世界の全て④

君へ

僕は心が崩れる思いだった。

これで何回目だろう?僕は過ちを何度も繰り返してきた。

君と一緒に居たい。その思いがいつもからまわって、相手に背負わせてしまう。今回もそうだった。

消えてしまえば、もう二度と会えない。それが強く君を束縛する。

いつもだった。どうしたら、より良い関係を築けるだろうと考え、失敗に終わる。ただ、君と一緒に居たいだけ…ただ、それだけなんだ。

しかし、自らの欲はそれをとどまることは知らなかった。とても大きな欲の波が君へと押し寄せ、その波にのせられいつもどこか遠くへ行ってしまう。

行かないでと手を伸ばしても、君はもうそこには居ない。

僕はいつも自分を責めた。どうして欲を抑えられなかったのか。どうして彼女に背負わせてしまったんだって。

しかし、その責めも虚しく、自分は何度も繰り返す。だから、もっともっと何度も責めた。

しかし、何度責めても、自分は変わらなく繰り返したんだ。そして、周辺をみると、いつの間にか敵が多くなってる気がした。

欲に負け、大切なものさえも失い、更には居づらい状況へと自分を持ち込んだんだ。

それでも、君を求める心がある。行かないで欲しいと君の面影に手を伸ばし、掴もうとするも、そこには何も無かった。孤独という静けさだけが、そこにあったんだ。

僕は自分が嫌いだ。過ちを何度も繰り返して、それがなおる気配もない。それが誰かの迷惑となり、苦しめてしまう。そんな自分が大嫌いだ。

みんなと仲良くしたいそう思えども、過去の自分が足にしがみつく。お前は、一生変われないんだと。

今でさえ、君とまた居たいと考えてるんだ。もし、戻ったとしても、続かないのは目に見えてるはずなのに。また何度も何度も繰り返して、君のことを傷付けてしまうのは分かっているのに。

欲の弱さは自分で分かってるんだ。それでも、僕は君を求めている。お互い楽しいと思える、そんな日々を送りたい。理想すぎるかもしれないが、僕はそんな理想郷を作りたい。

過ちをおかすけれど、ただひたすらに、君と、みんなと理想的な世界を作りたいんだ。

誰も悲しまなくていい。そんな世界を…。

でも、怖いんだ…。自分の欲が、それを全て壊してしまうのが。

心の底では、みんなの幸せを願っても、時間が経てば、いつの間にか、他人の不幸を願ってる。

そうじゃないだろうって…。

僕は何度も何度も葛藤した。だけど、思うんだ。

僕は君と一緒に居たいって。楽しい記憶が、沢山あった。君にとってはどうだったか分からない。でも、君が楽しいって思えたら、本当に嬉しいって思うんだ。

僕は悪い人間だ。また沢山間違えて、沢山傷付けてしまうかもしれないけれど、君と一緒に居たい。幸せにしたいんだ…。

僕の心は、崩れ元の状態へと戻っていった。

加速させるもの

生とは何か 死とは何か?

その疑問を一度は考えた事があるだろうか。

僕は自分が死んでいるのか はたまた生きているのかを知らない。

夢で例えてみよう。痛みを感じるのが現実で、痛みを感じないのが夢だ。

しかし、こう考えてみたらどうだろうか?

夢をみている人間が、現実世界で痛みを感じた場合。

その時、夢の中でも、痛いと感じるのではないだろうか?

