思想学部③

間違えたもの②

それはある日のこと。

「君って凄いよね。」友達はそう言って僕に話しかける。

「どうして?」

「色々な物語をこうして持っているからね。僕には作れないよ。」

「昔あったことから物語を作ってるんだ。本当に凄い人は思いついた人だよ。」と。

ところで、僕は勉強が普通より苦手だ。何か優れたところがある訳でもない。

勉強ができて、成績がいい人を見ると、その人のことはとても凄いと感じる。

友達は言った「テストなんてなければいいのにな~。」

そんな時に、僕はいつもこう返す「テストが悪い訳じゃない。きっと、しなければいけないことになってるからつまらないんだよ。」

創作の中では、テストは、遊びとしての位置取りでもできる。

現実では多くの人が嫌なものと考えてるものでも、こうして物語の中では、楽しい遊びに変わってしまう。

僕の頭の中では、皆、いきいきとテストで遊んでいる。

創作はいい。抽象的でも、具体的でも、その中ではなんでも大丈夫なんだ。

そして、またある日のこと、先生はテストの答案を返していた。

僕の番が来ると、やっぱり、いつも平均点以下。

先生はいつも、渡す時に、頑張るようにと言った。

そして、全員配り終わると、いつものように1位だった人の名前を出す。

「今回もリアルくんが全科目1位でした。」

いつも通りで変わらない。リアルくんは凄い。

僕は心の中でそう思った。

そして、先生は決まって「みんなもリアルくんを見習って頑張りましょう」と。

時間が終わると、僕の方に友達がやってくる。

そうして、テストの話を少しすると、リアルくんの話が出てきた。

「リアルってなんか嫌なやつだよな。」

僕が「どうして?」と言うと、「見下されてるような感じするし、あいつが居ると先生があぁ言うんだ。」と彼は返した

「なるほど。」

「だから、あいつが居なければ、言われることなんてなかったと思うんだ。」

友達がそう言うと、向こうから、待ったをかけるような声に視線が釘付けに。

「君たち、リアルくんに嫉妬するなんてどういう了見なんだ。」

友達は彼を見て、「君はリアルの取り巻きの!」と言う。

「君は相変わらずのようだね。」

そう言って友達を一瞥すると、僕の前へとやって来た。

「まだ君は物語なんて言う、なんの役にもたたないものを作ってるのかい?」

「うん、とっても楽しいんだ」

「君のことは、前から目を付けていた。物語なんてものより、学校のテストの方が何倍も役に立つ。」

「カッロくん…」

僕がそう言うと「君の記憶力はいいと思った、物語なんかで終わらせておくのはもったいない」とカッロくんは言い残して、去っていく。

それに友達が駆け寄ってきて「カッロ、嫌なやつだよな」と。

「物語作りの否定するなんてよ。リアルのやつ、やっぱり許せないよ。」

「どうして?」

「カッロが物語に批判的なら、当然、リアルだって批判的だろう?」

「なるほど…」

僕は消えそうな声で頷く。

それから、僕は友達とわかれて、家に帰る最中、頭の中で物語を浮かべた。

もし…

家に帰る数人の男性達。寄り道をして、ゲームセンターにいかないか話し合っていた。

「今日は何する?」

「やっぱり…ペーパーテスト!」

1人のその発言に、いいねと肯定的なサインが投げかけられる。

そうして、みんなでペーパーテストで楽しんでいた。

自由に書き回って、苦しんだり、悩んだりする様子もなく、ただ純粋にテストに勤しむ姿。

何かに囚われることもなく、ただ、集中し、黙々と解いていく。

そうだ…テストは楽しいんだ…。

終わったあとも、不安になったり、悩んだりせず、出し切ったように清々しい表情をみんな浮かべている。

採点が終わっても、一喜一憂することは少ない。

ただ、この空間では、楽しいことをやっているだけなのだ。

僕の頭の中では、そんな風景が広がっている。

物語はいい。現実では、嫌なものとされているものも、肯定的に創り出すことができる。

僕の頭の中では、とても満足感が一杯に広がった。

そうしていると、ひとつ疑問が浮かぶ。

ところで、もし、僕の頭の中にあるこの世界が存在するならば、テストが悪者ではないことになる。

では、何が悪者なのか…?

