1話物語①

あなたと私の別れ

「これから、旅に出ようと思います。」

私はそう言って、大切な人に別れを告げた。

あの人はただ、何も言わずに私を見送る。

道中呟いた「あの人は私のことを信じている。だからこそ、何も言わずに見送ってくれた。」

その優しさを思うと、私の目に涙があふれる。

これから多くの物語に出会う。

そこには自然のように美しくとても芸術的なもの、辛く悲しいものもあれば、未来を信じた希望、誰を思いやるものだってある。

この別れは終わりではない。また新しい未来への始まりだ。

少しの間、離れていようとも、私の心は変わらない。

あの人のことを信じる。たとえ、悪い結果であったとしても、私はあの人を信じるんだ。

あの人が私を信じてくれたように。

この旅立ちによって、離れてしまうのはとても悲しいことかもしれない。

しかし、また出会う時が楽しみでもある。

それは、例えるならば、川のように。

私は、あの人は川である。

共に流され、ずっとそばに居る。そんな川だ。

しかし、ある日、その川は大きな岩によって2つに分かれてしまう。

その岩は、今、この状況の、新しい旅立ちである。

そこから先はまだ、進んでは居ないことだから、また帰る時に思うこととしよう。

私は片時も忘れることはなく、分かれてしまった一方の川のようにただ、目の前を進んでいこうと思う。

これから、辛く険しいこと、その中にある学びや、喜び、色々あることだろう。

とても悲しいことが起こって、立ち直れなくなるかもしれない。

逆に、いい事が起こって、それに溺れてしまうかもしれない。

しかし、その都度、私はあの人のことを思い出し、何度だろうと、道を進み直そう。

私はこの旅が楽しみである。

これから、どんなことが起こるか。

そんなことは分からない。

けれども、また出会える時のために、この道を進んでいくのである。

私はあの人のことをそっと思い浮かべた。

すると、そっと背中を押して、「あなたなら大丈夫」と言った。

「ありがとう…」そう呟いて、道を進んだ──────

ぬれる袖

これは秋の日のこと、辺りは1面、暗闇に包まれる。

男性は上に立つものゆえ、多くの人の暮らしに触れ、政務にいかそうと、今の今まで見回りをしたり、話を聞いたりそうして、考えに耽っていた。

「いつの間にか、夜も暮れてしまった。」

そうしてザクザクと歩いて、藁でできた屋根の別荘へと向かう

隣には1面、黄色や緑にそまる畑があった。

それを見て、男性は関心した。

「これらの仕事が、皆の生きる糧になる。官職や、地位につかずとも、何か目標をもって取り組める。

それは立派なことだ。」

そして、畑を通り過ぎると、家が見えてくる。

ここは、男性の別荘だ。

藁でできた屋根に目をやると、そこには、少しあらさがあった。

そこで、夜の情景が浮かんでくる。

「これでは、夜露にぬれる。

それを払おうとしても新しい露が隙間から入ってきて、私の衣は、夜の間、濡れ続けることだろう。」

男性はふと、昼のことを思い出した。

皆の暮らしはどうだろうか…?

雨の日にザアザアと降り続ける雨に、藁の隙間から家の中に入ってくる。

朝は畑仕事に、夜は雨にぬれて、人々は休まる時間などなく過ごしているのであろうか?


