過去⑥
私の子供の頃、それは今と変わらず暗いものだった。
しかし、傍には、とても明るい男が居た。
その人のお陰で、私はここまで生きてこれたのかもしれない。
出会った頃、彼はこう言った
「大丈夫。未来は明るい。」
その頃から、悲観的だった私は、そんなことがあるはずない。と思った。
今でも、それは変わっていない。
彼と関わる内に、それを言った理由が分かってきた。
人は心の奥底では、誰も悲しみを求めていないから、幸せな未来が待っている。
それが彼の思いだった。
そうなると分かっていても、時間がかかるかもしれない。だからこそ、自分が行動して、それを呼び込むんだと。
子供の頃、私は、ネガティブだった。未来に希望がもてないし、家庭の環境も悪い。
しかし、全く正反対な性格の彼に惹かれた。
ある日は動物園に行く。
「ここは嫌な場所だよ。生き物を閉じ込めて。
まるで、監禁じゃないか」
すると、「大丈夫、きっと未来はいいものになる。動物と人間は分かり合って、お互い共存できる」と。
そのまたある日は、私が彼に、生きる意味についてたずねた。
「生きる意味ってないよね。何しても、死んだら、全部無くなるんだし。
頑張っても結局何も残らない」
「大丈夫。人はいつまでも幸せに生きられるから。」と未来に対して、とても希望的だった。
全く否定してこない、そればかりか肯定的に未来を見ていた彼に、今までの考えが、段々うすれていく。
彼と一緒に居たら、明るく過ごせるかもしれない。
悲観的に見えていた未来は、嘘のように消えていた。
彼は子供達に、未来は希望で溢れていることを伝えていきたい。と強く思っていた。
そのための行動を沢山して、彼自身、周りに多くの人が集まる。
とても強い未来への肯定、そして、明るく、優しい彼の力に励まされた。
私自身、彼の雰囲気と、言葉によって、否定することを忘れてしまった。
彼の一言、未来は明るい。その言葉が心に残り続ける。
中学校の時、とても楽しく希望的な時間が過ぎ、いつの間にか私は大人になっていた。
彼もまた、大人になって、性格もずっと変わらず、未来に対して希望的な視線を持ち続けた。
とても強い心。
しかし、子供をもつことはなかった。
自分の子供よりも、多くの子供を助け、希望を与えたいと強く心に思っていたらしい。
1人だけでなく、大勢の人を愛したい。それが彼の思いだった。
哲学や、色々なものを学んで、多くの知識を持っていた。
けれども、ある日、彼は亡くなってしまう。
最初はどうして…と思った。
あんなにも希望をくれたあの人が…。
私の、彼に出会う前に持っていた、悲観的なものがまた心の中にあらわれた。
矢張り、いずれ、人は亡くなってしまう。
現実に希望を持つのが間違いだった。
どれだけ行っても、これだけは外れない。
現実は絶望だ。
彼は亡くなってしまったが、私は中々亡くならなかった。
神様が居るのなら、酷なことだ。
まるで、私を苦しめたいと願っているかのよう…。
毎日の暗い中、ポツンと明るい光が灯った。
その正体は、私の子供だった。
まるで、あの人のように、明るく何かに向かっていく姿。
それが、夜に浮かぶ星のように儚く光った。
問題だらけ、あの人のように、上手く行くはずがない。
私の子供だから。
そう思ったが、進むことを辞めなかった。
どうしてそんなにも進もうとするのか。
止めようとしても、止まらない。
これからも多くの失敗をするかもしれない。多くの人に嫌われるかもしれない。
そんなリスクもありながら進んでいく。
儚いながらもとても眩しい光──────
数字ヒーロー①
この世界は数字によって構成されている。
例えば木で考えてみよう。葉っぱがついている枚数、木の高さ、木の重さ。
そして、その木に人間が触れた回数、その木がうまれた時の年代、樹齢など、無限の数字によってその木は構成されている。
この世界でかかすことのできない、数字でみた世界観がある。
しかし、その数字を否定するものがあった。
それは悪い数字との偏見がついた、「4」などの数字へである。
本当はいい意味も沢山あるはずが、1つの「死」というイメージにより、それがないものかのように忌避されている。
そこで、立ち上がったヒーロー、ヒロインが居た。
その名を、ナンバーマン、ナンバーウーマンと人は呼ぶ。
ナンバーウーマンは言った
「世界は、4という差別に溢れかえってますね…。悲しいです…。」
「数字許容組織ができてもなお、根を張り続ける数字に対する偏見。」
「えぇ。でも、だからこそ、私達が居る。」
「そう。ナンバーマンが居る限り、数字界の平和は乱させない!」
───────
あるところでは、番組の撮影が行われていた。
司会者が呟くと、再開される。
───────
今日もはじまりました。
お題にそって考えられる、これって最悪!
