思想学部32

<h3>大きな変化</h3>

「シソウくん。」

学校で誰かにそう呼び止められた。

振り返ると、違うクラスの人が居た。

名前はユルムくん。

テストで学年で10位以内に入ったことがある勉強ができる人だ。

しかし、関わったことは1度もなかった。

「どうしたの?」

「シソウくん。突然で悪いけど、話があるんだ。」

「なにかな?」

「ここじゃ、ちょっと話せない。人のいないところで…」


それから場所をうつす。

校庭裏に行き、ユルムくんはやけに人がいないかと気にかけていた。

「こんなところで何の話?」

「現在の規制についてどう思う?」

僕は考えたが、思い切って言う。

「少しやり過ぎなところがあると思うんだ。」

「そうだよね。」

彼はこくこくと頷いた。

「人を見てみれば、みんなどこか暗そう。」

「勘違いの可能性はあるが、創作の規制が進みすぎたことによって起こったことだと思うんだ。」

「なるほど。ありがとう。」

彼はそういって僕の肩を触る。

「良ければ、僕と協力しないか?」

「協力って?」

「創作の規制緩和。創作が規制されたことにより、苦しんでる人を味方につけるんだ。」

彼の説明が終わり、納得すると、それらをする前に1つ聞いた。

「どうして僕に話したの?」

「昔、君が先生に、創作のことを言われてるのを見てたんだ。」

なるほど…だからか…。

「君なら大丈夫って確信があった。」

それから、2人で、少しずつ仲間を増やしていった。

思ったよりも、創作規制によって困ってた人も多く、協力者はどんどん集まった。

そして…

ユルムくんは、クラスみんながいる前に立って言う。

「創作規制、みなさんはどう思いますか?」

1人が「なんでそんな話をするんだよ。」と。

だが、直後、そのクラスの半数が「おかしいと思う」と立ち上がる。

そう。ここに居るほとんどの人は、以前、一人一人話して仲間になってくれた人達。

最初に言った一人は口をつむいだ。

これの目的は、多数派の専制

ただ、多くの人が、賛同しているからという理由で、少数派を叩こうとする人間もこちらに引き込むこと。

本当に厄介なのは、創作に対し憎しみのような感情を抱いてる人。

だが、余っ程、そんな人はいない。

どんどんとその波は広がっていった。

最近僕の考えを否定していた友達は今の状況から「ごめん」と謝ってくる。

「大丈夫だよ。僕が君の立場だったらしてたかもしれないし…。」

それから、僕の学校のほとんどの生徒が、創作緩和のうったえをおくった。

最初はダメだったが、その波は他の学校にも広がり、収拾がつかなくなる。

────────

リアルは言った。

「父さん。」

「あぁ。分かっている。」

「創作を規制したことで、全体の成績はあがると思った。

しかし、変わらず、そればかりか中には下がったものもいる。」

「考えを改めなければなるまい。」

リアルの父は思った。

しかし…。変わらず、規制は続行させる。

勉強を学んでいくうちに分かった、この真理を…。

頭の中に1冊の本が浮かび上がる。

リアルはただ、父の様子をじっと見ていた。

────────

それから数日が経ち、創作規制が緩和された。

しかし、僕にとってはまだ、不服なものであることは変わらない。

ただ、大きな一歩であったのは事実だった。

「シソウくん。」

「あぁ。ユルムくん。」

「ありがとう。緩和されたのは、君のおかげだよ。」

「君の行動力が素晴らしかったから。僕は特に何もしてない。」

「いいや、君が最初に、協力してくれるって言ったから。僕はその言葉に励まされたんだ。」

「ありがとう。」

「こちらこそ。創作を愛するものとして、この緩和はとても嬉しいことだった。」

僕はふと疑問が浮かぶ。

「そういえば、どうしてきみは創作規制緩和を…?」

「あぁ。そのことか…。実は僕の父は、歴史などの小説を書く人だったんだ。」

「僕もその本が好きだった。だけど、規制されてから、父の様子は暗くて。

大切なものを1つ失ってしまったような…。」

少し寂しそうな顔を見せると、彼は続けた。

「だから、ありがとう。」

「こちらこそ。」

今回、許されたのは、学問系の創作。

あくまで、存在しないものなど、創作がはいるものは大体禁止されたまま。

ギリギリ、少しはいるくらいなら大丈夫と…。

何故、創作を禁止にするのだろうか…?