そして、夜があけて、衣をみると案の定、露がかかり少し湿っていた。

そして、後日、男性は別荘を出て都へと帰って行った。

都では、上に立つものでありながら、民の気持ちに寄り添い、政治にいかそうとお考えなのはとても度量の深いお方だ。

など、様々な褒めの言葉をうける。

そして、政務を再び開始する。政治の方向を発表した。

「この度の旅で、民達が困っていること、それを発見した。」

聴衆は、男性に釘付けになった。

「それは、とまの強化だ。」

「民達は、夜の間、隙間から雨に濡れ続け寒い夜を過ごしているに違いない。」

「食料を作る民がいるからこそ、今、政治ができるんだ。民なくして、政治は成り立たない。」

男性がそう言ってから、数ヶ月後、民衆の夜は、雨や、夜露を知ることは無くなった。

────────

山に衣干す

春が過ぎて夏がやってきたらしい。

綺麗な花は散り、緑に生い茂った木々と暑い夏の日差しが夏の到来を告げる

ところで、ある高貴な女性が住む都では、昔ながらの風習が行われていた。

近くの山で、真っ白な衣を干す。

それが遠目からでもとても白く、山に雪がかかったように見えるのだ。

それは、さながら夏の雪山のように。

女性は、目下の者に言った。

「今年の夏も、あの山に、衣を干すのですね。」

「左様でございます。」

「そうか。私もあの山に衣を干してみたい。」

そうして、護衛をつけ、女性は山に向かった。

輿の中へ。

長い道のりを少しずつと進んでいく。

ゆらゆらと揺れる中、女性は考えた。冬のように綺麗に輝くあの山を。

それにおもいを馳せた。

あぁ、あの山よ。いつ私の足元へとやってくるのだろうか。

道のりは長く、とても多くの時間を費やした。

そして、場所は変わって上り坂に。

人々の進む速度が遅くなり、道中、休憩に入ることになった。

あぁ、待ち遠しい。
そう思いながら、山の中で、衣を干している自分、そして、その山の方を眺める光景を想像した。

私は歌を読んで、その美しさを表現していた。

そして、自分が干した衣が探してみて、見つかるようなウキウキとした気分が湧き上がってくる。

それを考えると、更に到着を待ち遠しいと感じた。

休みが終わると、またかつがれ、揺れながら、山の中へと進んでいった。

そして、場所に着くと、後ろから運ばれてきた衣を木に立てかけたりして干す。

その衣が近くからだと、とても見え方が違って白くて綺麗。

彼女には夏の山に雪がふり、つららが木々を彩る情景に感じられた。

近くから、リスや、猫などの小動物が彼女を囲う。

冬の景色では、味わえないような新鮮さにとても彼女は感動した。

衣を干す風習もとてもいいもの。そう言って、彼女は都に戻っていった。

そして、干している間は、山を建物の中から見つめて、歌をよんだりしてその美しさを文章に彩ったのだった

────────

山鳥と寂しい夜

都にある女性が住んでいた。

その人は、心に少し寂しさをかかえていた。

しかし、その心の中を癒すため、よく森の中へと出かける。

すると動物達が、彼女のまわりを取り囲んだ。

それこそ、彼女の特別な時間だった。

人との関わりは薄けれども、この時間があるから、私はとても幸せ。

そう思っても、1人の時間になると、とても寂しくなる。

夜の時間。

その時だけは、毎日がとても寂しく感じられて、仕方ない。

ずっとこの動物達とともに居られれば…。そう考えて、いつも心に寂しさを感じている。

すると、彼女のそばに、山鳥がやってきた。

それをとても可愛がった。

山鳥には、特徴があって、しっぽがとても長い。それがとても気になっていた。

山鳥がこの場所を去っていく時も、帰り道にも、あの山鳥のしっぽのことが頭から離れなかった。

そして、夜がやってきた。

今は秋。あの夏の短い夜は過ぎ去って、とても長い夜がやってくる。

最近は、動物達も減ってきた。冬がおとずれれば、更に長い夜を過ごすことになるだろう。

