はじまり
さぁ!この世界には多くの考え方がある。
それらは平等に正しく、平等に間違いでもある。
自分の大きなノートに、文字という大きな希望を彩ってみないかい。
僕はそうして、新しい何かを知り、何も無い道を前に進んでいる
───────
「思想学部って知ってる?」
「思想学部?
洗脳されるんじゃないの~。」
「何か怖いよね~!」
校内を歩く人はそう言って、募集の張り紙を通り過ぎていく。
僕は思想学部を作った男。しかし、作ったはいいものの、困ったことが起こった。
自分を含め、5人集めなければいけない。
だが、心に決まってることがある。
人を誘いまくるということだ。
そうすれば、すぐに集まるだろう。
自分の教室、そこへ向かい、部活募集をかけた。
僕は教壇に立って言った。
「今ここに、思想学部の人員募集をしたいと思う!」
周りの視線は彼に釘付けに。
「思想学部、それは新しい考えに昇華、花開かせる、無敵の発想。」
強く握りこぶしを作り、前へと突き出した。
「新しい世界へと歩みを進めよう。もし、入りたいと思ったものは、入部届を出してくれ。」
僕はそう言って、頬に自信満々の笑みを浮かべながら、自分の席へと戻る。
みんなは何事もなかったように自分のことへと。
─────
午後、部員を待っていると、日が沈んでしまった。
結局誰も来ない。
ようやく来たと思ったら先生。そして、僕のその様子に注意する。
「すすむくん、教室に居ないで家に帰りなさい」
僕は仕方ないと、学校を出て家に帰った。
道中、色々なことを考える。
これからどうこの状況を打開していくか。そして、僕と同じ思想を持つ同士達をどれだけ多く集められるか。
家に着くと、僕はノートを開いた。
そして、色々思いついたさっきの問題点解決法、沢山の思想を連ねていった。
今日はまた新しいことを沢山見つける。
僕は過去の自分のしかばねの上にのり、新しい未来へと進む
今までも、これからも。
僕はそれを書いて、ノートをとじた。
──────
普通
僕の名前は間、普通の人に憧れている。
世間一般で言われるそれになれれば満足。
それ以上に欲はない。
高校生活、僕のそれは、普通になる第一歩。
どうすればなれるのか、それは心の中で決まっている。
普通の友達を作り、皆がやってそうな部活へ入り、なるべく浮かないこと。
中学校の時、その真理に気付いて、ずっとそれを実践してきた。
だけど…
「間くん、良かったら、思想学部に入らない?」
進くん…。僕が想定していた高校生活では、こんな人は全くなかった。
彼と一緒に居れば、普通の生活を送れないことを約束される。
さて、どうやって断ろうか。
悩む僕を見て、彼は「また後で聞きに来るよ」と言って、他の人に募集をかけた。
僕はそっと落ち着くと、また考えはじめる。
これは逆に不味いのでは…?平常心を失った僕はそっと心を落ち着かせた。
後で来られたら、断りづらくなる。
そっと深呼吸した
逆にこれで、断る理由探しをじっくり考えられるようになった。
───────
そして、ここはある教室。
「おとね~!」
女の子の友達が座っている子に話しかける。
「かなでちゃん!」
「部活どうするの~?」
「決めてないよ!やっぱりかなでちゃんは吹奏楽部かな?」
「うん、そうするよー!」
「そうなんだ…」おとねは少し寂しそうにする。
「おとねはやっぱり、もう入らないの…?」
おとねは口をつぐむ。
「中学の頃、あんなことがあったもんね…。」
2人はしんみりする。
「でもっ!かなでちゃんと同じクラスになれて良かったな!」
おとねはそう言って、笑顔を取り繕う。
「私、人見知りしちゃうから、誰も知らなかったら、困っちゃってたよ~」
かなでは「そうだね。私もおとねと同じクラスになれて良かった。」と返す。
すると、その直後、「部活に入っていない人はいますか?」とすすむがそのクラスにあらわれる。
