世界の全て①

イデア

万物の根源は知識だ…。

僕がその考えに至ったのは、全てのことに法則性や意味があるそれを知ってからだった。

古代ギリシャでは、この万物の根源について色々な議論が交わされた。

水からうまれたもの、火からうまれたもの、数からうまれたものと様々ある。

しかし、その議論はもうする必要が無くなった。

原子という、とても小さな粒子がそれらを否定したからだ。

しかし、まだだ…未知の、とても深いところは、多くの可能性を秘めている──────


あれは、私がとても幼い時だった。

よく叔父の家にいった。そこで、沢山のことをおしえてもらう。

ものや、生き物の名前は人が付けてること、この世界には法則性があること。

古代に発見された法則からどんどんと発展していき、現在があると。

もう殆どのことが解明されて、もう発見はないと思われるだろう。

しかし、叔父は決まって、「既知は有限、未知は無限。」

と言いいつも遠くの方を見つめていた。

その時、私は叔父の目にキラリと輝く星を見た気がした。

───────

それから何日も経ち、私は色々な事に対して創造や、知識を深めていった。

たった一つの創造が新しい可能性を教えてくれる。叔父にそれをはなすと、笑って優しく頭をポンとなでる。

私にとってはとても充実した日々だった。

しかし、それは、ある時を境に一変することになる。

叔父が病気で倒れたのだ。数度見舞いに行き話しかけるも、目を閉じたままだった。

そこから発見や、ひらめきを親に話すが、おかしなことを言ってると聞いてくれなかった。そればかりか、辞めろと、普通じゃないと矯正させようとしてくる。

学校の友達に話してもそれは変わらなかった。

頼みの綱である叔父は逝去し、子供だった私はとても悲しんだ。1番の理解者だったその人を亡くしてしまったから。

そこから、私は心の中に自らの考えをそっと隠した。

今に至るまで殆ど忘れてしまったが、ずっと浮かんできたものが一つだけあった。

万物の根源は知識だ──────

その男…

辺りは真っ白の世界、そこに1人の男がポツンと立っていた。

その目の前に段々と人の影が浮かび上がる。

それは、その男の親だった。

彼等は開口一番に「お前は間違っている」と何度も何度もそんなのは違うと非難を浴びせた。

それに呆れた顔で呟く。

「またそれか…。」

そして、頬にえくぼができた。

「それが間違いかどうか、それを決めるのはお前らじゃない。 それを決めるのは…俺自身だ!」

………

太陽の光が家の中に差し込んでくる。

男はそれにそっと目を開いた。

そして、服に着替えながら呟いた。

「今日もいい朝だ。」

そう言った男の頬には、笑みが浮かぶ

────

僕の家には毒蛇が住んでいる。口を開けば、瞬時にその毒に侵される。

一方的で、防ぎようのないそれは、定着しつつあった。

いつの間にか抗体もでき、それが日常化される。だが、不幸が不幸を呼ぶ。僕には、幸福感がなかったのだ。

ただそこには、地獄… それを体現化させた今があった。

僕はそこから逃げ出した。

何処か遠くへ、遠くへ行きたい。

僕は走った。道路には石が転がり、足を地に落とす度にその石がなる。

だが、どれだけいけども、同じような道が広がるばかりだった。

それを見て、僕は走るのを辞めた。

自分はどこに向かっているのだろうか?