私はこの長い夜を1人寂しく居なければいけないのだろうか…。

そう考えた時、ふと、あの山鳥のしっぽのことが頭の中に浮かんできた。

この長い夜は、まるで、あの山鳥のしっぽのよう。

そう考えた時、女性の心にはなんだか安心感があった。人や、動物達と過ごすのもいいけれど、1人の時間も大切なんだ…。

そう思った。

この一人の時間は、落ち着きや、出会った大切なものとの振り返り、そして、新しい素敵なものとの出会いもある。

そう考えた時、私は、なんだかすっきりしてその夜グッスリと眠りについた。

もし、冬がやってきても、また春が来て夏がくる。

私の寂しいこの時間は、過ぎ去ってまた楽しい日々がはじまる。

だから、今、この時間を大切にして…。

女性は次の日も、また、動物達のもとへ向かった。

道中の彼女の足は、自然とスキップになっていた────────

冷たい結晶

男の住む国では、とても大きな山があり、それを見るのが好きだ。

今日も、近くの景勝地に赴き、あの姿を見ようと考えている。

とても大きな体に、多くの人が彼に釘付けになり、その堂々たるさまに心を奪われる。

その姿を目に入れることは、もちろんのこと、更に、美しさを引き立たせる化粧を自らにほどこすこともあった。

あれは子供の頃、ここに来て感じた美しいという純粋な感情に、薄まることをしらない好奇心が1段と私の心を締め付け、何度もここに足を運ばせた。

そして、その道中に呟く。

「ここに来るのも何度目だろうか?」

あの頃にみた美しさは、今まで見ることはなかった。

しかし、それがないまでも、あの時みた美しさと負けないくらいとてもいいものだと、涙を流すことさえあった。

だが、心の中で、子供の頃に感じたあの美しさは、忘れることが出来ないほどに素晴らしいもので、言葉にはできない程の感動を幼少期の自分に与えてくれたんだ。

今日、もし、見れなくても、それは消えることはないだろう。何度も、またこの山に来て、美しさに感動する事は変わらない。

そうして、考えているうちに、頂上にたどり着いて、あの山の姿が段々と自分の目に入ってきた。

それを見て、男性はいつもとは違う驚きを覚える。

それは、白い雪がポツポツとふり、山頂を白くとても綺麗に彩っていたのだ。

小さな声で呟いた。

「美しい」と。

そして、ポロポロと涙がこぼれて、その場から動けなくなった。

そうだ、これこそが、私の幼少期にみた感動だ。

全てのものを包み込んでしまうほど大きなその姿に、何にも負けないその体。

今もここにあり続けているその美しさに、偶然の賜物。もはや、感謝しかない。

「ありがとう」

そう呟いて、後にした。

またここには、何度も来ることになるだろう。あの山の魅力には、何者もかなわない。美しい山よ。

多くの感動をくれたその山と、しばしの別れを告げたのだった─────

もみじと鹿

これはとある山奥での話である。

そこには、男性が1人、家を構えて住んでいた。

そして、あたりを見渡すと、いつの間にか紅葉し、もみじの葉が森を彩っていた。

「今年も綺麗な色に染まり、美しい。」

そう呟いて、また更に、家の外へと離れて森の奥に入っていく。

生き物たちが、男性を横切って、深い森の中へと消える。

それを見て、もっと奥へと入っていった。

もみじの葉が1面中にちらばり、靴で、踏んでなる音が耳に響いてくる。

それが耳に入ってくると、しみじみ秋の訪れを感じたような気がした。

森の奥深くに着くと、もの悲しい鳴き声がきこえてきた。

「これは、鹿の鳴き声だ。」

男性はそう言い、振り返ると、鹿がこちらの方を向きながら歩いて様子をみている。

もみじの葉がふまれ鳴りながら、たまに鹿が鳴く声をきくと、寂しさが増した。

しかし、男性は考えた。

鹿の鳴き声、それは過ぎ去っていく何かを待ってと手を伸ばしているように、不条理にさらわれて行くそれを必死に追いかけている。

夏の日、それはとても暑く疎ましいものでもあるが、多くの人、動物、虫達が活発に動く時期でもあった。

