目標へ

夢を失ったハルオは謎の世界に迷い込む。そこには彼がずっと望んでいたものがあった。


一方ある世界では永遠と続く戦争が行われている。一人の兵は熟練していた。彼は同僚の多くを失い戦いに意味を見いだせなくなり希望を失っていた。しかし、ある時を境に男はある事を決意する。


これは忘れていた記憶が未来へと繋がる一時のお話。



※フィクションです。

───────────────────
1

「奴らを排除するのだ!」

「はっ、了解であります。」


ここでは日常のように戦争が繰り返される。


命をうけた兵達はいつものように配置につく。

「今回の相手はは強国らしいぞ。」

「俺は、今回の戦で死ぬかも知れない。」

「そんなに弱気になるなよ!」

「今まで何人もの人が死んでいくのを見たんだ。終わりのない戦いが嫌になってしまったんだよ。」

そんな兵達の言葉を尻目に戦いの幕が切って落とされた。
相手の兵達はとても慎重に行動している。

すると味方陣の後方から騎士様がでてきた。

「今回も王様から私が指揮をするようにと命じられた。奴らを倒すのだ!進め!」

前の戦で戦果をあげ騎士に成り上がったエリート兵が声高々に言った。

一見優勢に見られたようだが相手側の騎士があらわれ兵達を殺傷してゆきどんどんと兵の数が減ってゆく。
それを見るに耐えなかったのかこちらの騎士がスキをついて相手の騎士を斬り倒す。
「奴らの兵はもう数少ない、王を目指して突き進むのだ!」
そう号令をかけた時だった。
近くの木陰に潜んでいた兵が剣で騎士を貫く。
「ぐはっ。こんなところで終わるとは、無念」


