<h3>道の途中で</h3>
「ゲデーさん久しぶりです。」
「あぁ、ペールか。今、現防実衛9はどうなってる。」
「私含め5人が強硬派、1人が中立派、3人が穏健派です。」
「そうか。戦況はどうなってる。」
「上々です。国も、大学も、リアル派で浸食しつつあると。」
「これでご先祖様が望んでいた世界にもう一度戻れますね。」
「どうだろうな。しかし、ペール、いつも感謝している。」
「いえいえ、私はゲデーさんを、そしてご先祖様を尊敬しているので。」
「もう一度、取り戻そう。」
「はい。」
───────
僕とベーアさんが歩いて向かう途中のこと。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。」
小学生くらいの女の子が座っていた。
ベーアさんは女の子に近付いていく。
「どうしたの、迷子?」
「わかんない。」
「親御さんは?」
「居ないよ!」
何故かその子はとても元気に言った。
近付いてよく見てみると‥
「どこかであった気が‥。」
「お兄ちゃんこんにちは。」
「こんにちは。」
「ねぇねぇ!二人とも。お話を聞いて!」
ベーアさんは「うん。いいよ」と微笑んだ。
むかしむかし、あるところに一人の男の子がいました。
その子はキラキラした世界に住んでます。
いつも眩しくて、太陽みたいにあたたかい世界。
男の子は毎日が幸せでした。
その子の周りにほしいものも沢山集まっていきます。
全部が全部、男の子にとって大切なものでした。
みんなに平等にそれはあって‥。
とても大事で‥。
女の子はそこまで話すと謝った。「ごめんなさい。もう思いつかない。」
「ううん。いいの。あなたが考えたの?」
「お兄ちゃんがね、昔、物語を書いてて。」
「私は見様見真似でね。」
「いいね。それはきっと、あなたの大切なもの‥。」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
女の子の笑顔を見て、ベーアさんはそっと微笑んだ。
「お兄ちゃんより長く生きてないから本当のことは分からないの‥。」
「でもね、嬉しい!」
僕は心の中で思った。長く生きてるとは言っても、一年とかそのくらいだろう。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんまたね!」
女の子はそう言って走っていった。
「大丈夫なの‥?」
「うん、お兄ちゃんが近くで待ってるの!」
─────
<h3>変化</h3>
「ベーアさんは優しいね」
「え‥?」
「さっき、あの子に。」
「あぁ、それね‥。」
「創作学の考え方で好きだった。想像ってとても大事ってこと。」
「私が創作学がいいなって思う理由‥それなんだ。」
「なるほど。」
「みんなが楽しくいろいろなことを考えられたらなって。」
彼女はそう言って笑った。
そうだった‥。メモ帳にも書いてある。
こうして生きてると、あらためて知るんだな‥。
ちつさんが言ってた場所に到着した。
目の前には大きな建物がある。
「ここにちつさんが言ってた‥?」
「そうかも‥。」
僕たちが進もうとすると、中から一人の男が出てきた。
「見ない顔ですね。何の用ですか?」
「現防実衛の方に会いにきました。話し合いたくて。」
「ボスに用が。しかし、今は出かけていません。」
「そうですか‥。」
聞いてたより、危なくなさそう‥。
「今日、明日には帰ってくるでしょう。」
「ところで、何の話があると言うんですか?」
「シソウ派について話し合いたい。」
「まさか、あなたはシソウ派の?」
「そうです。」
勇気を出して言ったが、彼は特に驚く素振りを見せなかった。
「過激派と聞いたんですけど、何もしないんですね?」
「過激派?