しかし、今は秋、段々生き物の数も減ってきている。
寒い冬を乗り越えるため、すみかにいる時間もとても多くなるのだ。

外にでる数は減り、夏の暑さが取り除かれ、残ったのはこの寂しさだけ。

「いいや」

男性はそう呟いて続けた

しかし、ここに鹿が居る。

生き物達は、全てが寒さに居なくなってしまったのではない。

あたたかさは、いつも私の周りにある。

そうしていると、また鹿がないた。

今度聞いた時は、「ここにいるよ」と明る聞こえた。

また足音も、とてもあたたかい。

1人ではない。それをそのもみじの音がひびいててらしてくれた。

鹿の表情はとても明るくキラキラと輝いている。

「ありがとう」

そう呟いて、男性は元の住処へと帰っていった。

残った鹿の周りには、他の鹿がやって来て、もみじがとても綺麗にひらひらと風に揺らされた

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橋に輝くもの

雪がやんだある日のこと、都の中では、おとぎ話で持ち切りになっていた。

それは、カササギの話。

離れ離れになった2人を、カササギが橋となって繋いでくれた。

それは、とても幻想的で、多くの人々の想像を刺激した。

意中の人を思い、この話を頭の中に思い浮かべる。

私はある女性に恋をしている。

同じ都の中に居るが、その距離は遠い。

あの橋の向こうに行かなければ、彼女の元へはいけない。

だが、私には踏み出す勇気がなかった。あの人は位の高い女性。

ここから先は、私のようなものには、進むことを禁じられている。

そっと窓の外をみると、雪が一面にふっていた。

冬の間にしか見えない光景、とても貴重で、綺麗だ。

私はそばにあった霜を橋の上に置いた。


それから、時間が経って、私はあのカササギの橋を浮かべる。

まるで、あの人と、私の間に隔てる壁のよう。だが、カササギがたてかけてくれたあの橋を私は進めないでいる。

禁を破ってまで、彼女にあって何をしようと言うのか、もし、渡ったとしても、禁を破らせたとして、彼女にも迷惑がかかってしまうかもしれない。

そう思えども、私は橋の前に立っていた。

辺りはもう、雪が止んで、降り積もった白く冷たい景色が。

今は夜で、もしかしたら、気付かれずに橋を渡ることができるかもしれない。

だが、その踏み出す勇気は今の自分に無かった。

もどかしい思いから、振り返ろうとすると、昼においた霜があった。

私はそれを見て、しみじみ感じる。

「霜がとても真っ白だ。すっかり夜がふけてしまったんだな。」 と。

だが、なんだか私の心は満足してスッキリしていた。

私はその日、彼女の元へは行かなかった。

次の日、カササギの話で盛り上がる。

幻想的で、まるで、昨日の橋のようだと。

昨日置いた霜はすっかり溶けて、雪も段々となくなっていった

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変わらないもの

私は故郷から遠く離れた場所で、多くの勉強をしていた。

それは、より良い部分を故郷へ伝え、発展させるため。

しかし、ここに来るまでの道のりは困難を極めた。

暴れる海を、進み、仲間を数人失った。ここまで私が来れたのは、奇跡でもある。

私は必ず、何かを得て、故郷へ帰ってみせる。

それから、男は、そこで色々な知識を得て、更に出世していった。

そして、今日は、帰りの船が来る頃だ。

しかし、忙しさのあまり、乗り遅れてしまった。

その夜、帰れなかったことを悲しく思う。

しかし、あがる月を見た。それになんだか励まされたような気がした。

そして、それから数ヶ月が経つと帰りの船がやってくることになると聞く。

しかし、訪れることはなかった。

嵐があったと言う。もしかしたら…

そう思って悲しくなっていた。

その夜も、また月がみえた。

あれを見ると、故郷のことを思い出す。

私の住んでいたそこは田舎で、近くに山があった。

