<h3>ある日のこと‥</h3>
僕は理事長に呼ばれた。
向かってみると、ラザイ先生も一緒に居た。
「あぁ‥来てくれたか。」
「はい。」
「対立を消してくれたらしいね。ありがとう。」
理事長はそう言い頭を下げる。
「僕は何もしてません。元から、対立なんて無かったんですから。」
「あぁ‥確かにそうだったね‥。」
「私は君に伝えたいことがあるんだ。」
「何でしょう‥?」
「私の先祖は、シソウの友達だった。彼によく協力してね。」
「内部から変えていったんだ。そして、創作学を学問として認めさせた。」
「そうだったんですか。」
「あぁ。ただ、私には理解ができなかった。何故、そこまで、創作学を考えていたのか‥。」
僕は頷いた。
「悪いね。ただ、今の状況を見ると、創作学はいいものだったのだろう。」
「少し学んでおけば良かったのかもしれないな。」
「学ばなくてもいいんです。」
「どういうことかな。」
「創作学は学ぶものじゃない。学問ってついてますけどね。」
「ふっ。そうか‥。」
理事長は感謝を告げる。
それから、帰ろうとした時、ラザイ先生が止めた。
「創作学のこと、感謝してる。良ければ、また違う日に話を‥。」
「いいですよ。」
リアル派の人達は、あの出来事があってから、この国にも来るようになった。
そもそも、昔から、ピリピリした関係はなかったのかもしれない。
この国では学問と、創作が共存していた。
リアル派の中でもそう‥。
「エビ、どうだった?」
ベーアさんはそう言って迎えた。
「感謝を言われたよ。あと、創作学の先生が後で話したいって。」
「えーっ!そうなんだ。何だろう?」
「分からないけど、楽しい話ができたらいいな。」
「ね。それが一番だよ。」
「そういえば、セーデくん達は?」
「セーデくんは色々な人に協力をお願いしたらしくてね。」
「大体終わったあと、ワズィくんに会いに行ったって友達が言ってたよ。」
「そうだったんだ。ワズィくんは?」
「それが‥」
ベーアさんがそう言った瞬間、誰かが家にやってきた。
向かってみると‥
「君は‥
エーテさん!」
ただ、少し元気がない。
「何かあったの?」
「実は、ワズィくんが‥。」
<h3>またいつか</h3>
「セーデさんと話した後なんですけど‥。」
「また居なくなったんだね‥。」
「はい‥。」
「その前にセーデさんと話してました。」
「久しぶり。」
「セーデくんか。」
「どうだった?」
「流石、リアル派だって感じたよ。」
「事実を重視してた過去から認め信じるものも、事実をこの目で見るまでは信じないものもいた。」
「ただ、リアル派子孫も、その後話したそうだ。大丈夫だろう。」
「彼は見てないんじゃなかったっけ。」
「あぁ。見てない。しかし、リアル派から退いた数人が実際に見にいったらしいんだよ。」
「リアル派じゃないなら良さそうだね‥。」
「あぁ。しかし、リアル派は真面目だな。今になるまで一度も調べてなかったとは。」
「その時の真実を重要視するのかな。」
「多分な。だからこそ、リアルの弟は安心して望みを叶えたと言えたのかもな。」
「それもありそう。僕は兄が好きだったから、願いを叶えたかったって思うんだ。」
「俺も人のことは言えないが、創作的だな。」
「ありがとう。大きな褒め言葉だよ。」
「ところで、セーデの方はどうだ?」
「シソウ派は安心してたよ。全員じゃないけど、戻ってきた人は多かった。」
「あとは2代目のシソウに任せてる。」
「エビのことか。」
「うん。でも、彼は彼かもね。」
「そうだな。」
「僕はこれから旅に出るよ。」
その後、色々話して、セーデくんと別れた。
そして‥
「俺も一人で旅に出ようと思うんだ。」
「え‥?」
「悪いな‥。いつも一人にして。」
私は首をふる。
「私は大丈夫‥!ワズィくんの旅がいいものになりますように‥。」
「ありがとう。」
それから最後に「エビにあったら、またいつか‥」と伝えて欲しいって‥。
「そうなんだ‥。」
二人が遠くに行ってしまったように感じた。
だけど‥
「ありがとう。エーテさん。」
「こちらこそです‥。」
そして、ベーアさんを見る。
「今までありがとう。僕は行ってこようと思う。」
「え、もう?今日行ってきたばっかりじゃない。」
「うん!今日がいいと思ったんだ!」
「またいつかみんなでしようね。」
ベーアは落ち着いて「うんっ」と頷いた。
