思想学部⑭

楽しみの時間

夏休みが終わってから、長い時間経った。

もうそろそろで、冬休みが来る。

やっと、オアシスが…

そう思うくらいに、僕は追い詰められていた。

毎日のように考えていた、創作が、ボロを出さないためにほぼ考えられていない。

唯一、土曜日の夜が考えられる時間だ。

だけど、こうして、たまに訪れるこの時間を堪能することが、今の喜びでもある。

思えば、もうすぐで、この苦しみから解放される。

自由に野原を走り回れるのだ。

僕はその光景を想像すると、今日の話に入った。


皆さんは、マウントについてご存知だろうか?

マウントとは、相手より自分の方が優れていると見せたりする行為のこと。

動物にもそう言ったものがあります。

ところで、最近、僕が勉強に集中している時、マウントというものが沢山目の前に現れた。

そして、これは2つにわけられる。

大マウントと小マウントだ。

小マウントは大マウントには基本的に勝てない。

例えるなら、創始者と、その後で1番活躍している人物の偉大さ。

例えばあるスポーツを作った人がいる。それが流行れば、そのスポーツを作った人は偉大だ。

そして、その後に、その分野に於いて大きな活躍をする人が出てくる。

一番凄いとされる人は、多くの賞賛を浴びることだろう。

しかし、結局、作った人の偉大さには敵わない。

その人物は、小マウントしているに過ぎないからだ。

含まれる、含まれないの関係だと、数学や、国語は学問の小マウントである。

基本的に、大マウントと小マウントにわけられるのは、どちらか一方が含まれる関係の時。

ところで、難しいこと、簡単なことはどちらが大マウントであるだろうか?

これはほぼ決まってる。

基礎と応用。

どちらが大事か。

マニアックと一般的はどうか?

それは、簡単であり、一般的な方だ。

基本的に、簡単なものは、多くのことに関係しやすく、それが大マウントになる。

どれだけ難しいことをしても、使えなければそれに価値はない。

簡単である方が、多くのことに使えるのである。

学問は進めていけば、小マウントになっていく。

本当は一般的の方がいいはずが、小マウントに価値を見出しているのである。

しかし、本当にいいものとは、限られた少数の人にしかできないようなことではない。

多くの人にも分かったりできたりする、その大マウントこそがいいものだと考えている。

それは何か…!

創作だ。これは誰にもできて、多くのものの大マウントになる。

見つけていないだけで、これより上のマウントはあるかもしれないが、正しさも、間違いも受け入れてしまうその深さは、この世の全てを含んでしまう。

素晴らしい存在だ。

人を救い、逆に人を苦しめるものでもある。

全てがこの中にある。

僕はそこで考えるのを辞めた。

今日は少し、物語的ではなくなってしまったかもしれない。

僕はそのまま毛布に入った。

土曜日の眠れない時、僕はいつも創作している。

そうしていると、いつの間にか時間が2、3時間と経って、結局眠れないのだが、とても充実した楽しい時間をおくれる。

あの、初終島という場所。

そこでは何が待っているのだろうか…?