その疑問が頭の中に浮かぶ。

すると、パッと世界が戻った。

「もし、困ったことがあったら協力したい。いつでも言って欲しい。」

「ありがとう。」

彼はそのまま僕の元を去った。

それから、トモさんと会う。

「創作規制緩和、良かったね」と笑った。

「うん。」

複雑な思いながら、こくりと頷いた。

ただ、大きななにかが変わってる

─────────

<h3>練習試合Ⅲ</h3>

「今日、ありがとうございます!」

「ううん。すすむくんや、みんなこそありがとう。今日は頑張ってきてね!」

その後、顧問の先生は「私にはこれくらいしか…」と呟く。


今日は練習試合。僕の学校でする。

前回、優勝したから、当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。

しかし、心の中に不安があった。

優勝したからこそのプレッシャー。自分は上手くできるだろうか…。

そもそも、当たり前のことになりすぎて、どうやってたかすらもあやしい。

相手の学校は一回戦で負けたらしいが、今回はとても力を付けているという。

そもそも、前回、準決勝であたった学校とだったため、相手が悪かっただけかもしれない。

ただ、すすむくんの方をみると、とても楽しそうにしていた。

どんな考えと出会えるのか。

それは彼の喜びの一種だった。

相手の方も5人以上居て、一応、試合はできるが、折角ということで2人ずつの3つで同時に行うことになる。

こっちは最初、ふらさん、しゅごくん、みちかさんが行った。

「みんな応援してる!」

すすむくんは元気に言った。

僕が周りを見てみると、1年生が一人足りない。

「れんかさん休みなんだ…。」

独り言のつもりだったが、隣に女の子がやってきて言った。

「そうみたいです。」

「ゆめさん。」

「はい!多分、自分にできることを頑張ってるんだと思いますよ。」

「そうなんですね。」

「はい。」

「ところで、多分、今回が試合前最後の練習試合になると思います。」

「はい!次回に向けて、しっかり楽しみましょう。」


それから試合がはじまる。

最初に目がついたのは、しゅごくんの試合だった。

とても気合いが入ってる。一番最初にこえをあげた。

「僕の思想は大切な人をまもること。何よりも大事。」

相手の人は「なるほど。」と頷く。

「次は僕の番か。僕の考えは嫌いな人。」

「嫌いな人?」

しゅごが疑問に思うと、ふと、1人の男の顔が浮かんでくる。

「そう。嫌いな人。」

「それがどうしたんだ。」

「嫌いな人、それはどんどんと色が濃くなっていく。」
 
頭の中にどんどんと、彼の姿が広がっていく。

「嫌いな人、必ず人には1人以上それが居るだろう。」

「君の頭の中にも、それが現れてるはずだ。」

「あぁ。いるよ。」

「その人が憎くないか?」

「憎い。」

「だが、否定しようものなら、どんどんと広がっていく。君の中で、離れようとしても離れない。」

しゅごは頭をおさえる。

「嫌いなものの顔がそんなに嫌かい?」

だが、しゅごは笑いながら言う。

「いいや。俺には大切な人が居る。」

相手はその様子に驚いた。

「大切なひとが、そいつの影を消してくれる。」

「自分がすることは、嫌いなやつを憎むことじゃない。大切な人を守ることだ。」

「僕の負けだよ…。」

そうして、しゅごくんが勝った。

「彼、凄いですね。」

ゆめさんは笑顔で言う。

「ですね。」

それから、今度は、ふらさんの方をみる。

すると、なんだか、場がかたまり、すすんでないように見えた。

「何かあったんですか?」

