思想学部⑮

完成

練習試合が終わってから少し経ったある日のこと。

いつものように部活へ行く。

すると、全員揃っていた。

泣いていたしずくさんは、もう元気そう。

笑顔でみちかさんと喋ってる。

僕はそれを見てホッとした。

あおのくんは、勉強に集中して取り組んでいた。

周りを見ていた僕に、すすむくんが話しかけてくる。

「あいだくん来た!」

「すすむくんこんにちは。」

「実は君に聞きたいことがあったんだ」

「なに?」

何かあったか…考えたが思いつかなかった。

「前の練習試合で思ったんだけど、自分の考えを言われてて、平気そうで凄かったなって。」

「それは、すすむくんもじゃないか。」

「僕はそういうのになれてるから。」

そうか…。すすむくんはしずくさんを見て…

僕は笑顔で言った。

「実は、僕には1つ考えがあって!」

「考え?」

「うん。今まで普通を考えてきて思ったんだ。」

すすむくんは頷く。

「傷つかないのは誰かって。」

「僕とか?」

「ううん。傷付く、傷つかないの立場にない第三者さ!」

「?」

「言われてる内容が的外れなら、苦しくない。

そのことから、僕は、昔の考えを持ち出した。」

「そうなんだ。」

「うん!でも、昔に真面目に考えてたこと…。苦しくないわけなかったけどね。」

「だから、僕にまわしたんだ。」

「そういうこと!」

「頑張ったんだ。ありがとう。」

僕は少し照れた。

「ところで、この事で、僕の思想は完成したんだ!」

「おぉ!おめでとう!良ければ聞きたい!」

そして、夢中になって話した。

前に家で弟に話を聞いた時のこと。

ホメオスタシスっていう言葉を聞いたんだ。

恒常性、暑い時に汗をかいて涼しくし、寒い時はシバリングなど。

それはつまり、寒い時に暑くし、暑い時には寒くするってことなんだ。

それを抽象化すると、一方に偏った時は、反対の要素を取り入れる、その逆もまた然り。

ずっと悩んでたことがこれで解決したんだ。

それは、困ってる人を助けること。

やりにくい事を、普通というのはおかしいことだと思っていたが、この考えなら、普通であることも頷ける。

困っているという偏った状態の人を、助けるというまた偏ったものをそこに加えることで、相手の人は普通の状態に戻る。

「僕はこれを中立主義と呼んでるよ」

僕はハッとした。

「ごめん、話しすぎた。」

「大丈夫。話してくれて嬉しかったよ。」

彼は嬉しそうに笑った。

「こちらこそ。聞いてくれてありがとう。」

「最初に話したのがすすむくんでよかった。練習試合の前の日に、考えてて思いついて、人に言うの不安だったから。」

「いえいえ。」

穏やかに言う。

「ところで、それってどんなことに使えるの?」

「えーっと!僕は人に関係することならどんな事でも使えると思ってるよ!」

「凄いね!例えば?」

「物語で言えば、正義の味方が居れば、悪役も必要みたいに!」

「僕は偏ったものにそのまた逆の偏ったものを入れるからこそ、人が好きだって感じるものができると思うんだ!」

それから、すすむくんと少し話していた。

しずくさんがその中に入ってくる。

「すすむくん!あいだくん!」

とても大きな笑顔で見つめる。

「今日は何をするの?」

すすむくんは「どうしようかな」と上を見た。

「また誰かの思想を…とかかな。」

しかし、ここに居るみんな、僕が叶ったことで全員が思想を達成していた。

すすむくんは少し暗いトーンで「夢が叶ったならいいこと」と言う。

僕はいつもより元気がないのでは…?と思った。

前はそっとしておけば…とも思ったが、最近考えてた思想的にはそれは反することになってる。

ここで、中立主義を使うんだ!

