思想学部⑦

過去⑥

私の子供の頃、それは今と変わらず暗いものだった。

しかし、傍には、とても明るい男が居た。

その人のお陰で、私はここまで生きてこれたのかもしれない。

出会った頃、彼はこう言った

「大丈夫。未来は明るい。」

その頃から、悲観的だった私は、そんなことがあるはずない。と思った。

今でも、それは変わっていない。

彼と関わる内に、それを言った理由が分かってきた。

人は心の奥底では、誰も悲しみを求めていないから、幸せな未来が待っている。

それが彼の思いだった。

そうなると分かっていても、時間がかかるかもしれない。だからこそ、自分が行動して、それを呼び込むんだと。

子供の頃、私は、ネガティブだった。未来に希望がもてないし、家庭の環境も悪い。

しかし、全く正反対な性格の彼に惹かれた。

ある日は動物園に行く。

「ここは嫌な場所だよ。生き物を閉じ込めて。

まるで、監禁じゃないか」

すると、「大丈夫、きっと未来はいいものになる。動物と人間は分かり合って、お互い共存できる」と。

そのまたある日は、私が彼に、生きる意味についてたずねた。

「生きる意味ってないよね。何しても、死んだら、全部無くなるんだし。

頑張っても結局何も残らない」

「大丈夫。人はいつまでも幸せに生きられるから。」と未来に対して、とても希望的だった。

全く否定してこない、そればかりか肯定的に未来を見ていた彼に、今までの考えが、段々うすれていく。

彼と一緒に居たら、明るく過ごせるかもしれない。

悲観的に見えていた未来は、嘘のように消えていた。

彼は子供達に、未来は希望で溢れていることを伝えていきたい。と強く思っていた。

そのための行動を沢山して、彼自身、周りに多くの人が集まる。

とても強い未来への肯定、そして、明るく、優しい彼の力に励まされた。

私自身、彼の雰囲気と、言葉によって、否定することを忘れてしまった。

彼の一言、未来は明るい。その言葉が心に残り続ける。

中学校の時、とても楽しく希望的な時間が過ぎ、いつの間にか私は大人になっていた。

彼もまた、大人になって、性格もずっと変わらず、未来に対して希望的な視線を持ち続けた。

とても強い心。

しかし、子供をもつことはなかった。

自分の子供よりも、多くの子供を助け、希望を与えたいと強く心に思っていたらしい。

1人だけでなく、大勢の人を愛したい。それが彼の思いだった。

哲学や、色々なものを学んで、多くの知識を持っていた。

けれども、ある日、彼は亡くなってしまう。

最初はどうして…と思った。

あんなにも希望をくれたあの人が…。

私の、彼に出会う前に持っていた、悲観的なものがまた心の中にあらわれた。

矢張り、いずれ、人は亡くなってしまう。

現実に希望を持つのが間違いだった。

どれだけ行っても、これだけは外れない。

現実は絶望だ。

彼は亡くなってしまったが、私は中々亡くならなかった。

神様が居るのなら、酷なことだ。

まるで、私を苦しめたいと願っているかのよう…。

毎日の暗い中、ポツンと明るい光が灯った。

その正体は、私の子供だった。

まるで、あの人のように、明るく何かに向かっていく姿。

それが、夜に浮かぶ星のように儚く光った。

問題だらけ、あの人のように、上手く行くはずがない。

私の子供だから。

そう思ったが、進むことを辞めなかった。

どうしてそんなにも進もうとするのか。

止めようとしても、止まらない。

これからも多くの失敗をするかもしれない。多くの人に嫌われるかもしれない。

そんなリスクもありながら進んでいく。

儚いながらもとても眩しい光──────

数字ヒーロー①

この世界は数字によって構成されている。

例えば木で考えてみよう。葉っぱがついている枚数、木の高さ、木の重さ。

そして、その木に人間が触れた回数、その木がうまれた時の年代、樹齢など、無限の数字によってその木は構成されている。

この世界でかかすことのできない、数字でみた世界観がある。

しかし、その数字を否定するものがあった。

それは悪い数字との偏見がついた、「4」などの数字へである。

本当はいい意味も沢山あるはずが、1つの「死」というイメージにより、それがないものかのように忌避されている。

そこで、立ち上がったヒーロー、ヒロインが居た。

その名を、ナンバーマン、ナンバーウーマンと人は呼ぶ。

ナンバーウーマンは言った
「世界は、4という差別に溢れかえってますね…。悲しいです…。」

「数字許容組織ができてもなお、根を張り続ける数字に対する偏見。」

「えぇ。でも、だからこそ、私達が居る。」

「そう。ナンバーマンが居る限り、数字界の平和は乱させない!」

───────

あるところでは、番組の撮影が行われていた。

司会者が呟くと、再開される。

───────

今日もはじまりました。

お題にそって考えられる、これって最悪!

