運動会!①
「校長先生、良かったのですか?」
教頭先生は窓の外を見る校長先生に話しかける。
「はい。この高校は、彼らのような明るい希望を持つ人を、そっと後押しするためにあるのです。」
校長先生はそう言うと笑みを作った。
「彼らを見ていると、10年、いいえ、20年前のことを思い出します。」
「その時も、彼らのような…?」
「はい。それはとても…。」
思い出に浸ると、ふと校長先生は呟いた。
「そろそろ、運動会がありますね。」
「えぇ。今年も、去年と違った色々な種目で、生徒達も楽しめそうです。」
「そうですか…。それは良かったです。」
「ところで、今回は…最後に、リレーを入れようと思います。」
校長先生は強くそう言う。
「リレーをするのは、20年ぶり程のこと。前回とはまた違った、新しいものが見えるかもしれません。」
───────
「ふふふ!」
僕は楽しくて笑った。
テストが終わってから、ずっと運動会のことを考えていた。
それは、戦略的なこともあるが、どうしたら、2位を取れるか?ということに尽きる。
普通であることを目指すため、クラスの順位も普通でありたいし、目指している。
運動会の種目も大体把握してるので、どうすればいいかも大体分かった。
なので、運動会が楽しみで仕方ない。
学校の部活動では、その時にあった活動をするため、皆は、運動会の思想と言って、それぞれ、それにあったことを実行していた。
おとねさんは、何か、したいものがあるらしく、それを先生に伝えていた。
すすむくんは何か暗記シートを使って、1人で念仏のようにとなえる。
他の人はそれぞれ運動会に向けた練習だ。
見た感じだと、僕に負けはない。その確信があった。
というのも、最後のリレーが特に点数に絡むからだ。
リレーであれば、自分の好きなようにペースを変えられるし、僕のクラスに、凄くはやいと言った人はない。
そればかりか、他のクラスに陸上系は固まっている印象だ。
そのことから、2位、3位は確定なのである。
3位をとったときのため、全体として2位をとるには、前の競技で、少しリードして置く必要がある。
そこで…!
──────
そして、当日になった。
「この日がやってきた!」
おとねさんは嬉しそうに言う
「おとねちゃん、スポーツ好きなの?」
しずくさんが聞いた。
「ううん。部活でね、人形集めって言うのがあって!」
「そうなんだ!どんなものなの?」
しずくさんは目をキラキラさせて聞く。
「1番集めた部活の人が、そのお人形さんをもらえるんだって!」
「えぇ!?そんなのがあるのっ!」
「うん、まだあるかは分かんないけど!」
「あるといいな!」
2人はえへへーと笑いあっていました。
そうして、開会式が始まります。
最後に校長先生の話になりただ一言。
「今日は皆さんが楽しめればと思います。」
──────
僕は2組、すすむくんは3組だった。
違うクラスでありながら、なんだか、すすむくんが気になった。
部活動中、ずっと何かをしている。
その姿を見てきたから、なんだか、手強い相手のように感じた。
敵情視察!僕は心の中でそう呟くと、少し時間があったので、すすむくんの元へ向かう。
すると、椅子に座り、ノートに向き合って、集中している彼の姿が。
「すすむくん!
何してるの?」
僕が話しかけると、驚いて、ノートを隠した。
少し悪いことをしたか...?