今日のテーマは、4という悪い数字について!
この4という数字、死という悪い意味を含んでいて、最悪な数字。
みただけでも、その日の気分はだだ下がり!
司会がそう言うとコメンテーターのような人が話し始める。
この数字、嫌われてるだけあって、3の次は5ってしてる場所もあるらしいですよ。
それを聞いたら、どれだけこれが悪いか頷ける気がします。
いつか、絶対この数字は、存在なくなるでしょう。
その言葉に共感のあらしが場内に巻き起こる。
そうだ、そうだ!人達は、4をとても嫌って排除しようと声をあげる。
司会者が、高まったその場をおさめると、話を再開した。
今日のお便りを読んでいきます。
まずは××に住む4嫌いさんから。
今日、星座占いで4位だった。12位より最悪だよ。4って。
朝から気分悪くなるから、4って本当なくなんねーかなって思う。
次は××に住む4いらないさん。
友達の入院中に、4って数字が目に入りました。更に家族の心配にもなるので、不安を煽るようなこの数字、無くなればいいなと思います。
そうして、どんどんと読んでいった。
会場は4ヘイトで高まっていく。
そこへ到着したのが、ナンバーマンだった。
「まてー!」
そう言うと、会場の人達は、彼に釘付けに。
「なんですか、あなたは?」
司会者は驚きながら見つめる。
「数字差別は許さない!」
「数字差別ってなんですか?」
とぼけたように司会者は言う
「4が悪い数字と公の場で言ってるじゃないか!」
「なんで悪いんですか?」
ナンバーマンがそれを言おうとすると、司会者は待ったをかける。
「何を言うかは知ってます。4にはいい意味が沢山あると言いたいんですよね?」
ナンバーマンは驚いたように頷いた。
──────
たとえ、いくつもいい意味があったとて、1つの変えようのない悪いことがあれば、それらは全て消える。
もし、相手が殺人を犯していたら…?
どれだけ人にやさしくしてようと、どれだけ社会に貢献しようと、その1つの悪によって、全ては悪いものへと変わる。
数字も同じこと。
4は変えようのない“死”というイメージによって、どれだけいい意味があろうと、消えてしまう。
つまり、数字の中で、4は悪いものでしかない。
これは、公の場による訴えで、消していくべき数字なのである。
存在するだけで、人を不幸にする数字など、存在する価値がないのだ。
───────
ナンバーマンは、司会者の言葉にメタメタにやられてしまう。
「4は悪い数字なのか…?」
そう口ずさみながら、頭を抱えて項垂れる。
そんな中で、司会者の人は場を戻し、「矢張り、4は悪い数字だと分かりましたね」と言った。
「そうだそうだ!」会場からその声が沢山溢れる。
この場では、どうしようと、ナンバーマンは悪役だ。
今までのいい部分がある肯定だけでは、この場面を切り抜けられない。
為す術なく、その場に座り込むことしかできなかった。
それをよそに司会者は、お便りを読んでいく。
更には4差別についてのコーナーを全て済ませる。
「また来週。」と言って占めた。
どんどんと、4差別内容を増やしている。
最近は1ヶ月に1回となっていたのが、今回は一週間に一回に。
差別の手が進んでいる!
自分の最大の武器をおられてしまったナンバーマン、立ち直れず見ているだけになるのか?
どうするナンバーマン!
テスト!