義務になっていることが、テストの印象を下げているのか、はたまた、認知の広がりがそれをマイナスに変えたのか…?

分からないが、きっと他の何かが原因であることを信じたい。

そして…

僕の頭の中には、リアルくんのことが浮かんだ。彼は物語について、どう思っているのだろうか…?

──────

それぞれのはじまり①

ある日のこと、思想学部のみんなは放課後、すすむくんのクラスに集まった。

「みんな集まってくれてありがとう!」

すすむくんはそう言って、とても嬉しそうだ。

「何の用~?」

僕はすすむくんを見てそう言った。

「高校と言えば…」

「…と言えば?」

「部活動や、体育祭だ!」

すすむくんはそう言ってとても楽しそうにしている。

「まだ4月だよ~」

僕は少し呆れて言った。

「体育祭は6月だし、部活って…。一応認められてないけど、思想学部って部活だし…」

すると、すすむくんは「だからこそ、それにまじえてあそぼ…」と言いかける

「いいや、部活動をしようと思ったんだ!」

「なるほど…。スポーツの思想を作るってこと?」

「うん。」

すると、それに目をキラキラさせて、おとねさんが歩み寄ってきた。

「スポーツ!私はぬいぐるみ集めがやりたい!」

「ぬいぐるみ集め?」

僕が疑問にしていると、おとねさんはコクりと頷いた。

「去年の体育祭を聞いたの!沢山の人形さんを集めたクラスがその競技で優勝!」

「それで、優勝したクラスのみんな、好きな人形さんを1つ貰えるの!」

おとねさんはとても嬉しそうに言う。

「そうなんだ。今年もあったらいいね」

「うんっ!」おとねさんは元気に頷いた。

「みんな、ちょっと聞いて!」

のべつまくなしにすすむくんはそう言って、皆の視線を集めた。

「僕には構想があるんだ」

「それは…?」

「どんなスポーツにも共通する、僕のアイディア…。」

なんだか、凄そう…。僕は引き締める。

「それは…?」

「ゲームだよ!

これから説明する!」

僕は拍子抜けしてしまった。

おとねさんが頬をぷくーっと膨らませてすすむくんのまえに。

「どうしたの?おとねさん!」

そこから、おとねさんの様子を見に来たかなでさんもまじって、部活は収拾がつかない状況に。

今日は活動終わりかな。僕は時間を見て、そう呟いた。

ところで、あおのくんと、みちかさんはどうしているのだろうか?