「はい…。」

ゆめさんは下を向いて言う。

「何があったんですか?」

確か、ふらさんは昔、試合でとても活躍してた。

「ふらお姉さんはあなたの考えを肯定したいって言ったんです。」

「そして、相手の人は考えをいいました…。」

「考えって…?」

「それは…。」

彼女が言おうとした時、ふらさんの相手のひとが言った。

「特に話すことはないようだね。じゃあ、僕の思想の説明をしよう。」

「はい…。」

「偉人だろうと、頭のいい人間だろうと、言葉を使えば偏見になる。」

「はい…。」

「言葉自体が偏見であるのだ。石を見て綺麗だと思う。ただの石だと思う。」

「それも、ただ、一方向からしか見てないただの偏見だ。」

「そうなんですね…。」

「あぁ。学問も、物事を、1つの側面でしか見ていない。この世は偏見で、できている。」

僕は思う。

「なるほど…。」

彼の考えを肯定していいのか、はたまたいけないのか。それが分からない。

彼はただ、真剣に自分の考えを主張している。

「私の負けです…」

ふらさんはそう言って戻ってきた。

「ごめんね…。」

ゆめさんにそう言った。

「大丈夫です!頑張りましたね!」

「ゆめちゃん、ありがとう。」

「いえいえ、ふらお姉ちゃん!」

それから対戦は続いて、5戦行われる。

3勝2敗でなんとか勝つことができた。

しずくさん、ゆめさんは見ているだけにして、相手の方も1年生が数人居たので丁度良かったらしい。


ゆめはさんは言った。

「私も協力できたら…」

ふらさんは彼女を慰める。

「ありがとう。1年生さんだし、今は、みんなを見ることが大事なのかも…。」

「なるほど!ありがとうございます!これから、頑張りますね!」

「うんっ!」

最後に、顧問の先生はみんなを集め「頑張ったね!」と言った。

<h3>過去物語6</h3>

あるところに一冊の本があった。

それは色んなことが書いてあって、色んなひとが居て、色んな考えがあって…

でも、お互いを認められず、たまに喧嘩してしまったり

だけど、仲直りしてギクシャクしてるけど、なんとか今までやってきた。

楽しいことはあって、ありがとうと言い合ったり励ましあったり。

苦しい時はそっとして、時にはなぐさめたりもした。

それは理想の形で、他にも沢山あった。

だけど、変わらないのは、みんなと暮らしてるってこと。

一人の時もあるけど、誰かと関わって楽しかったり、苦しかったり。

ぼくの頭の中に浮かんできた物語。何かの本の感想みたい。

それがなんなのか分からない。だけど、その一冊の本がとても気になってた。

どこにあるのかは分からない。

だけど、閉まっておいたら、いつかは出会えるかもしれない。

そう思った。

ところで、僕が最初に出会った物語は何だったろうか。

あの人が僕に沢山の物語を教えてくれたし、色々買って渡してくれた。

ぼくはそれを沢山読んで、自分も色々と創作をしてみたいと思った。

今は見れて無いが、あの時に沢山読んできたから浮かんでくる。

それを見てる時間は、何故か、感情が揺さぶられたり、今という時を忘れてしまう。

自分というものが居ない世界。それが、創作の中にはあった。


ところで、ある日、ぼくは親に聞いた。

「はじめて僕がみた物語って何かな?」

「分からない。けど、積んでしまってある初終島の絵本の中にあるんじゃない?」

お母さんはそう言って、ひっぱりだす。

そこには色々あった。

そして、ひとつとりだして言う。

「そうそう、この本、小さい頃、お母さんが読んでくれたんだ。」

手にあったのは、『ほかのせかい』と書かれた絵本だった。