その疑問が足を止めさせた。僕は俯きながら、元の道を戻って行った。

あそこからは逃れられない。それが心を強く締め付けた。

途中、公園を通りすがる。

ジャングルジムや、シーソー、に多くの子供達が集う中、ベンチの方にそれらとは一線を画すように、異彩を放ったものがあった。

ただ、大人の男がベンチに座っているだけだった。だが、そこからは違う空気が漂う。その違和感が気になって仕方なかった。

僕は立ち止まり様子を見ていると、男もこちらに気付いたのかじっとこちら1点を集中して見た。

その目はとても澄んでいた。

僕は衝動に駆られ、その男の方に歩き出す。

そして、懇願した。

「僕の家を助けて…」と。

すると、男は何も言わず立ち上がった。

そして、「家は何処だ」と話すとその方向へ足を向けた。

だが、少し歩いて行く内に、ネガティヴな感情が頭を埋めつくす。

いかのおすしだ。もし、この人を連れて行っても、逆に問題が広がったらどうするか。

事件に発展したら…

僕は大声で言った。

「ごめんなさい、なんでもないです!」

すると、男は一言「そうか」と言うとそのまま帰って行った。

──────

他の日もまた僕は家から飛び出した。

そして、到着したのは、あの男が居る公園だった。

今日もベンチに座る。

ただ、何をするでもなくずっと。

僕は何かに引き寄せられるようにその男の方へ向かった。

そして、何をしているのかと聞くとこう答えた。

創造しているのだと。

彼は言った。この世界は楽しいと。

有限の道具から無限の創造ができる。

その世界には間違いなど存在しないのだと。


僕はよくその男の居る場所へと通うようになった。

彼は子供のように自分の創造を語った。

「この世界には間違いはない。人が決めた正解と間違いがあるだけだ。」

「だから自分の中だけでは、全てを間違いに、全てを正解にできる。」

「全てを間違いにすれば、何ものも受け入れられなくなる。」

「そして、その逆、全てを正解にすること、それは可能だ。」

「俺はまだ完全にその領域まで達してはないが、それは全てを受容することにある。」

「例えば、誤用が多かったとしても、マクロな視点なら理解できる。その誤用については、内容を理解できていれば、非難する必要も無い。」

「ただ、これは全てを受け入れると言うことの、ほんの一部に過ぎない。」

「存在しない単語だろうと、妄想だろうと、間違えて使った言葉だろうとなんだろうと、全てを存在するものにて認識することこそがそれの全てなのだ。」

「俺はこれを、無限正解の思考法と呼んでいる。」

男は少し楽しさを浮かべながら続けた。

「文字も数字もほとんど全てが決まっているが、もし、文字と数字が逆だったら、もし、音が逆だったら…。今は、浸透しているが、過去であれば、その可能性もあったはずだ。」

「そして、もし、その世界が存在すれば、嘘ではなくなる。 」

「この世界にも、違う世界は存在する。例えば海外だ。言語も違うし、していることすらも異なってたりする。それより近くでも方言がある。」


「だから、間違いすらも全てを正解にできると思っている。俺は今一度言いたい。この世界には、間違いなど存在しないと…。」

それを聞き、僕はまた家に帰った。

すると、いつものように毒蛇に体を絡まれる。そして、その毒が僕の体を巡った。

絶望した。これが間違いではないのなら、正解なのかと…。いきようのない苦しみの矛先をあの男にむけた。

しかし、その気力も毒によって沈静化される。

次の日、また男の居た公園に向かう。

いつものように何をするでもなく座っていた。

僕は昨日消えてしまった怒りを再熱させた。

「間違いがないとしたら、犯罪は正しいことなの?どうしてそんなことを言うの…?」

すると男は口を開いた

「いいや、物事はそう単純に二極化できない。」

それ以上はそのことについて語らず、空を見た。

そしてボソリと呟いた。

「だが、何かを間違いと思うなら、行動するしかないんだ…」

その時、僕は胸に詰まっていたものが再び喉へと上がってきた。

「まだ…助けて…くれますか?」

消えそうな声に、男は頷いた。「あぁ。」と。

道中怖さがあった。

その時、男は何も言わずに反対側の肩をポンと叩いた。

僕は導かれるように家へ着く。

毒蛇がいつものように僕へと絡みついてくる。しかし、毒は見せなかった。その後男の方を向いて、帰らせようとする。

僕は怯えた。ここで男を帰らせてはいけない。そう思うも、体が凍りついたように動かない。

すると、男は口を開いた。

「世界は変わる。マクロな視点で見れば、些細な変化に過ぎないかもしれないが、時代、時代によって何かが他とは違う。」

そう言った後だった、彼は僕の前で多くの失敗をした。

だが、何度も何度も挑戦する。その顔には、悔しさはなく1からになる度に笑みを浮かべていた────────

あれから10年近く経った。

彼が何故あんなにも頑張れたのか、今となってはもう分からない。

ただ、一つだけ言えることがある、何かが変わったのだと───────

出会い

あの考えを抱いてから数年経った。私は大学生になっていた。

今でも、あの頃のことを懐かしいと思い出す。

色々な発想ができ、幾重にもその知識を深められた。だが、最早、今となってはそれらはもうない。

あぁ、私は羽をもがれた鳥になってしまったのかもしれない。できることなら、あの自由な大空にもう一度羽ばたきたい…。

しかし、その度に彼らの声が耳を掠める。私には、もう自由はないのか…?