私にとっては馴染み深い山で、子供の頃はよく遊びに出かけたものだ。

夜には、あの山の上に月がのぼって、近親者とともに眺めたことがある。

「とても綺麗だ…」

私はそう言って、とても感動したことを覚えている。

もしかしたら、あの月も、私の故郷の山の上にのぼっていた月なのかもしれないな…。

そう思うと、彼はまた元気を取り戻した。

故郷に帰れるかは分からない。

しかし、あの月が空にいる限り、私はあの故郷とともにいる。

だからこそ、今を頑張って、そこで変わらず見続けてくれている月のため、必死に生きようと思うのだ。

とても明るい月の光が、男の住む家を照らした。

とても眩しく、全てを包み込むようなそれは、とても優しい光だった。

その時の男には、迷いはもうそこにない。

歌をよんだり、日記などをつけ、自分の思うことを綴った。

そして、あの月が今もまだ、この地を照らし続けていることを。

故郷と繋がるあの月は、とても偉大で、夜のアイドルであるような…

今日も男は明るい朝を迎えた

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私の住む家

都から東南、私の住む家はそこにある。

誰かに自分のことをとやかく言われず、穏便に気楽な日常を過ごしている。

しかし、通りすがったものに言われたことがあった。

それがモヤモヤと心の中に残っている。

「こんな山奥にいるなんて、物好きもいるもんだなぁ。虫達が沢山、生活を邪魔する生き物達が多く住んでいるではないか。」

「これは、厭わしい憂き山だ。」

それが世間一般の見方らしく、さながら、本当の憂き山のように、名前を付けられ呼ばれているという。

しかし、この山の生き物達は、私の家に介入してくることはなく、そして、決して、私に気をつかうことはない。

こうして、気楽な生活を歩めている。

都に住めると言っても、私はこの地での生活を辞めることはないだろう。

どれだけ素晴らしい都と言っても、私が毎日楽しく、そして、ささやかに起こる幸せに感謝する、この快適な暮らしを、捨てる気にはならないからだ。

誰が避けようとも、私の考えだけは変わらない。

私の好きな山は、誰が来ようとも、そして、なんと言おうとも、私の考えは変わらず、ここを愛しているから。

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私が家を出てみると、下からモグラが顔をだした。

こちらに気付くと、もう一度穴の中に入っていく。

私はそれがなんだか幸せだった。

自然にふれられる。生き物は、人間だけではないのだ。

人ばかりの世界にいると、それをたまに忘れてしまう。

多忙の中、人に囲まれ、気を使って心をすり減らしていると、毎日、この自然のありがたさや、変わらない景色の素晴らしさを感動することはできないのだ。

少なくとも私は忘れてしまっていた

だからこそ、私は毎日のように、この緑豊かな山、そして、生き物達に心の中で感謝している。

ここでは、全ての生き物が主役だ。この山を彩り、世界を彩る。

あぁ、この世界はなんと美しいのだろうか。

私には、ここをとても素晴らしいもので、とてもかけがえのない場所だと、心の底から思う。

今日も感謝しよう、この世界に。

ありがとう。

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過ぎ去ったもの

私はずっと恋をしていた。

けれども、思いを伝えられず、その胸の内に置いて今まで過ごしてきた。

そして、もう、今では昔の美しさの片鱗もない。

鏡を見るのが辛く感じてしまう。

私は恋と言う虚しいものに、時間を注いで、自分に目を向けていなかったのです。

あの時、沢山賞美される暇も無いうちに…。

私はぼんやりと心にある気持ちに物思いにふけって、ただ時間だけが過ぎて、今は後悔の念が沢山ある。

あの美しさはどこへ行ってしまったのでしょう…?