さっきは2人とも、遠くから見ているだけで、何か口を出そうとする様子はなかった。

すると、みちかさんは、新しく来た顧問の先生の方へ行って、あおのくんはなんだか、考え事をしているようだ。

まだ、部活動終わりの時間にははやいから、ちょっと聞いてみようか。

僕はそう思うと、あおのくんの元へ。

「あおのくんどうしたの?」

「考え事をしてて。なんでもないよ。」

そう言って、クラスから抜けようとする。

僕はふと絵本の事を思い出して呼び止めた「あおのくん!」

「何か用?」

「うん!前に顧問の先生を見つけた時の絵本のことを聞きたいなと!」

それは、真ん中のうさぎという話を知りたいと言う、本心と反していた。

僕はそっとその気持ちをなだめる。

「あれか…」

彼は少し暗い表情になり、明るさを取り戻して言った。

「分かったよ。ここで話すのはなんだから人の居ないところで」

彼のその言葉に、なんだか、後ろめたい気持ちを感じた。

なんだろう?僕はそっとその思いを心にやどすと、何か袋を持った彼の後についていく。

──────

「あの…先生!」

みちかの声が、近くを見渡す限りがらんどうの廊下に響いた。

「君か。」

顧問の先生は彼女を見る

「あの…」

「前にお話したことを…」

「そうか…」

顧問の先生は頷くと、良かったら話して欲しいと言った。

─────

彼女の話はこう。

優しさについて悩んでいた時に、ある男に助けて貰った。

彼の話では、優しさとは、相手に深く関わらないこと。

相手のことを本当に思うのなら、その人を影で支えること、そこにこそ優しさがあるのだと。

──────

「そうか…。話ありがとう」

「もう、時間も遅い、そろそろ家に帰った方がいい」

時計を見て先生は言う。

「はい!ありがとうございます!」

そして思い出したように続ける「あと、私は先生じゃない。敗来って名前だ。」

「呼び捨てで構わないし、敬語じゃなくてもいい。」

そうして、敗来は、上を見て呟いた。

「私は今まで、敬語を使われる程のことをしてこなかったからな…」

「はいくさん、分かりました!」

みちかはそう言って笑った。

それを見て「まぁ、いいか」と敗来は呟くと手を振って帰っていく。

みちかはそれをそっと見送っていた─────

ところで、僕はあおのくんとともに、校舎裏に向かった。

「ここで何を話すの?」

僕が言うと彼は答える

「前の絵本の件さ」

「それにしてもここって。」

「誰にもバレたくなかったから。」

そうして、彼は袋から何かを取り出す。

そこにはノートがあった

───────

それぞれのはじまり②

「それは…?」

僕がそう言うと彼は答えた。

「これは絵本だよ。」

どうやって見ても、それは僕にはノートにしか見えなかった。

「僕は絵本を愛している人にしか見えない何かを見せられてるってこと?」

彼は「ごめん。」と言って、ノートを開く。

すると、そこには、猫とキツネの絵が書かれている。

「どういうこと?」

「これは僕が書いたんだ。」

ハテナで1杯だ。

そこから、彼は僕に沢山説明して聞かせて、ようやく理解した。

実はあの時、彼は自分の創った絵本で、方向性を決めたらしい。

それがあのノートに書いてあった猫とキツネの話。

キツネは目的を告げずに、将来の夢を語ってダメだった。

猫は目的などを言って将来の夢を語ったら良かった。

大体言うとそんな感じの話だ。

