがない。

それを考えると逆におぞましい。

あまりに能力が人よりも優れすぎれば、少しだめなところがあるだけで笑いのたねにされる。

シャーデンフロイデに近しい、もしくはそのものだろう。

有名な人物で、偉業を成し遂げた人物のそう言った一面を聞くと、安心感があったり、面白いと感じるのは何故だろう?

話はそれたが、こうして僕は、落ち着いた環境を求め現在手に入れた。

目立たないこと、それがこんなにも快適だとは思わなかった。

変に有名になるより、この時間を過ごしていたい。


と言ったように、色々な人生を歩んだ気になることにハマっている。

「馬寝(ましん)くん。」

おやおや。かねのましん、その僕の名前を呼ぶ同級生の子だ。

一旦、考えるのを休憩するとしようか。

「どうしたんだい。」

「またお金のこと考えてるの?」

「うん。僕の夢はお金持ちになることだからね。」

「お金に囲まれて暮らす。それがこの上ない幸福だ。でも、もう叶っているんだが。」

「え。でも、ましんくんの家って普通だったけど。」

「そう見えるのかな?」

「うん。」

「それなら、それでいいだろう。」

「僕には能力があるんだ。」

「何それ?」

「それがあるからこそ、僕は幸福でいれる。ということだよ。」

同級生は疑問の顔を浮かべていた

───────

<h3>助け</h3>

家でのことです。

私が歩いてると、こうよのお兄さんがきました。

「違う家から来て、こうよひいきか。」

私は困ってしまった。

「あいつは能力が低くて、意味の分からないことばっかり言ってるのに。」

「こうよはいい人ですよ…!」

「いい人?あいつは散々、迷惑をかけたんだ。いいやつなはずがない。」

私はそれを聞いて悲しくなる。

「お前も迷惑かけるんじゃないぞ。」

「はい…。」

私は落ち込みながら、こうよの元に行った。

「何かあったの…?」

「だいじょうぶだよ…!」

「分かった。でも、もし、困ったことがあったら言って欲しい。」

「ありがとう…。」

私が悲しい気持ちの時、こうよは何も言わずに私の背中を優しくなでた。

「あの…。」

「何かあったかな?」

「急にごめんね、私って迷惑かな…?」

「僕は…せらさんと一緒に居ると安心するよ。」

「私も一緒にいると落ち着くよ…。こうよは優しいから…。」

「ありがとう。」

「でも、私は、こうよとは他人だから…。」

昔のことが浮かんだ。私は小さい頃に、両親をなくして…。

とても仲の良かったこうよの親の家に預けられたの…。

私自身はあまり関わってなかったから、馴染めずにいた…。

だけど、こうよが、助けてくれたんだ…。

小さい頃のこうよの声と、今の声が重なった。

「せらさん。」

「うん。」

「僕はせらさんと一緒にいれて楽しいよ。小学校の時、色々な場所へ行ったね。」

「そうだね!懐かしいな…。」

「うん。また行きたいね。」

私は頷いた。

「一緒に居てくれて幸せだと思ってるから…。」

こうよ…。

私にとって、とても大切な人。

あなたが居なければ私は…。

出会ってまもない頃のこと…。

こうよのお兄さんは言った。

「くれぐれも迷惑をかけるんじゃないぞ。」

「はい…。」

私は下を見ながら歩いてると、こうよがやってきた。

「こんにちは。」

「こうよくん…。」

「せらさん。」

何も言わずに「大丈夫。」って小さく言う。

出会って少しの間、一緒に過ごして思った。

もしかしたら、こうよくんがお父さんの言ってた…。

<h3>紹介</h3>

ある日から、せんえさんはよく私の元に来るようになった。

「今日のせらさんの運勢は‥!!とびきり最高でしょう!」

そして、こうして毎日、私を占ってくれる。

「いつもありがとうございます。」

「せらさんはいい人ですからっ。」

私は微笑む。

「あと、今日は紹介したい人が居るんです!」

「そうなんですか。」

「私の友達です!」

せんえさんは連れてくるからと言って、教室を出た。

丁度、その時、こうよが私のところにやってきた。

「こうよ、今日はいいの?」
 
「うん。大丈夫そうだよ。」

こうよは続けて言う。

「最近、せんえさんと仲が良さそうだね。」