そんな時に公園へよった。私はなにをするでもなく、近くにあったベンチに座り込み、空を見上げていた。

これが彼との出会いのはじまりだったのだ…。

空から意識を離すと、隣の感覚に目がやられる。

そこには、自分と年齢の近そうな男が座っていた。彼もなにをするでもなく、空をみつめていた。

そして、そっと口を開く。

「空は青いのか白いのか赤いのか分からない。だが、俺には、青く見える。」

それが彼との出会いだった。

普通であれば、おかしなことを言ってると歯牙にもかけないかもしれない。

だが、それは、私の中の何かを掴んだ。

子供の頃より求めていたものがそこに…

私はハッと冷静になった。

あのことを言えば、親達のように、おかしなことを言ってるとバカにされるに決まっているのだ…。

私は少し悲観していた…。

過去のことが今のように鮮明に思い出される。

彼らは皆、口を揃えて言った。

「その考えはおかしい。」と。

彼もきっとそうだ。
私はそこを離れ、近くを散歩した。

すると、散歩の最中に、偶然、さっきの男とすれ違った。

彼は呟く、この世界には間違いなどひとつもない。と。

私はその言葉にやられた。

彼の言うことは、教育など多くのことを否定している。間違いが無ければ、何故…

私は少し考えたあと、彼を呼び止めた。

そして、人気(ひとけ)のないところへと、連れていった。さっきの独り言を、嘘だと実証してみたかったのかもしれない。

そして、誰も居ないことを確認すると、私は口を開いた。

「ずっと考えていたことがある。だが、それらは、全て否定されてきた。何度も何度も。

君がもし、間違いがないと言うのなら、この考えをどう思う。」

少し止まりゆっくりと深呼吸すると、真剣にかれの顔を見た。そして再び続けた

「この世界は全てひとつのものからできている。それは、原子より更に深くにある。

私の考えるそれは…知識である。昔風に言えば、万物の根源は知識だ!」

自分の言っていること、それは創作の域だろう。私は少し彼の顔から目を逸らしたくなった。

すると、彼はふふと笑いはじめる。

それを見て、少し残念に心の中で呟いた。やっぱり君もそうか。

過去のことが思い返される。それは、おじさんとの日々だった。

いきいきと楽しんでいた、その時は、とても綺麗な宝石を自分の力で作っていたのだ。だが、その宝石を認めてくれる人は、もうこの世には居ないのかもしれない…

だが、再び長い暗闇のそこに蓋を閉じかけたその時だった。

彼は笑いを辞め言った。

「いい考えだ。」

彼がそれを言った瞬間、影が消え、太陽の光のような明るい光が目に差し込む。

私はこの男を…。

そうか、私は、あの頃からずっと陽の光を見てこなかったのだ…

目には涙が溢れていた。

求めていた…。

────────

そこで、私たちは自己紹介した。

彼が加木(かぎ)で、私が井知(いち)。

その後、よくここに来るのかと訪ね、あぁと聞くとそのまま別れた。


家に帰ろう。

私はアパートで一人暮らしをはじめてから、少し自由になった。だが、今までずっと、何かつまったものを感じていた。

しかし、もうそれらはない。暗闇にとても大きな光が灯り全てを消し去ってくれたのだ。

アパートの前に着くと、見知った顔の女性が居た。

大学の同級生の真子さんだ。

「井知くん丁度帰ってきたね!おかえりなさい!せっかくだから、ご飯作ってあげようか?」

彼女は学校でもそうだが、やたらと私にかまってくる。

私が彼女に気を取られていると、後ろからポンと肩を叩かれた。

「羨ましいね~。真子さん、お前のこと心配してきてくれたんだぞ~。」

同級生のあおしくんだ。

「いつもどこか元気ないもんな…。」

そう言うと、思い出したように続けた。

「最近さ、この辺りで変な宗教が流行ってるらしいよ。だから…」

そう言いかけると、真子さんが背中を押して私の家の方へ。

「さぁ、入って入って。」

さながら、自分の家かのように言う彼女に声が出た。