普通を目指すこと、それはとても大変だと実感してきた。
最近、部活など色々忙しくて、調べることも、実行することも疎かになってきている。
更には…テストももうそろそろだ。
毎日続けてきていたが、部活動のことを考えて、いつもより少ない。
これはまずいと思った僕は、家でずっと勉強している。
平均点を取るためには、落とせない問題は確実に覚えて、応用などの難しい問題はほぼ無視。
つまり、基礎を充実させることが、普通を目指すことに於いてとても重要。
こんなに焦っているのに、僕は心の中で、部活に入ってよかったと思っている。
最近、毎日がなんだか楽しいんだ。
後悔はない。
そう思うと、また続ける。
──────
残り3日。部活動は休みになったはずが、何故かみんなで集まっていた。
「すすむくん、今日もやるんだね」
「もちろん。どんな時でもできるのが、この思想学部の凄いところだから!」
彼は「さぁ、始めようか」と言って笑った。
勉強の思想、テストの思想の始まりだ。
世界史では、どうしたら、国がよくなったか。平和に過ごせたかを話し合う。
パクス・フィルマーナなど、平和な時期のいいところをあげていき、参考にしようとなった。
数学は確率などは、みんなでどうしてその計算になるのか考える。
短いながらも、色々な事をした。
ところで、この学校は偏差値的にも普通の高校。
ここで平均点が取れれば、正しく普通の中の普通でいられる。
なので、高校は特に頑張って、平均点を目指していく。
「そういえば、すすむくん、勉強得意なんだっけ?」
僕がふと思って聞くと、「分からないけど得意だと思う!」と。
すると、すかさずおとねさんが言う。
「すすむくん、中学校のテストの点、学校入るのも、ギリギリだったって聞いたよ!」
彼はえへへと言いながら頭をかいた。
「ほんと、なんで入れたのか不思議なくらいだったんだからね…。」
「そうだったんだ…」
僕は頷く。
彼は当時から、部活のことばっかり考えてたようなので、おかしくはないのかもしれない。
そっと納得して、勉強に戻る。
────
それから、学校での勉強、家での勉強がそれなりに済んだので、学校では、気になっていたことを聞くことにした。
それは、数学の先生。
統計学の話を聞きたい。そう思っていた。
行こうとすると、すすむくんが進路に現れる。
「どこに行くの?」と聞いたので、そのまま伝える。
すると「僕も行くよ」と、彼もついてきた。
職員室に着くと、先生を呼ぶ。
丁度居たので、気になっていたこと、統計学について前提を話す。
「統計学って、普通であることが求められる場所では、とても有用性のある学問じゃないですか?」
先生は頷く。
「その空間では最強の学問とされるでしょう。」
すると、その中に、すすむくんが割り込んでくる。
「統計学って、最強の学問なんだ。」
そう言って、考えると、笑顔になる。
「じゃあ!
思想学は無敵の学問だ!」
それを聞いて、恥ずかしくなったが、心の中で凄いなと思った。
その時の先生の顔は穏やかに笑っていた。
大人の余裕かも。
───────
それから、テストの日がやってくる。
緊張したが、何事もなく全部すむ。
また数日経って、テストが返ってきた。
平均点より低かったが、目指していた場所までいける。
すすむくんはギリギリ追試を免れた。
部活動の皆も、それなりにとれたようで安心だ。
───────
僕は中学校の頃、テストの点が悪かった。
けれども、運はとてもいい。
選択肢問題は勘で半分以上は正解できた。
お父さんからは、何故かその運だけはいいと言われる。
それは、高校の受験の時もそうだった。
勉強は沢山したが、選択肢に分からない問題が沢山あって、頭を悩ませる。
けれども、時間がなくなったので、やむを得なく、自分の正解だと思う勘を信じて突き進んだ。
家では、レベルが高かったんじゃないか…?とお父さんが不安に言う中、お母さんはただ、「大丈夫…」と僕のことを信じた。
すると、運よく学校に受かる。
僕は嬉しかった。
これから、中学校の時、沢山考えていたことが実行出来るかもしれない。
希望がいっぱい詰まった未来が待っている。
そう、今までの失敗、悲しみは、未来誰かを幸せにするためにあるんだと…
──────
過去⑦
お月様にうさぎが住んでいました。
ぴょんぴょんとはねて、小さなもちの前にやってきます。
そして、そのもちを、持っていた杵でつきました。
もう一羽の耳が垂れたうさぎがこねます。
そうして、ペッタンペッタンとついていると、一方のウサギが言いました。
「もちをついたり、こねたりするの楽しいね!」
垂れたうさぎが答えます。
「うん、とっても楽しい!終わったら、この美味しいお餅が食べられる!」
2羽は少し休憩して、もちを食べてるところを想像しました。
とても美味しそうに食べてる姿が浮かんできます。
「わぁ、美味しそう!」
「うん、とっても美味しそう!できるのが楽しみ!」
2羽がそうして考えていると、向こうから、黒く全身濡れたウサギがやってきます。
気付いた2羽は、そのうさぎに近寄りました
「黒うさぎさん、こんにちは!」
「やぁ、君たちか。こんにちは!」
「うん!