<h3>自分</h3>
「先生!」
「エビくんか。どうしたんだい?」
「違う日とは言わず、今日話したくて。お時間大丈夫ですか?」
「大丈夫だとも。」
「ありがとうございます。」
「セーデくんはシソウ派の子孫、そして、君はシソウ本人の考えを受け継いだらしいね。」
僕は笑顔で言った。
「そうとも言えるし、そうとも言えないとも!」
「どういうことかな?」
「自分でもわかりません!」
「そうか。じゃあ、創作学について教えてくれるかな?」
「いいですよ。ただ、その前に一つだけ。」
「創作学にとって、教えることは悪だと思うんです。」
「言われてみれば‥そうかもしれない。」
僕は続けて、笑って答えた。
「教えることは正義であってもいいんです。」
「じゃあ、はじめますね。」
「まず、創作学とはどんなものでしょうか?」
「自由なもの。子供心を大事にする。一人一人が価値のあるもの。」
「断片的になるが、私はそう学び教えてきたよ。」
「そうです。そして、違うとも言えます。」
「違う?どこが違うのかな。」
「つまり、そうじゃなくてもいいってことです。」
「創作学の全ては優しさだった。と思うのだが‥。」
「優しさです。だからこそ、一人一人、いえ、一つ一つの考えを大事にする‥。」
「そうか‥。」
「ただ、これはあくまで、考えの中の自由、そして、平等です。」
「その考え方もあり得るということか‥。」
「はい。」
「そして、創作学にとっての悪人として語りましょう。」
「創作学の根底にあるのは“許すこと”です。」
「許す?」
「えぇ。平等であっても、なくてもいい。自由も許しなしには存在しないと変わらない。」
「それは君の考えかな?」
「メモ帳には“許す”という一文が書かれていました。その意味は分かりません。」
「つまり、それがどういう意味か考えることも許されているということかな。」
「そうかもしれませんね。」
「考えることを許す‥か。なるほど。」
「そして、君はこれから創作をどうしていきたい?」
「僕は‥。一人一人が、創作の中では自分の気持ちに正直になれるようにしたい。」
「そう思います。」
<h3>僕は‥</h3>
「今まで通りでいいってことかな。」
「もし、みんなが、進めてるならそれが望ましいことです。」
先生は頷いた。
「自分のことが本当に分かるのは自分だけですから‥。」
「夢についても聞いていいかな。」
「はい。」
「シソウはこう言った。夢はみるもので、叶えるものじゃない。」
「僕が新しく手に入れたメモ帳ではこう言ってます。夢がもし、叶ったのなら、そのときは純粋に喜ぼうって。」
「そうか‥。」
「最後に、これからの君の生き方を教えて欲しい。」
「生き方?」
「あぁ。シソウの後を継いだものはどう生きるのか‥?」
「僕は僕です。」
「もしそれを言うなら‥。全ては正しいって大事にすることです。」
「そうか‥。」
「でも、一つ考えてることがあって。」
「何かな?」
「哲学、道徳、創作をあわせてみたいと。」
「それはどういうことかな?」
「苦しいとき、疑問を持ってみる。道徳性を持ち、新しいものを作り出す。」
「考えは色々、存在していい。」
「ありがとう。」
「こちらこそ。」
それから僕は、先生の元を後にした。
「おかえりなさい!」
「ただいま。」
「どうだったの?」
「特に何も!先生は相変わらずいい人だった。」
「そう。」
エーテさんが近付いてくる。
「良かったです‥。」
「ありがとう。」
「二人とも。言いたいことがある!」
「どうしたんですか‥?」
「これから、歴史を見に行こうと思うんだ。」
「歴史‥。どういうこと?」
「シソウ、その他、昔、住んでいた人達はどう過ごしていたのか。」
「純粋に気になって。まだ分かってないことも沢山あるし。」
「そうなんですか。私はエビさんのこと応援します。」
「うん。私も。あなたはあなたの道を進んで。」
「ありがとう。」
何日か経って、僕は家を出た。
その時、すれ違った女性が‥
「あの‥。」
僕は振り返った。
「なんですか?」
「久しぶり。」
「ちつさん!どうしてここに?」
「仲直りしたから、ここに居ても不思議じゃないでしょ?」
ポケットにあったカスタネットをならす。
「それに‥ベーアちゃんから聞いたの。」
「これから行くんでしょ?」
「はい!」
「私も帰るところなの。一緒に行こう。」
「分かりました。」