この世界の多くのことは、偶然でできている。だからこそ、その偶然自体が、リアルで感じる痛みになっているのではないかと考えた。

リアルと夢、そして、生と死とは、自らが知ることの出来ない領域にあるのだ。


ところで、僕の周りでは、宗教家達が入信者の募集をかけていた。

最早、いつからかは、もう忘れてしまった。

彼らは何かを求め、磁石のように、その大きな何かに吸い寄せられる。

そういえば、自分は、外の世界に出たことが無かった。いつも、変わらない風景を毎日毎日続け、ある日、違和感を感じたんだ──────

外を歩いていると青年に出会う。しゃがみながら、とても頭を抱え込んでいた。

どうしたのか?と尋ねると、彼は立ち上がって答えた。

「呪いにかかってるんです。」

「呪い?」

彼は立ち上がって言った。

「そうです。僕は、過去形の呪いにかかってるんです。」

僕の頭ははてなで一杯になった。それに気付いてか続けた

「例えば、誰かと何かをした時に、その感想として、楽しい、楽しかったなどがあるでしょう。」

僕が頷いたのを見ると、彼は続けた。

「その、楽しい、楽しかったには、差がないように見えて、大きな差があるんです。」

「それは…?」

「楽しいは、今も続いてる喜びで、楽しかったは、過去の一時で完結しているんです。」

なんだか、英語の授業を受けているような気分だった。

「僕は他者思考的に、自分の言った事を考えてみたんです。

楽しいは、そんなにも、思ってくれている感じがしていいんです。でも…」

僕はコクリと頷いた。

「楽しかった。は違う。これは陰に、それを昔のこととして完結させてるんです。深く考えれば、次にした時は楽しめなさそうだけど…。が見え隠れしているんですよ!」

彼はそう言って、とてもあつく語った。

彼の言ったことは些細なことに過ぎない。しかし、彼の中では問題なのだろう。

僕は「そうなんだな。」とだけ言った。

彼は頷いて、そのまま別れた。

どうしたらいいか。思いつかなかったのもある。しかし、思いついていたとしても、その教えを説いたところで、何か変わるとは思えない。

それは、彼の問題だからだ。

僕には僕の問題があった。それは、生と死について…。

自分自身が学び取るしかないのだ…。

そうして歩いていると、前からまた男の人がやってきた。他の人とは異彩を放っている。

僕は何を血迷ってか、思い切って聞いてみた。

「あなたは生きていますか?」

すると、彼は言った。

「分からない」

驚いた答えが帰ってきたのだ。今の質問だと、生きていると答えるのが普通ではないのか…?

そして、ふと思った…。もしかしたら、自分と同じ考えなのでは…?

私は思い切って、自分の考えを言ってみた。

彼の表情、それは、侮蔑のそれでない、うっすらと少年のような面持ちだった。

「いい、アイディアだ」

彼のその一言を聞いて、僕はそこで別れた。

帰る中、僕は、更に考えを深めていった。
なぜ、彼は分からないと言ったのだろうか…?

すると、ふっと浮かんだ。天国と地獄、実在とも、架空とも分からない2つの場所が存在するとされる。

もし、実在するとするならば、今、どうやったってその場所に行くことはできないだろう。

では、なぜその2つが存在するのか?

そうだ。この世界にそれが2つ存在したからではないだろうか?

簡単に二極化するならば、目に見えるものと言えば、富と貧、見えないものならば、幸せと不幸。それこそが天国と地獄の本質なのだ。

だが、この世には、その2つ以外にもう1つある。幸せとも、不幸とも感じないこと、どちらの側にも属さないそれが、彼が「分からない」と答えた理由なのではないだろうか?