私は外にみえる花の方へと手を伸ばした

そこには春の桜の花があって、もう色あせてしまっていた。

今年は花見をしていない。

雨続きで、あの美しい花を、近くで見ることすらできなかったのです。

去年はあんなに賞美されていたのに、雨によって、花見されることもなく、美しさを誰にも知られずにひっそりと散っていく。

あの桜はまるで私のよう。

内面に降り注ぐ雨のように、ただ、時間だけが過ぎていって、止んだ時にはもう遅い。

もっと誰かに賞美されたかった。その思いに駆られて、ただ寂しさだけが、心に残るのです。

そう、ただ、私は寂しかった。

あの時の素晴らしい時間を無下に過ごしてしまって、その代償が今…。

私は外に出て、桜の下に向かっていった。

もう色あせてしまった桜だったが、私はとても他人事のようには思えなかった。

「そなたも寂しいか」

そう言って、もっとそばへとよっていく。

「私は美しいと思う。」

どれだけ、時間が過ぎ去ったとしても、変わらず残り続けている何かを私はとても大切だと感じていた。

そして、桜の木を抱いて、そして元の場所へと帰っていく。

春は過ぎた。けれども、また春がやってきて、桜達は満開に咲き誇る。

何よりも美しく、綺麗に。

その時の私はもう過去のことを嘆く気持ちはすっかり消えていた

─────────

出会いと再開の場所

私は旅に出た。

遠く東へ向かおうと関所へ。

そこは、多くの人が別れ、出会いまた再開する場所。

私もまたそこで、多くの人と一時の別れを告げ新しい出会いと向かう。

私がそこへ到着し、休んでいると、「こんにちは」と話しかけてくる人が居た。

彼は、東の方へと先に行って、都に帰る途中だという。

私は少しその人と立ち話をした。

「東の国はどうでしたか?」

すると、彼は腕組みをして、笑って答える。

「都のような華やかな雰囲気はありませんでしたが、とても空気が綺麗でいい場所でしたよ。」

「そうですか。それはいいですね。」

「えぇ。あなたはこれから向かうんですか?」

「はい。東国に行くのがとても楽しみで。今日ははやめに家を出ました。」

「そうですか、道中は大変でしょうが、お気を付けて。」

ここは多くの人が別れ、出会い、そしてまた再開する関所。

今日も、出会いがあり、再び出会う時までの別れがあった。

1人になる寂しさもあったが、これから出会うであろう喜びや、未知への探求心が、私の心をおどらせた。

これからどうなるだろうか?

そんな未来のことは分からない。だが、この喜びは本物だ。

────────

それから、大変な道中を終え、行こうと思って居た場所へ着き、色々な出会いを経験した。それは、人ばかりでなく、生き物、食べ物、文化様々だった。

私は多くのことを経験し、心の底から大きく満足する。

楽しいことばかりでは無かったが、私にとっては、とても大きく幸せな思い出だった。

私は小さく感謝し、元の関所へと帰ってきた。

これから、自分の家に帰る。親戚達や、何度も見てきたあの隣人や、友人達は自分の帰りをどのように待っているだろうか?

そして、東の国で得られたこの情報や、出会いを彼らに伝えたい。

私は、東に出発する前のような喜びを持って関所に着いた。

そこには、また新しく東国へ向かうものが居た。

その人は知り合いでは無かったが、聞かれた時、笑って答える。

とてもいい場所だったと。

そうこここそが、出会い、別れ、そして再会の関所なのだ───────

+α

あの鳥と女性

これは都でのこと。

男性が歩いていると、向かいから、女性がやってきた。

そして、こちらをちらりとみると、すれ違う前に横へと入っていった。

男性は、その様子に彼女について興味をひかれる。

彼女のことを知る人に、色々に話を聞いてみた。すると、その男性だけでなく、多くの男性、女性が目の前をさけるように違う方向へと足をうつすのだと言う。

何故だろうと歩いていると、彼女を見つける。

やはり、彼女は誰であろうと、さけるように人目のないところへといく。

多く集まるところでも、同様に、人目をさけるようにして、時がただ過ぎるのを待っているかのようだった。

「あの人は何を思って避けるのだろうか?」

そう呟くと、遠くにヤマドリが、歩いているのを見つける。

飛び立つ様子はなく、とても長いしっぽを揺らして、歩いている。

あれをみると、今日が、秋の日だと思い出させた。

夏のように、長い朝は過ぎて、夜の時間が長くなる。

あの長い夜は、まるでヤマドリのしっぽのよう。

直後、ヤマドリは飛び立ってどこかへ居なくなってしまった。

それから、またあの女性の姿を見た。

今日はとても夜が長い秋の日だ。

あの女性は、それでも、朝のように人目をさけるのだろうか?