今日も、泳いでたの?」
「そうだよ。
静かの海を往復ね。」
2羽はとっても驚きました
「わぁ、黒うさぎさん凄い!」
「君たちは何をしてるの?」
「もちを作ってました!」
耳が垂れたウサギが、うすにあったもちをみせます。
「良ければ一緒に食べませんか?」
黒うさぎは、「悪いね、いつもありがとう」と言いました。
そして、もちつきを再開です。
─────
作り終わって、3人でわけて食べました。
耳がたれたうさぎは、「美味しい」と言って食べます。
しかし、黒いうさぎは、なんだか険しい顔をしていました。
「どうしたの?黒うさぎさん」
うさぎが聞くと、上を向いて言いました。
「最近、生きる意味が分からなくなって」
うさぎと、耳の垂れたうさぎは顔を見合わせます。
「どうしてそう思ったの?」
「毎日泳いでるし、君たちは毎日、もちを作ってるだろう。」
2羽は頷きます。
「毎日それをすることになんの意味があるんだろうって」
耳が垂れたうさぎは言いました。
「僕は楽しいよ!
もちをついたり、こねたり、こうしてみんなで食べたりするのが幸せなんだ!」
すると、黒うさぎは言いました。
「そうか。でもな、僕は泳ぎながら思うんだ。」
そうして俯きます。
「なんで泳いでるんだろう。なんで生きてるんだろうってさ。」
「泳ぐの好きじゃないの?」
うさぎは首をかしげました。
「好きだよ。でも、どれだけしても、その気持ちはずっと続いてない。
最初だけなんだ」
「そうなんだ。」
「うん。こればっか続けて、そもそも、生きる意味ってなんだろって思って。」
うさぎは考えながら空を見上げます。
すると、綺麗な星が沢山にありました。
そして、1番近くには、青くて緑が一杯の星があったのです。
それを見ると、とても綺麗で、うさぎの目がピカピカと光りました。
耳の垂れたうさぎの肩を叩いて、「あれ!」と言います。
「わぁ、綺麗!」
耳の垂れたうさぎは呟きました。
黒いうさぎはボーッとそれを見つめます。
そうして、うさぎは、黒いうさぎに近寄りました。
「とっても綺麗でしょ?」
「うん。綺麗だと思う」
「ただ、これを見るためにうまれてきたんじゃないかな?
このちょっとした幸せを感じるために…」
「そうかな…?」
黒うさぎが疑問気に言うとこくりと頷きます。
「そして、僕は思うんだ。今、頑張るのは、誰かを幸せにするためなんだって。」
「どういうこと?」
黒うさぎはうさぎの顔を見ます。
「おもち作るの嬉しい。できると更に嬉しい!
それをみんなで食べるともっともっと嬉しいんだ!」
笑顔で黒うさぎに言いました。
「そうなんだ。でも、僕は泳ぎは自分のためだけにやってる。
誰かを喜ばせることはしてない。」
「大丈夫!僕は君の泳いでるところが見たいんだ!
君みたいに泳ぐことはできないから、気持ちよさそうに泳いでるところが見たい!」
うさぎがそういうと、黒うさぎはこくりと頷きます。
「ありがとう。良ければ見てもらいたいな!」
そこから、静かの海の近くで、もちをつくようになりました。
うさぎ2羽は、黒うさぎの泳いでるところを見て、より一層楽しくもちをついたのでした───────
数字ヒーロー②
ぶつぶつ何かを呟く男がいた。
みなは彼の名を、ナンバーマンと呼ぶ。
そして、向こうから彼を支えるナンバーウォーマンがやってきた。
2人は、数字界の平和を守るため、日夜奮闘しているのである。
「うぅ…。」
ナンバーマンはそう言って頭をかかえる。
「どうしたの?」
ナンバーウーマンはそれにすぐさま駆けつけた。
「4差別する言い分を聞いて、もっともだと思って…」
「どんなことを言ってたの?」
ナンバーマンは、起こったことを全部話す。
───────
「そんな事があったんだね…!」
ナンバーマンは頷いた。
「そう…」
「武器だった、肯定が使えなくて、もうどうすればいいのか…。」
ナンバーマンのその様子を見て言った。
「あなたは4についてどう思ってるの?」
ナンバーウォーマンはニコッと笑う。
「それは…昔から変わらず好き。」
「どんな意味があろうと、ナンバーマンはどの数字も同じくらい好きだ」
ナンバーウォーマンは「そう。」と頷いた
「そうだよ。忘れてた。数字が好きなんだ…」
彼は行ってくると言い残すと、どこかへと向かった
──────
今日はスペシャルです!