今日のテーマは、4という悪い数字について!

この4という数字、死という悪い意味を含んでいて、最悪な数字。

みただけでも、その日の気分はだだ下がり!

司会がそう言うとコメンテーターのような人が話し始める。

この数字、嫌われてるだけあって、3の次は5ってしてる場所もあるらしいですよ。

それを聞いたら、どれだけこれが悪いか頷ける気がします。

いつか、絶対この数字は、存在なくなるでしょう。

その言葉に共感のあらしが場内に巻き起こる。

そうだ、そうだ!人達は、4をとても嫌って排除しようと声をあげる。

司会者が、高まったその場をおさめると、話を再開した。

今日のお便りを読んでいきます。

まずは××に住む4嫌いさんから。

今日、星座占いで4位だった。12位より最悪だよ。4って。

朝から気分悪くなるから、4って本当なくなんねーかなって思う。

次は××に住む4いらないさん。

友達の入院中に、4って数字が目に入りました。更に家族の心配にもなるので、不安を煽るようなこの数字、無くなればいいなと思います。

そうして、どんどんと読んでいった。

会場は4ヘイトで高まっていく。

そこへ到着したのが、ナンバーマンだった。

「まてー!」

そう言うと、会場の人達は、彼に釘付けに。

「なんですか、あなたは?」

司会者は驚きながら見つめる。

「数字差別は許さない!」

「数字差別ってなんですか?」

とぼけたように司会者は言う

「4が悪い数字と公の場で言ってるじゃないか!」

「なんで悪いんですか?」

ナンバーマンがそれを言おうとすると、司会者は待ったをかける。

「何を言うかは知ってます。4にはいい意味が沢山あると言いたいんですよね?」

ナンバーマンは驚いたように頷いた。

──────

たとえ、いくつもいい意味があったとて、1つの変えようのない悪いことがあれば、それらは全て消える。

もし、相手が殺人を犯していたら…?

どれだけ人にやさしくしてようと、どれだけ社会に貢献しようと、その1つの悪によって、全ては悪いものへと変わる。

数字も同じこと。

4は変えようのない“死”というイメージによって、どれだけいい意味があろうと、消えてしまう。

つまり、数字の中で、4は悪いものでしかない。

これは、公の場による訴えで、消していくべき数字なのである。

存在するだけで、人を不幸にする数字など、存在する価値がないのだ。

───────

ナンバーマンは、司会者の言葉にメタメタにやられてしまう。

「4は悪い数字なのか…?」

そう口ずさみながら、頭を抱えて項垂れる。

そんな中で、司会者の人は場を戻し、「矢張り、4は悪い数字だと分かりましたね」と言った。

「そうだそうだ!」会場からその声が沢山溢れる。

この場では、どうしようと、ナンバーマンは悪役だ。

今までのいい部分がある肯定だけでは、この場面を切り抜けられない。

為す術なく、その場に座り込むことしかできなかった。

それをよそに司会者は、お便りを読んでいく。

更には4差別についてのコーナーを全て済ませる。

「また来週。」と言って占めた。

どんどんと、4差別内容を増やしている。

最近は1ヶ月に1回となっていたのが、今回は一週間に一回に。

差別の手が進んでいる!

自分の最大の武器をおられてしまったナンバーマン、立ち直れず見ているだけになるのか?

どうするナンバーマン!

テスト!