怒涛の勢いで戦況は進んで行った

しかし、戦の決着は呆気なく終わってしまう。

密かに城に忍び込んでいた一人の兵が階段を駆け上がり王のエリアへたどり着く。

そして、剣を振りかざし王の身体へ突き刺した。



戦いは終わり、生き残った者達で祝杯をあげた。

だがある一人の兵には勝利して生き残った喜びを噛み締めなかった。

俺はまた生き残ってしまった。

友も多く失った。

そういえば昔は負け戦でも楽しいと思っていた時があったんだよな。

そう、あの時は─

2

ハルオはいつものように朝起き何度も飽きるほど見た職場で毎日繰り返しの作業。

周りは愚痴をこぼしたり、ため息をつく人ばかり、だがハルオはその音に耳を傾けなかった。

何故なら子供の頃からやっていたゲームにどっぷりとハマっていたからだ。

今日彼が一番強いと思うオートと戦うその為に仕事をしながら構想に耽っていたのだった。


そして運命の時、

ハルオは定石イタリアン・ゲームの初めの一手であるe4にポーンを指した。

高度な読み合いにより戦いは白熱したのだが、とうとう終わりが来てしまった。

勝負はポーン成クイーンからのチェックメイト彼の勝ちだ。

最初でポーンを一つ多く取った事が幸いしたらしい。


彼は勝利した筈なのに何故か悲しそうな顔を浮かべこう思った。

目標としてきたものが終わってしまった。これから何を目標にしていけばいいのだろう。

そういえば、自分は何故チェスを始めたのだろう。日本人なら普通将棋だと思うのに。

そんな疑問を浮かべながら明日も早いので今日はもう寝る事にした。



目が覚めたハルオは、いつものように顔を洗う鏡には何か違和感を感じたが寝ぼけているのだろうと気にせず玄関から外に出る。

だが、そこには目を疑う光景があったのだ。

家の外は知らない場所。

おかしいと思ったハルオはもう一度家の中に入りドアを開けた。

だが変わりようのない風景がそこにある。

あの違和感もか?
と思ったハルオは家の鏡で自分の鏡をみるだがそこには昔子供の頃の自分がうつっていた。

若返っている。それにここは何処だろう

そう思ったハルオは取り敢えず外にいる人間に尋ねて見る事にした。

「あの、ここは何処ですか?」

「ここに、名前はない。いやある。だが、それは至極曖昧なものなんじゃ。すまんのぉ。」

そう老人は告げ去っていった。

その老人は外人のような顔つきでどこか懐かしい感じを受ける。

よく分からないな。

その後いろいろな人に尋ねたが初めに聞いた老人と同じような事を言っていた。

ガッカリした顔でトボトボ歩いているとハルオと同い年の子達が店でゲームをしているのが見えた。

近寄って見てみるとどうやらチェスの対局をしているらしい。

先手ポーン1e4クイーン3h5の攻めパターン。昔使ってた戦法だ。

などと考えながらいろいろな対局ぼーっと見てまわった。

チェスをやっている人見るの懐かしいなー。

それを考えたとき何かを思い出した。

そういえば、昔誰かとやっていたんだよな。誰だっけ?

そんな事を考えていると
「ありがとうございました。」と言う声が聞こえてくる。

どうやら一つの対局が終わったらしい。

久しぶりに僕も誰かとやってみるかな。

対局が終わった人に挑戦を申し込み承諾してもらったのだった。

  



「王女様は勇猛果敢ですなぁ。」

「前の戦兵等を率いて敵城に乗り込み、無傷で城を制圧してしまうとは。」

「それは、僧正様のお告げのお陰ですのよ。」

バタバタバタ ドタドタドタ

下の兵達が騒がしい。

「新たな敵国がせめてきました。」

「こんなに、早く何故?」

王女達は、驚きが隠せなかったがすぐに兵を率いて敵城に向う、
だがそこにはどうやっても崩せそうにない大きな大きな城が建っていた。

「こんなものどうすれば!?」

守備が万全で敵城に入れそうにないのだ。

殆どの兵を使っていたため敵騎士がどんどんと入ってゆく。

結果は火を見るより明らかだった。

敵国の兵の一人が思った
この戦は何だか懐かしい感じがする。

あれは初陣の時だった、毎回引き分けに持ち込んでくる相手がいた。

確か─





結局ハルオの勝ちで終わる。

このよく分からない世界でも僕の目標となる人間はいないのだろうか

そう考えて落胆していると、対局相手が話しかけてきた

「お前結構強いじゃん、もしかしたらプロになれるんじゃね?」

その言葉を聞いて耳を疑った

「ここにはチェスのプロがあるの?よかったら僕にプロについて教えてくれないか?」

対戦相手からいろいろなことを聞いたここに住んでいる人間は皆チェスしかやっていない事。
プロになるにはたまに開かれるトーナメント戦に勝ち抜く必要がある事などその他にもいろいろと教えてもらった。