「うん。せんえさん純粋でいい子で。一緒に居ると元気をもらえるんだ。」

「そうなんだ。良かった。」
 
穏やかに笑う。

優しい笑顔‥こうよ‥。

見つめていると、「せらさん!」って。

その方を見ると、せんえさんが女の子と一緒に手をつなぎながらやってきました。

「この子が私の友達!」

「私の名前は正直(しょうじき)と書いてせいまって言います。」

「いい名前ですね。」

「ありがとうございます。」

「私はせらって言います。そして、こっちがこうよくんです。」

「二人ともいい名前ですね。」

「ありがとうございます。」

私は微笑んだ。

「私はマジックができるんですけど、二人と仲良くなりたいのでみせたいです。」

「マジックができるんですか!見たいです!」

「良ければ見せてほしいです。」

「分かりました。」
 
せいまさんはポケットからカードを取り出した。

「ここに1~10まで書かれた10枚のカードがあります。」

でも、よく見てみると9枚しかなく、5のカードが抜けている。

「私がこのカードをシャッフルすると、一枚なくなります!」

「皆さんに残ったカード何があるか見せるので、そのなくなったカードの数字を当てます!」

私とこうよはうなずきました。

せいまさんはそう言って、シャッフルをはじめた。

そして、終わると、9枚のカードを私達に見せる。

せいまさんは言った。

「5と書かれたカードだけなくなってます!」

私はいった。

「確かに、5のカードないですね。」

<h3>本当のこと‥</h3>

マジックを披露したあと‥。

せいまさんは困った表情で言う。

「じ‥実は‥!」  

「どうしたんですか?」

「あのマジック、最初から5がなくて‥!マジックじゃなくて、私がなくしただけなんです‥。」

「ごめんなさい‥。」

せいまさんは頭を下げた。

「大丈夫ですよ。」

私はせいまさんのそばにいって、両手でその子の手に触れた。

「せいまさんは優しいですね。正直に本当のことをいうこと‥。

難しくて‥中々できないですよ。」

「そして、教えてくれてありがとうございます。」

私は微笑む。

「こちらこそ‥。ありがとうございます。」

「せんえちゃん、せらさんって優しい!紹介してくれてありがとう。」

「うん。いい人なの!」

二人はそうして話してた。


それからせいまさんはこうよの元に。

小さな声で何かを言ってました。

「せらさんにドッキリを仕掛けたいんですけど、いいですか?」

「いいですよ。皆が楽しめたら嬉しいです。」

せいまさんは考えている。

「せらさん、実はこうよくんと私は幼馴染で、今日、10年ぶりに再会したんです!」

「えぇー!そうだったの!?」

驚いていたのはせんえさんだった。

「ご、ごめんなさい!ドッキリでした!」

「そうだったんだ。せいまちゃん凄い‥。」

「ありがとう、せんえちゃん。でも、せらさん驚かなかったね。」

二人は私の方を見る。

「実はね、こうよとは幼馴染で長いんだ。」

「そうだったんですか。呼び捨てですもんね。仲良さそう。」

「一緒に住んでますし。」

「えぇーっ!そういえば名字同じですよね。」

「双子なんですか?でも、幼馴染って‥。」

「小さい頃に親が亡くなって、こうよの家に引き取られたんです。私の親と、こうよの親は仲良くて。」

「悲しいです‥。」

「はい‥。」

「でも、良かったですね。こうよさん優しいですし。」

「はい。こうよはとっても優しい人です。」

私はこうよを見つめた。

すると、彼は優しく微笑んだ。

「こうよさんとの話、良ければ聞きたいです。」

「また機会があった時に話しますね!」

「分かりました。」

<h3>嘘</h3>

「嘘をつくことが悪いこと?誰がそれを言った。」

にせいは道徳の授業の最中、立ち上がった。

先生は言う。

「分かりません‥。でも、昔から言葉として残ってます。」

「嘘をつくことは悪いことじゃない。」

「一部だけみたらそうかもしれません。でも、ほとんどは悪いことなのですから。」

「一部?僕は人は嘘しかつけないと考えている。」
 
「それなら、にせいくんの言ってることも嘘になるでしょう‥」