確かに私達はリアル派の中でも、活発に動いてる方だ。」
「しかし、それはあくまで“話し合い”についてであり、実際に会うことで解決しようとしてる。」
「なるほど‥。」
最初にあったディフくんみたいな感じかな‥。
「あなたもボスと話し合えば、リアル派に属することとなるでしょう。」
僕は現防実衛の一人が帰ってくるまで、ベーアさんと待つことにした。
「どんな人かな‥?」
「分からない‥だけど、いい人だったらいいよね。」
「うん‥。そうだね‥。」
「思えば僕はリアル派がしてきたことについて、言葉でしか聞いたことがなかった。」
「創作者狩りがあるとか‥。」
「確かに‥。私も実際に見たことはないよ‥。」
つまり、想像だけで、判断していた‥。
自由な想像を許されていたはずが、自らの手でその自由さを‥。
そして、決意した。
彼らのことをちゃんと知りたい。
<h3>焦る心</h3>
僕はそれから、ベーアさんと話したりメモ帳を見たり時間を過ごしていると‥
現防実衛9が集まると聞いていた建物が何やら騒がしくなった。
「帰ってきたのかな‥?」
「多分‥行ってみよう。」
向かうと今度は大勢の人に囲まれた。
「見ない顔だな。何者だ?」
ベーアさんは僕の後ろで怯えている。
「旅のものです‥。」
今はまずい‥そう思った僕は大事なことを言えなかった。
すると、前に話していた男が出てくる。
「その二人はシソウ派です。
現防実衛9に会いたいと言っていました。」
「シソウ派だって‥何故ここに?」
「つまり、ボスに‥?」
驚き話す声が‥。
「そうでしたよね?」
笑いながら男は僕を見る。
「そう。僕はシソウ派。リアル派の人達とわかり合うためにここに来た。」
「わかり合う?そんなことができるとでも。」
すると、「何をしている?」と。その声に男達は口を閉じた。
ただ、僕はその声を‥昔に1度、聞いたことがある‥。
「ボス。この男、シソウ派です。」
手をさして言った。
「そうか。」
ボスと呼ばれる男が僕の前にやってきた。
「君は‥?」
その時、セーデくんの顔が頭をよぎる。
「久しぶりだな。エビよ。」
「君はユヴェくん‥?」
ベーアさんは小さな声で話しかけた。
「知ってる人なの‥?」
「うん、大学時代に‥。」
そうだ‥。彼は創作学の授業をとっていたが、ほとんど出なかった。
紹介されなければ、僕も彼のことを知ることはなかっただろう‥。
しかし‥
「どうして君が‥?」
「リアル派に居るってことか?」
「うん‥。」
「昔から僕はリアル派だった。エビと出会う前からな。」
「それじゃあ‥。」
僕の心の中に嫌な予感がした‥。
「何はどうあれ、これから話し合うんだろう?」
「うん‥だけど、ちょっと待ってほしい‥。」
「いいだろう。いつするかはエビに任せよう。」
「ありがとう‥。」
「ただ、一つだけ聞かせてほしい。」
「何を?」
「セーデくんは今どうしてる‥?生きてるの‥?」
「どうだろうな。まぁ、話がすんだら教えるさ。」
「うん‥わかった‥。」
それから、時間と場所を決めて、あらためて二人で話し合おうとなった。
<h3>昔の友達</h3>
帰る最中のこと。
「ベーアさん、巻き込んでごめん‥。」
「ううん。大丈夫‥。二人で話すって言ってたから‥その時、家で待ってるね‥。」
「わかった。ありがとう。」
「ううん。いいの。」
「ところで、ユヴェさんだけど‥。」
「うん‥。」
「昔のこと、教えて欲しいの‥。」
「分かった。」
セーデくんと出会って間もない頃を思い出した。
「今日は紹介したい友達が居るんだ。」
後ろから彼が出てくる。
「よろしく。」
「こちらこそ、よろしく。」
「彼はユヴェくん。そして、こっちがエビくんって言うんだ。」
「ユヴェくんは僕と同じで、創作学に興味があって。」
「付き合いも結構長いんだ。」
仲良くなれそう。僕は心の中で思った。
「セーデくんから、話を聞いてたよ。」
「創作学がとても好きなんだよね。」
「うん。」
「どんなところが好きなの?」
「なんだろう、考えの自由を許してくれるってところかな‥。ユヴェくんは?」
「言葉で言い表すのは難しいかもしれない。」
その時はそういう捉え方もあるんだろうな‥
そう思った。
ただ、仲良くなれそう‥そうは思っても、関わる時間が少なかった。
創作学の授業の時、彼が居たのは最初だけ。
ずっと顔を出さなかった。
ある日、気になった時があって、セーデくんに聞いた。
すると彼は言う。
「彼も色々あるんだと思う。」
ただ、それだけを言ってた。
たまにすれ違って話すことはあったが、それ以上深まることはなかった。
「そうなんだ‥。」
悲しい声でベーアさんは頷く。
「セーデくんに紹介してもらったんだね‥?」
「うん。彼とは仲が良かったみたいだから。」
「今、どうしてるんだろうね‥。」
「分からない‥。無事であることを願うしか‥。」
「そうだよね‥。」
「でも、エビ、教えてくれてありがとう。」
「ユヴェくんって創作学に興味があったんでしょ‥?