頭の中には、複数人の友達が居て、ひとつの創作について語っている。

そこでは、この物語面白い、このキャラが好きだと、会話がなされていた。

更には、相手も、その創作をしてて、自分にもそれを教えてくれるし、自分の創作も見てくれる。

いいところにいいと言って、特に拘っているところも、褒めてくれて。

どうしても悪いところはちゃんと指摘してくれる。

そんな友達が沢山そこには居た。

遠くから見える、鏡にうつった時の姿が、今とは違うとてもいきいきしたもので。

それを思うと、更に楽しみになった。

最近、留学するメンバーに選ばれる。

応募人数が少なく、容易いことだった。

その時、僕はとても嬉しかった。この時ながらも、子供のように喜ぶ。

どれだけ僕は待ちわびたことか…。

そうして時間を過ごしているうちに、夜は明けていた。

カーテンを開けると、夜の世界にとても強く月がそこに残っている。

あれが、有明の月というやつだろう。

今日もとても充実した、楽しい時間をおくれた。

土曜日にしかできない僕の特別な時間。

僕はその場で、そっと「ありがとう」と呟いた───────

心配

二人以外、誰も居ない教室に2人いた。

1人の方が、もう一方へ歩いてやってくる。

「部長、最近、何かありましたか?」

なえは部長の顔をじっと見つめて言った。

「特に何も無いが」

「覚えていますか…?あの時のことを…。」

部長はこくりと頷く。

「私はあれから、部長のことをいつも気にかけています…」

「なので、最近、部長がいつもと様子がおかしいのは分かります。」

なえは悲しそうに下を向く。

「もし、私でよければ話してください」

「ありがとう。実は…」


なえは驚いていた。

「あの人が…。違うと、中々会う機会がありませんよね…」

「最近は全くあっていないから。」

「だけど、彼が居るなら大丈夫だと思いますよ。」

「あぁ。そうだな。」

そのまま2人が話していると、あゆみがその教室に入ってきた。

部活では、そこにいるだけで、特に参加しない。

1人でもくもくと勉強に勤しむ。

副部長は彼女に近付いた。

「あゆみさん。いつも部活に来てくれてありがとう」

しかし、あゆみは何も言わず勉強していた。

すると、そこに、今度は羽美がやってくる。

そして、笑顔で、なえの方をみた。

「どうしたの?」

「意外だなーって思って!」

ハテナを浮かべていた。

「なえちゃん怒りっぽさそうだから!」

「あゆみさんのこと?私はひてい以外には優しいよ。

それに…。」

「それに?」

羽美は首を傾げる。

「あゆみさん、どこか似てるんだよね…」

少し俯いていると、顔をあげた。

「でも、彼に仇なすようなことがあれば、誰であろうと許さない。未頼三とか言われてるあなたでもね」

羽美は笑顔で言った

「それねー!私、入った覚えないんだ!