彼は「少し恥ずかしいけどね」と呟く。

「前にもう決まったって言うのはそういうことだったんだ…」

すると、「うん」と頷く。

「これからどうしようかなと思ってる。」

「部活辞めるの?」

「いいや、受験、就職の時期だから、いれる限りは思想学部に居ようと思ってるよ。」

僕は「ありがとう」と続けた。

「あれがはじめてだったんだ。」

ノートを天井に向けて大きく広げて、ペラペラと風でめくられていく。

「それは…特別だね。」

「自分の目標は終わってしまった。また目標もたてるのもいい。」

「だけど、僕はもしできることがあるのならば、できる限りで、思想学部の人達の補助をしたい。」

彼のその言葉に、ふとあの絵本のことが浮かんだ。

「それでいいの?」

「うん、これから先にまた少しずつ作っていくことにするから。」

「そう…」

少しの間があくと、また僕は切り出した。

「良ければ、気になっていた絵本があるから、それをまた見せて欲しいんだ。」

あおのくんはそれに嬉しそうに答える。

「絵本に興味を持ってもらったのなら、嬉しいよ。なんでも言って欲しい。」

「前に見たうさぎの話、気になってて。」

少し考えると、あおのくんは頷いた。

「なるほど、探してみるよ。」

「ありがとう。」

その日、あおのくんと僕はそのままクラスに戻ることなく家に帰った─────

一方その頃、明かりが差し込まない建物の中で、1人男が座って地面を見つめる。

「リーダー…リーダー…!」

誰かがそう呼ぶ声に、男はそっと顔をあげた。

「非低か、どうした?」

非低は彼の前へと立って言う。

「最近、厄介なやつと出会って。」

「どんなやつだ?」

「すすむってやつです。俺の否定を全て肯定しました。」

リーダーの男はそれにムッとした。

「否定は最強の思考法だ。これ以上に素晴らしい武器は存在しない。

たかが肯定などに負けるはずがない。」

「しかし…。リーダーの言葉も肯定してしまいましたよ」

「それは…?」

「夢について…

夢を与えるのが大人、それを壊すのも大人。」

「すすむと言う男は、そこに続く言葉として、そこからまた手を差し伸べるのも大人と言いました。」

「なるほど…面白い。」リーダーの男は頬に笑みを浮かべる。

「そのすすむの武器は、強い肯定か。なら、本当に強い否定の力を見せよう…」

「リーダー!」

非低は希望の眼差しで、彼を見る。

「すすむ、いつか会う時が楽しみだ」

─────────

すすむは、ようやく解放されて、「次は僕の番だ!」と言いました。

そうして、目を閉じて「これからスポーツに関係する思想を話す!」と。

「それは!」

「スポーツ用語を言った後、そのスポーツの開始、終了の合図、用語などを言うんだ」

すすむがそう言って、周りを見ると、シーンとした空気がつつむ。

「あれ?」

彼はそう言って近くを見ると、もうおとねしかその場には居なかった。

キョロキョロとするすすむの様子におとねは言う

「かなでちゃんはもう帰ったよ。」

「そうなんだ。僕達も、もう帰るかな。」

「待って…」

おとねはそう言い、すすむを止めた。

「どうしたの?」

「さっきの…

良かったらしたいな!」

すすむは彼女の言葉に嬉しくなる。

「おとねさん、ありがとう!」

おとねは笑顔で「うんっ!」と言った

「ところで、どんなことをするのっ?説明が難しくて分かんなかったよ…!」

「そうなんだ!じゃあ、例を挙げて説明する!

