思想学部①

はじまり

さぁ!この世界には多くの考え方がある。

それらは平等に正しく、平等に間違いでもある。

自分の大きなノートに、文字という大きな希望を彩ってみないかい。

僕はそうして、新しい何かを知り、何も無い道を前に進んでいる

───────

「思想学部って知ってる?」

「思想学部?

洗脳されるんじゃないの~。」

「何か怖いよね~!」

校内を歩く人はそう言って、募集の張り紙を通り過ぎていく。

僕は思想学部を作った男。しかし、作ったはいいものの、困ったことが起こった。

自分を含め、5人集めなければいけない。

だが、心に決まってることがある。

人を誘いまくるということだ。

そうすれば、すぐに集まるだろう。

自分の教室、そこへ向かい、部活募集をかけた。

僕は教壇に立って言った。

「今ここに、思想学部の人員募集をしたいと思う!」

周りの視線は彼に釘付けに。

「思想学部、それは新しい考えに昇華、花開かせる、無敵の発想。」

強く握りこぶしを作り、前へと突き出した。

「新しい世界へと歩みを進めよう。もし、入りたいと思ったものは、入部届を出してくれ。」

僕はそう言って、頬に自信満々の笑みを浮かべながら、自分の席へと戻る。

みんなは何事もなかったように自分のことへと。

─────

午後、部員を待っていると、日が沈んでしまった。

結局誰も来ない。

ようやく来たと思ったら先生。そして、僕のその様子に注意する。

「すすむくん、教室に居ないで家に帰りなさい」

僕は仕方ないと、学校を出て家に帰った。

道中、色々なことを考える。

これからどうこの状況を打開していくか。そして、僕と同じ思想を持つ同士達をどれだけ多く集められるか。

家に着くと、僕はノートを開いた。

そして、色々思いついたさっきの問題点解決法、沢山の思想を連ねていった。

今日はまた新しいことを沢山見つける。

僕は過去の自分のしかばねの上にのり、新しい未来へと進む

今までも、これからも。

僕はそれを書いて、ノートをとじた。

──────

普通

僕の名前は間、普通の人に憧れている。

世間一般で言われるそれになれれば満足。

それ以上に欲はない。

高校生活、僕のそれは、普通になる第一歩。

どうすればなれるのか、それは心の中で決まっている。

普通の友達を作り、皆がやってそうな部活へ入り、なるべく浮かないこと。

中学校の時、その真理に気付いて、ずっとそれを実践してきた。

だけど…

「間くん、良かったら、思想学部に入らない?」

進くん…。僕が想定していた高校生活では、こんな人は全くなかった。

彼と一緒に居れば、普通の生活を送れないことを約束される。

さて、どうやって断ろうか。

悩む僕を見て、彼は「また後で聞きに来るよ」と言って、他の人に募集をかけた。

僕はそっと落ち着くと、また考えはじめる。

これは逆に不味いのでは…?平常心を失った僕はそっと心を落ち着かせた。

後で来られたら、断りづらくなる。

そっと深呼吸した

逆にこれで、断る理由探しをじっくり考えられるようになった。

───────

そして、ここはある教室。

「おとね~!」

女の子の友達が座っている子に話しかける。

「かなでちゃん!」

「部活どうするの~?」

「決めてないよ!やっぱりかなでちゃんは吹奏楽部かな?」

「うん、そうするよー!」

「そうなんだ…」おとねは少し寂しそうにする。

「おとねはやっぱり、もう入らないの…?」

おとねは口をつぐむ。

「中学の頃、あんなことがあったもんね…。」

2人はしんみりする。

「でもっ!かなでちゃんと同じクラスになれて良かったな!」

おとねはそう言って、笑顔を取り繕う。

「私、人見知りしちゃうから、誰も知らなかったら、困っちゃってたよ~」

かなでは「そうだね。私もおとねと同じクラスになれて良かった。」と返す。

すると、その直後、「部活に入っていない人はいますか?」とすすむがそのクラスにあらわれる。