だから、その中にいれなくても大丈夫だよー」

「そう…。別にそれでもいいの。その言葉の本当の意味を知らないでしょうから。」

話していると、ひていもその場に集まって、部員が全員そろう。

「リーダー、今日も、練習するんですか?」

副部長が「あなたは学習しないね」と呟く。

それにひていが、眉間にしわをよせて彼女の方を。

「まぁ、いいだろう。」部長はそう言って頷いた。

「大会に向けて、模擬練習は変わらずする。」

すると、ひていは副部長を見た。

「今日は覚悟しろよ。完膚なきまでに否定して、俺が新しい副部長になってやる。」

「あなたにはむかないんじゃない?」

馬鹿にしたような態度に、ひていはイライラしている。

部長は続けて話す。

「これは防・剣の会のためでもある。手は抜かず真剣にすることだ。」

羽美は笑顔で「その会も私、入ってないなー」と呟いた

その中で、あゆみさんは変わらず、勉強に取り組む。

────────

あるところに、考自高校という学校があった。

ここは、リベラルシンク高校の兄弟校。

「リベシン高校の方々凄いですよね。」

がせは目を輝かせる。

「中々、人にはできない。そばでみてみたいものだ。」

けいしゃはそう言って頷いた。

「がいぶつさんはあの人と長く一緒に居たんですよね」

「あぁ。そうだ。防・剣の会で、沢山あの人の否定を見てきた。」

「さすが、部長さんだ!」

がせは嬉しそうに喜んだ。

「ところで、ずっと気になっていたが防・剣の会とは…?」

けいしゃは首をかしげる

「大人に抵抗するために作られたグループ。」

「そして、その2つの言葉は、否定による自己防衛と、鋭い剣のような攻撃を意味する」

がいぶつはフッと笑いながら「こんな感じだったかな」と言った。

「頼もしいです!」

「俺はこの中で深く関わっている。だから、今まで教えたことを実行すれば必ず勝てるはずだ。」

とても自信満々に言った。

えそとまやの目には彼が勇者のようにうつる。

「やっぱりこの人が部長になって正解だったよね。」

「うん、間違いなく!彼が居たらこの部活は安心だよ。」

がいぶつはそれを聞いて、鼻を高くした。

「任せろって。」

────────

副部長は部長に近付いた。

「そういえば、もうすぐであるらしいね。」

「あぁ。」

部長は頷く。

「あの学校大丈夫なの?確か、会のメンバーも少し通ってるらしいよね。」

「そうかもな。だが、どのくらいの実力なのかも分からない。」

「それはそうよね。」

「すすむの実力も分かってない。それを確かめる。

今はどの程度であるか。」

「私が見てくるよ。どちらも。」

「じゃあ、頼めるか。」

「もちろんです。部長!」

そう言って、副部長は部長の目をじっとみつめた

───────────

冬休みまで…

今日って何月何日だろう。

こんな時はツェラーの公式で…!って、使えないし、そもそも曜日じゃ無かったか。

すると、ふと浮かんでくる。

今日は12月だ…。

「え!?もう12月!」

春~夏頃は、色々あって、長く感じてた気がするが、最近は経つのがはやい。

もうすぐで冬休み。全く関係ないことだが、ジャネの法則が本当に思えてくる。

まぁ、いいか。

僕はそう思うと、いつものように学校へ向かった

───────

朝の部活動がはじまる。

その前に、先生が皆を集めて言った。

「夏休みの時のように、冬休みには練習試合がある。」

「相手の学校は考自高校。」

前に聞いてたから、驚きは少なかった。

しかし、その学校がどこなのか知らない。

すすむくんに聞こうと思ったら、なんだか、いつもと様子が変だ。

僕は聞けずにいた。

みちかさんに聞いた話だと、授業中も、ずっとどこか元気がなかったと。

何があったんだろうか…?