バント!と言ったら、野球の開始、プレイボールって言うの!」

すすむはそう言って自信満々だ。

「よくわかんないよ…。」

そこからすすむはおとねに、そのことについて沢山教えたのでした─────

すすむは家に帰って、ノートを開きます。

そして、今日のこと、未来への希望を連ねていきました──────

制限の力

僕はとても強大な力を持っている。

ある特定の時間、とても強い力を発揮できる。

その能力、それは…。

僕は学校に向かう途中、時間を気にしていた。

今日も時間を気にしながら、1日を過ごした。

僕の誕生日は6月20日、この日になるととても強い力を発揮できる。

しかも、それは、毎日のように強くなれる。

というのも、6時20分になったら、それを得られるのだ。

しかし、19分、21分だと力は出ない。

だからこそ、時間を気にする必要がある。

次の日の早朝、「ときくん今日もランニングですか?」と話しかける人がいた。

「はい。」

腕時計をチラチラ見ながらこたえた。

「毎日偉いですね。」

「ありがとうございます。」

そうしてわかれる。

毎日必ず6時過ぎに家を出て、ランニングする。

この時間に走っている理由、それは、6時20分になった時のためだ。

これに気付いた時、それは、小学校の頃だった。

当時、アニメにハマって、強い力を持った人が、多くの人たちを助ける姿を見て、自分と重ね合わせる。

僕の能力、それは、誰かを助けるためにあるんだと…。

そうしている内に、怪我をしている男性を見つけた。

僕はすぐさまその人に駆け寄る。

「大丈夫ですか?」

とても苦しそうなので、肩にのせて、時間を逐一確認しながら、20分になった瞬間、走り出した。

すると、とてもすごい勢いで、風が周りに吹き付ける。

─────

一分後、病院に到着する。

彼は少し驚いていたが、「ありがとう」と告げた。

僕の能力、これを毎日、何かに役立てるため、早朝のランニングをしている。

1分だけなため、できても、1つくらいだが、それでも、満たされた何かをいつも感じている。

──────

どこかでアニメが放送されていた。

そこでは、決まって、悪いものがいいものに倒される。

男はそれがどうしても許せなかった。

「何故、いつもこうなのか…。」

そうして考えた。

もし、それが許されるとするならば、俺の行動も許されるはずだ。

その日、男は決意する。

本当の悪というものを倒すことを。

───────

それは僕が家に帰っている時の事だった。

何事もない帰り道、これがとても素晴らしいことだ。と、夕方の空気にあたりながら思った。

すると、「助けてー」との声が聞こえてくる。

僕がすぐさまその声の元へ駆け寄ると、男の人が襲われていた。

毎日肌身離さず持っている腕時計を見ると、丁度6時20分に近いところ。

「何をしているんですか?」

僕はそう言って、2人を引き離す。

襲われていた男の人は沢山殴られたアザがあった。

「この人が急に襲いかかってきて…」

相手を指さして言った。

彼はなんだか悪びれる様子がなく男をにらみつける。

「そいつが悪いからいいんだよ。」

「何があったんですか?」

僕はその男に話しかけると、同時に、襲われていた人は逃げていった。

それを追おうと、加害者の男が走り出す。

その時、6時20分になり、彼の目の前に立って通すのを防いだ。

「何をする。」

「理由を聞かせて欲しいんだ。」

「お前は何もしていない。攻撃するなら、お前もあの男と同様に…」

「すればいいさ。」

僕がそういうと、男は殴りかかってきた。

それに避けることはせず、ただ、殴られる。

それに、なんとも微動だにしていない僕を見て、驚いていた。

「これで気が済んだか?」

それに呟く。

「あいつは、上司とかいうやつの愚痴をいったんだ。」

「うん。」

「俺は子供の頃からずっと、アニメについて、おかしさを感じていた。」

「どんなアニメにも、必ず悪人と善人が登場する。

善人というやつは、たとえ、悪いところがあってもそれを帳消しにするように正義のことをやっているからいいとなる。」

「そして、悪人には何をしてもいいかのように、いためつけるんだよ。どれだけ嘆いても、昔したあやまちによって、永遠に苦しみ続けなければならない。」

「おかしいだろう。」

「俺は正義だからこそ、相手をどうしてもいい。その考え方を、今、あの男で見せてやったんだ。」

「俺は何も悪いことはやっていない。

自分は正義だからこそ、悪と呼ばれるあいつを叩きのめした」

僕は言った。

「僕は、悪人は、どうしたっていいとは思わない。

誰かを傷付けない正義があってもいい。」

男はそれを聞いて「そうか…」と言ってすっかり日が落ちた街に消えていった。

暗闇が多く包んでいる世界、しかし、空には美しい星や、月がただ綺麗に光っている。

ときはそっとそれを見つめた────────

挽回

僕はいつものように学校へ行って、自分の席に座った。

その時に感じた違和感。

今日は特に部活で何かをする予定もないので、遅くならない程度の普通の時間でやってきた。

周りに居る人達も、部活なくはやく来る人がそれなりだ。

しかし、なんだか、様子がおかしい。

いいや、これは昨日も少し感じていた。

同級生の視線、先生からの視線、なんだか、苦しくなってくる。

すると、その中から誰かが話しかけてきた。

僕はその人を見て、頭の中にある名簿と照らし合わせた。

「かけるくん…?