また、冒険がはじまるんだ
───────
二部(予定)
<h3>船</h3>
「ねぇねぇ、創作学ってどんなものなの?」
向かう船の中、ちつさんは聞いた。
「創作学?」
「うん。シソウ派の人はそれを学んでるんでしょ。」
「そうだと思うよ。僕の解釈になっちゃうけど言うね。」
「創作学は“許し”が重要なものだと思うんだ。」
「許し?」
「うん。どんなことでも考えていい。この中では許されてる。」
「でも、それだと、悪いこともいいってことになるんじゃないの。」
「その通り。いいところに目をつけるね。だからこそ、シソウはルールを作った。」
「許しは‥?」
「人を介さないところでは、完全な自由。ルールとしてそれがあるんだ。」
「そうなんだ。でも、人を介したところって?」
「シソウは多分、この世界を一つの物語だと見てたんだと思うんだ。」
「複数ある中の一つ。それなら、完全な自由も存在する。」
「つまり、言いたいことは、その世界のルールになるべく、沿って自由を求める。みたいな感じかな。」
「なるほどね。」
「そして、一つこれについて僕に考えがあるんだ。」
「えー、なになに?」
「ひとりひとりが意味をもたないことを頑張ること。」
「どういうこと?」
「いいことも、悪いこともどちらも“意味があること”なんだ。」
「意味を求めればどちらもいいことになると思う。」
「だけど、意味をもたないことなら、いくらだって可能性は広がる。」
「みんながそれをやったらこまるんじゃないの。」
「うん。確かにその通りだね。だからこそ、楽しく前に進める人はその道を進んでほしいと思ってる。」
「創作と、学問の共存。創作はそもそも、すべてを内包する深さを持ってる。」
「だから、今まで一緒に来れたってこと?」
「たぶん。」
「そして、もう一つあるんだ。」
「もう一つ?」
「自分の目から見える世界。それを大事にするってこと。」
「数学好きだから見える世界、歴史好きだから見える世界。勿論、その中にも色々な違った見え方はあるかもしれない。」
「自分の所属する性質や、昔からしてきたこと。それを大事にすること。」
「それができたら、きっと困らないと思うんだ。」
<h3>新しいメモ帳</h3>
「私にはわからないかも。」
ちつさんはそう言って、音楽が流れる機械を取り出しつけた。
「ちょっと眠くなったから寝るねー。」
「うん、おやすみなさい。」
僕はメモ帳を取り出す。
いつもこれと一緒にあった。
そしてもう一つ。
シソウが最後に残したメモ帳。
あのときは結構省いたが、後々読み返したんだ。
シソウはこれを大事にしていた‥。
少し思い出してみよう‥。
創作の中に自らを知恵ある人と称し、詭弁をいう人達が居たらしい。
悪役として書かれることの多いそれらだが、シソウは理想の姿をいくつか持っているものだったと言ってる。
問題としてあったのは、一つの考えを真実としなければならないこと、そのためには必ず否定がある。
否定は創作学に於いては望ましくないこと。
もし、相手の考えも肯定できたら。
もし、その時、水、火、原子などすべての考えが万物の根源であると皆が平等に思えたのなら‥
きっと、平和な世界がそこにあったと思うんだ。
ある意味で、理想に近い存在であったと言えると思う。
ただ、物語の続きでは、そこに一人の人物が現れたという。
自分は知らないことを知っていると言ったそうだ。
その考えは彼らと対角にあった。
シソウの話によると、一般的に、その知らないことを知っているとの考えは重要らしい。
僕はその時、読みすすめてふと思った。
正解に対してよく使われるそうだが、逆に間違いにも言えることなんじゃないか‥。
そして、次のページを開いたとき、シソウも同じことを考えていた。
長く一緒に居るが、考えが外れることが多かったのでそれを見たとき少し嬉しかった。
ところで、メモ帳の中にはこの世の真実を知ったというものもある。
もちろん、これは、創作学がすべての考えを同時に許すという前提があり、違うものでもあっていい。
シソウの考えで言うとそうだ。
しかし、シソウはとてもそのことを、真実のように考えていたようだった。
僕はシソウのメモ帳に書いてあったことを、そのままふりかえって考えていた
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