僕はそう思って、すすむくんに話しかけようと思ったが情報がない。

内容に困っていたが、前の練習試合の時を思い出す。

あの時、すすむくんは夢について聞いていた。

それだ!僕はすぐにすすむくんに話しかける

「すすむくん!聞きたいことがあるんだ!」

「どうしたの?」

「夢ってあるかな。」

「あるよ!みんなを幸せにすること」

「おぉ!そうなんだ!いい夢だね」

「ありがとう。」

しかし、すすむくんは相変わらず、どこか元気が無さそうだった。

これならきっと大丈夫だと思ったが、考えていること、求めていることが分からないんじゃどうしようもない…。

中立主義も、やっぱり、知ることができなかったら誰かを助けることはできないのか…。

その日は、宿題をするだけで部活が終わった

───────────

あの日のこと①

なえは笑顔で部長のそばにいった。

「部長!あの…」

「どうした?」

「前の練習試合のメモしてきました!」

ノートを部長の前に出す。

中を見てみると、ビッシリ書かれていた。

「ありがとう。いつも俺のために。」

「いえ…!部長あの時のことを覚えていますか…?」

「あの時、私は部長に救われました。」

──────

私はずっと、勉強以外は何も出来なかった。

だから、小学校の頃、家でも学校でもずっと机に向かい勉強する。

その姿に、そんなに勉強しなくても、いい点取れるだろうと悪く言ってくる男の子が居た。

そこから、私は悪口をいわれて生活するようになる。

その時はただひたすら辛くて悲しかった。

ある男の子が、言わなければ、こんな気持ちになることは無かったのに…。

私は憎くて心の中で恨んだ。

だけど、この日々は変わらなかった。

中学校になっても、勉強以外は何も出来ないことをいじられて毎日毎日。

そんなある日、部長に出会った。

それは帰り道のこと、「できないやつがいる」と2人の男の子が近付いてくる

そして「なんでそんなにできないの?確か、料理できないんだよね。それって女子としてどうなの?」とあざわらうように言った。

そんな時に、彼が颯爽と現れる

彼は私に悪く言って来る人たちに「できないことが多くて何が悪いんだ?」と言う。

「なんだお前!できないことが多いやつはダメなんだよ!」

「そんなやつには何言ってもいいんだ」

胸ぐらを掴んで殴ろうとする。

しかし彼は、恐れることはなく余裕の表情を見せた。

すると、その時、彼の後ろから、用心棒のような人達が現れる。

「この方はお偉いさんの子供だ。」

その言葉に怖くなったのか、2人は逃げていった。

私をみると、彼は何も言わず、その場を立ち去る。

次の日から、私はできないことでいじられなくなった。

あの人のおかげ…。永遠にこのままかと思った。

ありがとう…!

──────

「私はあの時、誓ったんです…。あなたのために頑張りたいって…」

「俺はそのために助けた訳じゃない。だから、そう思わなくていい。」

「いえ!私がそうしたいんです!」

「そうか。」

すると、その中に、うみが入ってくる。

「2人とも何を話してるんですか?」

笑顔で2人の顔をみる。

「こっちに来て!」

副部長はうみの手をひいて、その場を離れた。


「なえちゃんどうしたの?」

うみは、笑顔で、なえの目を見つめる。

「折角だから、あなたに教えようと思って!私の王子様のこと!」

「王子様って!なえちゃん可愛い!」

「うみちゃん…まぁいいや。」

───────

その事があってから、あの人のことを見ることはなかった。

でも、どうしても、また会いたかった。

あの人はまるで王子様のよう…。

私は、毎日少しずつ探してるうちに、ようやく彼を見つけた。

けれども、それは残念な形で。

彼は女子と一緒に居た。

彼女がいるの…?