「話を聞いてから納得したか、納得しないかで決めることです。」

「わかりました。言ってください。」

「スポーツに於いて、その道のプロがそれを好きだと話した。」

「しかし、それは事実だろうか?」

「プロなのだから、事実だと思います。」

「確かにそれは事実だ。そして、嘘も言っている。」

「個人差はあるだろうが、長く一緒に居た人と関わるとき。」

「一切悪い部分がない、いいところしかない。そのまた逆はあり得るだろうか?」

「あり得るというものがあるなら、自分の家族のいいところ、悪いところを考えてみるといい。」

「すぐに浮かぶはずだ。」

「そうかもしれませんが‥。偏った見方ではないですか?」

「本当にこれが偏ったものと言えるのか?それも嘘だろう。」


そして、授業が終わった。

にせいはクラスで嫌う人が多かった。

先生すらも。

彼自身が、なるべく嫌われる立ち位置に居ようとしたところもあった。

彼は現実になっても、動じない男だった。

彼の同級生達はこそこそと話す。

「にせいって気にくわないよな。」

「分かる。」

「あいつの言い返せないこと言って黙らせるか。」

「それいいね。何をするの?」

「さっきの嘘はいいことだとか。」

「確かにあいつなんて言うんだろう?」


「にせい、嘘はいいことだよな。」

「真実はいいことだ。」

「嘘がいいことなんじゃないのかよ‥。」

「僕は真実が悪いことなんて一言も話してない。」

彼の同級生は何も言えなくて帰っていった。

にせいは思った。

僕の目指す道は‥

その時、隣のクラスで一瞬、拍手が聞こえてきた

────────

<h3>謎</h3>

僕のクラスには、謎の男が居る。

その男とよく関わるが、話してもつかめない。

名前をましんくんと言う。

お金が好きだと言いながら、話していることは違う。

今もそうだ。

前を向くと、ましんくんが発表していた。

「僕が紹介したいのはビュリダンのロバ。」

「これはロバの右側、左側などに完全に同じ距離餌があったとき。」

「どちらも進むことができないといったものです。」

僕は思った。やっぱり、金に関係ない‥。

「この話が示しているのはどちらに行こうと迷った挙句、何も行動できなくなるところにあると思うんだ。」

「それは重要な場面では致命傷だ。間違ってでもどちらか一方を選ぶこと。」

「それが金持ちになるための一つ方法として、僕は考えている。」

でも、お金の話だった‥。

そして、いつの間にかもう授業の時間は過ぎている。

先生はすぐ終わりにして、休み時間が始まった。

僕は彼の元に向かう。

「やっぱり、お金のこと好きだね。」

「設定は大事にしたいからね。」

「設定?どういうこと?」

「どういうことだろうね。」

やっぱり、彼は謎だ‥。

僕はそのまま彼のもとから去った。

男は一人になって、外に出ていく。

すると、同級生が彼の元に行った。

「ましんくん意識高いね。将来金持ち目指してるの?」

「僕はもう金持ちだよ。」

「今に満足してるってこと?凄いね。」

「そうとも言えるかもしれない。」

そうして話した後、同級生は去っていった。

その後、一人の男が彼の元に。

「少しいいですか?」

「もちろん、いいですよ。」

「あなたはお金について考えがあるんですか?」

「はい、ありますね。」

「良ければ教えてもらえませんか。」

「いいでしょう。お金こそ最大の善であり、あるものこそが正義です。」

その男は「なるほど。」と頷いた。

「それなら、貧乏こそが最大の善。そして、正義であると僕は思うんです。」

「そうですか。いい考えですね。」

ましんはそう言って、去ろうとする。

「意外な反応だ。否定しないんですね。」

「なんのために否定するんですか?」

男は口を閉じた。

ましんはそのままクラスに戻っていったのだった。

残った男は思う。

謎だ‥。

<h3>夢を‥</h3>

ある日のこと、私とこうよは隣町に出かけました。

「こうして二人で行くの久しぶりだね。」

こうよは頷く。

「久しぶりだね。」

こうよを見て、私はふふふっと笑った。

今日は少し遠くに行こうと思うってこうよが言って、私は一緒についてきたの。