「ここは私の家です!」

そのツッコミに、あおしが答えた。

「私って、女みたい。変わってるな」

「社会人は私を使うの!」

「社会人って…。まだ学生だろ」

私はそれに言葉をなくした。

私はずっと前から思っていた。この2人といて楽しさはある。

しかし、心から打ち解けられては居なかった。心の底を話せば、バカにされ、笑いものにされるだけだからだ。

本当に心を許せる人、私は、今日それに会えたのだ…。あの人となら、真の友達になれるかもしれない─────


暗い空間に一人の男が居た。その男は壁をつたって少し光が差し込む方へと進んで行った。

そこにはドアがあって、たどり着くとキィ…と音をたててあける。

すると、その中では、一人の女性が椅子に腰をかけていた。

彼女はその男に気付くと口を開いた

「加木君、またあの話をしに来たの?」

男は頷く。

「あぁ、そうかもしれない。俺はあの頃から時が時がとまっているのかもな…」

────────

はじまり

小学校の時だった。

間違いについて考えるようになったのは。

そして、俺はこの考えが正しいと確信していた。

あの日までは──────

俺はいつも自信高らかに、間違いはこの世に存在しないと言っていた。

そして、毎回のように男子達に否定されていた。

「間違いがないとしたら、テストはなんだって言うんだよ!」

俺は自信満々に返した。

「テストは存在そのものが間違いって言うことだな!」

そうやって否定し返すと、大抵は何も言えなくなった。

だが、毎回、1人だけ俺を、いなしてくるやつがいた。

「間違いはないんじゃないのかよ…。」

彼がそう言うと、俺は恥ずかしくなり顔を赤らめた。

そして、それを見て、彼は肩を叩いて言う。

「でも、俺はお前の考え嫌いじゃないぞ!」

「う…うるさいな!」

俺はそいつに惹かれていた。この考えを、唯一、認めてくれた人間だからだ。

だが…

────────

「あれが起きてから…よね」

「あぁ…」

しんみりとした空気が流れた。

しかし、男は言った。

「だが、今日、面白い考えを聞いたんだ。突拍子もなくてな。」

それを聞いて、女は笑いだした。

「あんたよりも変わった人がいるの?」

男は首を横にふった。

「いいや、物事に優劣なんか付けられないさ。」

そして、天井に腕を伸ばす。

「ただ、俺はこれからが楽しみなんだ…」

──────


ここは、小人達が住む国。

いつも広間に集まって、沢山の議論を交わしている。

今日の議題は、「神様は存在するのか しないのか?」についてだった。

最初に、挙手で、肯定派と否定派にわかれて、議論がはじまった。

まずは肯定派からの意見、そしてその理由だ。1人が前に立って言った。

「神は存在するのです!なぜなら、僕達がどうやってうまれたのか説明がつかないからなのです!」

それと同時に、肯定派の中から、自分もと意見を言うものが次々と現れた。皆、自分の方が正しい意見だと主張したのだ。

中間の人達がそこへ仲裁に入り、事なきを得ると、今度は否定派の意見に移った。

否定派の意見は簡単だった。

「神様を見たことがないから存在しないのです。もし、居るのなら、ここに出てこれるはずです!」

すると、肯定派の方からひよっこりと自分が神様だと名乗り出てくるものがでてきた。

だが、否定派は納得しなかった。

もし、本当に神様なら、自分達をこの場にもっとつくりだせるはずだと言うが、困ってしまったようで口をとざす。

否定派が強くなり、肯定派には勝ち目がないのかと思われたが、否定派の一言で互角の状況に一変した。

それは、神様が居ると証明しろとの事だった

そして、これらは、悪魔の証明だったため、議論は終わりかと思われる…。

だが、その後もずっと両者の主張は続いたのだった──────

本を閉じると、少年は考えました。

議論は無意味だと。

そして、決意しました。

自分が上に立つことを────

まず、それをするにはどうすればいいのか?