「どんな話か忘れちゃったけどね…。」

「シソウくんも、探してみたら、もしかしたら見つかるかもね」

そのままお母さんはその場を離れた。

残ったぼくは絵本、童話を探す。

いろいろな本がそこにあった。

動物達がお互い自分のできることを頑張る話、月にいるうさぎの何をしてるのか?の話などさまざまあった。

結局、自分が読んでた本は分からなかったので、ぼくは何冊かめくってみることにする。

最初に見たのは『きみとぼく』という本。

主人公が、一人ぼっちの中、進んでいくうちに少しずつ仲間が増えていく。

そして、“因縁のきみ”という存在とあい、そこで話し合い、友達になろうという物語。

見たことあるような、ないような…。

結局分からなかったので、次の本にうつった。

次は『力があればなんでもできる』という本。

主人公はとても明るかった。

だけど、力は殆どなかった。小さい小さい蚊。

色々に走り回って、そばに居た誰よりも行動してた。

他の虫が、「どうしてそんなに動き回れるの?」と聞く。

「仲間のため。これからいっしょに生きていく仲間の…」

そう言って、毎日、動き回った。

またある日、虫はたずねる。

「どうしてそんなに小さいのに力強いの?とても大きな生き物に挑んでいける。」

「分からない。だけど、しようと心に強い思いがあるから。」

これも知らない物語。

この蚊という生き物。

この世界には存在しないが、他の世界では、ある種、人間の小さな敵として登場する。

小さいながらも、人間にとても印象を残してる生き物らしい。

そろそろ、最後にするか…

ぼくはどの本を読もうかとまわりを見て回った。

しかし、最後に良さそうな本は見つからない。

仕方ない、これをよんでみるか。

そう思って、お母さんが言っていた、『ほかのせかい』という絵本をとった。

このせかいには、ふたつのせかいがある。

おたがいのせかいはかんしょうしあって、かなしいときはかなしい。

うれしいときはうれしい。

一方の世界。

いろいろなことをしって、いろいろなことを発明していました。

その知ったことをもらって、こっちも発明していきます。

世界はどんどん裕福になっていきました。

だけど…

恥ずかしい。そう言って、自分の思いを、ぐちゃぐちゃに隠してしまいました。

すると、もう1つのせかいで色々な場所で、火事がおこって、燃えてしまいます。

そのぐちゃぐちゃに隠した世界に、不幸がおとずれました。

悲しいことがあったので、ふたつとも幸福になりたいと願うようになりました。

お互いに協力して、いい世界を作ろう。

そう思って、楽しい世界に思いを馳せました。

すると、その時から、ふたつのせかいは幸せに、楽しい世界に変わっていったのです。

最後のメッセージに

ずっと、君がそばにいる。

と書かれていた。

この本。聞いた事がある。

しかし、たぶん、これじゃないだろう。

いろいろな本があった。またいつか見つかるだろう

そう思っていたが、本は燃やされてなくなってしまった

────────

<h3>それぞれの道</h3>

練習試合が終わって、少し経った。

「色々な人が居ましたね!」

ゆめさんが笑顔でそう言った。

「ね!私は、相手の人とお話してて、考えもしっかりして凄いなって思った。」

「実際に相手の方と…。見え方が違いそう。」

「うん。違ったよ!とてもドキドキしたけど、相手の方の後押ししてあげたいと思った。」

「だけど…。」

少し暗くなる。

「ふらお姉さんは頑張ってましたよ!その姿が見てて励まされました!」

「ありがとう…」

「でも…。」

「でも?」