そう思ったけど、その時は、考えるのを辞めようと思った。

過ごしている中思った。毎日が落ち着いてる。

私はそれにホッとした。

これもあの人のおかげ…。

私はいつの間にか、またあの人の事を考えていた。

そして…また彼のところをおとずれた。

彼が作った防・剣の会、そこでは、彼が1番前に立って語る。

その話を聞いて、私は思った。

彼はやっぱり、王子様なんだと…。

攻撃してくる嫌な人から、みんなを守ろうとしてる。

私は何度も会に参加した。

そして、段々、彼のそばに近付いていく。

女の子の姿も見えてきたけど…

しかし、過ごしていくうちに、恋人関係じゃないことが分かった。

幼なじみってだけで、そんな関係にない。

だけど、とても気にかけていた。

なんでかその理由が分からなかった。

それから、少し経ち、段々、彼との距離が縮まっていく。

会がある時は、毎回、参加した。彼と少しでも近付くために…。

それが功を奏した。

高校に入ると、幼なじみと違う学校に入ったらしくて、私は彼と2人になれた。

もう邪魔する人は居ない。

それから、副部長というとても近いポストについて、更にみらいみと呼ばれてる。

邪魔な人は1人居るけど。

私はあの人のことを思って…これからも…

────────

夢中になって話すなえを、うみはずっと笑顔で聞いていた。

「話しすぎちゃったね。ごめん。」

「ううん。

なえちゃんのそういう過去のこと、楽しそうに話すあなたを知れて嬉しいよ!」

うみはずっと笑顔を絶やさない。

「うみってそういうところあるよね。」

「えへへ。」

「ところでなえちゃん、部長さんとはこれからどうなりたいの?

恋人になりたいとか?」

なえはあわてる。

「そんな…私なんかが烏滸がましいよ…」

「でも、叶うことなら、できるだけ長くそばに居たい…。」

─────

これから

冬休みがあけた。

部活では、相変わらず、すすむくんの元気がなかった。

なにかしてあげたい…。

そう思えども、何もできない自分がいた。

無力だ…。

いつも助けて貰ってたのにごめん…。

すると、そんな僕に後ろから誰かがポンと背中をポンと押す。

振り返ってみると、そこにはあおのくんが居た。

「あおのくん!」

「すすむくんのことだよね。最近、ずっと元気なかった」

「うん…。もうどうしたらいいか分からない」

僕は下を向いた。

「彼のことは、僕に任せて欲しい!」

僕は顔をあげる。

「だけど…受験が…?」

「大丈夫だよ。困ってる時は、用事よりもそっちを優先させたいと思ってるから。

それに…。」

「それに?」

「年上だから、こんな時こそ、僕が彼を助けるんだよ」

僕は「ありがとう…!」と言って、あおのくんを見送った。


「すすむくん、こんにちは」

すすむが振り向くと、そこにはあおのがいた。

「あおのくん、こんにちは。」

「懐かしいね。僕が入りたいって言ったら入れてくれた。」

「それから、絵本のことも、勉強のことだって君に何度も助けられたよ。」

すすむは「こちらこそ、あおのくんに助けられてる。」と言う。

しかし、彼の顔はいつもより少し元気がなかった

「ところで、最近、何か困ったことはないかな?」

「困ったこと?ないけど…」

「けど?」

「最近、上手くいってるはずなんだけど…。やる気が出なくて」

「そうなんだ。」

「うん。少し前に自分のノートをみた。大分思い描いてたふうにはならなかったけど、結果的には叶ったんだ。」

あおのは頷く。

「だけど、全然それに喜べないんだ。これからどうしようって思って…。」

「前の練習試合が終わったら、何か変わるかもって思ったんだけど、何も。」

「そうか…。行き詰まってるんだね。」

あおのはそう言うと切り出した。

「一つだけ言いたいことがある。」

「僕はもうほとんどしないで、卒業することになる。

心配なところはあるけど、君なら、君たちなら大丈夫だと思ってるよ。」

彼は変わらず少し暗かった。

「今まで見てきたから、強くそう思うんだ。」

そう言って、すすむの肩をポンと叩く。

「これをあげるよ。」

そう言って、バックから絵本を1冊取り出した。

「これは、僕が絵本を好きになるきっかけになった絵本なんだ。お父さんがくれた。」

「大切な絵本?」

「確かに大切だけど、今の君の方がこの絵本を必要としてると思うんだ。」

すすむは「ありがとう。」と言ってその本を受け取る

───────

家に帰って、すすむは1人で、その絵本を読んだ。

タイトルは『空とうさぎ』。

そこには、数羽のうさぎが登場し、毎日楽しく同じことを繰り返して暮らしている。

そんな時、ふと、1羽のうさぎが思う。

生きている意味は何かと…?