いつも一緒にいられるけど、今日は特別長く一緒に‥。

そう考えてるうちに、隣町についた。

こうよと一緒に居るときは、一瞬で時間が過ぎる‥。

その町には、沢山の子供達がいました。

こうよが居ると、何故か、彼の元に集まりました。

こうよは聞きます。

「皆は夢があるかな?」

「ゆめ?」

「君たちがしたいと思うこととかかな!」

一人の男の子が立ち上がりました。

「冒険してみたい!」

すると、みんなも、「色々な場所に行ってみたい!」と続きます。

こうよは言いました。

「きっと叶う!未来はいつも明るい!」と笑います。

子供たちは笑顔に包まれました。

どこへ行っても、どんな場所でもこうよは変わらない‥。

私にとって、優しくて、とても大切な人‥。

子供たちはこうよに「遊ぼー」と言いました。

すると、「いいよ。だけど、少し待ってほしい。」と言います。

そして、私の方にやってきました。

「せらさん。」

「いいよ。私は気にせず、皆と遊んで欲しい。」

私は‥こうしてあなたを見てる時間が好きなの‥。

「気遣い優しいね‥。ありがとう。」

「一つだけ聞きたいんだ。せらさんも遊ばないかな?」

子供たちの中には、女の子も居た。

どうしようかな‥

でも、せっかくなら‥。

「うん、遊ぼっ!」

こうよは優しく微笑んだ。

────────

遊びを終えて、帰るときになります。

私とこうよは歩きながら話します。

「こうよ、今日は楽しかったね。」

「うん。」

「はじめてあった子とか、いろんな子達と仲良く遊べるの凄いな‥。」

「ありがとう。せらさんも、参加してくれて嬉しかった。」

「ううん。こちらこそ。」

この一日一日が‥私にとって大切な日々‥。

そうして話してるうちに、家に到着していた。

私はこうよに最後に、「また行こうね。」と言った。

「うん。行こうね。」

こうよは優しく笑う。

<h3>あの男</h3>

最近、気になる男が多くなった。

こうよという男。そして‥。

しかし、前に、裏があると疑ってかかったのは失敗だった。

そこは反省するとして‥。

男は偶然、歩いてる途中、こうよを見つけ、後をついていった。

あの男の通う学校は‥。

聞き込みをして見るか。

そして、同じ服を着ているものに話を聞いていった。

「こんにちは。良ければ話を聞かせてもらえませんか?」

「なんですか?」

「こうよくんと言う人について。」

「いいですよ。同学年では結構優しいって聞きます。」

「そうですか‥。」

それから男は、数人に話を聞いて、最後にあと一人だけにすることにした。

「こうよくんについて何か知りませんか?」

「こうよくんですか‥。彼には勝てませんでした。」

「何か勝負したんですか?」

「いいえ、彼は何も勝負せずに勝ったんです。」

「そうですか。」

男は思う。最後は意味が分からなかった。

しかし、わかったことはある。

こうよと言う男が優しい、いい人間だと思われていること。

しかも、一切悪い噂も裏もない。

僕の気のせいだったのか。

男はその場を去ろうとしたとき、誰かが彼を呼んだ。

「君は前の!」

「あぁ、こうよさんのお友達の。」

「またせとうくんに何かするつもりですか?」

「いえ。一切、悪い情報がなさそうだったので、手をひこうと思ってただけです。」

「当たり前だ!」

「前は悪いことをしました。反省しています。」

「本当にしているのか?」

「どうでしょう?」

その友達の男はイライラしていた。

「こうよくんは怒ることを望まれているんですか?実はそういう男なんですか?」

「う‥。そうじゃないよ‥。これは自分が勝手にやってるだけで‥。」

「そうですか。」

それ以上何も言って来ない様子を見ると、男は去っていった。

次の日、隣のクラスに行って一人呼び出す。

「話を聞きたいんですよ。」

「何でしょうか?」

「あなたにとって、金持ちという考えは重要じゃないんですか?」

「あなたはドラマツルギーという言葉をご存知ですか?」

「知りません。」

「その用語の通りです。」

男はそのまま去った─────────

<h3>弟</h3>

僕には弟がいる。

いつ変わってしまったのか分からない弟が。