そう思いつつも、話しかけにくかった。

困ってる時、助けるのも普通だったはず。

だけど、困ってる時にも種類がある。

1人で考えたい時に、困ってるかとたずねられても更に困らせるだけ。

今は、そっとしておくのがいいだろう。僕の思う1つの優しさの形。

それに練習試合もあることだし、自分のことをしなければ…。

─────

「生徒会長!」

獅王はその声に驚いていた。

「庭野さん。なんの用ですか?」

「同じクラスのすすむくんが元気ないみたいで。」

「思想学部の彼か。でも、どうして君が?」

「すいぞうくんがずっときにしてましたし、生徒会長も一時期。気になりますよ。」

「なるほど。では、少し時間をとって、彼の元に行ってみることにするよ。」

「そこまでしなくても。彼は助けを求めてませんでした。」

「しかし、君は気になったんだろう?」

「はい。」

庭野は頷く。

「僕は生徒会長になった。だからこそ、出来ることがあるのならそれを実行する。」

庭野は心配そうな顔をした。

「もし、なにもできないようならすぐ引き返してくる。

大丈夫だ。」

安心したようにそのまま生徒会長を見送った。

──────

すすむは1人、教室で、窓の外を見つめる。

空には何も無く、心もまたそれと同様になにもなかった。

「思想学部の部長さん」

すすむが振り返ると、そこには、生徒会長が居た。

しかし、反応はうすい。

「最近、騒がしくなくなったね。まぁ、君も色々あるのだろう。」

「来年は大会があって。」

声に力がなかった。

「そうみたいだね。生徒会で、詳しい人に聞いたよ。」

「でも…」

すすむは下を向く。

「何かあったのか?」

「最近、理由は分からないけど、元気が出なくなって…。」

「そんな時もあるだろう。」

「そうなのかな…。」

「僕はね、少し君に期待してた。この学校をよりよくするため、何をするのか。」

「しかし、君は、その逆だった。」

すすむは獅王を見る。

「今は部活を頑張ってるんだね。それもいい。」

そう言って笑った。

「ありがとう。」

獅王は頷く。

「僕はどうしても君の思っていること、それに寄り添えない。」

「だからこそ、これだけは言おう。君は今、君がするべきことをすること。」

「僕は変わらず、心の片隅で、君の今後に期待しているよ。」

獅王はそのまま去っていった。

その様子をずっと、じーっと見つめる影があった。

すすむも、教室から出ようとすると、そこには女の子が。

「君は…?」

「クラスメイトの顔を忘れたの?私の名前は庭野協歌。一応、生徒会の1人です。」

「そうなんだ。教えてくれてありがとう。」

「どういたしまして。」

「ところで、どうしてここに?」

「生徒会長のことが気になってね。なんであなたのことを気にするのかって。」

「分からない。」

「でしょうね。」

少し沈黙が流れ、きょうかは切り出した。

「運動会の後、そして今もだけど、困ってるなら私を頼りなさい。」

「クラスメイトなんだし。私の事よく知らなかったなら仕方ないけど…」

「ここの生徒が求めるなら、私はできるだけそれに答えます。」

すすむは少し元気に「ありがとう!」と。

きょうかは「そう」と言って微笑んで、「またね」と帰っていった。

残されたすすむは考えた。

どんなことがあれ、練習試合がある。

それが過ぎれば、また何か新しくこの気持ちも変わるかもしれない。

そっとしまうことにした

家に帰ったあと、いつものようにノートをつけて、その後振り返った。

そこには、色々に未来に対しての希望が綴られている

────────

練習試合①

それから、冬休みにはいり、練習試合の日がやってきた。

2回目ではあるが、今回は、大会を見据えたそれになるだろう。

しかし、心の中に少し思うことがあった。

それは、人数的な問題と、相手の情報が全くないこと。

つまり、どうなるか全然予想がつかないという事だ。

思想学部の皆で考自高校に到着する。

他の学校はいつ来ても、新鮮な気持ちになった。

もし、違う学校の生徒だったら、全宝高校に行った時、こんな気持ちになるのだろうか…?