もしかしたら、味方になってもらえるかも‥。」
「そうだったらいいね。ベーアさんありがとう。」
そうして話してるうちに、家に到着した。
<h3>過去、そして未来との会話</h3>
家について、僕はいつの間にか、メモ帳を開いていた。
ハッとして顔をあげる。
習慣化してる。
このメモ帳はシソウのもの。
そして、ここにはシソウの過去、希望、創作学についてや、ルールなど様々なことが書かれてる。
人からしたらきっとどうでもいいようなことなのに、僕はこんなふうに何度も何度も読み返した。
「まぁ、いいか。」
僕はまたメモ帳を読んだ。
そして‥。
1ページに止まった。
そこに書かれていたもの‥。
そうだ‥僕は‥。
創作規制が緩和されたが、依然として、創作に対する偏見が残ってる。
色々考えてはいた。
しかし‥
行動には移せなかった。僕自身が行動力のある人間ではなかったから‥。
時間が経って、また留学場に行くことになった。
そこにあったのは‥
高校のときと変わらない何かがあった‥。
そこで僕は今まで考えていたことを話した。
彼らはそれを肯定したり、新しい考えを教えてくれたり‥。
いつもそうなんだ‥。
改めて読み返してみると、僕はシソウ‥そして、創作学が好きなんだって思った。
このメモ帳は僕にとって、沢山のことを教えてくれるもの。
ずっと、変わらず、そこにあり続ける大切なもの‥。
そして、僕はその場で呟いた。
「連れて行くよ。」
僕は立ち上がる。
そして、ベーアさんの元に。
「行くの?」
「うん。僕は彼と話し合う。」
そう‥例え、悲しい過去があったとしても‥。
理想の未来を信じるから‥。
ベーアさんは言った。
「あなたなら大丈夫。」
僕は家を発った。
ここから少し長い道のり。
しかし、創作をしてる僕にとって、それはとても幸せな時間。
シソウもそうだったように、沢山の物語が浮かんでくる。
時には悲しい物語もあり、とても楽しい物語もあって‥。
僕は前に足を出した。
ただ、進んでいく
───────
到着した。
ユヴェくんは僕に近付いてくる。
「来たか。」
「うん。」
「ここには前も言ったとおり、僕の仲間は来ない。」
「つまり、エビと僕、二人だけの話し合いの場ということだ。」
「分かった。」
「じゃあ、始めようか。」
<h3>何故‥?</h3>
「僕は子供の頃からリアル派だった。」
「え‥?」
「祖父も親も全員がリアル派。」
「そうだったんだ。」
「その僕を、シソウ派に引き込めるか?」
「シソウ派に引き込む‥?」
「そのために話し合うんだろう?」
「僕はわかり合うために‥」
「そんなことできるはずないだろう。」
「どうして‥?」
「エビ、君は知ってるはずだ。学校で歴史を学んでるのならな。」
「シソウ派のせいでリアル派が国を追い出された‥?」
「そうだ。」
「でも、戻れるんじゃないの‥?君も学校の生徒だったよね。」
「いいや、僕は生徒じゃなかった。チェーシャ先生に頼んで数度、学校に行かせてもらっていただけだ。」
「そうだったんだ‥。」
「でも、セーデくんのことは‥?彼も創作学が好きだって。」
彼は一瞬、目を逸した。
「生きてるかもわからないんだろう?そんな男の話を出すなよ。」
「ごめん‥。」
「質問は終わりか?」
「うん‥。」
「エビ、これから君を、リアル派に引き込むことにしよう。」
「何をするの‥?」
「事実に基づく話し合いによって。」
彼は口を開く。
「シソウが言った、学問とは自己中な生き物だと。」
「自分に気付いてもらわないと、人に道具や、一つの真実を教えてはくれない。」
「シソウはこうとも言ってる。」
「学問はその過程が楽しめれば、いい友人になれる。」
「現実は地獄、頭の中は天国。シソウはこうとも言ってる。」
「もし、その天国をより良いものとできるなら、それに伴い地獄も天国に変わる。」
「言葉には意味はない。とシソウは言った。」
「そこに含まれる意味だったり、抽象的なそれらが大事なものであるから‥シソウはそうとも言ってる。」
「そうか。シソウのことをよく知ってるようだな。」
「どれだけ話し合っても無駄だということは分かった。」
「子供からずっと、シソウとメモ帳の中で繋がってきたから‥。」
「そうか、それは僕も同じだ。リアル派に囲まれ生きてきた。」
「学問こそ、正しく。創作は不完全なるもの。」
「それが人を救いはしない。」
「何かあったの‥?」
<h3>今まで</h3>
子供の時‥。
「僕の代で、リアル派は終わりにしようと思う。」
と言った。
周りの者はとても驚いていた。
「それはどういうことですか?」
「先祖様の無念をはらす。シソウ派を無くし、リアル派の世界をもう一度‥。」
称賛の声が巻き起こる。
僕は子供の頃、そう決めた。
しかし‥
それから10年経ち、何事もなく時間が過ぎた。
そして僕は例の国に向かう。
最初は、周りの者たちがよくないと否定した。
チェーシャさん伝手で、少しだけ学校体験できる。
しかし、敵地にいくこと。そう簡単に納得するはずもなかった。
しかも、過去にあんなことがあったなら、なおさら‥
「学校には味方がいる。」
「チェーシャさんでしょう?それだけでは‥」
「いいや、他にも同い年のリアル派の仲間がいる。」
今日になるまで、長い時間が過ぎる。
行動する気力は少し薄れてしまった。
しかし、まだだ‥。
過去に何があろうと、僕は昔決めたことを成し遂げる。
シソウ派の学問をするのはそのためだ。
───────
大学に行き、授業が始まった。
「まずはじめに、創作学とは、自由な学問です。」
学問が自由‥?
