妻への伝言
男は君主である王様の命に従わなかった。
色々なものを取り入れるために、海外へ勉強に出る旅の途中のこと。
船に乗ろうとする最中、男はどうしてもこの船が信用ならず、乗らないと決め、王様の言いつけを無視した。
それに、ご立腹の王様は、彼に流刑を言い渡した。
彼は言い渡されたその島へ向かう途中に、あることを考える。
それは、妻のことだった。このことは、彼女には一言も話さずにいる。
もしかしたら、ずっと帰りを待っているかもしれない。
そう考えると気の毒で仕方がない。
すると、前から漁師がやってきた。
彼はその漁師を呼び止めて言う。
「都に行きますか?」
「たまに行くと」漁師は頷く
「都には私の妻がいるんです。」
「はい。」
「もし、妻に会うことがあったのなら、伝えて欲しいことがあります。」
そういって、男は上を向いた。
「私は舟で、大きな海を渡って、多くの島々を巡り旅にでようと思うのです。」
「分かりました。」
漁師がそう言うと、男は別れて流刑先へと向かう。
舟の度は長く、その中で多くの過去のことなどを思い出させた。
妻は今何をしているのだろうか…?
──────────
そうして、流刑先にたどり着くと、私は思い出に耽りながら、時間をただ過ごしていた。
あの辛いことも多く息苦しい都での生活から離れ、今はもう気楽な日常が送られている。
しかし、心には変わらず、悲しさや、寂しさがあって、過去の思い出が何度も蘇ってきた。
そういえば、漁師は、あのことを伝えたのだろうか…?
たまにそんなことも蘇ってきた。
しかし、考えても、その答えは見つからない。
いつになったら、流刑が終わるのかも分からない。もしかしたら、永遠に終わらないかもしれない。
───────
それから、時が経って、釈免で帰京した。
文章の美しさを王様に認められたという。
私は帰京すると、すぐ何よりも先に向かった場所があった。
私は扉をあけて言った。
「ただいま。」
すると、「おかえりなさい」
とかえってくる。
私はそれがとても嬉しくて、とても大切に思えて、目から涙がこぼれ落ちた
───────
踊り子
私は都に住んでいる。
よく、芸者が訪れ、歌や、踊りを見せる。
今日も宴の席で、舞を見せてくれた。
私はものだろうと、見ていると、彼女は踊りはじめた。
いつもと同じだ。と、心の中で思って、ボーッと見ていると、私はなんだか、違う世界に引き込まれた。
彼女が踊ると、世界が一変するような、辺り一面が、神聖でとても美しい花の都に変わった。
私は思わずそれに見入る。
この世界には、彼女だけが存在し、それを彩るかのように、全ての生物や、植物達が盛り上げる。
「美しい」
私は思わず、声に出して、そう言ってしまった。
もっと彼女の踊りを見ていたい。
そう思ったが、踊りはもう終わってしまった。
私の心は寂しさだけが残った。
風よ、もし、できることならば、雲に吹き寄せ天女の帰り道を塞いで欲しい。
そうすれば、この美しい天女の踊り、そしてその神聖なるお姿を今一度見ていられると思うから。
しかし、その思いも、裏切られるかのように舞姫は歩いて、この場所を去ろうとしている。
悲しい思いに耽りながらも、その舞姫を呼び止めた。
「あなたの踊りはとても美しかった。まるで、この世のものではない、神聖なものであるかのように。」
彼女は感謝を告げた。
私はもう少しこのままで居たい。そう思ったが、ただ、「またいつか、もう一度、宮中で踊りを見せてくれませんか?」
そう言うと、彼女はとても眩しい笑顔で微笑んだ。
「はいっ!」
─────────
私は何度も、あのとても幻想的でかつ、美しい世界を想像した。
しかし、もう一度、まじかで体験できる。
そう思うと、胸が踊って、心の中にあるドキドキとしたものをずっと抑えられずに居た。
彼女がくれた、感動や、あの世界を生涯、私は忘れることはないだろう。
心の中で感謝した。
あの人
私はある人に何か分からないもやもやした感情を抱いている。
けれども、それを誰かに言わず、ずっと胸の内に秘めていた。
すると、彼女のことを思い出す時間も多くなって、いつの間にか、毎日のように彼女のことに思いを馳せた。
人の話では、この感情のことを、恋と言うらしい。
その時に気がついた、私はあの女性に恋をしているのだ。
しかし、それに気付いても、なお、口に出して彼女に伝えることが出来なかった。
最初に出会った頃に感じた彼女の優しさ、それが惹かれるきっかけだったのだろう。