もしかしたら自分より強い人間がいるのではとワクワクがとまらなくなる。

その日は家に帰ってもう休む事にした。
       

3
起きたハルオは昨日少年が言っていた大会に応募する事にした。

しかし、受付の場所に着いたは良いものの今の自分は小学生の姿だという事を思い出す。

しまったと思い立ち止まっていると受付の人が話しかけてきた。

「坊やどうしたの?」

「あのー、応募したいんですが」

「悪いのだけど、小学生は親御さんが付いていないと…」

「そうですか…」

ガッカリして帰ろうとしたとき、

おじいさんがやって来てハルオを引き止めた。

この人は確か昨日の─。


「この子はわしの孫なんじゃが」

「あなた様のでしたか…。分かりました。」

受付の人はそう言いハルオを登録してくれた。


「お爺さんありがとう。」

「どういたしまして、しかし坊や、学校はどうしたんじゃ?行かないと行かんぞ。」

「えっ、えーっと、僕は学校飛び級でもう卒業してしまったので行かなくていいとおふくろに言われたんです。」

と口から出まかせを言ってみた。

しかしお爺さんはそれに

「ホッホッホッ」

と笑っていた。

その時僕は無性に恥ずかしくなった。


「それでハルオ様、大会の日時なのですが。」

「えっ、もう決まってるの?」

「明日です。」

「そうですか。」

僕は驚いたがこの世界は何でもありだとすぐにわりきった。



「お爺さん、今日は本当にありがとう!また会えるかな?」

「あぁ、必ず会えるさ。」

そう言いお爺さんは去っていった。

その後ろ姿はとても大きく見えた。


次の日僕は朝一番に大会の会場へ行き、待つ時間で一人チェスする事にした。




「今回の戦身内とは本当か?」

「あぁ、そうらしい。」

兵士達が話している。

「模擬戦と言っていたが、殺しあうらしい。」

「なにっ、それは実践と変わらないではないか!王は何を考えているのだ!」



兵達は配置につきいつも通りに始まった。

しかし、兵達は身内同士の戦いだからかやりづらそうだった。

「我が軍の兵は何をやっているのだ!」

王様は自分の軍の体たらくに苛立ちが隠せない。

「むっ、あれはっ!」

王様が右の方向を見ると知らない軍隊がやって来る。

敵襲だ─




「ふぅ。昔から思っていたけれどやっぱり一人でやるの大変だなぁ。」

ハルオはため息をつきながらそう言った。

「やぁ、ここいいかい?」

話しかけて来る声の方を向くと中学生くらいのハーフの男の子がいた。

「あぁ、大丈夫だよ。ハンデとしてルーク一個なしでやってあげる。」

「おぉ、ありがとうよ。」

彼のその一言に僕はそれでいいのかよと心の中でツッコんだ。

そして僕は初心者なのだろうと思い彼の事を舐めきった。






「王よ正気ですか!?
我が軍は先の戦いで戦車を半分失っているのですよ!」

「あぁ、これくらいのハンデが丁度いいであろう。いつものように戦果をあげて参れ。」







ハルオはいつものようにはじめた。

彼の数手を見る内に僕はマズイと感じた。

こいつ結構強いぞ。






「うわーっ、ギャーっ」

兵達が相手の戦車にやられていく。

「こ、これは」

王は頭を抱えた。

一時の浅はかな考えでこうなってしまうとは思ってもみなかったからだ。

「もう私はオシマイだ。」

「きっと大丈夫よ。」

王女が慰めるように言った。

「何故そんな事が言える!」

「以前のように兵の誰かが相手の大将…」

王女はその先を言えなかった。








「ちくしょう。」

負けた悔しさでハルオは涙を流した。

「強かった。ルーク一個なしでここまでやるなんてね。」「道理で僕の祖父が君に目を付ける訳だよ。」
「僕の名前はアクセル。また何処かで会える事を楽しみにしているよ。」