小さい頃は可愛かった。しかし、今は‥。

口を開けばおかしなことばかり。

しまいには変なメモ帳も拾ってきた。

親は弟のことをおかしなふうに思っていた。

しかし、最近は段々、許してきてる。

もちろん、あいつは何一つ、迷惑をかけるようなことは言ってない。

しかし、なんだか嫌な感じがするんだ。

弟のくせに何故か大人っぽい。

味方もあった。

親を亡くした、弟と同い年の女子。

年をとるにつれてわかってきた。

あいつは優しいんだ。

だが、変わらず、この気持ちがある。

最近のあたりの酷さからか、親は言った。

「こうよはある日から変わってしまった。だけど、今のあの子もいいんじゃないか。」と。

子供に似つかわしくない大人っぽさ。害にならないなら、それもいいはずだった。

ある日、僕は弟に話しかけた。

「こうよ。」

「おにいさん。何でしょう?」

「悪かったな。」

弟は首をかしげる

「こうよと、せらに今まであたりが酷かった。」

「せらさんに‥。悲しいことがあれば僕に‥!」

守ってるのか‥。

「今まではやりすぎた。だから、謝ろうと思ってな。」

「これからはなるべく気をつける。」

僕は心の中で思った。しかし、考えてることは変えないが。

弟は頭を下げた。


その様子を私は隠れて見てた。そして、思う。

よくわからないけど、こうよ、お兄さんと仲直りしたんだね‥。

良かった‥。

これからは家でも過ごせるかな‥?

私はこうよの元にいった。

「あっ!せらさん。」

「こうよ!お兄さんのこと、良かったね。」

「気にしてくれて優しいね。そして、せらさん僕のせいで悲しい思いをさせてごめん‥。」

私は一瞬、小さい頃の記憶が過ぎった。

「え⁉何が?」

「お兄さんに嫌な関わり方されてたんでしょう?」

「あ‥それのこと。大丈夫。私は他人だし‥。仕方ないよ‥」

「僕はせらさんのこと、家族だと思ってるよ。」

「ありがとう。」

優しい言葉‥そのはずなのに、心の中に少しもどかしさがあった──────

<h3>軽い</h3>

にせいはまた隣クラスに行った。

そして、ましんという男を呼んだ。

「なんの用でしょう?」

「前の話、続けましょう。」

「なんでしたっけ?」

「あなたが自分の考えに価値を置いてない。その続きです。」

「複数お持ちなのではありませんか?」

「確かにそうです。しかし、根本が違うとも言えますね。」

「根本?」

「まぁ、いいでしょう。また一つ考えを言いましょう。」

「何でしょうか?」

「否定は自分の意見を肯定するために行われるということです。」

「そして、それは自分の快楽のため。」

「どういうことですか?」

「否定はどんなことにもできます。悪く言えば単純な思考回路ということです。」

「そもそも、否定なんてする必要がない。」

「今、あなたは否定を否定してますよね?」

「はい。してます。それが何か?」

「あなたも単純な思考回路ということでしょう。」

「そうです。僕はそう話してる。だからこそ、否定について話せるんです。」

にせいは意外な反応に戸惑った。

しかし‥。

「否定はいいものだ。」

「いいでしょう。あなたの考えを認めます。では、どこがいいものでしょうか?」

「例えば、テストや、クイズなどで4択の問題が出た時です。」

「消去法という否定を使って正解を導き出す。」

「では、その“過程”は答えに必要ですか?」

「過程は大事でしょう。」

「確かにそうです。では、過程を大事にしない過程は悪いものですか?」

「それはそうでしょう。」

「前に話を戻しましょう。僕は否定を、自分の意見を肯定するために行われると言いました。」

「確かにそう言ってました。」

「これはつまり、自分の意見が否定なく、肯定できれば否定はいらないことになる。」

「そうかもしれません。」

「そして、考える者が一人なら、基本的にその消去法は口に出しては言わない。」

「必要なのは肯定的な答え一つだけ。」

「では、逆に否定を答えに求める場合は‥」

「同じことを言わせますか?」

にせいはあしらわれてしまう。

彼にとって、それは屈辱だった。

ましんと別れた後、心で思った。

“否定”か‥。