その時の僕はとても落ち着いていた。

───────

そして、この学校の思想学部と僕らが一堂に会する。

これからはじまる…。緊張で一杯だった。

すると、向こうの思想学部が何やらこちらを見て話している。

「あの人達、弱そう。」

「しかも、4人だってよ。これは楽勝だな。」

クスクスと笑った。

「顧問も居ないみたいだし、見捨てられてんじゃね?」

耳が痛いことを沢山言ってくる。

すると、向こうの顧問の先生が、コホンと咳払いした。

これからルール説明がはじまる。

まだ詳しいことは知らなかったからありがたい。

重要なことはこれだ。

まず、5人と5人で行い、1VS1で対戦していく。

その中で、自分の思想や、考えなどをお互い主張しあう。

そして、どちらかが負けを認めると、相手の勝ちになる。

先に3勝した学校の勝利。

だが、他にも、細かいルールがあり、どちらかが5人達していない場合は、勝ち抜き戦になる。

その場合は最後まで残っていた学校の勝利。

それを聞いて、少し安心した。勝ちを目指すなら、僕達の思想学部は不利になる。

みちかさんは優しいし、しずくさんはよく泣いてしまう…。

なので、3勝は厳しいと思っていた。

ところで、ルールはまだそれだけではなく、負けにもいくつか種類がある。

同じ学校の人が負けを宣告すること、一方が、何も言わず5分以上が経過すること。

それも負けになる。

ルール説明が終わって、対戦することに。

最初はしずくさんが行くことになった。

今日はなんだか、やる気が1杯だ。

「頑張る!」

そう言って、対戦相手の元へ向かう。

相手は柏野真矢さんという女性。

僕はじっと見守った。

まやさんは「あなたが相手?弱そう」と笑う。

はじまってないのに、しずくさんは今にも泣きそうだ。

相手の参加しない審判がはじまりをつげる。

ちなみに、ホームタウンディシジョンになりそうだ。

しかし、審判ははじまりを告げること、最後の方の判定だけなので、特に干渉することはできない。

僕は頭の中でホッとしていると、対戦は終わっていた。

しずくさんが泣いて続行不可能となったのだ。

みちかさんが傍によって、優しく背中をさわる。

相手の方を見ると、「私、すごい強くなってる。部長が教えてくれたおかげかも」と言っていた。

彼女が悲しんでいるのに、対戦とは皮肉なことだ…。

僕はみちかさんに「対戦には出なくていいから、しずくさんのそばにいてあげて欲しい」と話す。

すると、みちかさんが「だけど…対戦人数少ないのでしょう…?」と僕の目をみつめた。

「後のことは僕とすすむくんに任せて欲しい。」

すすむくんの方を見て「それでいいでしょ?」と笑う。

彼は元気に「うん!」と言った。

僕はそれを見てホッとした。

今日は朝からずっと、いつもの元気な彼でいる。

そっとしておいて良かったのかも。

僕は気持ちを切り替えた。

「まや、つぎは俺にやらせてくれ!」

「分かったよ、がせ。私はもう満足したから後は任せるね。」

とても自信満々にがせが出てきた。

彼は何か言っているようだったが、僕の耳には何も入ってこない。

僕はこの対戦に自信がある。


そして、対戦がはじまった。

「あいだだっけ?君から先に思想言って。」

僕は言われるがまま「僕の思想は普通であること」と。

「つまらない思想だな。俺はその逆が俺の思想だ。」

少しズキっときた。

僕は心の中で落ち着かせて、その説明をする。

「これは、今まで生きてきて思ったこと。なるべく気楽に生きるためには、自分が普通になるのが必要なんだ。」

「楽に生きる?くだらない考えだ。」

そう言って笑った。

そして、沢山の否定を受ける。

僕の番が回ってきて、懲りずにただひたすら説明した。

────────

「こいつ、なんでこんなに否定されてんのに…。」

がせは疲れの色をみせはじめる。

弱音を言った。だけど、まだその時じゃない…。

僕は落ち着かせて、また説明をはじめる。

「分かった…!もういい。俺の負けだ。」

僕は心の中でやった…と思った。

考えてた作戦が幸をそうしたんだ。

しかし、全く何もなかったはずもなく、終わったあとにそれはおそってきた。

僕はすすむくんに「ごめん…。後のこと任せてもいいかな?」と言う。

すると、「任せてよ!」と笑う。

相変わらずすすむくんだ。

その元気な笑顔を見て安心した───────

練習試合②

考自高校の思想学部は驚いていた。

「あんなにメンタルが強いやつが居るなんて…」

けいしゃがそう呟くと、がいぶつが笑う。

「たとえそうでも、さっきみたいに15分以上続けば疲れる。

けいしゃとえそが居れば勝てるだろ。」

けいしゃが「ですよね!流石部長!」と褒めた。

がいぶつはそれに高笑いする。

次は二瀬形者とすすむ。

けいしゃは接触する。

「あとは君だけだ。どれだけ粘っても、後ろの2人に負ける。」

すると、すすむは言った。

「僕は勝つ。」

けいしゃはムッとした。


そして対戦がはじまる。

「君の考えを先に言っていい」

さっきのがせって人と同じような戦法でいくようだ。

しかし、すすむくんは「僕は君のことを肯定する。」とだけ言った。

「どういうことだ?」

彼は「これから分かるよ。」と話す。

そして、「君の夢は?」とたずねた。

「俺の夢は有名人とか、凄い人と仲良くなること。」

「いい夢じゃないか。」