彼女はいつも、私以外の人にも気をつかい、優しい笑顔でほほえむ。
その姿を見ると、なんだか胸の奥をつかまれるかのように、ただ、この内に秘めた思いが私の心の中でどこか深い場所へとふり積もっていく。
それはまるで、ある山に流れる川のようだ。
あの場所は、浅いところもあって、そこから水達はどこかへと流されていく。
最初は浅い川に過ぎないが、進むにつれて、どんどんと多くの水を重ねていき、深い淵となる。
そう、まるで、私の気持ちはまるで、あの山に流れる川のようだ。
胸の内に秘めたこの思いは、きっと、相手のことを好きという気持ちなのだろう。
そして、いつの間にか、その気持ちは私の全身を巡り、とても深いものへと変わっていった。
私はそれを思うと、彼女の元へと向かった。
そして、なんの用ですかと優しい声で彼女は言う。
私はその声にまた胸をうたれてしまった。彼女と私には生まれと言う身分の差がある。
しかし、この気持ちには、その差がないようによどみなく襲ってきた。
私は彼女を目の前にして、言いたいことが上手く浮かんで来ない。
何故だろう。私は心の中で自問自答した。だが、その答えは浮かんでくることはない。
その様子を彼女はとても気にかけていた。
「大丈夫ですか?」ともらす声に、更に苦しくなった。
「なんでもない」と言って、その場所を後にする。
私は何がしたかったのか…?その疑問が浮かんできた。
しかし、私の心の中では、相変わらず彼女がとても好きだと感情が巡っている。
そうだ…。私はこの気持ちをただ持っていることこそが、幸せな時間なのだ。
そう思った。
彼女に何かをして欲しい訳では無い。
何かを求めている訳では無い。ただ、胸の内にあるこの気持ちを大切に思っていることこそが、私のささやかな幸せであるのだ。
私はそっとそう思って、彼女のことを忘れることにした
また何度も彼女のことを考えるだろう、近くへと行くだろう。
それでもいい。
そう思った時、少し気持ちが楽になっていた───────
気持ち
私は女性のつかいに疑いをかけられた。
私は弁解した。
私はあの方に、とある染物のように、染まりきっている。
なので、自分や、誰かのために自らを乱れさせるようなことはしないと。
しかし、それを聞いてくれる程に、彼の心は穏やかではなかったと彼女は言う。
私は自分の部屋に閉じこもって、違うことを認めてくれるまで出ないことを決めた。
その間、何度も女性のつかいが言ったことが私の頭の中を過ぎってきた。
最近、私より位の高い人達が相次いで亡くなったという。
その原因は何なのかということで、急速に出世した私が疑われてしまった。
だが、それは濡れ衣で、自らの出世のために、自分の手を乱れ染めようとする訳もなく、今に至る訳である。
その原因を作ったのが、王様の側近になった人物だ。
私が急激に出世したことに危機感を持って、王様に嘘を伝えたのだろう。
王様はそれを信じ、彼を側近につけて、私に言われもない罪を押し付けたのである。
私はもどかしい気持ちで1杯だった。
いつもだったら、私は流刑などに処せられるところ、今回は罪を許されて、何もなしでいてくれている。
だが、私は肩身の狭いをしてまで、言われのない罪を背負って、一緒にいることはできなかった。
しかし、あの時の弁解が、王様にとどかなかったのがとても悲しい。
そうして時を過ごしていると、王様が自分の位を新しい人に譲ったという噂を耳にした。
側近の人は、また新しい人に変えられるそうで、私は自分の部屋から出て、その新しい王様の元へと向かった。
すると、途中に、前王様と出会い、そこで王様は謝罪する。
本当に罪をおかしたかどうかも分からないままに、疑ってしまったこと。
それをとても後悔してると。
私は身分もあったが、私も悪いことをしてしまったと謝り、そして許した。
その後、新しい王のもとへ行って、側近に立候補する。
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だが、結局、選ばれることはなかったが、前の時とはあまり変わらない身分につくことになった。
そして、前王の側近だった人物が、自分より下の地位につく。
彼は昔してしまったことを謝った。私はそれをそっと許した
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あなたの笑顔
冬が過ぎて、春がやってきた。
私は今日、1人で散歩に出掛けた。
とてもしたいことがあったので、お忍びで探索へ。