僕は泣くのに夢中で殆ど彼の話を聞いていなかったが

アクセル、次あった時は絶対に勝ってやるからな

と僕は心の中で強く誓った。



そうこうしている内に大会がはじまる時間になった。

僕はさっきの気持ちを切り替え

もう二度と負けないと心に決め初戦に向かった。










俺は兵隊の一人、前回の戦闘で王が死んでしまい新たな王の元で仕えている。

仲良くしようと他の連中は自己紹介しているがどうも苦手だ。

俺の前に新しい王の兵が近づいてきた。

「やぁ、君の名前何て言うんだい?」

「俺は名前などとうの昔に忘れてしまった。だが他の連中が呼んでいた名前がある。プランタン・オムだ。」

「変な名前だね、僕はキーって言うんだ。これから頑張ろうぜ。」

ストレートなやつだなと俺は思ったが、前のようにどうせすぐ死んでしまうとその場から退いた。



「しかし、今日は戦闘多いな。」

「これからどんどん増えていくのではないか。」

仲間の兵からそんな声がもれる。

そんな中で俺は前よりも何故だかこの戦争を楽しく思っていた。














「俺の名前はシルッペって言うんだ。君の名前は?」

「僕はハルオ。」

「じゃあ、よろしくな!ハルオ」

「うん。君こそ!」

そう言い二人は握手を交わした。

そして、対局がはじまった。








兵達は配置についた。

「行くぞ!」

その声と同時に前へ前進する。


「なっ、あれはっ。」

相手の城が2つある。

「どっちに王がいるんだ⁉」

兵達は混乱する。



「何をやっている、相手の城が2つあるならどちらも落城させるのだ!」

いつものように騎士が軍を指揮する。

「し、しかし」

「口答えをするな!」

「はっ、分かりました。」



兵達は渋々承知した。

指揮する者がこんな者では王も…と皆思ったのだ。


そんな中でプランタン・オムは違う事を思った。

勝てる。と

今まで戦ってきた中でこの戦法を使ってきた敵に負けた事がないからだ。

右に王がいる可能性が高い。

俺はそんな曖昧な確信で敵城に向かった。

城を守る兵達を倒し階段を駆け上がる。

そして俺は

「よし。」とつぶやいた。






相手の王を倒した戦果を皆、褒め称えた。

そして、王はにこにこしながら言った。

「お前に褒美をやろう、何でも申せ。」

「ありがたき幸せ。では俺を王にしてください。」

その言葉を聞いた時、王の頬から笑みが消えた。

「何を申すか!」

「あんたに王は向かない。今回の戦で兵達の不安をみて分かったんだ。」

天誅!」

俺は自らの王も倒し新たな王となった。

その時彼は心の中で誓った。

前に負けたのはきっと俺が王ではなかったからだ。

俺の戦歴は多分この中で誰よりも長い。
だからこそ俺は、誰にも負けない強国を作り上げてみせる。 と。







「ありがとうございました。」

対局が終りハルオが勝った。

「君、凄く強いなぁ!一方的にやられちゃったよ。」

シルッペは驚いた顔でそう言った。

「友達にならないか!」

「うん、いいよ。」


4


ハルオは受付の人のところへ行った。

「あの…勝ったんですけどこれで僕もプロの仲間入りですか?」

「いえ、トーナメント式になっています。」

「全部勝たないと慣れないパティーンですか⁉」

「はい、そうです。」

その言葉に驚きを隠せなかったが僕は俄然やる気が出た。


「よし、トーナメントを見に行こう。」

ハルオは壁に貼り出されている紙を見た。

「次の相手はオートってやつか…」

「その次あたるのがクレマチスvsボケのどちらかか…」

ハルオはその名前を見て膝をついた。

「名前見たって誰だか分からないんじゃあ意味ないじゃないか…。」

ハルオはバカらしくなり家に帰った。




「お兄ちゃん、お兄ちゃん」

暗闇の中僕を呼ぶ声が耳に何度も響く。

「これは…妹のキララの声。」

「おーい、何処にいるんだー?」

しかし、辺りは真っ暗で人がいるかどうかさえも分からない。

妹の声も聞こえなくなる。

僕の声はその暗闇の中むなしくこだまするだけだった─。







「本当にお前たちはそれでいいのか?」

俺は王を殺害した裏切り者がいとも容易く次の王になれた事が不思議でならなかった。

「えぇ。以前の事であなた様は必ずや賢帝になると我ら一同確信したのです。」

「そうか…」

この世界では王は誰がなってもいい。

俺はその時そう納得した。






目を開けるとハルオはベッドの中にいた。

「あれっ?僕は寝てしまっていたのか…」

まわりを見ても妹はいない。

あれは夢だったのか…

ハルオはベッドの中にまた入り小さい時の事を考えだした。