すすむくんがそう言った時、けいしゃは言葉を失った。

そのまますすむくんの勝ちになる。

「何があった?」

がいぶつはけいしゃにたずねる。

「向こうの部長が言葉を発した後、否定が全く浮かばなくなって。」

「なるほど。あいつらの武器は肯定か。」

「おお!」部員達から、賞賛の声があがった。

4試合目は得曽という女の子と。

えそははじまった瞬間「私の夢はアイドルになること。」と言った。

「いい夢だと思う。」

すすむくんの言ったことは変わらなかった。

しかし、彼女はなんだか怒っている。

「嘘。あなたもみんなと同じように嘘をつくんだ。」


がいぶつは言った。

「えそさんは昔、周りの意見からなれると言われて実際に応募したことがある。だが、全然駄目だったらしい。」

「その彼女に肯定しても、逆撫でしてるに過ぎないのだ」

がいぶつは笑って勝利を確信した。

すすむは口を開く。

「夢を見ることはいいことだ」


がいぶつは「何を言っても無駄だ」とつぶやく。

思った通り、えそさんは、強烈に批判した。


これ以上話しても、彼女のことを傷付けるだけ。

がいぶつはすすむを見ると、その様子に笑みが消えた。

全く動じていないようだ。

「どんなことがあっても僕は君の夢を肯定する」

すすむはどんなに否定されても肯定でかえす。

どれだけ言われても折れない。そればかりか相手に対する肯定が強くなる。

がいぶつはその様子が不思議でならなかった。


その時、昔のことが浮かぶ。

中学生の時、会の名前を聞いた。

あの頃は、おかしな名前だと思っていたが、その後に無理という会のリーダーの話を聞いてどこか惹かれた。

俺は数度、そこに参加する。

それから、高校に入った。

創設者が同じ兄弟校だったため、リベシンとよく関わる。

そこには例のリーダーが居た。

なんでも、テレビに出たことがあり、注目している人もいるらしい。

俺は思想学部が作られる前の、彼らの話に入った。

自分は会に入ってる。あの人の傍にいた事があると。

すると彼らは、俺の事を褒めたたえた。

最高の気分だった。

思想学部ができてからは、俺は見てきた否定について教えて、この位を維持する。

ずっとこのまま…。

丁度その時、対戦が終わった。

すすむの強い肯定に負けを言った。

しかし、がいぶつの心に焦りはない。

ここで勝てば、俺は更なるヒーローだ。

2戦したことの疲労と、もうひとつの武器が俺の勝利を確信させる。

栄枯盛衰はさせない。永遠に栄え続けるのだ。

がいぶつがすすむの前に向かう途中、外野に目が入った。

練習試合見学に来た人。

しかし、どこかで…?

会のことが浮かんできた。

そうだ…あれは、リーダーの男のそばに居た。

がいぶつは笑いが込み上げてくる。

ここでいいところを見せれば、更に近づけ、みらいみとか言うやつに…。

俺はまだ満足はしない。鶏口牛後ではな。

すすむとがいぶつの目があう。

外から「がいぶつ部長なら大丈夫だ。」「絶対に勝てる!」と声があがる。

そして、最後の試合がはじまった────────

先に話したのはがいぶつ。

「ぜんほうの部長さん。始める前に言っておこう。

君を見てきて分かったことがあるんだ。」

すすむは首をかしげる

「君は肯定が武器で理想主義者だということ。」

「そして…」

がいぶつはにやりと笑った

「俺は否定を使う現実主義者。全く正反対のものがあたるとき、決定的な武器を持ってる方が勝つ。」

「決定的な武器?」

「あぁ。俺は否定を武器に使えるが、君は肯定を武器として使えない。」

心の中で、だから俺の勝ちになるんだよと言った。

がいぶつは「はじめようか」と笑う。

「うん。僕から…」

すすむが言おうとした時「分かってるから言わなくていい。俺が言う」とさえぎる。

「分かった。」

「俺は肯定が使えない道具って思想を持っている。」

がいぶつはどうだ。と笑いながら、すすむを見る。

しかし、思ったより落ち着いていた。

「俺の思想を君はどう思う?」

肯定を封じた。この男は否定することしかできない。

しかし、それは思想に反する。

がいぶつは、すすむの様子に面をくらっていたが、自分の考えの絶対的自信から、勝利は揺るがないものだと思った。

だが…

「いいと思う」

その一言に焦りがうまれる。

「どうして?何故、肯定できる。

全く反対の思想なんだぞ。」

「その人が居ることで、もしかしたら新しいことを知れるかもしれない」

がいぶつの中で、何かが壊れる

「お前は何者なんだ」

すすむは笑みを浮かべた。

「君は僕を理想主義者って言ってたね。

理想主義は理想主義でも、僕は…それを超越した夢想主義者だ!」

がいぶつの心には負けがはっきりしたこと、そして、失ってしまう恐怖が浮かんだ。

そんなのいやだ。

そこから、がいぶつは理性を失って否定を繰り返した。

5分が経って、審判の人が、がいぶつの負けを告げる。

細かいルールの中にもうひとつあった。

5分が経っても、相手が一方的にはなし、こちらが話すことを阻害した場合、それは相手の負けになる。

負けを宣言されたがいぶつは周りをみた。

すると、前の尊敬の眼差しはなく、冷たいものだった。

権威失墜…。

見学に来ていた会の人の方を向くと、そこにはもう居なかった。

─────────

最後まで見たけど、結局、得られることはなかった。

でも、すすむって人…。

副部長はそっと空を見上げた。