僕は何かがスッキリした。それは、誰かの考えていることが分かったのではない。

自分の疑問の答えも分からずじまいだ。だが、この先の自分の生き方を知れたような気がしたのだった──────


とある街の一角で、男がその場に立っていた。そして、ひと言ボソリと話す

「今日も、大切な何かを1つ手に入れた」

そして、ギュッと握りこぶしを作った。

男の隣では、宗教募集の張り紙が風でユラユラと揺らされていた。

勧誘

最近は、大学だったり、イベントだったりで加木さんに会えない。

私は寂しい足取りで、アパートに帰っていた。そして、ついたところだった。異変に気付いたのは。

沢山の張り紙がアパートの近くに散らばっていた。これは、最近、よく目にする新宗教のものだろう。

私は見ないふりをして、自分の家へと向かった。ドアの前に立つと、鍵があいてることに気付く。

行きは閉めたはずだった。恐る恐る扉を開けようとすると、誰かの手によって、肩がぽんと軽く叩かれた。

私は驚いてバッと大きくドアを開け、後ろに仰け反って、両手で後ろの方へと避ける。

冷静になって、その人をじーっとみると、見知った顔だった。

「真子さん、どうしてここに!?」

鍵があいてたこともあり、状況が飲み込めなかった。

「また後で話すよ!中に人を待たせてるから、入って入って。」

私は更に混乱して何も言えなくなる。

そして、彼女に連れられるように、自分の家に入っていった。

中には、何か怪しい服を着た男が座っていた。

そして、私の顔をみると、にこやかに笑って話しかける。

「待っていましたよ。 今日は大事なお話がありまして。」

彼が何かを言おうとした時、私は思い切って言った。

「帰ってくれ」と。

「急に押しかけてすみません。今日のところは帰ります。また今度。」

彼はそのまま帰っていった。

家には、真子さんと私が2人残されていた

何故鍵が…、さっきの人はなんなのか?頭の中に疑問が沢山浮かんだ。

すると、彼女は私の方へ頭を下げた。

「ごめんなさい…!」

その状況に少し慌てたが、彼女の話を聞いた。

「さっきのは?」

「最近流行ってる宗教勧誘…!チラシ見たことあるでしょ?」

「うん…。」

彼女は宗教勧誘に来たのだ…。私は彼女の次の一言が出る前に打ち明けた。

「その話の前に、私の話を聞いて欲しい…」

彼女は「分かった…。」と頷く。

「この世界の根源は知識だ…!」

私は、そう言うと、熱が入って口からどんどんと言葉の海が流れ出した。その時彼女の顔は見えなかった。

───────

話終えると、少し目を閉じていた。関わりを断つために言ったとはいえ、彼女の顔が軽蔑の目へと変わっていることは怖かったのだ。

私は恐る恐る、目をひらくと、彼女の目は真剣だった。じっとこちらの方を見つめている。

そして、彼女は言った。

「井知くんのその考え知ってたの…!」

私はそれを聞いて驚いた。

「小学校の頃…実は、同じクラスだったことあるの…! その時に…。」

彼女は、馬鹿にした連中の中に居たのか…?私の頭にあの頃の情景がありありとフラッシュバックされる。

しかし、人の顔は怖さと孤独、負の感情のため、完全にシャットアウトされていたため、思い出すことはできなかった。

少し考え込んでいると、真子さんが話しかけてきた。

「私は、遠くに居て、耳に挟んだだけだから…!