そうあの時は─


「今日も─さん来たわよ」

その母さんの声で僕はハイテンションになった。

「えっ、本当⁉やったー!今日は絶対に勝つんだからね!」

「お兄ちゃんうるさいよ~」

そこで記憶が途切れる。


「うー、また負けた~。」

「今日やった対戦を分析して、今度は絶対に勝ってやる!」

対戦相手の人が応える。

ザザー

その時ハルオの頭にノイズがはしった。

「頭が痛い!」

ハルオは対戦相手の顔がどうしても思い出せなかった。

「最近何処かで…」

「まぁ、そんな事今はどうでもいいや。シルッペのところに行ってみるかー」
「そういえば家何処か知らない…まぁ、いいや。テキトーに歩いてれば会えるだろう。」

僕はそう言い外出した。











俺は部下達に命令をくだす。

今度は絶対に負けないからな。心の中でそう思った。

相手は今まで不敗の強国。

だが俺は楽しみでしかたがなかった。


いつものように我が国の王女が指揮をとる。

「ゆくぞー!」

攻めている時俺は異変に気付く

「なっ、守りは騎士数人だけではではないか!」


王女達はその騎士達を倒す。

「王女様そのもの達はおとりです…」

王女達はスキをつかれやられてしまった。


「そんな手を使ってくるとは…」

俺は頭を抱えた。

「王女がいないのではこの勝負決まったも同然ではないか」

それをみた僧正が話しかけてくる。

「王よ、まだ戦いは終わってませんよ。」

「いや、しかし…」

「神様が告げているのです。最後まで諦めない者に勝利はおとずれると!」

「そうか、すまなかった。」


その時の戦は確か初めて引き分けのだった─



「王よ!王よ!」

部下のそう呼ぶ声に俺は目を覚ました。

「俺はいつの間にか寝てしまっていたのか?」

確か昔の事を思い出していて…



近くで部下が何やら慌てている。
「戦が始まります!」

「そうか。」

俺はそう言い頭を切り替え、王になって初めての戦に向かった。


5


 シルッペがパソコンの画面を必死になって見る。

「ちくしょう、もう何回もやっているのに一向に勝てる気がしない!」

パソコン画面には再戦要求の文字が─




ハルオとシルッペが話をしている。

「それでさ、10回くらいやったんだけど全然勝てないの。
相手がコンピューターみたいに確実な手を指してくるんだよ。」

「へぇー。オンラインあるんだー。」

ハルオはネットで対人戦をしたことがなかった。

「いや、そんな事よりも!」

「あー、分かった分かった。僕がその人倒してあげるよ。」

「えっ、ホントに⁉」

その時僕はどうせ噂で聞いたソフト打ちとかいうやつだろうと思った。




「おー、これがオンラインの対戦かー。」

僕はシルッペにサイトを聞き、対局を始めた。







「今日はやけに戦争が多いな。」

「あぁ、あの男が王になったからだろうか?」


「それにしてもあの王はとてもいい指揮をとるな」

「我が軍の被害を最小限抑え敵国を打倒してしまう作戦をたてるのだから。」


「おい、また始まるみたいだぞ。今度のはとても強そうだ…。」





「今日は全然あたらないなぁ。」

シルッペは不安そうに言った。

「きっと大丈夫だよ。いつかはその人とやる事になるって」

「本当かな…」

「次の対戦相手がきたみたいだよ。」

「このユーザー名…これだ!」

「この人なの?」

「うん、そうだよ。」

「よしきた!」

ハルオはそう言い対戦をはじめた─






「あの動きは…以前よく見た覚えがある。」

「人間離れした正確な指示に間違えのない…もしや…」

そう思った俺は経験から必勝の戦法を指示した。




「なっ、何だ⁉こいつはっ。今までネット対戦した中で一番強いぞっ!」

少年は驚きの余り声が出てしまった。

「オーちゃんどうしたの?」

母親が部屋に入ってきた。

「母さん何もないよ!」

「そんな事はないでしょう。」

母の話が長くなりそうなので彼は通信を切る。






「なっ、何だぁ?」

相手が投了で対局が終わった。

「やっぱり君はすごいよ!」

シルッペはそう言い憧れの眼差しで僕を見つめる。

「いや、待ってよ。戦局はまだどうなるか分からない状況だったんだ!」

「でも、相手が投了してきたって事は君が読み勝ったって事だよ!」

「そうかな…」

僕はしぶしぶ了解した。




「あいつにもう一回再戦を申し込もう。
母さんの話で時間くっちゃったけど、まだいるかなぁ?」

少年は不安そうにチェスサイトを開く。

名前は確かシルッペ。


「えっ!?君ユーザー名本名にしているのかい?」