おとねは彼を見て、そのクラスから走って出ていった。

かなでは「あいつ…」とつぶやく。

彼の周りには、沢山の人が集まった。

「思想学部ってなんですか?」

1人そう言うと、「いい質問です!」と嬉しそうに話す

「思想学部、それは、全く未知の考えを発見するための部活!」

とてもニヤニヤとして、そう言う彼に、1人の女の子が近付いてきた。

「すすむ!おとねの前に来ないでって言ったよね。」

しかし、すすむは全く動じていない雰囲気をかもし、たたずんでいる。

「全く変わってないね…。あなたには相手のことを考える気持ちがないの?」

すると彼は「それについてなんだけど、人の気持ちってどうやって分かるの?」と。

かなでは怒って「もういい!おとねの前に二度と現れないでね」と言って、おとねの元へと行った。

──────

「おとね、大丈夫?」かなではそう言って、おとねの背中をさする。

「うん…。かなでちゃんありがとう。」

弱々しい声でおとねは言う。

「変わらなきゃいけないのにね…。」

「すすむのことは嫌いのままでいいんだよ。」

「ありがとう…」

───────

放課後、僕は1人で考えにふけっていた。

もう結論は出ていたので、いかに普通であるかについて、脳内で追求していた。

「間くん!」

その声はすすむくん。

ようやく来たか…。覚悟を決める。

「結局、思想学部に入る?」

ぺこりと頭を下げる「ごめん!僕は将棋部に入ろうと思うんだ!」

そして、頭を上げると、すすむくんは何か疑問に思っているようで、僕に聞いてきた。

「この学校、将棋部あったっけ?」

「あったはずだよ!」

僕がそう言って、調べると、将棋部はなかった。

「無かったね。思想学部に入る?」

僕はとてもあわてる。

「第2希望に、弟と同じ、理科部に入ろうと思ってたんだ!」

「理科部もなかったよ。」

しまった…

僕は心の中で思った。

普通を目指しながら、どの学校でも一般的にありそうな部活を選んできたつもりが、マイナーなものだったとは…。

これ以上は不味い…。
かと言って、スポーツ系は大の苦手。

「分かった!思想学部に入るよ!」

帰宅部と迷ったが、誰かに嫌われる状態は、普通とはかけ離れていると考えた。

仕方ない。僕の心の中で、とても苦渋の決断をした。

「間くん、ありがとう。」

彼はそう言い喜ぶ。

「いえいえ。ところで、思想学部って今何人集まってるの?」

「2人だよ。僕と間くんだけ」

「え!?」

こうして、普通とは言い難い日常が始まったのだった─────

それでもいい

集めるのは残り3人に。

そして、ふと僕は考えた「すすむくん、そういえば、なんで5人集めようと思ったの?」

「そうしないと、部として認められないからさ。」

「でも、部活にならなくても、何か使う必要ないよね。

だからそのままでもいいんじゃない?」

「ギクッ」

彼は慌てながら続ける。

「君の言うことには一理あるけど、思想学大会にでるためには資金が必要なんだ!」

「思想学大会?」

「僕のノートに書いてある全国規模の大会さ。毎回多くの参加者が色々な思想を持ち寄って、主張を繰り広げる」

「つまり、すすむくんの創作ね~」

すると彼は「確かに今はないけど、いつかは絶対できると思うんだ」と上を見上げた。

「君ってなんだか、いつも根拠ないのに自信あるよね…」

「まぁ、いいや。メンバー集めるの協力するよ。」

「そうか、間くんありがとう。」

───────

「まず、僕の調べによると、同学年でまだ部活に入ってないのは7人くらい。」

「おお!間くんすごい!」

「まぁね。」

そして、心の中で呟いた。

普通でいるためには、不安要素は全部省いておきたいからね。

「男子は3人、女子が4人だよ」

「その人たちあたってみようか。」

彼は男子の名前を全部聞いて、すぐに向かった。

だけど…

「思想学部~?誰がそんなの入るの?