おとねは彼を見て、そのクラスから走って出ていった。
かなでは「あいつ…」とつぶやく。
彼の周りには、沢山の人が集まった。
「思想学部ってなんですか?」
1人そう言うと、「いい質問です!」と嬉しそうに話す
「思想学部、それは、全く未知の考えを発見するための部活!」
とてもニヤニヤとして、そう言う彼に、1人の女の子が近付いてきた。
「すすむ!おとねの前に来ないでって言ったよね。」
しかし、すすむは全く動じていない雰囲気をかもし、たたずんでいる。
「全く変わってないね…。あなたには相手のことを考える気持ちがないの?」
すると彼は「それについてなんだけど、人の気持ちってどうやって分かるの?」と。
かなでは怒って「もういい!おとねの前に二度と現れないでね」と言って、おとねの元へと行った。
──────
「おとね、大丈夫?」かなではそう言って、おとねの背中をさする。
「うん…。かなでちゃんありがとう。」
弱々しい声でおとねは言う。
「変わらなきゃいけないのにね…。」
「すすむのことは嫌いのままでいいんだよ。」
「ありがとう…」
───────
放課後、僕は1人で考えにふけっていた。
もう結論は出ていたので、いかに普通であるかについて、脳内で追求していた。
「間くん!」
その声はすすむくん。
ようやく来たか…。覚悟を決める。
「結局、思想学部に入る?」
ぺこりと頭を下げる「ごめん!僕は将棋部に入ろうと思うんだ!」
そして、頭を上げると、すすむくんは何か疑問に思っているようで、僕に聞いてきた。
「この学校、将棋部あったっけ?」
「あったはずだよ!」
僕がそう言って、調べると、将棋部はなかった。
「無かったね。思想学部に入る?」
僕はとてもあわてる。
「第2希望に、弟と同じ、理科部に入ろうと思ってたんだ!」
「理科部もなかったよ。」
しまった…
僕は心の中で思った。
普通を目指しながら、どの学校でも一般的にありそうな部活を選んできたつもりが、マイナーなものだったとは…。
これ以上は不味い…。
かと言って、スポーツ系は大の苦手。
「分かった!思想学部に入るよ!」
帰宅部と迷ったが、誰かに嫌われる状態は、普通とはかけ離れていると考えた。
仕方ない。僕の心の中で、とても苦渋の決断をした。
「間くん、ありがとう。」
彼はそう言い喜ぶ。
「いえいえ。ところで、思想学部って今何人集まってるの?」
「2人だよ。僕と間くんだけ」
「え!?」
こうして、普通とは言い難い日常が始まったのだった─────
それでもいい
集めるのは残り3人に。
そして、ふと僕は考えた「すすむくん、そういえば、なんで5人集めようと思ったの?」
「そうしないと、部として認められないからさ。」
「でも、部活にならなくても、何か使う必要ないよね。
だからそのままでもいいんじゃない?」
「ギクッ」
彼は慌てながら続ける。
「君の言うことには一理あるけど、思想学大会にでるためには資金が必要なんだ!」
「思想学大会?」
「僕のノートに書いてある全国規模の大会さ。毎回多くの参加者が色々な思想を持ち寄って、主張を繰り広げる」
「つまり、すすむくんの創作ね~」
すると彼は「確かに今はないけど、いつかは絶対できると思うんだ」と上を見上げた。
「君ってなんだか、いつも根拠ないのに自信あるよね…」
「まぁ、いいや。メンバー集めるの協力するよ。」
「そうか、間くんありがとう。」
───────
「まず、僕の調べによると、同学年でまだ部活に入ってないのは7人くらい。」
「おお!間くんすごい!」
「まぁね。」
そして、心の中で呟いた。
普通でいるためには、不安要素は全部省いておきたいからね。
「男子は3人、女子が4人だよ」
「その人たちあたってみようか。」
彼は男子の名前を全部聞いて、すぐに向かった。
だけど…
「思想学部~?誰がそんなの入るの?