僕は様子を見た。
すると、彼は僕の顔を覗く。
「ちょっとね。勉強してた。」
興味がある。すぐにその言葉が浮かんだ。
「なんの?」
「運動会だからスポーツのこととかだよ!」
そう言って、ノートを見せる
上の方には、100m走など色々なことが書いてある。
下の方に、上の用語の反復していた。
「運動会関係ない...!」
「そうかな?」
すすむくんは思いついたように言う。
「これとか関係あるよ!」
それは、競歩のページだった。
ロスオブコンタクトや、ベントニーなど書かれている。
「その2つは、反則なんだ!」
そう言って、すすむくんが説明しようとした時、集まらないといけない時間になった。
最初の種目は散歩。
かれの競歩についての調べも一致したのかもしれない。
けれども、まだ内容が分からない。
先生が、直前になってルールを話す構成で、ほぼ毎年、新しい種目がなされるという。
今回も何があるのか分からない。
ルール説明は、いなし先生が行った。
「今回の、散歩種目、それは競歩とは関係ありません」
序盤で、すすむくんの考えが否定された。
僕は彼のいる方向を。
けれども、大丈夫そうな彼を見て、なんだか安心した。
「クラスで、5名代表の人を選び、散歩しながら何かアイディアを考える。」
「そして、校長先生に話して、その中で、特に良かったクラスから得点が振り分けられていきます。」
僕はそれを聞いて、そっと頭の中に浮かべた。
散歩。それは、新しいこと、困ってる問題など、少し冷静に考えられる時間。
何回か、それに助けられたことがある。
僕は心の中でそっと納得した。
ところで、そのメンバーは、クラスそれぞれ、思想学部の人達がこぞって選ばれた。
──────
運動会!②
1組はおとねさん、しずくさん、2組は僕。
3組はすすむくんとみちかさん。
アイディアということで、そういう事ばっかり考えてそうな思想学部のメンバーが選ばれた。
「今回はみんなそれぞれライバル!手加減なしで真剣にしよう!」
すすむくんは元気にそう笑う。
そして、始まったのである。
何にしようか...
校長先生に言うのだから、盆栽や、ゲートボールなどの取っ付きやすそうなところから...?
いいや、でも、校長先生の趣味は知らない。
仕方ないので、他のクラスの人を参考にしようと思った。
おとねさんとしずくさんが仲良く隅に咲いていた花を見つめている。
「しずくちゃん、とっても綺麗!」
「ね、綺麗!」
その中に、かなでさんもやってくる。
1組は仲良さそうに歩いたり、座って休みながら花を見て話していた。
3組は...?
すすむくんは1人で歩きながら、途中、メモ帳を取り出してそこに何か書き込む。
みちかさんはただ微笑みながらその様子を見ていた。
そろそろ考えなければ...そう思いつつも、アイディアが出ない。
情報が何も無いから。
それなら、どうするか...?
ふと浮かんだ。
自分の好きなことをしよう。
本当にできない時は、無理に変える必要はない。
そう思うと、なんだか、心が落ち着いていた
時間になって、それぞれ、みんな伝える時間に。
それぞれ代表の人が1つ伝える。なるべく、みんなの考えをあわせたものにする。
まずは1組からだった。
メンバーはみんな女子で、花みるの楽しかったねや、お話するのが楽しかったと感想を。
その中で、おとねさんが代表になった。
自信を持って、校長先生のところへ
そして、「私のアイディア!それは...」
「学校をお花や、ぬいぐるみさんで一杯にすること!」
笑顔でそう言いました。
校長先生はそれにただ、笑います。
次は僕のクラス...
しかし、他のメンバーは、楽そうだったからこれにしたや、思いつかないから~と参考にならない。
仕方ない、僕だけのアイディアで...。心の中でそう思った。
「僕のアイディアは、数学での統計学の勉強時間を多くすること!」
校長先生はただ、頷いていました。
そして最後。すすむくんのクラス。
メンバーは、みんなすすむくんに任せると、僕と同じ状況に。
結局、アイディアという考えるのが広く難しいテーマでは、中々思いつかないのだった。
すると、すすむくんは「僕に任せるんだ!」と強く握りこぶしをつくる。
校長先生の前に行くと、「これは全員にも言えるアイディア!」と皆にも目線を送って言う。
「どんなことでも、思想学部に任せるんだ!」
ただ一言。
「これが僕のアイディア!」
とてもプレッシャーのかかることを...
心の中でそう思うが、やっぱりすすむくんなんだな。と思って、なんだか嬉しかった。
そうして、結果発表。
校長先生は迷わず笑って言った。
「どのクラスもとても良かったので10点ずつです。」
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それから色々な種目があって全体に戻る。
「ついに来たか...。」僕は呟いた。
この種目、縄切りは、僕が1番戦略として考えていたこと。
時間をかけたので、ここだけは1番をとりたい。
内容は、切り込みの入った少しふとめの縄を、クラスみんなが引っ張る。
そして、はやくちぎれたクラスからポイントが入っていく。
昔1度やってたらしいので、調べることができた。
クラスのみんなにも、戦略を伝えていたので上手くできるはず...。
その確信があった。
全員の体重を先生などに頼んで、2つに分けて合計が同じくらいにしてもらった。
そして、手の力は加えず、ただ、後ろに力をかければ、重さが同じなので釣り合う。
そうして、種目がはじまった。
先生の合図でクラスのみんなは後ろに思い切り体重をかけていく。
すると、段々縄が切れていった
──────
僕の思った通りにすすみすぎて、少しの驚きはあったが、縄切りの種目では1位を取れた。
次の種目!