てか、そんな物好き居ないよ」

「昨日もスルーしてたよね。

僕は勉強のため、時間を無駄に過ごしたくないんだ。」

と男子には全員断られてしまった。

しかも、僕にとっても心苦しい物言いが…。

「大丈夫だよ。」

すすむくんをなぐさめた。

しかし彼は
「ははは!まだ大丈夫だ」と元気そうだ。

だが、「怪しい宗教には入らないので…ごめんなさい。」や、「そんな場所にしずくを入れようとするなんて悲しい」と断られたり、泣いてしまう人まであらわれ、5人集める計画は途絶えてしまった。

しかし、彼は「まだ2人残っている!」と何故か変わらず元気。

「分かったよ、最後まで付き合うよ。」

残りの2人は期待値少ない。

おとねさんとみちかさん。おとねさんの方は、吹奏楽部に入っていたらしい。

だから、無理だろうと考えている。みちかさんは…

直後、名前を聞かれたので言うと、彼は少し悩んだ表情を浮かべた。

「よし!まずはみちかさんからだ!」

彼はそう言って走り出した。

すると、前からやってきた人にぶつかる。

「いたた…」

女の子の声。僕がそこへ向かうと、そこに居たのはおとねさんだった。

「彼女はすすむくんを見ると、すぐに立ち去ろうとする。」

「待って」

彼はそう言って彼女を止める。

すると、彼女は止まった。そして体を震わせている。

「僕の事が嫌いか?」

彼女は彼の方を見て「私はすすむくんのことが嫌い!」と言った。

「それでいい。そのままの気持ちで、思想学部に入ってくれないか?」

彼女は驚く「どうしてあなたはそんなことが言えるの…?」

「僕は未来に理想を信じるから。」

彼女はただ何も言わずにそこに居た。

すると、かなでがやってくる。

「すすむ!おとねに近付かないでって言ったよね」

おとねの前に守るように立つ。

「僕は思想学部に彼女を入れたいと考えている。」

「あなた…中学の頃、おとねに怪我をさせたの忘れたの?」

かなでは怒るように言う。

「覚えているさ。だからこそ、彼女が必要になる。」

「どういうこと…?」

「思想と言うのは、いつでも偏りがうまれるもの。だからこそ、否定的に見る立場が必要。

彼女はとてもそれに適している。」

「自分のことしか考えてないんだね…。」

すると、彼は言った。

「ピアノ、弾けなくなったんだろう。夢を僕に奪われたんだろう」

「どうして言うの…?」おとねは泣きそうになる。

「夢と言うのは終わらない。思想学とは、どんな夢だろうと叶えられると信じて疑わないもの。」

僕はすすむくんのそれにドキッとした。

「だから、僕はおとねさんを支え続ける。君は夢を否定しなくていいんだ。」

かなでは言う

「すすむはいつも何も根拠ない自信を持ってるよ…。信用ならない」

しかし、おとねは「分かった。思想学部に入るよ…」と。

かなでは困ってしまった。

「かなでちゃん、ごめんね…。私も変わりたいんだ…。」

「ううん。おとねがそう言うのなら、私は止められないよ。」

そして、かなではすすむの方へ向かった。

「おとねに何か嫌なことしたら、私が承知しないからね」

すすむくんは「うん、分かった」と軽く言う。

ただ見ていただけの僕は、先がおもいやられる…と思ったものの。

これからどうなるか少し楽しみでもあった。

─────────

優しい人

残ったみちかさんという人。

僕の調べでは、近寄り難い女性らしい。

なんでも、彼女はいつも誰にでも優しい。

だからこそ、逆に悪いことをしてしまえば申し訳ないと、人は気を遣い関わりにくいのだ。

くもり気のないそれは、太陽のようにまぶしく輝いていると言っていた。

僕自身も、同じ出身校の人に彼女のことを聞くくらいしか、近付く方法がなかった。

それくらいに誰も彼女と関わろうとしないし、話にも出ない。

相手を知ること…それが普通になるために必要だった。

だが、彼女のことはほとんど未知数で、すすむくんくらいどうなるか分からない。

「すすむくん、みちかさんは辞めておく?」

僕は頭の中で考えを巡らせた結果、その答えに至った。

「行こう!」