どうしたの、僕に何か用?」

彼は「お前、あの思想学部に入ってるらしいな。」と。

「そうだよ。」

僕は少し暗く肯定した。

「思想学部って、お前もすすむってやつと同類なのか。」

心がズキッと傷んだ。

普通であることを目指していたが、それも叶わず、更にはすすむくんのことを悪く言われてる気がした。

まだ少ししか過ごしてないけど、彼はいい人だと思っている。

悪いところはあるけど…。

そうして、かけるくんがまた何かを言おうとした時、呼び出しが入った。

主はおとねさん。僕はすぐに彼女の元へ向かった。

かけるくんは僕の方を見えなくなるまで目で追う。

─────

「おとねさん、どうしたの?」

僕がそう言うと、彼女はたまったものを吐き出すように言う。

「今日の朝ね、おとねちゃんは変わった人だったんだねって言われたの…」

僕はすぐに察した。

昨日の朝から、放送のことで、うわさされていたんだ。

昨日ははじめての日だったから、大丈夫だったけど、昨日よりも思想学部について穿った見方が広まって、今に至るという訳か。

僕はそっと納得すると、悲しそうなおとねさんと一緒に、すすむくんが居る空きクラスに向かった。

途中、みちかさんが合流し、おとねさんを優しく背中をさすったり、慰めていた。

───────

「やぁ、集まったね」

すすむくんはそういって、朝にも関わらず元気だ。

ちなみに、僕の到着した時間は、普通であることを目標とし、余裕が結構あったので、部活の時間にさけるのだ。

ここから何を話し合うのか…。僕は少し身構える。

「これから、挽回しようと思う!思想学部は一気に人気ものの部活になるんだ!」

僕はそれにあきれてしまった。

「流石にそれは厳しいんじゃあ…?」

「大丈夫!もし、無理そうなら、進んでいく最中に変えていけばいい。

それに、今、僕はなんだか出来ると思うんだ」

彼は自信満々にそう言った。

「すごい自信…。」

「うん、悪い方向に見られていると、後はプラスにしかならないからいいと思うんだ。」

どこかで聞いた事のあるようなこと。彼は、相手のポジティブな考えを自分に取り入れていく。

そして、今を強く肯定しているんだ。僕はすすむくんのことをとても強いひとだなと改めて思った。

「それでこれから何するの?」

「決まっているさ!今度は学校中に張り紙貼りまくって、思想学部の凄さをアピールするんだ!」

すると、あおのくんからストップがはいる。

「やっぱり、こういうことは向き不向きがあるよ。他の人がどうするか考えた方がいいと思うんだ。」

そうして、考えていると、おとねさんが前に出てきた。

「私の考えを言いたいな!」

「いいよ!教えて!」あおのくんはおとねさんの方へ。

「お人形さんを配ったらどうかな!」

「なるほど…いいね。」

あおのくんは上を向いて、「なるほど…」と呟いた。

僕は「それよりも…」と前に出る。

「何か他にアイディアあるの?」

「うん。お人形もいいけど、お金かかっちゃうから。」

申し訳なさそうにおとねさんを見る。

「どんなものなの?」

おとねさんが興味を持っているのを感じると、言うのを再開した。

「僕は普通を目指している。だからこそ、思うことがあるんだ。」

「それは…?」

おとねさんは首をかしげる

「相手のことを知ること。僕は普通になるために、特にそれが必要だと思ってる。」

「なるほど…」

あおのくんはコクコクと頷いた。

「つまり、困っている人のことを知って、あった思想を考えるってこと?」

「そう!」

僕は考えていたことを分かってくれたようで、とても嬉しくなった。

「相手のことを知ること、大事だよね。僕はいいと思うんだ」

あおのくんは笑顔で言う。

おとねさんも「しずくちゃんみたいにならないと思うから、私もいいと思う!」と。

みちかさんは、変わらず遠くからそっと皆を見守り、微笑んでいる。

「よし、決まったな!」

すすむくんは周りの様子を見て出てきた。

「相手を知って、思想を作る。誰かの役に立ちながら、新しい考えを作り出せる。

とてもいいこと!」

そういって、変わらない元気な彼が居た。

僕はなんだかそれに今日も励まされる────────