ふらさんは首を傾げる。

「他の試合を見たりしてました。ずっとふら先輩の対戦は見てなかったです。

ごめんなさい。」

「ううん。いいんだよ!ゆめちゃんの言葉に私も励まされたから!」

「やっぱり、ふらお姉ちゃん!ですね!」

「私、どっちかって言うと頼りないって言われるけど…」

「他の人にとってはそうかもしれないですけど、私にとっては頼りになるお姉ちゃんです!」

「ありがとう!ゆめちゃんは明るいね!」

2人は笑顔で見つめあった。

僕は2人が、それ程仲がいいんだなと心の中で思う。

ところで、ふらさんと言えば、同級生のみおさん。

今、することは頑張りながら、計画をたてたり少しずつ実行しているらしい。

最近、3年生の教室に来て、アンケートを取っていた。

そして、もう少しで生徒会選挙がある。

彼女が生徒会長になるのか、他の人がなるのか…。

なるべく、いい人がなって欲しいところである。

「ぶんたくん。」

僕はその声の方を見る。

「すすむくん、どうしたの?」

「ちょっと話さない?」

「いいよ。」

そして、人気がないところにつくと言った。

「すすむくん、話って何かな?」

「そろそろ、試合が始まるね。」

「だね。」

「それが終わったら部活卒業。思想学部はどうするんだろう?」

「分からない。だけど、みんななら大丈夫なんじゃないかな?」

「確かにね。」

すすむくんはそれ以上、そのことについて話さなかった。

「ところで、シソウくんどうしてるんだろう。」

「昔居た、留学生の人?そういえば母国で大変なことが起こってるって言ってたね。」

「うん。でも、きっと大丈夫だと思うんだ。彼らにいい事が怒ってるって。」

「そうだったらいいね。」

「うん。もし、起こらなくても未来にきっと。」

─────────

「トモさん、思ったことがあるんだけど。」

「少し前に言ってた、食べ物のみたいな話?」

「なんだっけ、それ?」

「忘れたんだ。好きなもの沢山食べたいって。」

「意外と普通のこと言ってたね。」

「でも、その理由が普通じゃないかも。」

トモさんは続けて言う。

「沢山食べたら少し嫌いになれるからって。好きな食べ物を減らせるって。」

「なるほど。」

「変わってるよね。好きな食べ物を嫌いになりたいって。」

「そうかもしれないけど。僕がしようと思ってるのはその話じゃないよ。」

「何かな?」

その時、シソウの頭の中に、言葉が浮かんできた。

何度も間違いを繰り返してもいい。ただ、君の進みたい方向に進めているのなら…。

そうであるのなら、その間違いは間違いじゃない。

それは、きっかけをくれた人の言葉。
大事な大事な1つの言葉。

「またいつか、行ってみたいんだ。」

「留学先?」

「うん。僕はまだ、学ぶことが沢山あると思うから。」

「そう…。私もまた行ってみたいな。」

「うん。一緒に行こう。」

シソウは彼女の方に手を差し出す。

「そうしよう。」

そして思った。

これから何かが変わると思う。僕の中の歯車が少しずついい方へ進んでいる。

きっと…きっと大丈夫。

───────

「みおさん。」

にわのは彼女にそっと近付いた。

「何でしょう?」

「頑張ってるね。噂で聞いたけど、みおさん明るくて元気になれるって。」

「ありがとうございます!」

「あの!」

「どうしたの?」

「最近、考えてることがあって!」

「何かな?」

「ぬいぐるみテロを起こそうと思って!」

「!?」

「冗談ですけど!」

みおさんは笑顔でそう言った。

「ちなみにどんなものなの?」

「可愛いものを可愛いものって思おう!みたいな!