普通を目指すこと、それはとても大変だと実感してきた。

最近、部活など色々忙しくて、調べることも、実行することも疎かになってきている。

更には…テストももうそろそろだ。

毎日続けてきていたが、部活動のことを考えて、いつもより少ない。

これはまずいと思った僕は、家でずっと勉強している。

平均点を取るためには、落とせない問題は確実に覚えて、応用などの難しい問題はほぼ無視。

つまり、基礎を充実させることが、普通を目指すことに於いてとても重要。

こんなに焦っているのに、僕は心の中で、部活に入ってよかったと思っている。

最近、毎日がなんだか楽しいんだ。

後悔はない。

そう思うと、また続ける。

──────

残り3日。部活動は休みになったはずが、何故かみんなで集まっていた。

「すすむくん、今日もやるんだね」

「もちろん。どんな時でもできるのが、この思想学部の凄いところだから!」

彼は「さぁ、始めようか」と言って笑った。

勉強の思想、テストの思想の始まりだ。

世界史では、どうしたら、国がよくなったか。平和に過ごせたかを話し合う。

パクス・フィルマーナなど、平和な時期のいいところをあげていき、参考にしようとなった。

数学は確率などは、みんなでどうしてその計算になるのか考える。

短いながらも、色々な事をした。

ところで、この学校は偏差値的にも普通の高校。

ここで平均点が取れれば、正しく普通の中の普通でいられる。

なので、高校は特に頑張って、平均点を目指していく。

「そういえば、すすむくん、勉強得意なんだっけ?」

僕がふと思って聞くと、「分からないけど得意だと思う!」と。

すると、すかさずおとねさんが言う。

「すすむくん、中学校のテストの点、学校入るのも、ギリギリだったって聞いたよ!」

はえへへと言いながら頭をかいた。

「ほんと、なんで入れたのか不思議なくらいだったんだからね…。」

「そうだったんだ…」

僕は頷く。

彼は当時から、部活のことばっかり考えてたようなので、おかしくはないのかもしれない。

そっと納得して、勉強に戻る。

────

それから、学校での勉強、家での勉強がそれなりに済んだので、学校では、気になっていたことを聞くことにした。

それは、数学の先生。

統計学の話を聞きたい。そう思っていた。

行こうとすると、すすむくんが進路に現れる。

「どこに行くの?」と聞いたので、そのまま伝える。

すると「僕も行くよ」と、彼もついてきた。

職員室に着くと、先生を呼ぶ。

丁度居たので、気になっていたこと、統計学について前提を話す。

統計学って、普通であることが求められる場所では、とても有用性のある学問じゃないですか?」

先生は頷く。
「その空間では最強の学問とされるでしょう。」

すると、その中に、すすむくんが割り込んでくる。

統計学って、最強の学問なんだ。」

そう言って、考えると、笑顔になる。

「じゃあ!
思想学は無敵の学問だ!」

それを聞いて、恥ずかしくなったが、心の中で凄いなと思った。

その時の先生の顔は穏やかに笑っていた。

大人の余裕かも。

───────

それから、テストの日がやってくる。

緊張したが、何事もなく全部すむ。

また数日経って、テストが返ってきた。

平均点より低かったが、目指していた場所までいける。

すすむくんはギリギリ追試を免れた。

部活動の皆も、それなりにとれたようで安心だ。

───────

僕は中学校の頃、テストの点が悪かった。

けれども、運はとてもいい。

選択肢問題は勘で半分以上は正解できた。

お父さんからは、何故かその運だけはいいと言われる。

それは、高校の受験の時もそうだった。

勉強は沢山したが、選択肢に分からない問題が沢山あって、頭を悩ませる。

けれども、時間がなくなったので、やむを得なく、自分の正解だと思う勘を信じて突き進んだ。

家では、レベルが高かったんじゃないか…?とお父さんが不安に言う中、お母さんはただ、「大丈夫…」と僕のことを信じた。

すると、運よく学校に受かる。

僕は嬉しかった。

これから、中学校の時、沢山考えていたことが実行出来るかもしれない。

希望がいっぱい詰まった未来が待っている。

そう、今までの失敗、悲しみは、未来誰かを幸せにするためにあるんだと…

──────

過去⑦

お月様にうさぎが住んでいました。

ぴょんぴょんとはねて、小さなもちの前にやってきます。

そして、そのもちを、持っていた杵でつきました。

もう一羽の耳が垂れたうさぎがこねます。

そうして、ペッタンペッタンとついていると、一方のウサギが言いました。

「もちをついたり、こねたりするの楽しいね!」

垂れたうさぎが答えます。

「うん、とっても楽しい!終わったら、この美味しいお餅が食べられる!」

2羽は少し休憩して、もちを食べてるところを想像しました。