決まったことを理解する。
それが学問じゃないのか。
「あなた達が考えること全てに価値があります。それはなんであろうと平等に。」
そんな訳がない‥。
僕は授業を最後まで聞かずに退出した。
あれは学問じゃない。
それから、チェーシャさんの元に行った。
「今日はありがとうございます。」
「どうでしたか?」
「自分にはあわなかった。ほとんど聞かずに席を立ちました。」
「そうでしたか。他にも授業はあるので、創作学以外も良ければ参加してみてください。」
「はい。機会があれば‥」
それから時が経ち、他の授業にも参加した。
そして、気付いたことがある。
シソウ派の考えに毒されているのは、“創作学”だけだということ。
つまり、変えるとすれば創作学。ただその一つだけ。
この事実を知れたこと。
僕は心の中に喜びがこみ上げた。
もう一度、リアル派の世界を‥。
その時、一人の男が話しかけてきた。
<h3>変わらない真実</h3>
「君、ユヴェくんだよね?」
この男、見たことがある‥
名前は確か‥
「エビ。」
「そう、僕はエビ。久しぶり。」
「最近、創作学の授業出てないみたいだけど、何かあったの?」
「色々あって。」
「そうなんだ。」
「うん。ところで、エビ。」
「何?」
「創作学は楽しいか?」
「うん。とっても。昔から好きだったから。」
「そうか。」
「ユヴェくんもいつでも一緒に学ぼう!」
「気が向いたら‥。」
────────
「ふっ。何もない。」
「子供の時から悪だと思っていた考え。」
「何が自由、何が平等だ。君たちはただ、抽象的な言葉で逃げているだけだろう。」
僕はユヴェくんの言葉に頷く。
「僕は知っている。その自由が人にとっては自由でなく、その平等が他にとっては平等でないことを。」
「そうかもしれない‥。だけど、だからこそ、変わらないものだと思うんだ。」
「変わらないもの‥?」
「その人にとっての自由、その人にとっての平等。それらはあっていい。」
「いくつも存在していいと思うんだよ。人それぞれの考えは特別なもの‥。」
「それもシソウの言葉か?」
「うん。」
「君はシソウが好きなんだな。」
「あぁ、そうだよ。」
「俺もリアル派が好きだ。
学問もそう。だからこそ、変えなければいけない。」
「僕も変えたい。」
「なんだと‥?」
「シソウ派とリアル派平等な関係に‥」
「そんなことできないだろ。」
「そうかもしれない。だけど、やりたいんだ。」
「誰も悲しまなくてよくて、平等に楽しく自分の道へ進んでいける。そんな世界に。」
「君は‥。」
一瞬、エビと誰かの姿が重なった。
その男は手を差し伸べた。
「ともに作っていきたいんだ。」
「分かった。エビ、君は進みたい方に進めばいい。」
「え‥?」
「僕はもう、君をリアル派に入れようなんて思わない。ただ、今までのことを辞めるつもりもない。」
「つまり、成り行きに任せる。」
「分かったよ。」
「そして、リアル派のトップに、エビのことを伝えておく。」
「うん‥。」
「それから最後に教えておこう。セーデは生きている。」
「え‥?」
嬉しいはずが、僕の中に複雑な気持ちがあった。
<h3>行こう!</h3>
僕はベーアさんの待つ家に帰った。
「エビ、おかえりなさい。」
「ただいま。」
とても安心した表情で僕を見る。
「無事だったんだね。良かった。」
それから、起こったことを彼女に話した。
「そうだったんだ‥。」
「うん。」
「でも、セーデくん無事って良かったね。」
「そこは安心した。」
「ユヴェくんのこと、残念だったね‥。」
「彼がリアル派を好きって思う気持ち、大事だから、僕は嬉しいんだ。」
「そう‥。でも、ユヴェくん伝えるんでしょ‥?」
「確かに‥。ここには居られないかも‥。」
「出かけよっか。」