男性の頭には、彼女の様子が浮かんできた。

寝床を隅にして、目立たないように休む彼女の姿が。

あのしっぽのように長い長い夜を、1人寂しく過ごしているのに違いない。

ある時、男性は彼女に思い切って聞いた

「この長い秋の夜を寂しく過ごしていませんか?もし、良ければ私があなたのそばに…」

そうすると、女性は言う。

「お気遣い感謝します。しかし、大丈夫です。」

彼女のことに男性は人目を避けていることを言った。

「人目を避けているのは事実です。私はすれ違い話しかける人に気をつかわせてしまうのは、とても心苦しいことで…。」

そして、彼女は続ける。

「同時に、私は自分の時間をとても大切にしています。楽しいことばかりで、寂しい時間はないのですよ。」と微笑んだ。

それに男性は心をうたれたように立ち尽くした。

ヤマドリも、群れで行動することはあるが、単独で見かけることも多い。

もしかしたら、自分の時間を大切にしているのかもしれない。

─────────

橋と霜

あるところに橋があるという。

それは、とても幻想的で、何か異世界のように、この世に存在しないのではないかと。しかし、それが多くの人の想像を掻き立てた。

────────

ある日の冬のこと、とある都に住む男性が散歩をしていた時である。

雪が降ってきて、衣にあたる。

しかし、1年に数度、いや、来ないかもしれないこの景色を味わうため、男性は負けじと、散歩に出掛けた。

どこに行くでもなかった。しかし、今日だけは…。

そう思い進んでいくと、川が見えてくる。

ここから先は進めない…

男性はそう思うと、川沿いを歩いて、どこか進める橋がないか探していた。

すると、遠くの方に、何かが見えてくる。

「あれはなんだろう?」

そうこぼして、更に歩いていくと、鳥の群れがあった。

カササギだ。

こんなに沢山集まって、何をしているのだろうか?

その場に立ち止まっていると、カササギは、橋のようにかたまって、その場にとどまり続けた。

渡ろうとすれば、渡れるかもしれない。

男性は、おもむろに、その上に、霜を置いた。

そして、その場に倒れ込んだ。

───────

男性が目を覚ますと、雪はいつの間にかに止んでいて、体がひんやりと冷たい。

自分はいつの間にか寝ていたのだ。

体を起こし、あたりをみまわした。

夜が深まり、あたりは静寂につつまれている。

近くにあった橋は、カササギではなかった。

そこにあったのは普通の橋で、自分は吹雪の中で、幻覚を見ていたのだとハッとする。

しかし、ここに橋はなかっただろう。もしかしたら、カササギが橋をかけて飛んで行ったのかもしれない。

そう考えて、橋の上に近付いてみる。

寝る前に置いた霜が真っ白にそこにあった。

私はそれを見て、頭上に視線を移した。

「すっかり夜もふけたんだなぁ。」

自分の住む場所へと帰っていった。

花と美

春の花は多くとても満開に咲き誇っている。

人はそれにめでたさを感じて、座り食事をとる。どれだけこの花を見ている理由を作れるか。

そして、この魅力を、どれだけ味わっていられるのだろう…。

花が咲くことは、心も新しい気持ちになり、全てが美しく、はじまりの時を感じさせる。

1年にこの時だけの幸せを、花はくれるのです。

しかし、その時期は春だけで、いつの間にか枯れてしまい緑の生い茂った葉が1面を彩る。

それをみると、春は過ぎてしまった。そう感じる…。

私はふと、鏡を覗き込んだ。

あの花のように、美しく、多くの人が振り返り、誰も彼もが私に話しかけてきたその時間がとても懐かしい。

私の美しさを褒め、優しくされていた。

けれども、今では、あの美しさはどこかへ消えてしまった。

私を美しいと言っていた男達は、年老い、今いるものは、新しいものをと求める。

過ぎ去ったものには目もくれず、新しい美にうつつをぬかすのです。

それはまるで、春に咲く花のよう。その美しさにみとれるが、散ってしまった花には目をくれず、新しい美しいものへと、つられてその方へと向かうのです。

枯れてしまった綺麗な花には、目もくれないで…。

私はその事がとても悲しかった。

自分を見ていると、このまま老いていくことを考えて更に悲しくなる。

しかし、だからこそ私は、あの花を美しく思えるのかもしれない。

花をみると、美しさに目を奪われしまう…けれども、咲かなかった花、そして、過ぎ去った花も、私は想像でとても美しい花が広がっているように思うのです。

そこには私もあの時のように美しく、ただ、その中で笑顔で、その綺麗な一時を思って、ただ、そこにいる。

その時が私にはとても幸せで、あの花とともに輝いていられる特別な時間。

私の心の中にあるのです。あの懐かしい日々は。草花達が喜び、世界をキラキラと綺麗に輝かせる。

あぁ、私はなんて美しい世界にうまれたんだろう…

ただ、そう思うのです

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