とても美味しそうに食べてる姿が浮かんできます。

「わぁ、美味しそう!」

「うん、とっても美味しそう!できるのが楽しみ!」

2羽がそうして考えていると、向こうから、黒く全身濡れたウサギがやってきます。

気付いた2羽は、そのうさぎに近寄りました

「黒うさぎさん、こんにちは!」

「やぁ、君たちか。こんにちは!」

「うん!
今日も、泳いでたの?」

「そうだよ。
静かの海を往復ね。」

2羽はとっても驚きました

「わぁ、黒うさぎさん凄い!」

「君たちは何をしてるの?」

「もちを作ってました!」

耳が垂れたウサギが、うすにあったもちをみせます。

「良ければ一緒に食べませんか?」

黒うさぎは、「悪いね、いつもありがとう」と言いました。

そして、もちつきを再開です。

─────

作り終わって、3人でわけて食べました。

耳がたれたうさぎは、「美味しい」と言って食べます。

しかし、黒いうさぎは、なんだか険しい顔をしていました。

「どうしたの?黒うさぎさん」

うさぎが聞くと、上を向いて言いました。

「最近、生きる意味が分からなくなって」

うさぎと、耳の垂れたうさぎは顔を見合わせます。

「どうしてそう思ったの?」

「毎日泳いでるし、君たちは毎日、もちを作ってるだろう。」

2羽は頷きます。

「毎日それをすることになんの意味があるんだろうって」

耳が垂れたうさぎは言いました。

「僕は楽しいよ!

もちをついたり、こねたり、こうしてみんなで食べたりするのが幸せなんだ!」

すると、黒うさぎは言いました。

「そうか。でもな、僕は泳ぎながら思うんだ。」

そうして俯きます。

「なんで泳いでるんだろう。なんで生きてるんだろうってさ。」

「泳ぐの好きじゃないの?」

うさぎは首をかしげました。

「好きだよ。でも、どれだけしても、その気持ちはずっと続いてない。

最初だけなんだ」

「そうなんだ。」

「うん。こればっか続けて、そもそも、生きる意味ってなんだろって思って。」

うさぎは考えながら空を見上げます。

すると、綺麗な星が沢山にありました。

そして、1番近くには、青くて緑が一杯の星があったのです。

それを見ると、とても綺麗で、うさぎの目がピカピカと光りました。

耳の垂れたうさぎの肩を叩いて、「あれ!」と言います。

「わぁ、綺麗!」

耳の垂れたうさぎは呟きました。

黒いうさぎはボーッとそれを見つめます。

そうして、うさぎは、黒いうさぎに近寄りました。

「とっても綺麗でしょ?」

「うん。綺麗だと思う」

「ただ、これを見るためにうまれてきたんじゃないかな?

このちょっとした幸せを感じるために…」

「そうかな…?」

黒うさぎが疑問気に言うとこくりと頷きます。

「そして、僕は思うんだ。今、頑張るのは、誰かを幸せにするためなんだって。」

「どういうこと?」

黒うさぎはうさぎの顔を見ます。

「おもち作るの嬉しい。できると更に嬉しい!

それをみんなで食べるともっともっと嬉しいんだ!」

笑顔で黒うさぎに言いました。

「そうなんだ。でも、僕は泳ぎは自分のためだけにやってる。

誰かを喜ばせることはしてない。」

「大丈夫!僕は君の泳いでるところが見たいんだ!

君みたいに泳ぐことはできないから、気持ちよさそうに泳いでるところが見たい!」

うさぎがそういうと、黒うさぎはこくりと頷きます。

「ありがとう。良ければ見てもらいたいな!」

そこから、静かの海の近くで、もちをつくようになりました。

うさぎ2羽は、黒うさぎの泳いでるところを見て、より一層楽しくもちをついたのでした───────

数字ヒーロー②

ぶつぶつ何かを呟く男がいた。

みなは彼の名を、ナンバーマンと呼ぶ。

そして、向こうから彼を支えるナンバーウォーマンがやってきた。

2人は、数字界の平和を守るため、日夜奮闘しているのである。

「うぅ…。」

ナンバーマンはそう言って頭をかかえる。

「どうしたの?」

ナンバーウーマンはそれにすぐさま駆けつけた。

「4差別する言い分を聞いて、もっともだと思って…」

「どんなことを言ってたの?」

ナンバーマンは、起こったことを全部話す。

───────

「そんな事があったんだね…!」

ナンバーマンは頷いた。

「そう…」

「武器だった、肯定が使えなくて、もうどうすればいいのか…。」

ナンバーマンのその様子を見て言った。

「あなたは4についてどう思ってるの?」

ナンバーウォーマンはニコッと笑う。

「それは…昔から変わらず好き。」

「どんな意味があろうと、ナンバーマンはどの数字も同じくらい好きだ」

ナンバーウォーマンは「そう。」と頷いた

「そうだよ。忘れてた。数字が好きなんだ…」

彼は行ってくると言い残すと、どこかへと向かった

──────

今日はスペシャルです!