自分の気持ちに正直に!」

「ふ~ん…。私はいいと思うよ!」

「ありがとうございます!おじいちゃんにこれを言ったら、ほっほっほって!」

「そうなんだ!仲良さそう!」

「はい!仲良いですよ!」

「そう、それは良かった。」

それから、にわのは「これから期待してるね!」と言う。

「はい!」

──────

<h3>過去物語7</h3>

妖精の体が黒くなった。

「あなたの願い、叶いますよ。全ての人間が平等に幸福になるルート、これから。」


僕は妖精の前に出ていった。

「久しぶり。」

「おぉ。あなたは。」

「15~20年ぶりくらいだっけ?」

「そのくらいです。」

「相変わらずだね。」

「あなたこそ。求めてるものは手に入りましたか?」

「うん。入った。今までも楽しかったけど、同時に未来も楽しみなんだ。」

「沢山知識を得ても、そう思うんですか。」

「僕はまだ知らないことばかりだよ。ところで、あの人は今どうしてる…?」

「あぁ。あの人。あなたが今いることはそういうことです。」

「やっぱり…。」

「あのひとは最後、何か言ってた?」

「はい。言ってましたよ。

自分が受けるものではなかったのに、いざ、失ってみると後悔が残るみたいなことを。」

「そうなんだ。」

「はい。あなたもいずれ決断しなければいけません。」

「僕は決断するつもりはないよ。これから楽しく色々なことを知り生きていくから。」

「そうですか…。」

「あの人のことを聞くの、最後にする。楽しく生きていれてたかな?」

「分かりません。ただ、精一杯頑張ってましたよ。」

「そう。それは良かった。」

僕はほっと落ち着く。

「ところで、なんの用があって来たんですか?」

「わからないけど、多分、境遇を分かってもらえる人だからだろうね。」

「これからどうするんですか?持つものを使って。」

「特に何かするつもりはないよ。」

「あなたはどうして…」

「理由なんかないさ。妖精こそ、体が黒くなったり、白くなったりどうしてなの?」

「それですか。悪いところもあって、いいところもある。人間らしいじゃないですか。」

「そうかな。人間はもっとどちらかに偏ってる気がするけど。」

「そうかもしれませんね。」

「うん。それに、敬語は変わらないんだね。」

「はい。気に入ってるので。」

「そうか。僕の周りでは敬語の人は居なかったな。」

「いずれ使うことになるでしょう。」

妖精は続けて言った。

「ところで、予言を1つしていいですか?」

「予言?そんなこともできるの?」

「完全ではありませんがね。」

「教えて欲しい。」

「これから、ひとつの国で、とても大きなことがおこります。」

「それって、今、僕がいるところ?」

「さぁ。どうでしょう。完全ではないので分かりません。」

「そうなんだ。とりあえず、続きを聞かせて欲しい。」

「それは、人々の考えを大きく変えることになります。」

「何が起こるかは分からないんだ。」

「はい。しかし、これだけは確定しています。

未来はある人が望んだように、多くの人が幸福なものとなる。」

「それが君の能力だもんね」

「はい。」

「ありがとう。話してくれて。」

「事実を言ったまでですから。」

「そうなんだ。」

「えぇ。そういえば、あなたの前の人は物語を毎日書いていたようです。」

「物語?」

「はい。時々ですけど。関わったこともない、誰かについてね。」

「もしかして、未来のことが知れたりする?」

「今、そして、過去のことです。」

「僕と同じことができるってことか。」

「はい。」

「ちなみに、その物語、完成したの?」

「いいえ、途中までです。」

「じゃあ、それを完成させたい。」

「続きを書くんですか?」

「うん。あの人が望んでるものじゃないかもしれないけど。」

「しかし、そんなに気になるなら、確認してれば良かったのでは?」

「もしかしたら、あの人と同じかもしれないけど気になることがあったんだ。人のストーリーって楽しい。」

「そうですか。確かに変わりませんね。」

「じゃあ、良かったよ。僕は自分の道を進む。」

「分かりました。」

黒い妖精がそう言うと、目の前に1冊のノートが現れる。

「ありがとう。じゃあ、貰っていくよ。」

「はい。しっかり書いてくださいね。」

「言われなくても、書こうと思ってるよ。」

「1人の希望が、全ての幸福に繋がる世界を…」

「そう書くかはわかんないけどね。」

「でも、楽しみです。未来が。」

「でも、僕にはわかんないや。今、この瞬間も楽しいから。」

「じゃあ。」

僕はそう言って、ノートを手に持ってその場から離れた。