僕はまた気を引き締める。
散歩と同じく、まだよく分かっていない。
以前にあったことがあるらしい。
けれども、今回もそれと同じかは分からない。
何年も昔にやったらしいから。
その種目名は鳥に餌やり。
校長先生の飼っている3羽のその鳥に餌をあげられたクラスから順番に点数が入っていく。
時間は15分。
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はじまってから、2~3分経ったが、一向に進まない。
「おいで~」と餌をふる同級生。
しかし、何も起こらなかった。
この競技はちゃんと調べられていなかった。
昔どんなことがあったのか、今の2、3年生に聞いてもやっていないと言われて諦める。
どうしたものか…。
そうしていると、説明した先生がみんなの前にやってくる。
「大変そうなので、少しヒントを言います。」
「5文字の言葉。それをいつも食事の時、校長先生は、鳥に向かって投げかけています。」
僕は「なるほど…」と呟いた
「しかし、注意が必要で、3羽それぞれ違う言葉で食事の時間を決めていました。」
先生はそう言うと、励まして、その場を離れる。
「5文字の言葉か…」
僕はそうつぶやくと、学校の校長室の方を見た。
先生はどんな言葉を投げかけているのか…?
丁度その頃、全クラスの元へ誰かが向かう影があった。
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運動会!③
パイロット、ピーコック、あさぼらけ。
色々な言葉をみんなは試した。
けれども、中々正解にたどり着けない。
そんな中で、誰かがやってくる。
みんなはそれに少し視線を奪われる。
男は言った。
「思想学部!私はこの学校で、この種目をやったことがある。」
僕は「えっ!?」と驚く。
よく見てみると、彼は顧問になった清掃の人だった。
「後輩である君達にヒントを出そう。」
それはありがたい。
心の中で僕は呟く。
「俺の頃は、1組が“愛”、2組が“趣味”3組が“楽しい”だった。」
「なるほど…。」
「君達ならこういうの得意だろ。」
そう言って、清掃の男は帰っていった。
つまり、方向性は似ているってことか…?
共通していることは、全てポジティブな言葉…?
僕はそう考えると、そっと口ずさんだ。
「ありがとう…」
すると、鳥が僕の方へやってきた。
すぐに食事を渡す。
「答えはありがとうだったんだ…」
A組は、言葉を探すのをほぼ諦めてしまった。
女子は美容について話している。
その中で、美容と言えば…と、美容院とか、病院は5文字だねと、結局、内容は元に戻る。
その最中、びょうから始まる言葉をしずくさんが考えていた。
「びょうどう…?」
すると、しずくさんの元へ、鳥が飛んでいく。
続いて1組も時間内に終わった。
最後は3組。
残り時間もわずか。
しかし、一向に鳥は食べようとはしない。
すると、すすむくんが、「僕に任せるんだ!」と言った。
何をするのだろう。
僕は気になって、それに視線を奪われる。
「僕は思想学部に所属している。すすむだ!」
急に自己紹介!?