でも、あなたのその考え、実は、とてもいいと思ってたの!」

それを聞いた瞬間、私の中で何かがあふれる。それを言葉に変えた。

「ありがとう」

私の心は喜びで満たされていたのだ…。自分の考えを否定しないで居てくれる、それだけでなく、認めていいと言ってくれた…。

それが、とてもかけがえのなくいいものだと、心に痛感した。

私の今まで思っていたこと、それを心の中で謝罪する。

そして、もしかしたらと希望的に考え、入信しようと考えたのだった─────


それから、数日経ち、家に宗教家がまたやってきた。

近くには、真子さんも居て

私はそれに明るく望んだ。

話を聞くと、矢張り、宗教勧誘についてだった。

私は、その前にと、自分の考えを話した。

これから入信するなら、この事は話しておいた方がいい。

そう思って───────

話終えると、意外な反応を示していたのだった。

その宗教家の表情が曇っていたのだ。

私は焦った

「どうかされたんですか…?」

すると、宗教家は答えた。

「そんな考えは捨てなさい。この宗教以外の教え、思想は全て邪道です」

その瞬間、私の中で、トラウマが再来する。

「うぅ…」

頭がズキズキと痛くなり唸った。

真子さんは、隣で何度も私に大丈夫だよと投げかけ、落ち着かせようとする。

だが、何かが崩れ落ちた後だった。

その後、私は、宗教家を帰らせる。

帰る間は、何度も必死に自分の考えを消して、入信することを迫った。

しかし、何かに期待することに疲れてしまっていた。それに、私には、加木さんという認めてくれる人物がいる。それだけで満足していた。

その言葉が耳からすり抜けていった。何度も何度も。

そして、真子さんと2人きりになる。

また慰めようとしてきたが、もういいと大丈夫だと、感謝を告げて別れた。

その日、更に、私のこの宗教への印象が悪くなったのだった──────

勝利と敗北

テレビでは、「そういち」と言う創作家を頻繁に目にするようになった。

彼には矛盾があった。

議論に対する批判は悪だといいながら、自らは批評家的な部分が多く占めていることである。

しかし、それに対していつも「批評家が消えるまで、批評に対する批評並びに、黒に対しての批評は辞めない。」と言っていた。

彼の批評は、ギリギリのところを攻めていたため、みるものをハラハラとさせた。

その臨場感のような怖さが、多くの視聴者を引き付けたのかもしれない。

ところで、今回彼が狙っているのは、とある宗教についてだった。

意外なことに、その宗教については、今まで何故か触れられて来なかった。

チラシや、募集が見ない日はない程に広がったのに、止めるものも、こんな人が居ると信者以外で、更に広めるものも一切居なかったのだ。

そこで、彼はこれについて書くことにしたのだった。

この宗教を野放しにしておけば、社会が悪くなるなど、ほとんどが批評で埋め尽くされた。

ただ、問題があったのだ。彼の本はテレビにではじめてから一切売れなくなった。

いつもそうだったのだ…。彼は回顧した。

それはある日のテレビでのことだった。

「議論がダメなら、創作…?どういうことですか。」

と聞かれた彼は、

「私が提唱する、議論にとってかわるもの。
それは……創作会です。」

それは…?の声が来るとすぐに続けた

「議論とは違って、悪いところを全て排除した会議のことです。いいところだけに目を向ける。

来週の土日に二時間ほど実際に開いてみたいと思います。そこで更に詳しいことは言います」

そう言うと、日時を告げた。

だが──────


「こんばんは。」

その挨拶の声は、何度も聞いてきた、長い付き合いのあの男だった。

「加木くん、今日は何のようなの?」

すると、胸をふくらませるように言った。

「実は、今日新しい発見をしたんだ!」

私は分かってましたよと、少し呆れながら言った。

「私はありえない方ね」

「話が早い!」

男は語った。

「今回は、絶対にあると思うんだ!10ぽん足の犬!」

私は少し呆れていた。そんな犬が居たらすぐにテレビになるでしょうに…

それから1週間が経ったが、見つからずに、私の一勝になった。

「やっぱりね。」私は窓の中から雲を見つめていた

そして、ふと思う。

そういえば、いつから彼はありえないことで、勝負を挑んでくるようになったのかな…?

あれは小学校の時だった。彼はいつも面白いものをみつけると、こんなのが居たと私に言ってきた。

それをいつも勝負になって、今では信じられないほど、最初の頃はよく負けていたの。

あの時のことがふわふわと浮かんできた。

───────

「また今日も俺の勝ちだな!」

そう強く言ってきた加木くんに思わず、顔を隠す。

その隙間から涙がこぼれた。

「悔しいよ…。どうして見つかるの…?」

加木くんは、その時に言った。

「次も勝負挑むからな!また負けて泣いたら困るから、特訓しておけよ!」

─────────

そこで別れて、「特訓って何をすればいいのよ…。」と強く思っていた覚えがある…。

その後はどうなったのか…?

フラフラとその場から離れた。

私は引き出しにしまってあった、ノートを取り出す。

ペラペラとめくると、それは、いつからか辞めてしまった私の日記だった。

前から順々にめくっていくと、ペースをゆるめる。偶然、さっきの、出来事があった。

とても悔しそうに文をつづっている。

そして、次のページをめくると、そこには、はじめて加木くんに勝った!と書いてあった。

彼が、特訓頑張ったんだな!でも、今回は、ちょっと挑戦しただけだから!と強がりを言ってきたことも書いてあった。

それからは、殆どが私の勝ちになっている。

もしかして、加木くんは…?

そんなことを考えながら、続けてページをめくっていった。

すると、あるページに手が止まる。そこには、9敗目をして悔しい!!!