てか、そんな物好き居ないよ」
「昨日もスルーしてたよね。
僕は勉強のため、時間を無駄に過ごしたくないんだ。」
と男子には全員断られてしまった。
しかも、僕にとっても心苦しい物言いが…。
「大丈夫だよ。」
すすむくんをなぐさめた。
しかし彼は
「ははは!まだ大丈夫だ」と元気そうだ。
だが、「怪しい宗教には入らないので…ごめんなさい。」や、「そんな場所にしずくを入れようとするなんて悲しい」と断られたり、泣いてしまう人まであらわれ、5人集める計画は途絶えてしまった。
しかし、彼は「まだ2人残っている!」と何故か変わらず元気。
「分かったよ、最後まで付き合うよ。」
残りの2人は期待値少ない。
おとねさんとみちかさん。おとねさんの方は、吹奏楽部に入っていたらしい。
だから、無理だろうと考えている。みちかさんは…
直後、名前を聞かれたので言うと、彼は少し悩んだ表情を浮かべた。
「よし!まずはみちかさんからだ!」
彼はそう言って走り出した。
すると、前からやってきた人にぶつかる。
「いたた…」
女の子の声。僕がそこへ向かうと、そこに居たのはおとねさんだった。
「彼女はすすむくんを見ると、すぐに立ち去ろうとする。」
「待って」
彼はそう言って彼女を止める。
すると、彼女は止まった。そして体を震わせている。
「僕の事が嫌いか?」
彼女は彼の方を見て「私はすすむくんのことが嫌い!」と言った。
「それでいい。そのままの気持ちで、思想学部に入ってくれないか?」
彼女は驚く「どうしてあなたはそんなことが言えるの…?」
「僕は未来に理想を信じるから。」
彼女はただ何も言わずにそこに居た。
すると、かなでがやってくる。
「すすむ!おとねに近付かないでって言ったよね」
おとねの前に守るように立つ。
「僕は思想学部に彼女を入れたいと考えている。」
「あなた…中学の頃、おとねに怪我をさせたの忘れたの?」
かなでは怒るように言う。
「覚えているさ。だからこそ、彼女が必要になる。」
「どういうこと…?」
「思想と言うのは、いつでも偏りがうまれるもの。だからこそ、否定的に見る立場が必要。
彼女はとてもそれに適している。」
「自分のことしか考えてないんだね…。」
すると、彼は言った。
「ピアノ、弾けなくなったんだろう。夢を僕に奪われたんだろう」
「どうして言うの…?」おとねは泣きそうになる。
「夢と言うのは終わらない。思想学とは、どんな夢だろうと叶えられると信じて疑わないもの。」
僕はすすむくんのそれにドキッとした。
「だから、僕はおとねさんを支え続ける。君は夢を否定しなくていいんだ。」
かなでは言う
「すすむはいつも何も根拠ない自信を持ってるよ…。信用ならない」
しかし、おとねは「分かった。思想学部に入るよ…」と。
かなでは困ってしまった。
「かなでちゃん、ごめんね…。私も変わりたいんだ…。」
「ううん。おとねがそう言うのなら、私は止められないよ。」
そして、かなではすすむの方へ向かった。
「おとねに何か嫌なことしたら、私が承知しないからね」
すすむくんは「うん、分かった」と軽く言う。
ただ見ていただけの僕は、先がおもいやられる…と思ったものの。
これからどうなるか少し楽しみでもあった。
─────────
優しい人
残ったみちかさんという人。
僕の調べでは、近寄り難い女性らしい。
なんでも、彼女はいつも誰にでも優しい。
だからこそ、逆に悪いことをしてしまえば申し訳ないと、人は気を遣い関わりにくいのだ。
くもり気のないそれは、太陽のようにまぶしく輝いていると言っていた。
僕自身も、同じ出身校の人に彼女のことを聞くくらいしか、近付く方法がなかった。
それくらいに誰も彼女と関わろうとしないし、話にも出ない。
相手を知ること…それが普通になるために必要だった。
だが、彼女のことはほとんど未知数で、すすむくんくらいどうなるか分からない。
「すすむくん、みちかさんは辞めておく?」
僕は頭の中で考えを巡らせた結果、その答えに至った。
「行こう!」
そう言って、すすむくんは急ぎ足で、彼女のクラスへ向かった。