そう言って、すすむくんは急ぎ足で、彼女のクラスへ向かった。

その後ろをおとねさんが歩いてついていく。

「すすむくん待ってよ!」そう言って、僕も後をおった。

──────

「みちかさん!」すすむくんはそう言って、図々しく、クラスに入り近付いていく。

みちかさんはおっとりと「はい。」と微笑む。

彼は「思想学部に入って欲しいんだ!」と率直に言った

そんな言い方じゃあ、絶対断られる…。

僕はそう思いながら、おとねさんとクラスの入口から見ていた。

「いいですよ!入れてください」彼女はそう言い微笑む。

すすむくんはやったとその場で喜んだ。

「え!?」僕は思わず声に出した。

──────

こうして部活のメンバーは4人に。

僕はさっき、つっかかっていた疑問を彼女に聞いた。

「どうして、思想学部に入ったの?」

「それがみんなと上手く馴染めなくて…。誘ってくれたのが嬉しかったからかな!」

と微笑む。

「え!?意外…。」

すると「ありがとう」と絶やさない。

僕はその笑顔にやられてしまった。

ところで、部員は4人まで集まった。残りは1人。

しかし、同学年にもう誘えるヒトは居ない。

どうしたものか…

すすむくんにその事を話すと、「きっと大丈夫!」と笑っている。

その自信はどこからくるんだか…

そう思っていると、2人の声が聞こえてきた。

おとねさんとみちかさんだ。

「あの…!これからよろしくね!」

おとねさんは精一杯の声で言う。

「こちらこそ、よろしくね!」

みちかさんはにこやかな表情を崩さない。

おとねさんはそれに安心して笑顔を作った。

なんだこれは…。僕は片手で顔を覆う。

とても癒されるかかわり合いだ…。

いやいや、普通であるためには、この気持ちはいけない…

すると2人は会話を続けた。

「そういえば、思想学部って何をするのかな?」

「分かんないよ…誘われたのが嬉しくて入ったから」

僕はそれにハッとした。

2人がこっちをじーっと見ている。

これはすすむくんに言わなくては…。

僕はすぐに向かって聞いた

「ところで、思想学部って何するの?」

すると、満面の笑みで答える

「分かんない」

「僕達なんで集められたの!」

「冗談だよ~」

彼のそれにイラッときたが、僕は心の中で普通、普通と言い聞かせ、感情を必死に抑えた。

「一人一人、自分の思想を言って、それに向かって、色々考えを集めたり頑張ったりするんだ。」

「曖昧だね…。つまり、心の中の目標みたいな感じ?」

「まぁ、そんな感じ。思想はその時によって変えていいから。」

「分かった」

僕がそういうと、「じゃあ、早速、1人ずつ思想を言ってこうか」と彼は切り出す。

「もう!?5人集まってないのに!」

「うん、まぁ、いいんじゃないかな~。早速言ってくよ!」

彼はそう言って語り出す。

「僕はすごい何かになりたい」

思わず抽象的!と僕は心の中で叫んだ。

「じゃあ、僕が次に言うよ。

僕は普通になりたい」

すると、困った表情で、おとねさんも入ってくる。

「とりあえず、したいことを言えばいいんだよね…!」

僕は「そうみたいだよ」と言った

「え…っと…。私は新しい目標を作りたい!」

最後に、みちかさんが「優しくなりたいな!」と。

それに僕は少し意外だったが、その時は気に止めていなかった─────

「結局みんな思想というか、目標みたいになってるね。」ぼくは、アハハと笑いながら言う。

「最初はきっと、そんな感じでいいんだよ」

彼はそう言って、天井にある照明器具を見つめていた。

その様子を1歩引いたところで、みちかさんは微笑みながら見ていた─────

絵本

みんなで自分の思想を語ったその日の放課後、僕とすすむくんの元に、上の学年の人がやってきた。

「君が思想学部の部長さん?」男はそう言って、すすむくんに話しかける。

「うん、そうだよ。」

「僕も入れてくれないか!」

そう言いとても目を輝かせている。

「歓迎する!」

「ありがとう!僕の名前は青野だよ。3年生だから、短い間だけどよろしく!」

「僕はすすむで、こっちは間くん。これからよろしく。」