外には、食用の菜っ葉が生えているらしく、私はそれがとても欲しかった。
辺り一面は、冬に降った雪がまだ残って、地面が真っ白になっている。
しかし、この時期だからこそ、その菜っ葉は咲いている。
私は白い雪をかき分けて、あの菜っ葉を探した。
どこにあるのだろう。あちこち探してみるが、中々見つからない。
しかし、私は諦めなかった。
ただ、あの人の笑顔を見たい。
その気持ちが私を着き動かした。
途中、手の袖が重かったので、見てみると雪が被さっていた。
私はそれを見て、雪を振りはらう。
しかし、はらってもはらっても、雪は私の衣にかかってきた。
そうしているうちに、近くに菜っ葉を見つける。
ようやく見つけた。
私はそう思って、雪をかき分けて、菜っ葉をもてるだけつんで帰った。
雪が1面あったため、とても寒く凍えたが、その時の私の心はあたたかった。
あの人が好きな菜っ葉を持って帰ってこれたこと。
それが嬉しくてたまらなかったのだ。
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そして、私はあの人の元へとたどり着いた。
道中、高い身分のため、まわりのものに心配させてしまったが、無事をとても喜んでいた。
あの人はどう思うのだろうか…?
そう思っていると、「無事で良かったと笑った。」
この人はとても優しい。一緒に居てとても安心する。
私はとても嬉しくて微笑んだ。
そして、菜っ葉を渡した。
その途中のことを笑顔で話す。
雪が自分の衣に、雪がふりつもって、はらってもはらっても、つもってきたこと。食用の菜っ葉を見つけられて嬉しかったこと。その他色々話した。
すると、笑顔でただ、その話を自分のことのように聞いてくれる。
私はこの人のことが大好きだ。
そう思った。
植物とあの人達
今日は遠い国へと赴くことになった。
新しい場所へ向かうのに喜びを心に持つ。しかし、寂しさもある。
共に過ごしてきた人達と、長い間別れなければいけない。
そして、いつも見ているあの風景を当分見ることはできない。
離れてしまうには、とても名残惜しい程、ここはいい場所だ。
それが、全く新しい環境へと旅立ち、今までのことは存在していなかった、嘘のように、過ごさなければいけない。
そのもどかしさに、新しい未開の地への喜びと故郷への悲しみで葛藤している。
もしも…話に聞いたその地にあるとされる山。
その峰に生えている松のように、あなた方が待っていると言うのなら…
その国を後にして、すぐにでも、ここへと戻ってきたい。
私はこの国が好きであるから、他の国へ行っても、この気持ちはそのまま持ち続ける。
絶対に忘れはしない。どんな時でも、楽しかった日々は、こうして心の中に残り続けているのだから。
私はしばしの別れを文にし、故郷の地を後にする
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ここに来て、数年が経った。
生活には慣れてきた。故郷と同じくらいに快適にも過ごしている。
しかし、1ヶ月に1度くらいのペースであの山へ行き、あの松を見て、自分の心に誓ったあの言葉をいつも思い出すのだ。
私はいつでも、彼らが居る故郷へと帰る準備はできている。
今でもそれは同じである。
故郷は、悲しいことも沢山あった。
しかし、それに勝るとも劣らない程に楽しい思い出が沢山つまっていたのも事実。
それから数日経って、ふと誰かからか手紙がやってくる。
私はすぐにそれがどこからの手紙か、誰からの手紙かを確認した。
この過ごした年月、幾度となく、手紙が送られてきた。
しかし、それらは、故郷の人達からの手紙ではない別の人。
私はその期待をずっと潜め、これが起こる時のために湧き上がりそうな思いを文にして抑えてきた。
そうこここそが、私の思い思った感情を発散させる場所である
いつだって、違うものの可能性があるのは心では分かっている。
しかし、私は諦めることはできないのだ。信じているからこそ、どんな時でも心の奥底では信じ続けると決めたのだ。
ぱらりと紙を開くと、そこには、花が開くように一面に美しい何かが一杯になった
そして、私は、故郷へと帰る支度を済ませたのだった
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革命
この世の全てのことは、本や、歴史物語などに書かれている。
ありふれたそれだけが、景色となって私の目に飛び込んでくる
絵など、歴史物語などに比べると劣るものだ。