その声とともに、番組が始まる。

司会は変わらず前回と同じ人。

今回も引き続き、人気企画悪しき数字、4について。

そうして、司会の人が始めた。

「今日も沢山の4に対する批判や、クレームを頂いています。」

「一緒に根絶していきましょう!」

前回は乱入者が入って、ちゃんとした議論ができなかった。

けれども、今回は、前回よりも長く時間をとれるため、徹底的に4排他運動ができる。

司会者は強く握りこぶしを作った。

そうして、視聴者からの文を読もうとした時、「まてー」と声が聞こえてくる。

会場は慌てる声で一杯になる。

ナンバーマンがやってきたのだ。

「また懲りずに…」

会場の人はあきれたように言う。

「4差別について言いに来た!」

「それは知ってますよ」

司会者はナンバーマンに近付く。

「何故、また懲りずにやってきたのか。それを聞いている」

「それは…君に、そして、君たちに伝えたいことがあるから…。」

「また肯定ですか?それなら、意味は無いですよ」

「そうじゃない。」

「なんですか?」

会場はナンバーマンに視線を集める。

「僕は4が好きだ。数字に差なんてつけられない。みんなそれぞれなくてはならないもの。」

ナンバーマンは司会にたずねる。

「そこでたずねたい。君、そして、君たちは、何のために数字を嫌いで居るんですか?」

すると、会場から、「嫌な数字だからに決まってるだろ」と声が上がった。

それに同調するように、司会者も「このように、不快な気持ちになってる方が大勢いる。だからこそ、こうして4排斥運動をしているのです。」と。

「本当に嫌だと思う人だけ…?」

ナンバーマンがそう言うと、口角が下がる。

「たとえどうであろうと、この会場にいる方々、そして、これを嫌う大多数がある。」

「サイレントマイノリティがどうであろうと、多くを不快にするこれを排除しなければならない。」

司会者は強くそう言った。

「そんなに囚われる必要なんてないよ。」

「なぜだ?」

「本当に悪いものだったら、なくなっていくから。」

ナンバーマンは上を向いた。

「人は苦しみに快楽を見出しながら、強い苦しみには拒絶を示す生き物だからさ。」

「詭弁だ!」

外野からその声とともに、ものが投げられる。

ナンバーマンはそれに動じず言った。

「平仮名のしなどは、構成要素の1つ。ただ、それだけだよ。

数字も同じさ。」

「しかし、それが存在することによって、苦しむ人がいる。」

ナンバーマンは彼の目を見る

「本当に苦しんでいるのは君じゃないか?」

「なんだと…?」

その瞬間、司会者の心の中でガラスのような何かが割れた。

──────

小さい頃、死は悲しくて、悪いものだと教わった。

周りにも、4が嫌いだと思ってる人も沢山居て、それが当たり前だと思って。

ある日、ノートに間違えて、ボールペンで4と書いた。

僕はそれを消そうと思って、消しゴムで何度も何度も4にぶつけた。

けれども消えない。

それを繰り返してる内に、ノートはビリビリに破れた。

その時、決めたんだ。

4をこの世からなくすって。ビリビリに切り裂いて。

ある日、お便りを見ていた時、こんなものがまざっていた。

4は悪い数字って言われてるけど、野球では希望的なものでもあった。

4番バッターそれは、バトンを引き継いだ期待の星。

だから、悪いものじゃないと思うんだ。

私はそれを見て、中から省いた。

チェリーピッキングとも言われるかもしれない。けれども、この世界では当たり前のこと。

悪いものに対してなら、それは認められる。

──────

「私が苦しんでいる…?」

「うん。数字も自分のために苦しむ必要はないって思ってるはずだ」

司会者の男は頭を悩ませた。

この男は何を言ってる。数字に心はないはず…

しかし…とらわれる…?

「嫌なことのために、自分の身を苦しめる必要は無いんだ。」

「君は嫌い、ナンバーマンは好き。それでいいじゃないか。」

「なるほど…そうですか。分かりました」

司会者はそう言って帰った。

その日から、4差別の番組は放送しなくなったのである。

ナンバーマン、ナンバーウォーマンは戦う。

それは、数字差別が無くなるまで。

頑張れナンバーペア!