考えて出した1つの結論が、美しいこの世界を見るためだった。

その後、みんなはお互いのためになることをし合っていつも通り暮らしていく。

そんな話。


すすむのお母さんと、お父さんが話し合っていた。

いつもよりもなんだか元気がない。お母さんは少し心配そうにしている。

お父さんは暗く言った。

「やっぱり、蛙の子は蛙だ。すすむも俺と同じでネガティブに育っていく。」

すると、お母さんはそれを聞いて「今は心配だけど、すすむくんはきっと大丈夫。」と。


すすむは思った。

僕はこれまでなんのために頑張ってきたんだろう?

なんであんなにも、目標をたてて…。

もしかしたら、それが終われば何か分かるかもしれないって思ってたのかもしれない。

だけど、思った通りではないが多くやり遂げて今、これを考えてる。

だけど、何も無かった。

ただ孤独が残った。大会を終えてもそれは変わらないのかもしれない。

そう思うと、頑張る意味が分からなくなった。

でも…さっきの『空とうさぎ』それを聞いて考えた。

自分の美しいとか、こんな時が楽しいとか、そんなふうに思ってることはなんなのか…?

すると、お母さんの笑顔が浮かぶ、そして、学校の生徒、先生、思想学部など出会ってきた人の笑顔がそこにあった。

そうだ…僕の夢は!

そして、ノートを開いて何かを書き始める。

夜のこと、すすむのお母さんが、すすむを見ると、元気を取り戻していた。

それを見て「良かった」と微笑んだ。

次の日、すすむはいつも通り、元気に思想学部で活動した

────────

条件

冬休みがあけた。

とても自由だったあの時間もいつの間にか過ぎた。

だが、夏休みあけの頃のような苦しみや、悩みはもうない。

冬休みの頃、あることを考えたからだ。

宿題などの合間に、休んだり散歩しながら物語を浮かべていた。

とても楽しい世界。なんて自由で素晴らしいんだろう。

そう思っていた。しかし、未来のことを考えると不安だ。

いつボロが出てしまうか分からない。

これまで長い期間、抑え込んできたが、あともう少しのところで…となってしまうかもしれない。

そう思うと怖かった。

しかし、そういえば、自分はいつから物語を好きになったのだろう?

すると、おじいちゃんの姿が浮かんできた。

おじいちゃんはいつも色々な言葉を教えてくれたり、旅をして集めた創作を僕に見せてくれた。

あれからだ…。ハマったのは。色々な世界に飛びまわる。

小さい子供心にそれは、とても楽しい世界。

僕は新しいものを求め続けた。

そして、いつの間にか、自分でもうみだそうと思っていた。

そこから今に至る…。

作ってもまだ、創作は見続けていたが、禁止が出てから、燃やされたり、捨てるように言われたりでもう1年近く見ていない。

あるのは僕の頭の中にある創作だけ。

日記はつけていたが、そこに自分の考えてる創作を書けないことがもどかしい。

宿題にうつれば、この創作とはしばしの間、おさらばしなければいけない。

いつの間にか、忘れてしまってる創作もあった。

うまれた1つの物語なのに、少し考えられていただけで消えてしまうのは悲しいことだ…。

僕はそうして悲しい気持ちになる。

こんな風に、いつも勉強に取りかかるのが怖かった。

すると、ふと、昔みた創作が浮かんできた。

それは、ある国の物語。

そのせかいでは、様々な言語があって、色々な国がある。

多くの言語は少しの違いはあれど、変わらない規則を持っていた。

しかし、ある国では、それとは異なった規則で並ぶ。

他の言語を学ぶとなると、とても苦労する。

それについて、義務化するかの話も出ていた。

子供の頃から、慣れ親しんでいれば、違う結果にもなるかもしれない。

しかし、本当にそれでいいのか…?