「うん。だって皆そうでしょ。」

「個人情報って大丈夫なの?ネットでは危険だって聞いたよ。」

「こじんじょうほう?何それ」

僕は彼の耳を疑う発言に頭を抱える。

「ここの人って何か適当だなぁ」

僕はつぶやいた。

「えっ、何?」

「いや、なんでもないよ。それよりさ、やっぱり何度考えてもおかしいと思うんだよね。」

「また、それか。」

「だって僕ね。10年以上チェスをやってきたんだよ。だから経験から分かるんだ」

「君は何を言ってるの、同い年くらいでしょ?」

僕は自分が若返っている事を忘れていた。

「あっ、ごめん。気にしないで」

「そういえば、今日大丈夫なの?」

「えっ、何が?」

「2回戦今日だよ。」

「はっ⁉」

僕は口を開け立ち尽くした。

「昨日やったばかりじゃないか!」

「それが普通だよ。」


僕は急いで会場へ向かった。

「遅れてすんませんね。」

「いえ、まだ開始まで30分程ありますよ。」

「そんなに⁉急いで損した…。しょうがないから待ち時間誰かに対局してもらおう。」



「今日ちょっと早く来てしまったかな…?」

周りを見渡すと見知らぬ少年が夢中になってチェスをやっていた。

「へぇ、いい集中力だ。少しばかり見せてもらおうじゃないか。」

「ふっ、この戦い俺の勝ちだ。」

俺には先が見えるんだ。面白い程に。
 
これで終わりだ!兵よ、進めー!


「こっ、これは…」

横で見ている少年が僕の対局を見て驚いていた。
 
「やぁ、君もやる?」

「お前ッ、しるっペってユーザー名のやつだろ!さっきの対局覚えているぞ。強さと言い、盤上の先の読み合いと言い、そのものだ!」

「多分そうだよ。君、途中で投了してきたひとでしょ?」

「あぁ、もう対局始まるから出来ないけど、次は絶対に勝つからな。覚えていろよ、しるっペ!」

「僕はしるっペじゃなくて…」

すると、時間が来たらしい。関係者の人が呼びに来た。


僕はその人についていくと、対戦相手の人はまだ到着していなかったようだ。

「ここでお待ちください。」

そして、少しの時間退屈に待ちぼうけるとようやく来たようだ。

「オートって君だったのか!?」

「今日の対戦相手はお前だったか。良かった、もう会えないかと思っていたからな。」

「うん、今度は最後までやろう。」

「一つだけ言っておくけどあの時やった時のレベルは10段階の半分のレベル。」

「なんの話?」

「僕はとあるソフトの手を完璧に覚えているんだ。それは10段階あるんだけど5~9までな!」

「へぇー、コンピュータねぇ。懐かしい。でも、それじゃあ僕には勝てないよ。」  

「なんだと!?」

「それをこれから教えてあげるよ、少年。」

 「今日も勝つ。俺にはそれしかない。」─



「知っているか?人間はもうチェスでソフトに勝てないんだぜ。」

オートは意気揚々と語った。

「ヘッ、そうかな?一つだけ言っておくけど、コンピュータの言いなりになっているようじゃ僕に勝てないよ。」

「なんだと⁉」

「今からそれを見せてあげるよ。」─


「出陣だ!」



新たな夢、そして未来へ
うぉーっ

メモ────────────────
夢の世界に迷い込んだ彼はチェスをしている少年たちを見かける。実はそこはチェスのくにだった。昔やった事のある対局などをして忘れかけていた過去の事を思い出しながら(海外に住んでてたまに来るおじさんと何回もチェスをやり一回も勝てず、そのおじさんに勝つためにチェスを頑張り続けた事)勝ち続けていく。夢の中でお兄ちゃんと呼ぶ声

次の日には耳元に誰か懐かしいような声が

「世…っている」

その声はよく聞こえなかった。


そして運命のとき、おじさんとの対局僕は必死に相手の手を読んだ。だがおじさんの手はとても高度な読みで追い込まれそうになる。だが僕は起死回生の一手を思いつく、このままいければ勝てる!そう思ったハルオだったがステールメイトで引き分けになる。

おじさんは強かったよと言いながら世界は広い事を教える。自分より強い人間は沢山いる。だから夢をなくすなよ。うん。分かった。と言うとお兄ちゃんと自分を何回も呼ぶ声に目が覚める。どうやら2ヶ月も寝てしまっていたらしい。妹が目が覚めるまでずっと看病していた。妹の話では昔よく家に遊びに来ていたおじさんが久しぶりに来ていたらしい。僕はあの世界にいたとき夢の中でおじさんが耳元で囁いていた事を思い出す。その時その場でずっと止まっていた俺の時計の針が進み出す。胸踊る興奮そして子供の時以来していなかったワクワクがとまらなくなり僕は走り出した。
終わったと思っていた俺の人生はまだはじまったばかりだったんだ!

別世界では自分が何者か思い出すきっかけになる