「うん。だけど、ベーアさんはここに居てもいいんだよ。」
「大丈夫。私が思ってるのは、シソウ派のこと。できる限り協力したいんだ。」
「ありがとう‥。ただ、危険になったら逃げて欲しい。」
リアル派と関わってきた感じだと、その心配はなさそうだけど‥。
「うん、分かった。エビもそのときは逃げて!」
「そうする!」
それから、二人でまたどこかへ旅立った。
「どこに行く?」
「えっと‥。今まで町とか、村とか、人の集まる場所に行ってなかったから」
「そういう場所に行きたいなって。」
「それなら場所覚えてるよ!」
「ありがとう!そこに行こう!」
「分かった!」
僕はベーアさんのあとをついていった。
「名前はえる町だって。」
「そうなんだ。」
「どんなところかな。」
「わからない。」
「こんなときは‥創作じゃない?」
「確かに!ベーアさんはどんな町だと思う?」
「私はね、えるといえばエール!」
「みんなお互い応援しあってる町みたいな!」
「おぉー。いいね。」
「ふふっ。ありがとー。エビはどんな町だと思う?」
「僕は‥やっぱり、国にあったような町が多いんじゃないかなって。」
「それもあるよね。」
「ごめん。今、考えられる気分じゃなくて‥。」
「ううん。こちらこそごめんね。」
「創作学好きなのに考えられないのは‥。」
「それも創作だよっ。」
ベーアさんはニコッと笑う。
「確かにそうだったね。」
僕は心の中で強く思った。
ありがとうと‥
「行こっか!」
「うん!」
<h3>もう一人</h3>
道の途中、ベーアさんはたずねた。
「ね!思ったんだけど。」
「どうしたの?」
「エーテさんとはいつ知り合ったの?」
「いつかは忘れちゃったけど、彼女もセーデくんが紹介してくれたんだ。」
セーデくんがやってきて言った。
「また紹介したい人が居るんだ。」
「いつもありがとう。」
セーデくんの後ろから、一人の女性が出てくる。
「この人はエーテさん。」
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ!」
「創作学はあんまり知らないらしいんだけど、歴史や、神話に興味があるらしくて。」
「歴史と神話に?創作にとても良さそう!」
「はいっ!」
「そんな感じだったんだね。」
「うん。それから話すようになって。いい人だなって。」
「確かにエーテさんはいい人だよね。」
「前に私がお話したときにね。」
「こんにちは、エーテさん。」
「こんにちは、ベーアさん」
ぬいぐるみを抱きしめてる。
「何してたの?」
「友達と遊んでたんです。紹介しますね。」
「この子、友達のクマさんです。」
口を動かさないように「よろしくまくま。」と言う。
「うん‥。よろしくね、くまさん。」
「と言うようなことがあったの。」
「そうだったんだ。」
「そういえば、エーテさん、ワズィくんとも親交あったよね。」
「確かに。別れるとき、一緒に出て行ったから、もしかしたら一緒に居るのかも。」
「二人とも何してるのかな‥。」
「ね。」
そして、沈黙がながれる。
「ワズィくんのことなんだけど‥」
「懐かしいね。彼が誘ってくれたんだ。」
「うん。ワズィくんだけじゃなく、エーテさんも創作学してなかったよね。」
「うん。だけど、二人と一緒にいる時、想像力があって凄いなって思うこと多かったよ。」
「そうなんだ。」
「特にエーテさんはね、神話と歴史とかそれらの物語を交えてとても面白い話をしてた。」
「たしかにね。ワズィくんも、例の物語とか、色々使ってたね。」
「逆に‥そう考えると、創作学って必要なのかなって‥。」
とても悲しそうな顔をする。
「わからない。だけど、僕は必要だと思うよ。」
「悲しいとき、支えてくれるのって、今、自分が持ってないものじゃないかな?」