だけど、それだけじゃなくて、とってもいいことがありました。

そこで、紙が破かれていて、先が読めなかった。

これなんだっけ…?そう思って少し考えていた。しかし、何も思い出せない。書いていたのも日付だけで、いくつの時だったか、思い出せる要素もない。

すると、一瞬、ふと何かが浮かんだ。

そういえばあの日…。

それを引っ張りだそうとすると頭がズキズキと痛んだ。

私は日記をしまった。

─────────

その日の夜、加木くんがやってきた。

「あの聞きたいことがあるのだけど…!」

私は先に話す。彼が頷いたのを見ると続けた

「私が泣いたから、今まで気をつかって負けてくれてたの…?」

すると、彼は首をふる。

「そんなことはない!」

そう言った彼は、少し焦りがみえていた。

それを見て、私はクスッと笑った──────

テスト

最近、何かを信じて散々なことがあった。

そんな時は、決まって、ある人のところへ向かう。

それはとても変わった男の家。

元高校の同級生で、落ちて、またいい大学を夢見て勉強する。

しかし、不満をよく言う。

だが、その中に、変わった思考があって、私はそれが少し気に入っている。

家の中に入るとすぐに彼の会話がはじまった。

「どうして、人生は勉強だなんて言葉があるんだろうな。」

私の反応をよそに彼は続けた。

「勉強って聞くと、堅苦しくなるんだ。何故、遊びじゃないんだって。」

「遊びなら、気軽に取り組めるが、勉強って言うと大変で苦しいものという印象が強い。勉強自体、やってみれば、楽しいところがない訳では無い。」

「だからこそ、楽しいこと、娯楽という位置付けでいいのではないかと思ったんだ。」

話終わると、また違う話題に変える。

「不満があるんだけどさ、参考書でわかりやすいとかあるが、あれは全部嘘だと思うんだ。」

「事実、俺は全く理解ができてないし、頭に入ってる気もしない。」

「だから、その人のわかりやすいというものを、他人に押し付けてるだけのように感じるんだよ。」

「常識、知らないと恥ずかしいなどもそうだ。その人の価値基準に過ぎない。」

「だが、それらは、ある意味で否定されることを恐れているのかもな。」

彼は私が話す間もあけずに、ばあーっと話した。

これは、質問を許さない1人の思想。

しかし、批評家的であっても、彼には、自分と共通した何かを感じていた──────

彼の一方的な話は続いた

「分かりやすさについてだが、それは、一般的な流行にはめてないからだと思うんだ。」

「最近のこと一切使わずに、未知のこと説明しても、理解するのには時間かかるんだ。ずっと勉強してきたやつならともかく、はじめたばかりの人には優しくない。」

私はふと思った。彼は同じく、思想を持っている。それがいいものか悪いものかは分からないが、誰にもない、ただ一つの思想を…。

いいや、もしかしたら、彼と同じ考えの人はこの世に存在するかもしれない。もしかしたら、知らないだけで、彼も誰かから影響を受けたって可能性もある。

しかし、その考えは見えない。これを正しいと主張する彼には、どこか共感するものがあった。

人とは違う、もしかしたら、自分だけしかない考えをもってることは、とてもいいことだ…

私はそう思っていた。

すると、彼は違う話題にきりかえる。

「受験とか運ゲーだよな。」

それは今してることへの不満だった。

「お金、体調、緊張、忘れる、時間、いろいろな要因が絡んで、失敗する可能性があがるんだぜ。」

「本当、受験って運ゲーだ」

それからも少し続いて、話をやめ、沈黙が続いた時、私は同級生に、そろそろ帰ることを言う。

そして、帰路に思った。彼の話は、やはりどこか魅力がある。しかし、その分、悪いところもあった。

また少し経ったら、彼の話を聞きに行こう。

私はそう思った─────

ところで、ある男は、いつものように女の家に居た。

「加木くん、いつからテストが嫌いになったの?」

女はふと思いついて、話しかける。

すると、男は、少し悩んで返答した。

「よくは覚えてないんだ。」

女は「そうなんだ~。」と言うと皮肉る

「どうせあなたのことだから、テストでいい点が取れなかったからでしょ。」

男は何も言わなかった─────

その日の夜、男は懐かしい夢をみた。

それは、子供の時のことだ。

近所のおじさんが、みんなの前で、お話を聞かせていた。

それに引き寄せられるように、子供の頃の男(少年)は座る。

はじまりは沈黙だった。

しかし、時間が来ると口から踊るように言葉があふれてくる

躍動感あふれる動きで、更にその物語に色をつけて盛り上げた。

少年は夢中になってそれをみた。その場に居るかのように、胸が高鳴る。

その頃、言葉にはならない程、いいものだと、少年の心に強く印象づけられた。

しかし、小学校にはいってからの事だった。

白い紙が渡され、それに悩み、決められたものを決められた場所にあてはめる。

制限された世界に、少年は迷い込んだのだ。決まった正解を、決まったルートで進まなければならないそれは、ひとつのものに多くの可能性を見せたあれとは全く逆のものであると少年は思った。

そして、もし、1度でも間違えたなら、悪い烙印を沢山押され、道の最終地点までついても、その悪の烙印を多く押されていれば、そのものが、どんなに頑張っていようと悪いものだと。

ここで少年は思ったのだ。

間違いのない世界こそ、理想の世界だと。制限された空間そして、制限された言葉達よりも、何でも全てが正解になる、そんな世界こそが理想なのだと確信していた。

あの時のお話のように、世界には、同じでは無い、どんなものでも、正解になるそんな理想のものへと変わって欲しいのだと思った─────

あの時の、なんとも言えない喜び、なんとも言えない葛藤と、この思想に旗をたてたその時、それはこんな感じだったと、男はノートに書き終える。

しかし、それは誰に見せるでもなく、くらい闇の中へとその姿を隠していったのだった───