その後ろをおとねさんが歩いてついていく。
「すすむくん待ってよ!」そう言って、僕も後をおった。
──────
「みちかさん!」すすむくんはそう言って、図々しく、クラスに入り近付いていく。
みちかさんはおっとりと「はい。」と微笑む。
彼は「思想学部に入って欲しいんだ!」と率直に言った
そんな言い方じゃあ、絶対断られる…。
僕はそう思いながら、おとねさんとクラスの入口から見ていた。
「いいですよ!入れてください」彼女はそう言い微笑む。
すすむくんはやったとその場で喜んだ。
「え!?」僕は思わず声に出した。
──────
こうして部活のメンバーは4人に。
僕はさっき、つっかかっていた疑問を彼女に聞いた。
「どうして、思想学部に入ったの?」
「それがみんなと上手く馴染めなくて…。誘ってくれたのが嬉しかったからかな!」
と微笑む。
「え!?意外…。」
すると「ありがとう」と絶やさない。
僕はその笑顔にやられてしまった。
ところで、部員は4人まで集まった。残りは1人。
しかし、同学年にもう誘えるヒトは居ない。
どうしたものか…
すすむくんにその事を話すと、「きっと大丈夫!」と笑っている。
その自信はどこからくるんだか…
そう思っていると、2人の声が聞こえてきた。
おとねさんとみちかさんだ。
「あの…!これからよろしくね!」
おとねさんは精一杯の声で言う。
「こちらこそ、よろしくね!」
みちかさんはにこやかな表情を崩さない。
おとねさんはそれに安心して笑顔を作った。
なんだこれは…。僕は片手で顔を覆う。
とても癒されるかかわり合いだ…。
いやいや、普通であるためには、この気持ちはいけない…
すると2人は会話を続けた。
「そういえば、思想学部って何をするのかな?」
「分かんないよ…誘われたのが嬉しくて入ったから」
僕はそれにハッとした。
2人がこっちをじーっと見ている。
これはすすむくんに言わなくては…。
僕はすぐに向かって聞いた
「ところで、思想学部って何するの?」
すると、満面の笑みで答える
「分かんない」
「僕達なんで集められたの!」
「冗談だよ~」
彼のそれにイラッときたが、僕は心の中で普通、普通と言い聞かせ、感情を必死に抑えた。
「一人一人、自分の思想を言って、それに向かって、色々考えを集めたり頑張ったりするんだ。」
「曖昧だね…。つまり、心の中の目標みたいな感じ?」
「まぁ、そんな感じ。思想はその時によって変えていいから。」
「分かった」
僕がそういうと、「じゃあ、早速、1人ずつ思想を言ってこうか」と彼は切り出す。
「もう!?5人集まってないのに!」
「うん、まぁ、いいんじゃないかな~。早速言ってくよ!」
彼はそう言って語り出す。
「僕はすごい何かになりたい」
思わず抽象的!と僕は心の中で叫んだ。
「じゃあ、僕が次に言うよ。
僕は普通になりたい」
すると、困った表情で、おとねさんも入ってくる。
「とりあえず、したいことを言えばいいんだよね…!」
僕は「そうみたいだよ」と言った
「え…っと…。私は新しい目標を作りたい!」
最後に、みちかさんが「優しくなりたいな!」と。
それに僕は少し意外だったが、その時は気に止めていなかった─────
「結局みんな思想というか、目標みたいになってるね。」ぼくは、アハハと笑いながら言う。
「最初はきっと、そんな感じでいいんだよ」
彼はそう言って、天井にある照明器具を見つめていた。
その様子を1歩引いたところで、みちかさんは微笑みながら見ていた─────
絵本
みんなで自分の思想を語ったその日の放課後、僕とすすむくんの元に、上の学年の人がやってきた。
「君が思想学部の部長さん?」男はそう言って、すすむくんに話しかける。
「うん、そうだよ。」
「僕も入れてくれないか!」
そう言いとても目を輝かせている。
「歓迎する!」
「ありがとう!僕の名前は青野だよ。3年生だから、短い間だけどよろしく!」
「僕はすすむで、こっちは間くん。これからよろしく。」
すすむくんはそう言い、彼の右肩を叩いた。
それから、思想学部のメンバーが集まる。
「5人集まった!