思わず、心の中でとても驚いた。
「思想学部の説明をしよう。
それは、一人一人が、いい未来、理想の未来に向かって自分の目標をたてる。」
すると、彼の元へ、鳥がやってきた。
しかし、彼は、話すことに夢中になっている。
いちかさんが影から、その鳥に餌をあたえた。
こうして、全クラス、時間内に完了させることができた。
3組は残り30秒の時の出来事だったので、みちかさんの機転に助けられる。
次の種目だ。
そう思った時、近くに数学の先生が居た。
「“平等”、“ありがとう”、“いい未来”か…面白い。」
ただ、そう呟いた
───────
それから色々あって、今度は、部活動それぞれの種目になる。
集まった時のおとねさんは、なんだか嬉しそうにしていた。
それもそのはず、次は彼女がやりたがっていた、ぬいぐるみ集め。
前回、残っていたぬいぐるみが沢山あって、引き継いで使おうとなった。
勝った部活から、好きなぬいぐるみを一人1つずつ貰えるという。
しかし、人数的な不利もあるだろう…。
そう思っていたが、案外、そうでもないらしい。
3つにわかれ、最初は20個、規定の場所に一人1つずつぬいぐるみを持って置く。
2番目は、50m×人数分走ることになる。更にぬいぐるみを持ちながらなので、走りずらい。
最後は、愛を試す、言葉を使った種目らしい。
最早、運動なのか分からないが、どの部活も活躍できるように構成されてるらしい。
1つ目は、人数が多いところが有利、2つ目は、少ない方。最後は平等。
もう1つだけ、気にしなければいけないことがある。
それは、人形を大事に扱うこと。
適当と感じた部活は、失格になるという、その人の裁量にかかったところもあった。
種目が始まる前、顧問の先生が僕らの前にやってくる。
そして「懐かしいな」と呟いた。
「そうなんですね。」僕がそう言うと、彼は続ける。
「私の1年の頃も、運動会があったんだ。
実はその時、1番活躍したとして、表彰されたんだよ」
「へー。凄いですね」
「あの時は、今と同じくリレーもあって。同じの部のやつと一緒に走ったんだ。」
「2年以降は何も無かったが、いい思い出だった…」
顧問の先生はそう言って、懐かしそうに学校の方を見つめる。
僕はこくりと頷くと、ふと、鳥の時のことを思い出した。
「前の種目、ヒント教えてくれてありがとうございます。おかげで、ひらめきました。」
「いやいや、私は何もしてないさ。」
「それより、そろそろ次の始まるぞ。」
思想学部はすぐに種目に向かう。
残った顧問の先生は「明日か…。昔も今も、いい言葉を言うじゃないか。
なぁ、そういちよ。」と呟いた。
男の頭には、懐かしいそういちとの思い出や、校長先生が言ったそれが浮かんでいた。
───────
「楽しいじゃね?」
鳥に餌やりの時、呟いたその言葉、それが正解。
更には、最後のリレーで、少しライバル意識を持っていたそういちを抜かし、1位になった。
クラスを優勝に導く、立役者となったのだ。
私は「やったぜ」と呟いて、とても喜ぶ。
表彰され、その後、校長先生の話になった。
「皆さん、今日は楽しめたでしょうか?
私はとても楽しませてもらいました。」
そう言って始まったのを覚えている。
先生は大空を見上げるように言った
「楽しいこと、それを得るためには、趣味が必要。」
「しかし、それだけではまだ不十分。愛もなければいけない。」
「あなた達の明日、それが素晴らしいものであること…それを願っています。」
私はそっと、「そうだったな…」と呟いた
──────
運動会!④
始まる前、僕は頼んで、2番目の種目を自分1人でやることを言った。
50m×6のぬいぐるみを持ちながら走ること。
運動は苦手だったが、最後のリレーで、疲れてるからとの理由作りのためでもある。
そうすれば、3位でも不自然ではない。
今からリレーが2位、3位でも、順位が2位になれる差だった。
ここまでとても順調に進んでいる。
僕は心の中でそれをとても喜んだ。そして、今日が、この部活種目を終えれば、とても楽な一日になると嬉しくなっていた。
───────
そして、1種目がはじまる。
おとねさん達は、ゆっくりとぬいぐるみを、規定の場所へと置いていく。
すると、すすむくんが後からやってきて、少し雑にその場所へと置いた。
すると、すかさず、おとねさんが頬を膨らませる。
その様子に気付いて、ごめん。と、置いたぬいぐるみと、次からをとても慎重に運んだ。
ところで、他の部活では、ぬいぐるみが欲しくない人が、雑に置いたことで、部活ごと失格になっていく。
その2つをみて、気を引き締めた。
運良く、すすむくんのことは見られてないのか、ギリギリのラインだったか、失格になってはいない。
これから気をつけよう…。
そして、20終えると、他の部活は失格と次の種目へと全員終わった後だった。
ここから挽回するのは厳しいか…?