私は絵の見物に向かう最中、ずっとそう考えていた。
景色を書いただけのものに感動するはずがない。
そうして、絵と向かい合った。
私はそれを見て、言葉に詰まった。
ただ、川の絵を書いたそれが、私の心をとても強く突き刺したから。
「これは今までに見たことがない。」
とても素晴らしい絵だ。私は心の底から思った。
これは神々が住んでいたとされる太古の時代の話にも聞いたことがない。
正に前例である。
そして、この美しさ。紅葉の色の鮮やかさが川の色がこの紅葉の一色で塗りつぶされている。
私はそれに心を奪われた。
まさか、これ程までに美しいものと出会うことになるとは、思わなかったのである。
全てのことは本などに書かれていて、美しさ自体も、そこに全て集約されていると思っていた
しかし、私の前、今ここにあるこの絵は私から多くのものを引き出した。
ただの絵に過ぎないものが、これ程までに美しい何かをうみだしてくれるものなのかと、これは、さながら前例である。
川に散らばる紅葉達は、波にゆらされ太陽に煌めく。
これ程までに眩しい1面を切り取ったこの絵は、正しくこの世界の美しさを物語っている。
この世界は太古の昔でも描けない、今ある美だ。
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秋のある日、私は絵にみた川を訪れた。
すると、あたりは紅葉し、赤く染まった木達が私を包み込んでいた。
それに深く感じいる。
この秋の日の世界はとても美しい。
そうして同時に、目を開けることも出来なくなっていた。
この目を開け、川にあの絵にみた美しさがなかったら…。
そんなことを考えて、臆病になっていた。
あの1面は、あの絵を書いた人物だけが見ることを許された、特別な世界。
私が目にすることはおこがましく、未来永劫、実際に見ることを許されないのだと心で思った。
そして、私はおそるおそると目を開く。
すると、私の頬に何かがつたって落ちていくの肌に感じた
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人目
私はある女性に恋心を抱いている。
あの人と一緒になりたい。そう思っても、彼女は私や、その他の人を見かけて、避けるようにと振り返り別の道へと進む。
まるで、岸にやってくる波のようだ。
波は人の場まで押し寄せるようにやってきて、引き返していく。
いいや、波は大きく押し寄せて、人目を避けるばかりか、人を襲いやってくる。
彼女はそれではない。
例えるならば…
私はそれを考えるうちに寝てしまった。
そして、ふと目をさます。
あたりは真っ暗闇に包まれていた。
夢の中にも彼女は居ない。
私はただ、夢の中で、どこかへと続く道をただ歩いていた。
しかし、歩いても歩いてもその姿はない。
彼女は夢の中の道すらも、人の目をさけているのかもしれない。
多くの人達が私の隣を横切っていく。
だが、やはり、姿を見せることはなかった。
そして今。私は少し考え事をした。
あの人と出会ったのはいつの事だったろう。
彼女は突然、私の前に現れ、心を奪っていった。
あれは夕方、海の近くでの出来事。
岸によってくる波を見つめながら、ぼんやりとしていると、誰かの気配を感じた。
その方向を見ると、彼女が少し離れた場所で、夕暮れをみていた。
そして、私の方を1度も気にすることなく、全く逆の方向へと足を進めていく。
彼女はいつも、私の方を見ることはなく、どこかへと帰っていった。
それは、私だけでなく、多くの人とも同じように。
風で髪がなびく。
私はとても美しく感じた。
誰にも侵されない美、私を魅了し、ただそこにあるだけでどうしてここまで心が揺り動かされるのだろうか。
彼女は、まるで、芸術のようだ。
一度そこに描かれれば、それを燃やしたり破いてしまわない限り、そこにあり続ける美しさ、誰をもその前では平等。
私はただ、彼女を、今までのように見続けていたい。
そう思った────────
あの人との距離
私には好きな姉が居る。
しかし、いつ戻ってくるか分からない、どこか遠くへ行ってしまったかのように、長い期間会えて居ないのです
あの人はいつも私のそばに寄り添い、思いやってくれた。
この記憶が、全てのあの人との幸せな日々を教えてくれるのです。
逆にそれが、今あるこの孤独に突き刺さる。
たとえ、これが短い間であったとしても、あの私に訪れた幸せな時間を思い出して、今ないあの幸福を思い続けなければならないのでしょうか?