これで思想学部は部活として認められる!」
そう喜んだあと、最後に来た人に向かって言う。
「先生の元に行く前に、新しく来た青野くん、君の思想を聞かせて欲しいんだ!」
彼がそういうと、嬉しそうに1歩前に出た
「まず、僕は、思想という名前に惚れたんだ。なぜなら…!」
「絵本が好きだから!そう、僕の思想、それは卒業までに自分だけの思想を作ること」
僕の頭にはハテナが浮かんだ。
「絵本は関係ないのでは…?」
「そう思うだろう。」
青野くんはコホンと咳をつくと続けた。
「僕は生まれてまもない頃から今まで、ずっと絵本が好きなんだ。」
「最初は純粋に好きだったが、色々な見方ができたり、メッセージが込められてるものもある!」
「それらのおかげで、今まで好きでいられた!だから、これからは自分でそれをうみだしたいんだ!」
「そうなんだね!」僕はこくりと頷く。
「しかし、そのためにはまず思想が必要。思想学部、君たちを見つけて思った!一緒に居れば、きっと思想が見つかるって!」
すすむくんは「ありがとう」と笑顔になった。
これで、とりあえず、5人そろった。
あとは先生と、部活として認められるだけだ。
しかし、そんなに上手く行かず、先生はつかなかったのである。
その後、部活のみんなで悩んだ。
どうすれば先生がつくだろうかと。
すると最後に部活に入ってきた青野くんが、何やら得意気にしていた。
「きっと名前がいけないじゃない?」
僕はすすむくんに提案してみた。
「そうかな~。名前はこのままがいいよ。」
「一般的に考えると、危ない集団みたいだけどね…。」
そう小声で言うと、おとねさんが入ってくる。
「私も…名前考えたいな!可愛い名前!」
すすむくんは「名前変えるの確定なんだ。そのままにしようよ~。」と言う。
すると、おとねさんはぷくーっと頬を膨らませて、すすむくんをじーっとみつめる。
「ごめん、おとねさん。分かった。部活の名前変えよう。」
見渡すと、みちかさんはその様子をただ微笑みながら見守っていた。
すると、奥で溜まったものを全て出すかのように、青野くんが「みんな、僕の話を聞いて欲しい!」と。
癒し熊部と書かれたノートを持ったおとねさん。そして、すすむくん達みんなが、彼の方に目線を向けた。
「今から、ここから脱却するためのいい方法を教えたいんだ!」
「それは…?」
すすむくんが前に出ていく。
「絵本をつかって、この状況に相応しいものを選ぶ!」
「なるほど!それいいね!」すすむくんはとても元気に笑う。
おとねさんや、みちかさんも「私も読みたい」と出てくる。
苦渋の決断だったが、僕も顔をひきつらせながら、したい…と言った。
そして、青野くんが偶然何冊か、絵本を持ってきていたらしく、放課後ということで、みんなで手分けして読むことになった。
普通であることを目標としていた僕としては、絵本を読むことがどうしてもそう思えない。
更には、その場にいるみんなが真剣に絵本を読むさまを、普通の状況として捉えることができなかった。
僕は一体何をしているんだろう?
そして、心の中で決着をつけて、やむなく、絵本を手にとる。
題名は『真ん中のうさぎ』表紙には、仲の良さそうな、うさぎと猿が描かれていた。
橋の真ん中にうさぎが居た。
右側で橋を渡った先には、うさぎの大好きな食べ物がある。
そして、左側にはかけっこができそうな野原が広がっている。
僕はなんだかその話に心をうばわれた。
しかし、直後、先生の声が聞こえた。
外を見てみると、あたりは真っ暗になっている。下校の時間だ。
「今日はここまでだね。」青野くんはそう言って、みんなの絵本を回収して自分のリュックにしまう。
その後、みんなは解散し、次回にすることになった。
そして、僕はさっきの本を最初までしか読んでいなかったはずだった。
しかし、家に帰っても、あの絵本がずっと残り続ける。
続きが気になる。僕はその日、ずっとあの絵本のことを考えていたのだった──────