強く思った。

その国の学問では、多くが今までをおざなりにし、他の国に頼りきっているようにしか思えなかったのだ。

しかし、過去に、こんなあやまちをおかしたという。

自分の国の言語を他の国に子供の頃から教えさせていたと。

創作の中では、こんな言葉がある。自業自得と。

悪いことは自分にかえってくる。そんな言葉らしい。

しかし、子供に罪はない。

無理して覚える必要はなく、できる人、やりたい人に任せればいいじゃないか。

みんなが同じことをしても、結局、覚える価値が無くなってしまうことだってあるんだ。

つまり、僕は、無理して創作を辞めようとしない。

向いてないことはしない。

僕は自分の気持ちに正直であろうと思う。

できないことをするよりも、自分を偽るよりも、順応してみせる。

───────

学校がはじまってある時のことだった。

先生が僕の前にやってくる。

「最近は言わなくなったようだが、ルールはルールだ。守らなくてはいけない。」

そう言って、僕に条件を出した。

「留学するらしいな。だが、それには条件がある。」

「条件?」

その言葉に驚いた。4月になれば行けると思っていたから。

「次のテストで全部80点以上とること。それができなければ、私がかわりに行く。」

僕のテストの点、それは平均点に近かったり、80点にはおよばない。

だが、不思議と落ち着いていた。

「分かりました」

僕は真剣な顔で、先生の目を見る。

その様子に戸惑いながらも「自由に見れるあの場所で、創作にうつつをぬかすとも分からないからな。」

「もし、その点数が取れたら認めよう。」と言った。

「ありがとうございます。」

僕のすることは変わらない。創作は僕にとってたいせつなもの。

その時、沢山創作に触れていたあの頃の純粋な自分の姿が頭の中に浮かんでいた──────

自分との…?

休みの日、あてもなく散歩していていると、後ろから誰かの声がした。

「あいだくん、こんにちは!」

振り返ってみると、そこには、知らない女性が立っている。

しかし、どこかで聞いた事がある…。

「君は…?」

「私の事、忘れたんですか?」

微笑みを絶やさず、近付いてきた。

「ごめん。覚えてない…。」

すると、腰のあたりについていたマスクを顔の前に持ってきた。

「君はペルソナさん…?」

「正解です!」

マスクを元の場所に戻す。

「マスクをしてないところはじめてみた。」

それに…他の国の人じゃなさそう。

「言って無かったですから」

そう言ってにっこりした。

「ところで、今日は何しにきたの?」

「それなんですけど!今日は対戦しませんか?」

「対戦って、なんの?」

「もちろん、思想学部の!」

僕が驚いていると、「更に更に言ってませんでしたね。」

「私はリベラルシンク高校思想学部部員の羽に美しいと書いてはみ。はみ出しもののはみです!」

彼女は笑顔を絶やさない。

僕の心の中では、驚きと疑問の連続だった。確かに彼女は僕の学校では見たことない…。

じゃあ、どうして居たんだろう…?