ある日、散歩に出かけた時に見た葦の節と節の間のよう、とても短い間であっても、私は姉に会わないでいることはできない。
またあの楽しい日々を、過ごしたいのです。
あの葦の間がこの世だとすれば、私は我慢などせず、大切な人と過ごしていきたい。
あの人を思いやり、あの人を好きで居続けたいのです。
たとえ、この記憶が幻だったとしても、変わらずあるこの気持ちがあの人を強く思い出すから。
ただ、私は、姉のことをずっと好きで、幸せな時を2人で過ごしていきたい。
私は歩いて、海の近くにある葦を見に行った。
あの節と節の間の隙間、それがとても気になって仕方がなかったのです。
到着すると、真っ先にそれを見ました。
そこには、隙間はなく、永遠があったのです。
ただ、私の見方が変わったのか、私のおもいがそれを作り出したのか、そんなことは分かりませんでした。
しかし、そこには、永遠がありました。
この葦のように、2人の特別な時を永遠に過ごしたい。
私はそう思って、姉とを隔てる壁を思い出していました。
2人はこれから離れて暮らさなければいけない。そう言って、周りの人達は引き離し、姉もそれに従っていました。
まるで、何か七夕の日のよう。
2人の間に大きな溝ができてしまったのです。たまに姉と会って、昔のように幸せな一時を感じている。
葦の隙間のように。でも、今日のことが私を変えてくれると心の内では思っています。
でも、思っているうちは叶わないことを何度も感じてきたから、今日もおなじことでしょう。
私はそう思って、葦から振り向いて、帰ろうとしました。
すると、私は目の前にあったものに涙を流しました。
とても嬉しいことがあったのです。
ただ、ありがとう。とそっと呟いたのでした──────
2人の関係
クスクスと笑う声が聞こえてくる。
それを聞くと、私は、胸に痛みを感じた。
その原因は、同性愛を疑われていること。
それは事実のこと、しかし、それによって、多くの心無い言葉を投げかけられている。
この家系の恥だと言われることもあった。同性を好きになるなんて有り得ないと言われたりも。
しかし、この気持ちに嘘はつけない。何故、決められたことを決められたようにやらなければいけないのか。
どんな事でも、始まりは新しい何か。前例なのです。
たとえ、誰かがこうすることはいけないと言っても、私は嘘に塗り固められたまま、気持ちを押し殺すことはできない。
近い先祖だったとしても、その原点は、多くの新しいことをやってきた先祖なのです。
だからこそ、原点を信じる。周りがなんと言おうとも、私の心は、新しい世界で一杯だから。
そうだ。みをつくしても、私は好きなもののところへ向かいたい。
周りになんと言われても、あの人の元へ向かう。
うわさがたってしまっているのなら、もうなんと言われようとも変わらない。
私はあなたと居たいんです。このみを滅ぼしたとしても…
私は立ち上がり、歩き出した。
すると、通りすがる人達は、もしや、あそこへ向かうのではないかとうわさをはじめた。
それはとても私の心をナイフのように鋭いもので、突き刺されているような痛さが全身をまわるよう。
進んでいくと、ここから先には行ってはいけないというもの、やめた方がいいというものもいた。
だが、私はそれを振り払って進んだ。
とても苦しかった。自分だけならまだしも、相手の方までも悪く言われること、それは息が詰まる程に苦しいことであった。
私はその場に座り込んでしまう。だが、落ち着きを取り戻すと、また一歩、一歩と彼の部屋へと向かう。
どんな困難があったとしても、私は進まなければいけない。
どうしても掴みたい未来のために
──────
私はようやくのことで、あの人への部屋へとたどり着いた。
私を心配にみつめるあの人の視線があった。
優しく歩み寄る。
私は「ありがとう」と呟いた──────