その声とともに、番組が始まる。
司会は変わらず前回と同じ人。
今回も引き続き、人気企画悪しき数字、4について。
そうして、司会の人が始めた。
「今日も沢山の4に対する批判や、クレームを頂いています。」
「一緒に根絶していきましょう!」
前回は乱入者が入って、ちゃんとした議論ができなかった。
けれども、今回は、前回よりも長く時間をとれるため、徹底的に4排他運動ができる。
司会者は強く握りこぶしを作った。
そうして、視聴者からの文を読もうとした時、「まてー」と声が聞こえてくる。
会場は慌てる声で一杯になる。
ナンバーマンがやってきたのだ。
「また懲りずに…」
会場の人はあきれたように言う。
「4差別について言いに来た!」
「それは知ってますよ」
司会者はナンバーマンに近付く。
「何故、また懲りずにやってきたのか。それを聞いている」
「それは…君に、そして、君たちに伝えたいことがあるから…。」
「また肯定ですか?それなら、意味は無いですよ」
「そうじゃない。」
「なんですか?」
会場はナンバーマンに視線を集める。
「僕は4が好きだ。数字に差なんてつけられない。みんなそれぞれなくてはならないもの。」
ナンバーマンは司会にたずねる。
「そこでたずねたい。君、そして、君たちは、何のために数字を嫌いで居るんですか?」
すると、会場から、「嫌な数字だからに決まってるだろ」と声が上がった。
それに同調するように、司会者も「このように、不快な気持ちになってる方が大勢いる。だからこそ、こうして4排斥運動をしているのです。」と。
「本当に嫌だと思う人だけ…?」
ナンバーマンがそう言うと、口角が下がる。
「たとえどうであろうと、この会場にいる方々、そして、これを嫌う大多数がある。」
「サイレントマイノリティがどうであろうと、多くを不快にするこれを排除しなければならない。」
司会者は強くそう言った。
「そんなに囚われる必要なんてないよ。」
「なぜだ?」
「本当に悪いものだったら、なくなっていくから。」
ナンバーマンは上を向いた。
「人は苦しみに快楽を見出しながら、強い苦しみには拒絶を示す生き物だからさ。」
「詭弁だ!」
外野からその声とともに、ものが投げられる。
ナンバーマンはそれに動じず言った。
「平仮名のしなどは、構成要素の1つ。ただ、それだけだよ。
数字も同じさ。」
「しかし、それが存在することによって、苦しむ人がいる。」
ナンバーマンは彼の目を見る
「本当に苦しんでいるのは君じゃないか?」
「なんだと…?」
その瞬間、司会者の心の中でガラスのような何かが割れた。
──────
小さい頃、死は悲しくて、悪いものだと教わった。
周りにも、4が嫌いだと思ってる人も沢山居て、それが当たり前だと思って。
ある日、ノートに間違えて、ボールペンで4と書いた。
僕はそれを消そうと思って、消しゴムで何度も何度も4にぶつけた。
けれども消えない。
それを繰り返してる内に、ノートはビリビリに破れた。
その時、決めたんだ。
4をこの世からなくすって。ビリビリに切り裂いて。
ある日、お便りを見ていた時、こんなものがまざっていた。
4は悪い数字って言われてるけど、野球では希望的なものでもあった。
4番バッターそれは、バトンを引き継いだ期待の星。
だから、悪いものじゃないと思うんだ。
私はそれを見て、中から省いた。
チェリーピッキングとも言われるかもしれない。けれども、この世界では当たり前のこと。
悪いものに対してなら、それは認められる。
──────
「私が苦しんでいる…?」
「うん。数字も自分のために苦しむ必要はないって思ってるはずだ」
司会者の男は頭を悩ませた。
この男は何を言ってる。数字に心はないはず…
しかし…とらわれる…?
「嫌なことのために、自分の身を苦しめる必要は無いんだ。」
「君は嫌い、ナンバーマンは好き。それでいいじゃないか。」
「なるほど…そうですか。分かりました」
司会者はそう言って帰った。
その日から、4差別の番組は放送しなくなったのである。
ナンバーマン、ナンバーウォーマンは戦う。
それは、数字差別が無くなるまで。
頑張れナンバーペア!