それよりも…。

「対戦しよう!」

「ありがとうございます」

「最初はどちらが言いますか?」

「私でもいいですか?」

はみは微笑みながら言った。

「もちろん!」

「ありがとうございます!」

そして、始まった。

彼女はどんな思想を持っているんだろう?僕は少し気になっていた。

「私の思想…それは、普通です!」

「な…!?」
思わず声に出てしまう。

その様子を見て彼女は微笑んでいる。

「次はあいだくんの思想を聞かせてください」

少し沈黙がながれると「5分話さないと、負けになるみたいですよ」と言った

僕は言いずらそうに「僕も普通です」とだした

「わぁ!奇遇ですね。同じ!」

嬉しそうに微笑む。

先手必勝という言葉は、思想学部でも同じなのか…。

だけど、問題はここからだ。

僕は彼女の言葉を待った。

「私の思想を説明すると、出過ぎず、その反対にもならずの丁度いいところがいいなって!」

これは僕が、昔、彼女に言った思想…。

最初に出されたらもう言えない。つまり、今の思想を言うしかないってこと。

ずっととっておこうと思ってたが…仕方ない。

「僕の思想は、中立主義者。均衡主義とも呼んでいる。」

はみさんは「わー!その話聞いたことないです!とても気になります!」と相変わらず笑顔だった。

「それは、何かに偏った時、逆のものを取り入れることを言う。」

「例えばお腹がすいた時に、ご飯を食べて、お腹がすきすぎず、一杯になりすぎない中間を目指すみたいな。」

はみさんはこくこくと頷いた。「あの!もうひとつ例えをお願いできますか?」

「分かった。これがきっかけになったんだけど、困っている人がいる時、その人は偏ってる状態なんだ。」

「その問題を解決してあげることで、困っていない状態。つまり、中立的なものになる。」

「なるほど!分かりました!説明ありがとうございます」

ぺこりと礼をする。そして、言った。

「私の思想とは少し違いますね。」

僕は首を傾げる

「どんなところ?」

「例えば、普通を目指してるのに、あいださんが言ってたことなら誰でも出来そう!」

「確かに…。」

今まで僕は出過ぎてる人、その逆の人はよくなく、中間がいいと思ってきた。

しかし、僕の考えなら、ホメオスタシスのように関係なく誰でもできる。

普通を目指してるはずなのに、普通になれないような人も僕の今の思想では、普通になってしまう。

「ありがとう」

最初にそう言った。

「こちらこそ、お話ありがとうございます」

笑顔でかえす。

「誰でもできるからこそ、いいんだと思うんだ。」

「どういうことですか?」

「普通ってなんだろうって考えた時、目立った点がないってことが思いつく。」

「だけど、生まれつきの顔や見た目など、身体的特徴は中々変えられない。」

「確かにそうかもですね。」

「僕の思想なら、それに拘る必要は無い。誰でもできるんだ。」

「それこそ、普通なんじゃないかなって」

「おぉー!いい考えだと思います」

彼女は自分の手のひらをあわせて喜んだ。

「ありがとう」

それから少し沈黙がながれると、また彼女が切り出した

「私の思想!こういうことをするのがいいと思ってます!」

「統計を調べて、それに自分を近付けていく!そしたら、普通になれると思うんです」

やっぱり、僕の前に考えてたこと。

すぐに、統計は時間のうつりによって変わっていく。

更に、統計は山の数程あるから、それ全てを調べるのは無理だと浮かんだ。

しかし、自分の昔考えてたものを否定することはもちろん、肯定も恥ずかしくてできない。

何も言えずに居た。

僕は不利な状況にいる。

彼女は様子を見て「私の思想に何か質問とか何も無いですか?」と。

小さな声で「うん」と頷いた。

「では!あいださんの思想の話をお願いします」

そう言って笑顔で見つめる。

しかし、もう話せるネタは尽きていた。

負けを宣言するべきなのか…?

ダメもとで最後に考えた。

すると、さっきはみさんが言っていた僕の昔の思想が浮かぶ

何故、今の考えは、普通を目指した方がいいのだろうか…?

前は普通の人の方が、安全で暮らせるという理由があった。

しかし、それはもう前の考えで、今はその考えだけが先行している。

今は何なんだろう?

それはすぐ近くにあった。

「寒い時、寒いままにしておくと病気にかかったり、悪ければ亡くなってしまうかもしれない」

「それと同じように、偏ったものにつかりすぎると身を滅ぼす可能性がある。

だからこそ、中立を目指す。」

「それは、どんなに凄い地位に居ても、全く逆の立場でも同じこと。

逆にそこにあるからこそ、中立を目指す必要がある。」

僕は言い切ったと、「思想の話は終わりです」と伝える。

彼女を見ると「ありがとうございます」と微笑んだ。

これ以上話し合うと、僕が断然不利。しかし、アイディアを思いついたこともあり、もうくいはなかった。

彼女は微笑みながら「私の負けです。対戦してくれてありがとうございます」と。

「こちらこそ!」

助かったのか…?僕の頭には疑問が飛び交った。

「あの!聞きたいことがあるんですけど」

「はい!なんでしょう?」

「リベシン高校の人なのに、どうして、僕の学校で出し物を?」

「内緒です!」

「他にもあって!」

「はい!」

「今日、どうして、対戦を…?」

「さっきの質問もそうですが、もしかしたら、偵察に来たのかもですよ?」

彼女は僕の顔を見ると、笑顔で「内緒です」と言った。

結局、何もわからずじまいで彼女とわかれる。

「また会いましょう」

最後まで彼女は笑顔だった

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