次の種目で、どれだけ、進めるかにかかっている。
まさか、こうなるとは予想していなかった…。
始まる前、どうやって、ぬいぐるみを持とうか…と呟いたところ、おとねさんは言った。
「やっぱり、お姫様抱っこじゃないっ?」と。
それを採用し、僕は、ぬいぐるみをお姫様抱っこで、雑に扱わないように気を配りながら走った。
その最中、おとねさんの目線が気になる。
それもそのはず、おとねさんは、この種目がやりたいと思ってて、更には、先生にお願いするほどだった。
そうしてまでなった種目だから、思い入れも強いだろう。
その後、ビリだったところから、種目のおかげで挽回し、いい勝負に持ち込めた。
色々あったが、自分の思っている通りに進んでいる。
僕はそう考えると、更に嬉しくなった。
ところで、どうして、こんなにぬいぐるみがあるのだろう…?
───────
残ったのは、少ない部活。
最後の種目は、先生に認められないといけない。
僕の部活から出るのは、おとねさんと、みちかさん。
先に居た部活の人が、並んで、どんどんと首をふられる。
何度でもチャレンジしていいのだが、いいをもらうのは難しい。
おとねさんの番がやってきて、彼女は「ぬいぐるみが欲しい!この気持ちは、誰にも負けないんだから!」と。
けれども、ダメだった。
鳥の時のように、何か決まったフレーズがあるのだろう。
しかし、前回は、この種目は無かったため、傾向は掴めない。
どんどんと並び直して行く中、次は、みちかさんの番。
これは長引きそう…。
僕がそう考えると、先生は決まって「あなたはぬいぐるみが欲しいですか?」と聞く。
みちかさんは「はい!」と大きな声で言う。
「可愛い人形さんばかりで、正直に言ってしまうと欲しいです…。」
「そうですか。」先生がそう言うと「でも…」と続ける。
「それよりもっと、できることなら、私は部活の皆や、欲しいと思ってる皆にあげたいです…!」
先生は目を閉じて言う。
「あなたの部活の優勝です。」
おとねさんはとても喜んだ。
その様子を見て「この部活の人はみんな凄いんだな。」と呟く。
その時の空は、とても青かった───────
そして、欲しいぬいぐるみを選ぶことに。
おとねさんは複数あって悩んでいた。
偶然、すすむくんが興味なさそうにしてたので、誘っておとねさんの欲しそうなぬいぐるみをとる。
そして、彼女にあげた。
それにまた笑顔をつくった。
彼女の笑顔。とても眩しい。
しかし、他の部活でも、欲しそうにしている人が居る。
みちかさんはそっとその人にぬいぐるみをプレゼントした。
おとねさんも、僕らがあげた2つを、他の部活の人に。
みんな優しいな…。
心の中でそう思った。
丁度その頃、校長先生が、この場所へとやってくる。
種目を見に来たのだろう。
しかし、もう終わってしまった。
けれども、先生は、みんなの様子を見て、「ぬいぐるみが欲しい人。
みんなにあげます。」と。
───────
最後の種目。
それはリレー。みんながバトンを繋いで、ゴールへと。
しかし、僕は、勝とう勝とうと思っているこの中で、1人だけ、負けようと思っている。
普通であるために!