すぐに思いつく。人を集めることだった。

人が多いところに人は集まる。だから、人をとにかく自分のそばにつけていけば、自然と上になれる。

そう考えたのでした。

そして、少しの月日が経ち、人がすんなりとまわりに集まります。呆気なさに拍子抜けするも、目的のために気を引き締めたのです。

ある日の事でした。

少年の前に変わった事を言う子が現れたのです。

それは、「全ては、平等であった方がいい」とのことでした。

それは、少年の考えを否定するものだったのです。

人目を憚らず言ったその子を、許せませんでした。


────────

別れ

一昨日、僕は3つのものを得た。

昨日、1つのものを失った。

今日は1つのものを失った。

明日、1つのものを失った。

明後日、僕は失った一つのものと、2つのものを得た。

───────

あなたにとって大切なものはなんですか?

僕はその問いに対して、いつも答えがでなかった。親族が亡くなっても、感情を揺さぶられることはなかったのだ。

その度に、自分は冷酷な酷い人間なのか?心がないのか?と悩んだ。それでも揺さぶられなかった自分を、何度も何度も責めた。

だが、それらは全て次の日には忘れていつも通りの日常が流れた。

ふとした時に思い出すと、頭の中で罵詈雑言が飛び交う。

その時、いつも決まって、ふっと1つの考えが浮かんだ。

自分にとって、本当に大切なものはなんだろうか…?

僕は1回自分の手をグイッと親指と人差し指で摘んでみた。力を強くする度に痛いと言う気持ちが強くなり、思わずその指を離した。

それを見て考える

そうか、僕は自分のことが大切なのか。

それではだめだと、もっと深ぼってみることにした。

今より小さい頃、お父さんが玩具を買ってくれたことがある。その玩具で遊ぶことはとても楽しかった。

しかし、その玩具は時間が経つと壊れてしまった。

とても悲しくて泣いている。

そうか、玩具が大切だったのか。

他にも無いかと探した。

僕には友達が居た。転校することになり、もう会えないのだと泣いている。

そうか、その友達が大切だったのか。

僕は昔、ハムスターを飼っていた。でも、亡くなって、その時も泣いていた。

そうか、僕はそのハムスターが大切だったのか。

その後、新しいペットを飼い、玩具を買って貰った。転校した友達とも、少しして久しぶりに話せた。

その時はとても嬉しい笑顔を浮かべていたことを覚えている。

考えれば考える程、自分の大切なものが見えなくなった。

僕は外へ、空気を吸いに出掛けた。

外には、道がある。どこかへ続く細長い線がまっすぐと。僕はそれが途切れるところまでずっといった。

中々終わらない道の途中、様々な人にすれ違った。本を読みながら歩く人、キチッとした真面目な人、ぶつぶつと何かをつぶやく人。

彼らには、きっと大切なものがあるのだろう。

僕は、人が思う大切なもののことが、無性に気になってきた。

次に来た人にたずねてみようか…?

ふっと前から来た人影が横切る時、声をかけた。

すると、男は立ち止まった。

そして、僕は、さっきの質問を投げかける。すると男は、すぐに答えてくれた。

「本当に大切にするもの、それは、自分だと思っている。よく、自分より他人のことを大切にしろと聞くが、自分を大切にしてなければ、他人のことを大切にはできない。」

「そして、俺が大切にしてるもの。それは、自分の中でも、考えを大切にしている。」

僕は、彼の話が気になった。

「その考えとは…?」

待っていましたと言うように、彼は笑って答えた。

「この世界には、間違いがないことだ。」

「そうですか…。」

僕はそう言うと、それについては深く聞かずに彼と別れた。

そして、再び道を歩く中、考えていた。

誰とも交わらない自分の意見。それは、自分にもあるのだろうか?

だが、どれだけ、自分の中を掘り進めても、見つからなかった。

なので、今までに考えていたこと、それに目を向けてみた。

別れが起こっても、それらは、また新しい出会い、もしくは、再開があるのだと、僕は納得する。

もし、今後、別れがあったとしても、それは、終わりではない。また新しいはじまりがあるのだ。

その時に、悲しんでいては、目の前の喜びに気付けない。また出会える喜びまで、涙はとっておこう。

そして、自分にとって、1番大切なものがわかった気がした。

それは…

いつの間にか、僕は家に着いていた。

ドアへ向かう足はいつもより軽く、以前のような重さはどこかへ消えてしまったようだった。

僕は再び、新しい出会いに向かう────