すすむくんはそう言い、彼の右肩を叩いた。

それから、思想学部のメンバーが集まる。

「5人集まった!
これで思想学部は部活として認められる!」

そう喜んだあと、最後に来た人に向かって言う。

「先生の元に行く前に、新しく来た青野くん、君の思想を聞かせて欲しいんだ!」

彼がそういうと、嬉しそうに1歩前に出た

「まず、僕は、思想という名前に惚れたんだ。なぜなら…!」

「絵本が好きだから!そう、僕の思想、それは卒業までに自分だけの思想を作ること」

僕の頭にはハテナが浮かんだ。

「絵本は関係ないのでは…?」

「そう思うだろう。」

青野くんはコホンと咳をつくと続けた。

「僕は生まれてまもない頃から今まで、ずっと絵本が好きなんだ。」

「最初は純粋に好きだったが、色々な見方ができたり、メッセージが込められてるものもある!」

「それらのおかげで、今まで好きでいられた!だから、これからは自分でそれをうみだしたいんだ!」

「そうなんだね!」僕はこくりと頷く。

「しかし、そのためにはまず思想が必要。思想学部、君たちを見つけて思った!一緒に居れば、きっと思想が見つかるって!」

すすむくんは「ありがとう」と笑顔になった。

これで、とりあえず、5人そろった。

あとは先生と、部活として認められるだけだ。

しかし、そんなに上手く行かず、先生はつかなかったのである。

その後、部活のみんなで悩んだ。

どうすれば先生がつくだろうかと。

すると最後に部活に入ってきた青野くんが、何やら得意気にしていた。

「きっと名前がいけないじゃない?」

僕はすすむくんに提案してみた。

「そうかな~。名前はこのままがいいよ。」

「一般的に考えると、危ない集団みたいだけどね…。」

そう小声で言うと、おとねさんが入ってくる。

「私も…名前考えたいな!可愛い名前!」

すすむくんは「名前変えるの確定なんだ。そのままにしようよ~。」と言う。

すると、おとねさんはぷくーっと頬を膨らませて、すすむくんをじーっとみつめる。

「ごめん、おとねさん。分かった。部活の名前変えよう。」

見渡すと、みちかさんはその様子をただ微笑みながら見守っていた。

すると、奥で溜まったものを全て出すかのように、青野くんが「みんな、僕の話を聞いて欲しい!」と。

癒し熊部と書かれたノートを持ったおとねさん。そして、すすむくん達みんなが、彼の方に目線を向けた。

「今から、ここから脱却するためのいい方法を教えたいんだ!」

「それは…?」

すすむくんが前に出ていく。

「絵本をつかって、この状況に相応しいものを選ぶ!」

「なるほど!それいいね!」すすむくんはとても元気に笑う。

おとねさんや、みちかさんも「私も読みたい」と出てくる。

苦渋の決断だったが、僕も顔をひきつらせながら、したい…と言った。

そして、青野くんが偶然何冊か、絵本を持ってきていたらしく、放課後ということで、みんなで手分けして読むことになった。

普通であることを目標としていた僕としては、絵本を読むことがどうしてもそう思えない。

更には、その場にいるみんなが真剣に絵本を読むさまを、普通の状況として捉えることができなかった。

僕は一体何をしているんだろう?

そして、心の中で決着をつけて、やむなく、絵本を手にとる。

題名は『真ん中のうさぎ』表紙には、仲の良さそうな、うさぎと猿が描かれていた。

橋の真ん中にうさぎが居た。

右側で橋を渡った先には、うさぎの大好きな食べ物がある。

そして、左側にはかけっこができそうな野原が広がっている。

僕はなんだかその話に心をうばわれた。

しかし、直後、先生の声が聞こえた。

外を見てみると、あたりは真っ暗になっている。下校の時間だ。

「今日はここまでだね。」青野くんはそう言って、みんなの絵本を回収して自分のリュックにしまう。

その後、みんなは解散し、次回にすることになった。

そして、僕はさっきの本を最初までしか読んでいなかったはずだった。

しかし、家に帰っても、あの絵本がずっと残り続ける。

続きが気になる。僕はその日、ずっとあの絵本のことを考えていたのだった──────