僕の自信は揺るがなかった。
わざと負けよう!心の中でそう決めていたから。
しかし、驚いたことに、僕と走る3組の人がすすむくんだったとは…。
しかし、敗北は揺るがなかった。
今日はいい夢が見れそうだ。
僕がそう言って、浮かれていると、合図の音と同時に、最初の人が走り出す。
とても拮抗した勝負。はやくて、みんな真剣だ。僕はそれに見とれていた
──────
運動会!⑤
2番目、3番目とバトンが渡されていく。
どのクラスも、みんないい調子で、差がほとんどない。
それを見て、頑張ってるな…。と少し罪悪感が心に。
しかし、僕が心で決めたこと。
普通になるためには、どんな状況であろうと、今回は負けなくちゃいけない。
そうしていると、1組はしずくさんにバトンが渡った。
とても頑張って走っている。
なんだか、その様子に応援したくなってきた。
直後、彼女は地面につまずく。
そうして、その場で泣いてしまった。
すると、同じクラスの主に男子から、ブーイングが巻き起こる。
頑張ってる中で、こうなってしまえば、イライラしてしまうのも仕方ないのかもしれない。
けれどもこの状況は可哀想だ。
そう思いつつも、何もできない自分が居た。
助けてあげたいのは山々だが、もうすぐで自分の出番が来る。
心の中で謝った。
そして、位置に着く。
2組と3組が、とても拮抗してやってきた。
ふと、すすむくんの様子を見ようと隣を向くと、そこには誰も居ない。
バトンが渡されて、走りながら、どこへ…?とチラチラ確認すると、彼はしずくさんの元に居た。
ブーイングをおくっていた男子達に、ガオーと言って辞めさせる。
そして、「しずくさんなら大丈夫!」と笑った。
彼女はそれを見て、少し泣きながら、また走り出す。
すすむくんはそれに安心すると、自分のところへ戻り、バトンを受け取った。
僕はそれを見て、やっぱり、すすむくんだな…。となんだか嬉しかった
───────
すすむくんは、さっきの事で、とても同じクラスの人に言われる。
それもそのはず、そこから1組が3組を抜かし、全体でも、リレーでも3組は3位になってしまった。
しずくさんに何もしてなければ、1位もおかしくはなかったはずが。
人思い、仲間思いな人。
終わってから、すすむくんはおとねさんに感謝と沢山謝られていた。
ただ、それに笑う。
さっきの責めがなかったような、穏やかな笑い。
ところで、僕はすっかり忘れていた。
2位を目指していたことを…。
気付けば、2組はリレー1位で、全体でも1位。
僕が考えていた普通計画はなくなってしまった。
そして、閉会式が行われた
後は、表彰の発表、校長先生の話と歌。
表彰は関係ないが、歌は、毎年変わっていると言う。
今朝配られたものなので、歌えるかどうか不安だ。
表彰が行われる。
特にこの運動会で活躍した人。
それは誰なのだろう。様子を見ていると、発表された。
「間分太くん」
それは僕の名前だった。
え、僕!?
心の中で、思いつつも、振り返ってみれば、縄きり、鳥と、1位に貢献する。
更には部活でも、みんなをビリから救い、リレーでは、間接的に、とても重要な局面でクラスを1位に。
そうだった…。
今日やけに運がいいと思ったら…。
僕はみんなの前にでる。
「今日は頑張りましたね」と。
みんなの前で一言を求められる。
緊張したが、すすむくんのことを思い出して、決意する。
「今日頑張れたのはみんなのおかげです。ありがとうございます!」
僕はそのなかで、すすむくん、おとねさん、みちかさん、しずくさんを見た。
みんなが居なければ、何かしようと思わなかったし、とても大事なものを教えてくれた気がした…。
僕はみんなの中に戻る。
そして、校長先生の話がはじまる。
「今日は1日、お疲れ様でした。皆さんは楽しめましたか?」
「私はとても楽しめました。人との繋がり、助け合い、誰かを守ること。」
「とても多くのことが見れました。やって良かったと思うのです。」
「ところで、美愛を知っていますか?これは私が考えた言葉で、美しいもの、いいものを愛するという意味があります。」
「この言葉の通り、あなた達には、悲しいもの、苦しいものばかりではなく、その中にある美しいものを見て欲しいのです。」
「世界は悪いものばかりではなく、いいものも沢山あるのですから。」
校長先生はそう言うと、話は以上ですと下がった。
次は歌の時間。
音楽が流れてきた。
わたしには ひとをあいする
ゆめがある きぼうをしんじ つらぬいてゆく
かなえたい あなたのゆめは なんですか たのしくいきる あかるいみらい
おおくある たくさんのゆめ そのなかで わたしはいきる ただげんざいを
──────
なんとか歌いきった。
みんなもそうだが、ずっと棒読み。
はじめての歌だから仕方ない。
運動会はこの歌で終わった。
色々なことがあった…。振り返れば、長く色々あったなぁと浮かんでくる。
更には、明日以降、賞状をみんなの前で貰わないと。
普通を目指していた僕の生活が…。
そう思いつつも、楽しかった自分がいた。
今日はありがとう。心の中で、みんなにもう一度感謝した────
部屋で校長先生が1人。
「今回は、あの頃と同じで、また違うものを見ました。
これからが楽しみです。」
「期待してますよ、思想学部さん」
そう呟いた──────